放課後、いつものマミーズで。 ―――――――――― ・・・放課後。 全寮制、天香学園敷地内にある唯一のファミレス、マミーズで なんの因果かは知らないが、見た目には一応男3人が 仲良く1つのテーブルを取り囲み、それぞれに思い思いのものを注文していた。 1人はカレー、1人はオムレツ。 ・・・そしてはたまたもう1人は紅茶だけ。 但し、どろっどろに甘くて吐き気を催しそうなミルクティーだったが。 「――――――――― ・・・鎌治ってさぁ。」 馬鹿みたいに甘ったるいミルクティーの残りを、ズズーッとストローで吸いながら 今回こうして3人が集まるきっかけとなった人物、葉佩九十九は とりとめのないことを話すかのように、突如ポツリポツリと呟き始めた。 名前を呼ばれた取手は、スプーンを置き、オムレツを食べる手を休めて顔をあげる。 いつもと変わらぬ九十九の声の調子に けれど皆守は何故か、“くる・・・!!”という確信を持った。 無意識の内、密かに隠し持っていた“アレ”を持つ手に、力が籠もる。 「・・・?なんだい?」 ほとんど九十九を崇拝しているといっても過言ではない 3−A組に所属している取手鎌治は 皆守と違ってなんの疑問も抱かずに、すぐさまそう問い返した。 ズッ、ズズズ・・・ 九十九が最後の一滴まで、紅茶を飲み干す・・・。 心ゆくまで紅茶を啜って、ストローから口を離した九十九は “鳥が空を飛んでる”とでもまともなこと言いそうな顔つきで サラリと、それはとんでもないことを口にした。 「・・・鎌治ってさぁ。押し倒して、耳とか舐めたいぐらいの可愛いさだよな。」 「――――――――― ・・・ぶっ!!!」 こういうときのために身構えていた皆守だったが 以前よりもその症状が悪化していたので、ツッコむよりも先に思わず吹き出してしまう。 ・・・・もう少しで、大事な大事なカレーに突っ伏すところだった。 それを聞くと取手は、ピタリと時間が止まったように動かなくなり 九十九の言葉が脳内に浸透し、言っていることの意味を理解してから 途端熟れたトマトのように、色の白い顔を紅潮させた。 「え?・・・え!?・・・えええッ!?」 「お前ってヤツは・・・・・突然なに言い出すんだ!?」 皆守はその場に崩れ落ちてしまいたいのを我慢して 吐き捨てるように、どうにかこうにかそれだけを告げた。・・・それが、精一杯だ。 「・・・だって、鎌治ってそれくらい可愛いじゃん。 シスコンってとこも萌えポイントだよね。あ、獣系もいけるかなぁ?犬とか。」 ところが、この爆弾紛いの発言を投下した本人は 周囲の反応も構わず、もうほとんど氷しか残っていない紅茶を未だ未練がましく啜りながら 顔色をひとつも変えないで、尚も爆弾を投下し続ける。 その言葉の対象にされている取手は、顔を真っ赤にしたまま固まっていた。 「・・・あのなぁッ!!」 皆守はテーブルに強く手を付いて、ガタン!と席から立ち上がった。 この込み上げてくる感情は、怒りなんだか呆れなんだか、もう判別が付かない。 ・・・ところが、そんな皆守を弄ぶかのように 九十九はそんなこと露ほども考えていなそうな、爽やかな笑顔を携えて 取手にとっては、ロケットランチャー並みの威力を持つだろう提案をもちかけた。 「俺、鎌治の困った顔が見たいんだけど、今度押し倒していい?」 「このド変態がッ!!」 スパーン!! 「いったーーーッ!?」 皆守の豪腕が唸りを上げ、白い残像と共に景気の良い音が響き渡る!! 九十九は痛みに耐えられず、両手で頭を押さえて、テーブルに蹲った。 その目にも止まらぬ一瞬の早業に取手は感嘆し、思わず目の前の光景に見入っていた。 「・・・ッたぁ・・・本気で叩くなよな、もう。」 けれどそこは≪宝探し屋≫、一般人とは出来が違う。 九十九は目尻に涙を浮かべながらも、頭部を擦り顔を上げた。 「何を考えてるんだ、お前は!!」 どうにか起き上がった九十九に、皆守の当然とも思える、厳しい檄が飛ぶ。 けれどそう問われて、九十九はきょとんとした顔をすると・・・ 「え・・・萌えについて?」 スパーーーンッ!! 「いたーーーッッ!!!」 一撃目よりも威力の増した、皆守の第二撃が飛ぶ!! 今度は額を思い切りテーブルにぶつけ 九十九は一粒涙を溢れさせると、避難がましい目で皆守を見た。 「何度も叩くなよ、甲の馬鹿ッ!!死んじゃうだろッ!?」 「ハリセンで叩いたぐらいで人が死ぬかッ!!」 「死ぬよ!!だって俺クエストで、ハリセンで化人倒してるぞッ!? 化人が死ぬんだ、人間だって死ぬだろうがッ!!」 九十九の必死の言い分に皆守は、なら次からはスリッパにしよう、と思った。 そこまで思ってから、“コレ”が今後も続くことを 当たり前のように考えてしまっている自分に気付き、小さく舌打ちをする。 「そもそもお前・・・なんなんだよ、その 『燃え』 ってのは!?」 「違うッ、燃えじゃない・・・!!『萌え』 だ!!!」 遺跡を探索するときよりも、熱意の籠った眼差しで力説する九十九に 取手は“もえ・・・??”と高い身長に似合わず可愛らしい動作で首を傾げる。 九十九はそんな取手を指差して、“そう、これこそが萌えだ!!!”と力強く叫んだ。 「・・・んなことはこの際どうでも良いッ!!!」 「どうでもよくなんてないッ!!それこそが重要な分岐点なんだッ!!」 そういって、九十九は手が白くなるくらい強く自らの拳を握り締め 選挙演説の議員なんか目でないほどの剣幕で、熱弁を奮い始めた。 「・・・甲。お前は男なのに、萌えを知らないのか!? 人間ってのはなぁ、生きる気力の大半は萌えで出来てるんだよ!! いいか!?萌えがないと人間生きていけないんだぞ!? 寮の外だと甲の鎖骨も見れないし・・・ 鎌治でというオアシスで、俺の萌えを満たすしかないだろうがッ!?」 スパコーーーンッッ!!! 「・・・はぅッ!?」 皆守の第三波が繰り出され、更に威力の増したそれに 流石の九十九もついには軽い脳震盪を起こし、目を回してテーブルに伏した。 そんな九十九を、健気にも心配する取手を余所に 皆守は九十九の首根っこを引っつかむ。 「あーー、うるせぇ!!! そこまで言うならなら思う存分嫌というほど見せてやるッ!!さっさと帰るぞ!!!」 すっかり目を回している九十九を、まるで猫かなにかのように掴み上げ ズルズルと乱暴に引き摺って、皆守は男子寮への帰路を辿り始めた。 ガン!だのゴン!だの、九十九をどこかにぶつかる音が何回か聞こえた後 皆守はおもむろに立ち止まり、1人取り残されていた取手を振り返る。 「取手。」 「な、なんだい?皆守君。」 「・・・この人間として危険な生物は 俺が責任持って檻に閉じ込めて置くから、安心して眠れよ。」 言いたいことを言いたいだけ告げると 皆守は取手の返事も待たず、“じゃあな”と言って、再び九十九を引き摺り歩き始めた。 皆守の迫力に、2人を呼び止めることも出来ず 取手はついつい去り行く背中を見守ってしまって、それからあることに気が付いた。 「――――――――― ・・・あ。お勘定、まだ済ませてないんだった・・・」 |
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戯言。 はい、突然浮かんでまいりましたこんな人達。 九龍妖魔學園紀、主人公2人目。男装女主、葉佩九十九です。 大丈夫、お勘定は奈々子ちゃんがちゃんと事情を悟ってくれますからね。 なんだか任那は、たまにこういうお馬鹿な子を書きたくなるらしいです。 九十九には代理として(誰の)、皆守の腰と鎖骨を堪能していただく予定(笑) ・・・いや。ここだけの話、任那は腰よりも耳のほうがエロいと思うのですがね・・・(爆) まぁそんなわけで、九十九は基本的にこんなノリです。 皆守は人として、九十九の存在は誰かが管理しなければと思いつつ 実はそれに軽い嫉妬が混じっていることに気付いてなかったり・・・って設定だといいなぁ(笑) 九十九と皆守のテーマとしては 萌えるんなら俺だけにしとけよ!・・・みたいな感じでいきたいと思(強制終了) ・・・・・っていうか、これ本当に続くの?(コラ) |
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2004/10/30