たとえ世界中の人間全部が全部、全く同じ容姿をしていたとしても その中から、葉佩九十九という人間を探し出すことは存外に容易い。 ―――――― ・・・少なくとも、皆守甲太郎にとっては。 葉佩九十九の正しい見分け方。 昼休み、校舎内に怪しい男が侵入していただとかで、突如として周囲が喧騒に包まれた。 バタバタと慌しく走る生徒が廊下を飛び交い、おちおち昼寝もしていられない。 廊下を走っていた生徒の1人を捕まえ、どんなヤツだったのか侵入者の風貌を尋ねると なにやらどこかで見たことのあるような特徴だった。 人をおちょくったような口調、皮のジャンパーにサングラス・・・ もしやと思い現場に駆けつけてみると、それはいつだか女子寮の傍で遭遇した 自らを私立探偵だと名乗る、雲散臭いあの男だった。 これだけの騒ぎになっていれば、騒ぎがあるところ首を突っ込まずにはいられない あの九十九が、出てこないはずはないだろうと踏んでいたのだが 鴉室とかいうあのおっさんを追い詰めていたのは、どうしてかよりにもよって七瀬。 どうせやるなら見つからないようにやれ、と俺は内心おっさんを罵り アイツがこのまま捕まったとしても、別の意味で厄介なことになるのは目に見えていたから そのまま逃がしてやることを推奨した。 ・・・ッたく、んなことに俺の貴重な体力を使わせるなよ。 ・・・まぁ、その騒ぎのおかげで、ただでさえ俺はうんざりしていたわけなんだが・・。 しかもその後、鏡を見た七瀬が酷く驚いた様子で 自分は七瀬じゃない!!とかなんとかいう内容のことを言い出しやがった。 ・・・可愛そうに、コイツもとうとう八千穂の悪影響が出たか。 余計に頭痛が酷くなった俺は、午後の授業を早退する旨を告げ それでもなにやら喚きたてている七瀬を置き去りに、その場から立ち去った。 ――――――― ・・・ことが起こったのは、その帰り道のことだった。 「あッ、皆守クン!!」 「げっ。」 それは今1番聞きたくない人物の声だった。 ・・・歩くトラブルメイカー。もとい、同じクラスの八千穂明日香。 七瀬に悪影響を与えた元凶となる人物だ。 コイツの手にかかれば、ただの覗き魔ですら、宇宙人襲来の騒ぎに成り果てる。 俺はギクリと体を強張せながら、それでも律儀に振り返った。 このまま無視して歩き続けてもいいが、後で倍返しが待っているような気がしたからだ。 (背後からスマッシュ連続4本とか。) ・・・つくづく俺も、九十九や八千穂に毒されたもんだと溜息が出る。 「八千穂・・・いや、これは断じてサボりではなく、ただ俺は生産的な時間を過ごそうとだな・・・」 「そんなことどうだっていいの!」 俺が未練がましく言い訳を口にすると 八千穂は最初から俺の話なんかサラサラ聞く気はない様子で、ピシャリとそう言い捨てた。 「どうでもいいって、お前な・・・」 「・・・ねぇ、それよりも月魅見かけなかった?」 ついさっきまで一緒にいた同級生の名に、俺は眉を顰めた。 「七瀬?七瀬ならさっきそこで会ったが・・・七瀬がどうかしたのか?」 俺が聞くと、八千穂は待ってましたとばかりに表情を輝かせる。 ・・・誰かに喋りたくて仕方がなかったんだと、言わなくてもその顔に書いてあった。 「それがね〜、さっき怪しい男が校舎に侵入したって大騒ぎになって あたしと九チャンで追いかけてたんだけど・・・」 ―――――――― ・・・あのおっさん、いくらなんでもちょっと目立ちすぎじゃないか? 今度会ったら一発蹴り飛ばしてやろう。そうでなければ気が済まない。 「でねッ、追いかける途中で、九チャンと月魅が正面衝突しちゃってさァ。 はやくしないと見失っちゃう!・・・ってあたしが言ったら 月魅はいきなり九チャンの H.A.N.T 持って走り出すし 九チャンは九チャンで“八千穂さん”、なんて月魅みたいなこと言い出した挙句、慌ててどっかいっちゃったし・・・ 取り合えず九チャンの H.A.N.T だけでも返して貰おうかと思って、探してたんだッ。」 何故か誇らしげに告げる八千穂の言葉に 俺はふと、先程の奇妙な七瀬の行動を思い出した。そういえば―――――― ・・・ 『こ、ここここ甲どうしよう!?俺、七瀬になってる!!』 『・・・はァ?なに九ちゃんみたいなこと言ってんだ、お前は間違いなく七瀬だろうが?』 「―――――――― ・・・ッ!?」 ぐるぐると何十にも絡まっていた糸が、突然スッと解けたような気がした。 思考回路が一時停止する―――― ・・・いや、でもまさか? けれども、そうだとすれば全てつじつまが合ってくる。 七瀬が H.A.N.T を持って走り出したことも、さっきの七瀬の奇妙な言動も・・・ その考えに行き着いたとき。 そんなこと信じがたいと思う反面、言葉は考えるよりも先に口をついて出ていた。 「おい八千穂・・・」 「ん?なに?」 「七瀬は俺が探しといてやる。お前は教室に戻れ。」 「え、でも・・・」 「いいから、俺に任せろよ。」 渋る八千穂を無理矢理に納得させて、俺は慌てて踵を返す。 (・・・何故って、そんなこと八千穂に話したら、例えそれが真実じゃなくてもとんでもない騒ぎに発展するからだ) あれからそんなに時間は経っていないし、俺としてはかなり急いだつもりだったが 人が何処かへ移動するには十分な時間だったらしい、既に七瀬の姿はそこになかった。 どこだ・・・どこにいるッ!? だが闇雲に走り回っても仕方ない、この學園はそれなりの広さがある。 俺は立ち止まり、落ち着くためアロマに火を点けた。 吐き出した煙が、天井に昇ってゆく。揺らめくそれを眺めながら、俺は思考を整理した。 ・・・まず、俺だったらどうする?俺が違う誰かになっていたら・・・ ・・・取りあえず、信用のおける人間に話してみるか? けれどそこで自分がさっき、七瀬の言葉を真に受けなかったことを思い出した。 ・・・葉佩九十九の生態については、少なくとも他の奴よりはわかっているつもりだ。 九十九は多分、まず俺か八千穂に相談しようとするだろう。 俺と八千穂は、なんだかんだいって九十九の転校初日からの悪友だ。 けれども事を大事にしたくないのなら、間違いなく八千穂は除外する。ならば・・・ 白岐、か?・・・いや、1度駄目だったら 誰に言っても信じて貰えないと、相談することを諦めるかもしれない。 ならその次は、自分に成りすましているだろう相手・・・つまり自分の姿をかりた人間を探すだろう。 その相手が自分になっているのなら、確実に事情を察してくれる。 まだ、そうであると決まったわけではないのに、もしあの七瀬が九十九だったかも知れないと思うと 速く見つけてやらなければいけないという、義務にも似た焦燥感が増した。 ・・・九十九は自分になっている七瀬を探す筈。だとしたら・・・図書室か! そう気付いたとき、既に俺の脚は全速力で図書室への階段を駆け上っていた。 ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ しばらく走ると、人気のない図書室前の廊下に、俺は七瀬の姿を見つけることが出来た。 七瀬は細く開かれた司書室の扉の隙間から室内にいる誰と、なにごとかヒソヒソと話し合っているようだった。 「おいッ!!」 「ッ!?」 俺が声を掛けると、七瀬は目に見えてビクリと肩を震わせて それから慌てて、ピシャン!と耳障りな音を廊下に響かせながら、司書室のドアを閉めた。 ――――――――― ・・・ますます怪しい。 そんなことを思っている俺に、七瀬はドアを背に隠すようにして振り返る。そうして完全に動揺しているらしい ―――― それはあまりにも七瀬らしくない、いまにも裏返りそうな声を発して ―――― まるで油のきれたロボットのように、ぎこちなく俺に話しかけてきた。 「こ・・・じゃなかった。み、皆守君?早退したんじゃ、なかったんですか?」 「あァ、お前にちょっと聞きたいことがあってな。」 ・・・その不審な言動に、俺は自分の立てた仮定が 多分当たっているだろうという確信を深めながら、極めて平静を装った。 俺がチラリと、スリッパではなく“アレ”をちらつかせると ヤツは小声で“ひぃ!?”と悲鳴を上げそうになり、それを懸命に堪えている。 思わず、ニヤリと笑ってしまいそうになった。 「・・・どうかしたか、七瀬。」 「いっ、いえいえいえッ!!なっ、なんでもありませんよ!? ・・・ええッ、全くもって問題はありませんとも!」 ・・・どうやら九十九は、七瀬になりきるつもりらしい。 こうなったらボロを出させて、現行犯逮捕するしかないだろう。 (↑この辺りに八千穂と九十九の悪影響が見られる。) 「そ、それでこ・・・皆守君は・・・・・・わ、私に、なんのご用でしょうか?」 「・・・それなんだがな。今九ちゃんがどこにいるか、知らないか?」 「・・・・え、えええええぇぇッ!?・・っとつ、九十九さんですか!?お・・私はッ、見てませんけどッ!?」 「・・・・・・。」 ・・・これだけボロボロなのに、あくまでシラを切り通すつもりらしい。 ――――――― ・・・仕方がない。出来ればこの手だけは使いたくなかったんだが・・・ 俺はそう思いながら最終手段に訴え出るため、そっと学ランに手を伸ばした。 ・・・バサリ。 そんな音をたてて、脱ぎ捨てた学ランが冷たい廊下に落ちる。 「うひゃあーーーーーーーーーッ!?!?」 学ランを脱いだと言っても、素っ裸になったわけじゃない。 いつも着ているYシャツ代わりのTシャツ姿になっただけだ。 けれども七瀬の姿を借りたコイツは、それに異常な反応を見せて ドアにガンッ!!と背中をぶつけるぐらい後退りした。 「な、ななななにす・・・してるんですかッ。こ・・・ッ、み、みみみみみ皆守君!?」 面白いほどうろたえるヤツの姿に、俺は確信の笑みを浮かべる。 ―――――――――― ・・・あと一歩だ。 俺はTシャツの首に指を掛けると、そのままぐいッと下に引き下げた。 「ほれ。」 「―――――――――― ・・・ッ!?」 ヤツは今度こそ驚愕の表情を浮かべ、手にした本を取り落としそうになった。 ・・・いや、実際取り落としたが持ち前の反射神経でどうにか掴む。 ・・・今やヤツの視線は一心に俺の首元・・・もとい、鎖骨に注がれていた。 これであの仮説は確実だ。・・・となると、あとは白状させるだけなのだが。 ・・・ヤツが九十九である証拠、それを出させれば・・・ どうするか、としばらく考え込んでいた俺は けれど答えが意外と近くに転がっていることに気が付いた。 ・・・そうだ、なにも困ることはない。いつも通りにすればいいだけじゃないか。 ふとそれを思いついた俺は、まるで猫かなにかを呼び寄せるように ちっちっと舌を鳴らしながら、七瀬の姿をした九十九に、こいこいと手招きをした。 「うぅッ!?」 すると七瀬は、体を強張らせながら腕で顔を隠した。 もう後はないというのにそれでも後ろに下がろうとして、遂に本をバラバラと床に落とす。 背に隠された扉の奥で、誰かが“あ・・・!”と声を漏らしたのが聞こえた。 ・・・七瀬はなによりも本が命!なヤツだ。本物の七瀬なら、まずこんなことはしまい。 ちっちっちっちっ 「〜〜〜〜ッ!?」 俺が舌を鳴らしながら、来い来いと呼びかけ続けると 七瀬の姿を借りたヤツは、必死に何かを堪えるように頬を高潮させ 両手で顔を押さえて・・・でも名残惜しそうに、俺からふいっと視線を逸らした。 そんなヤツに、俺は尚も追い討ちを掛ける。・・・ラストスパートだ。 ちっちっちっちっ・・・ するとヤツは、突然迷子の子供が親に再会したような顔になって 目線を合わせると同時、叫び声をあげながら俺目掛けて弾丸の如く突進してきた。 「あぁッ!!!・・・ごめん月魅ッ、俺もう耐えられないーーーーッ!!!」 がばぁっ!!! 「鎖骨萌えーーーーッ!!」 俺はそれを難なく受け止め(さすがにもう慣れたぜ・・・) 猫よろしく胸に飛び込んできた九十九の頭を、よしよしと数回撫でてやった。 ・・・それでこそ、俺の知る葉佩九十九だ。・・・といっても、外見は七瀬だが。 (↑結構勝手言ってますね。) 「つッ、九十九さんッ!!!私の体でなんてことするんですかッ!!!」 すると今まで九十九がひた隠しにしたがっていた司書室の中から 焦った様子の葉佩九十九が、そう叫びながら勢いよく飛び出してくる。 本物の九十九より、焦っていても数段落ち着き払ったその口調は、間違いなく七瀬だ。 「・・・やっぱり、な。」 俺がそう呟くと、(どうしてか内股になっている)七瀬と (俺に抱きついたままの)九十九は、バツが悪そうにお互いの顔を見合わせた。 ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ 取りあえず、喚きちらす九十九を体から引き剥がして どうしてかあまり外に出たがらない七瀬に、扉を挟みながら事情を尋ねると 概ね俺が予想していたことと、寸分違わぬ答えが返ってきた。 「なんだよ、甲の馬鹿ッ!!今更遅いよ、馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿うましかッ!!!(←?)」 粘着面のくっついたガムテープの如く、俺から引き剥がされた九十九は そんな年齢でもないのに、むっと子供のように頬を膨らませて廊下に座りこむと (わかってるのか?今お前はズボンじゃなくてスカートを履いてるんだぞ?ちゃんと足閉じろ。) 駄々っ子のように手足をバタつかせて、そう叫んだ。 どうやら、あれだけ主張をしたのにも拘わらず 俺がすぐには信じなかったことが、余程お気に召さなかったらしい。 ・・・しかしそれにしても、七瀬の姿で駄々を捏ねられるというのはどうにも妙だ。 「・・・あー、うるせぇ。そもそも、漫画じゃあるまいし 普通そんなことが現実に起こりうるとは思わないだろうが。」 七瀬の顔で恨みがましく見上げてくる九十九に、俺はガシガシと頭を掻いた。 ・・・・・・その姿だと、どうにもやり辛くてしょうがない。 七瀬の体で性格が九十九というのは、ここまでアンバランスなものだったのか。 ・・・俺は七瀬の顔をした九十九から顔を背け、手にしたアロマに火をつけた。 「・・・それにお前だって、さっきはシラを切り通そうとしたじゃないか。」 言い訳がましくそう付け足すと、今まで喚きっぱなしだった九十九が突如として静かになった。 訝った俺が視線を戻すと、九十九は情けない表情でしゅんと肩を落としていて・・・ ・・・今度は九十九が、俺から視線を逸らす番だった。 「・・・・・・だって、俺・・・2度も甲にわかって貰えないの、嫌だったんだ・・・」 九十九の言葉に、俺はぎょっとする。 マズイ、これじゃ俺が悪者みたいじゃねぇかッ。 1度は信じなかったという事実が、余計俺の良心を苦しめていた。 内心焦っていたところへ、別方向からも突き刺さるような視線を感じ、俺は体を竦める。 ・・・いつの間にか、こっそり開けられた司書室のドアの隙間から 葉佩九十九の体を借りた七瀬が左目だけを覗かせ “皆守君が悪い”とでも言いたげなじとっとした眼差しで、俺を見つめていた。 俺は迷いに迷った挙句、項垂れた九十九の頭をポンポンと数回叩く。 「・・・・信じてやらなくて、悪かったよ。」 「――――――――― ・・・じゃあ、どう責任とってくれる?」 「・・・ッて、見返り求めんのかよッ。」 「転んでもただじゃ起きないもん。」 思わずツッコミを入れると、ツンと顔を背けてそんな返事を返してきた。 ・・・曲がったヘソは、まだ直らないらしい。 七瀬の非難がましい視線も未だ続いていて、俺は本日2度目の最終手段に出た。 「・・・わかった、お前の好きなようにしろ。」 「え?」 「・・・煮るなり焼くなり、好きにしろって言ってんだよ。」 「ほッ、本当か!?」 パッ!と九十九の瞳が輝く。・・・全く、現金なヤツだ。 「・・・あァ。但し、元に戻ってからな。」 七瀬の姿のままで好き勝手やられては、流石に俺としてもキツイので 最後にそう、念を押すように付け足しておく。 「よっしゃあぁぁぁぁッッ!!!俺、絶対元に戻るぞ!!!何がなんでも戻るぞ!! その言葉に偽りはないなッ!?クーリングオフも利かないからなッ!?」 ・・・お前は悪徳商法かよ、と声には出さずに悪態を吐きつつ けれどすっかりいつも通りに戻った九十九に、俺は内心安堵の息を漏らした。 「わかったわかった、言わないから安心しろ。」 「・・・んっふっふっふー。あんなこと〜♪やこんなこと〜♪も出来ちゃうかなー?」 怪しい含み笑いをする七瀬in九十九は、妙な迫力を醸し出していて それはもう黒塚並みに恐ろしかったので、俺は早くも前言撤回したい気分になる。 だがそんな俺に構うことなく、瞳に光の戻った九十九は すっくと立ち上がると仁王立ちになり、ぐっと拳を握り締めた。 「よしッ、なにはともあれ萌えも充電したし、これで今日は生き抜けそうだなッ! 俺、まだ死ぬわけには行かないよ・・・ッ!!甲の生ストリップを見るまではッッ!!!」 「絶対そんなことしないからな、俺は。」 ・・・本来なら、とっくにスリッパで叩いているところなのだが あれが七瀬の体だとなると、さすがにそれも出来ない。・・・ある意味厄介だ。 そんなどうでもいいことを考えてから、俺は九十九の言葉に引っかかりを覚えた。 「死ぬわけには・・・ってお前、まさか今夜もあそこに降りるつもりなのかッ!?」 声を荒げて言うと、九十九はきょとんとした顔をしてから、事も無げに頷いて見せた。 「うん。俺さぁ、実は今夜決闘申し込まれちゃってて。 連絡しようにも、俺相手のアドレスも知らないし、連絡の取りようもないんだよね。」 「決闘?・・・誰だ、いまどきそんな時代錯誤なモン申し込むヤツは。」 「眼帯萌えの和服美人。」 「・・・・・・悪い。きちんと一般人の言葉で喋ってくれ。」 額を押さえて俺が唸ると、九十九は“一般人用語一般人用語・・・”とブツブツ呟き始める。 そんなに悩まないとならないことなのか?俺が要求しているのは・・・ッ!? 「えっと・・・なんだか知らないけど右目に眼帯してて、高校生なのに白髪で・・・ うーんと、名前は・・・そうそう!真里野、とか言ったかな? マリモっぽい名前だった気がするから・・・名前みたいな苗字だなって思ったの、覚えてる。 あッ、ほら!今朝教室で話してたとき、月魅がぶつかったヤツだよ!!」 九十九が七瀬に話をふると、七瀬はいつものクセで眼鏡のフレームに人差し指で触れようとし スカッとやってから、眼鏡がないことを思い出したらしい、はっとした表情をして言った。 「・・・あぁ。それは確かにB組の、真里野さんですね。 あまり詳しく知りませんが、確か・・・剣道部の部長をなさっていたような気がします。」 九十九の声で敬語を使われると、なんだか落ち着かないのは俺だけだろうか・・・ 「・・・あぁ、いかにもそんな感じの服だった。 和服ってすっごく脱がせ易そうでさァ、お代官様ごっことかしてみたい感じ。」 「阿呆。・・・で、お前。七瀬の体でいくつもりなのかよ?」 「・・・う〜ん。そこなんだよね、問題は。でも行かなきゃ俺卑怯者ってことになっちゃうし・・・それは嫌だな。」 「・・・・・・わかった。仕方ない、俺が着いて行ってやる。」 「そッ、それは駄目だッ!!」 「・・・なんでだよ?」 そう訊ねてから、九十九の瞳の奥に宿った炎を見て、やってしまったと後悔した。 アイツがこういう瞳をするときは・・・・・・大方相場が決まっている。 案の定九十九はいつになく熱い口調で、ペラペラと火がついたように喋り出した。 (それは本に対する情熱を語る七瀬と大差なかったが) 「なんでってお前・・・ッ!!わからないのか!? 相手は日本の文化遺産、武士だぞ!?も・の・の・ふ!!!! この馬鹿野郎ッ!一対一でいかなきゃ男が廃るだろッ!!!」 「お前は女だろうがッ!!!!」 「「「・・・・・・・・・・・。」」」 「・・・・・・まぁ、それはこの際置いといて。」 「置くな。」 即座につっこむと、仕方ない奴だとでも言いたげに、九十九はふぅと溜息をつく。 ――――――― ・・・仕方ないのは俺の方なのか?俺なのか・・・ッ!? 「あいつ、わざわざ俺に正体バラして、それで正面から決闘申し込んできたんだよ。 あちらの誠意にこちらも誠意で答えるのは当然だと思うのだが・・・どうだね?月魅女史。」 俺達は進展のない言い争いをやめ、無言で七瀬を見つめた。 俺達がいくら口論をしても、体は七瀬のものなのだ。・・・じっと七瀬の返答を待つ。 「――――――――― ・・・わかりました。」 しばらくして、七瀬は覚悟を決めたようにそう言葉を吐き出した。 「七瀬ッ!?・・・お前正気か!?」 聞いたところ、本人が直接話したことはないらしいが どうも七瀬は九十九の正体にも、何をしているかにも気付いている。 それでいて了承するのは、些か自殺行為ではないだろうか。 「九十九さんがそこまでおっしゃるなら・・・どうぞ、行ってください。」 「・・・月魅・・」 俺は勿論信じられないといった顔をしていただろうし、流石の九十九も少し申し分けなさそうだった。 そんな九十九を励ますように、七瀬はわざと明るい声を出した。 「でも私の体ですから、九十九さんのお役にはあまり立てないかもしれませんけど・・・」 「そんなことないよッ!!・・・ありがとう、月魅。 ・・・大丈夫、大事な大事な月魅の体だもんッ。俺、萌えに誓って傷つけたりしないよ!!!」 「・・・・・誓うもんが危ういがな。」 「なにを言うか、甲!?萌えは法だ、絶対だ!!!・・・俺の神なんだッ!!!」 「あれだけぶっ飛ばしといて、まだ神とかほざくのか。」 「安心してくれ、月魅の体には傷ひとつ付けさせやしないからッ!!」 いつも通り、九十九は俺の言葉を綺麗さっぱり無視して 言うが速いか、腕や背筋を伸ばして準備体操を始めた。 「・・・あ。そうだ、月魅。」 「はい、なんでしょうか。」 「もし女子寮に帰るなら、茂美に女子制服借りて着て帰りなよ。 甲が俺からの伝言だって言ってくれれば、茂美も貸してくれるだろうしなッ。 そしたら・・・まぁ、少しは女子達の目を誤魔化せるやもしれん。」 「おい、ちょっと待て。」 「いいじゃん、それくらいの手間惜しむなよ。」 「そうじゃねぇッ!!!どうして朱堂が女子の制服なんて持ってんだッ。 そしてお前は何故それを知っているんだッ!?」 「それね。色々役に立ちそうだったから、俺も入手経路聞いたんだけど “すどりん、乙女の七不思議のひ・と・つv”って言って教えてくれないんだ。 俺、茂美とは仲良しだからそれくらいなら知ってるよー。」 「・・・あと6つも不思議があるのか・・・?」 手に嫌な汗を掻く。ただでさえ存在自体が七不思議みたいな奴なのに そんな奴に、あと6つも不思議があるのか・・・・・!? 「あっ。」 俺が驚愕していると、九十九がポンと手を叩いた。 その音につられて、俺と七瀬は反射的に九十九を振り返る。 「そういえば、今夜ヒナ先生の家に誘われてたんだった!! しまったなァ・・・上手く誤魔化してから行かないと・・・ それにしても・・・あ〜〜〜ッッ、勿体ないッッ!!! 折角の教師と生徒、禁断ッ!?のシチュエーションがあぁぁッ!!」 「お前他に言うことはないのか。」 「・・・じゃ!そういうわけで、俺そろそろ行くからッ。・・・行ってきまーす!!」 「あ、おいッ。待ちやがれッ・・・こらッ、九十九ッ!!!!」 一人自己完結した九十九は、そう叫ぶと脱兎の如く走り去る。 ・・・あの動きなら、七瀬の体でもどうにかなるんじゃないか?・・・ッてそうじゃないだろ、俺。 ―――――――― ・・・九十九に置き去りにされた俺達に残された道は 非常に不本意ながら(←ここ四倍角)ひとつしかなかった。 さすがに学ランを着た姿のままで七瀬が女子寮に戻ったら、軽いパニックになる。 「・・・仕方ない、行ってくる。」 「よろしくお願いします、皆守君。」 ・・・そうして俺は、どうにかこうにか女子制服を朱堂から奪取し 命からがら逃げ帰ってきたわけだが・・・そこにはもう1つ、驚くべきことが待っていた。 「・・・驚きました。九十九さんがこんなに女子の制服が似合うだなんて・・・ やっぱり女の子なんですね、九十九さんも・・・可愛い・・ あッ!すみません、皆守君!!・・・決して、絶対に合わないと思っていたわけではなくてッ。 その、九十九さんって男の人らしいイメージの方が強かったものですから・・・ッ!!」 葉佩九十九に、意外にも女子制服が似合うことが発覚したのだ。 これなら女子寮をほっつき歩いていても、誰も気に留めたりしないだろう。 八千穂のような目敏い顔見知りにさえ出くわさなければ、の話ではあるが。 ・・・少なくとも、女子生徒の中に紛れても違和感を感じさせないぐらいには いまや九十九は、完璧に女になりきっていた。 「・・・・・・いや、正直俺も驚いてる。」 どうして七瀬が俺に謝るのか、それに気付かない程には俺も動揺していたらしい。 九十九の着ていた学ランを受け取って寮に戻った俺は 葉佩九十九の七不思議に、このことを追加しておくことにした。 ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ ――――――――― ・・・後日。 結局その翌日早朝には、2人はお互い自分の体に戻ることが出来たようだ。 女子制服を着た九十九が大慌てで、窓から男子寮の俺の部屋に忍び込んできたときは 流石に一瞬驚いたものの、”あぁ、元に戻ったのか“と妙に実感させられた。 その日俺は九十九から、あのあと遺跡でどんなことがあったのかということや 真里野が九十九に敗れたこと、ファントムとか名乗る謎の仮面の男が雛川を誘拐していたこと等を報告され ・・・そしてあれから数日経った今日、昼休みの図書館で。 俺は本棚の影ににコソコソと隠れながら、七瀬を覗き見ている真里野を目撃した。 九十九によると、“自分は葉佩九十九だ!”と言い張ったのだが信じてもらえず どうやらあの夜、七瀬が自分を倒したものだと思い込んでしまっているらしい。 まるでストーカーかなにかのように物陰に隠れ “あぁ、七瀬殿・・・”と小声で呟く真里野に声をかけるのは酷く躊躇われたが どうにかそれを我慢して、俺は真里野に声をかけることにした。 「――――――― ・・・おい、真里野。」 「ん?おぬしは確か・・・萌える鎖骨が最大の魅力の、皆守甲太郎ではないか。」 バシィッッ!!! 「誰の影響だ、誰の・・・ッ!!!」 思わず考えるよりも先に、初めて九十九以外の人間をスリッパで叩いてしまった。 真里野は俺の鬼のような形相に気付いたのか、慌てて首を横に振る。 「・・・あッ、いや・・・・・せ、拙者は・・・ッッ!!」 それだけ九十九に毒されていて、何故自分を斃した相手に気付かないのだろう? それともあの晩の九十九は、そんなにもまともだったのだろうか? ――――――― ・・・いや、そんなことはありえない。(反語) 「―――――――― ・・・いいだろう、真里野。 今一度お前に聞く、お前が先日戦ったヤツはAとBどっちだ?」 俺がスッと指を指すと、真里野はつられるようにしてそちらへ視線を向けた。 「―――― A.」 「萌えーーッ!夕薙その胸板萌えーーーッ!夕薙ッ、抱き付かせてくれーーーッ!!!」 「おいおい、またか?九十九。・・・はははっ、お前も大概物好きな奴だな。」 いつもの如く馬鹿なことを叫びながら、大和の後ろを付いてまわっている九十九。 ・・・いや、俺は物好きで済ませてしまうお前もどうかと思うぞ、大和。 「・・・B.」 「・・・九十九さん、ここは図書室ですよ。静かにしてくださいね。」 「ごめーん、月魅。これが済んだらそこの本借りて退散するからー。」 「・・・ええ、わかりました。それではこちらで手続きを済ませておきますね。 えっと・・・あら、今度はヒエログリフですか。九十九さんも本当に本がお好きですね。」 そんな九十九に、まるで母親の如く根気良く言って聞かせる七瀬。 ここにきて分かったことだが、意外な事に七瀬は、九十九の扱いに非常に長けていた。 九十九が本を読む姿を、俺は見たことがない。 だがもしかすると、俺を連れて七瀬に会いに来る以外にも コイツは図書室によく顔を出しているのかもしれない。 ・・・七瀬が全体的に九十九に甘いわけはここにあったのか・・・ ひとり納得していると、本を持ってカウンターに戻ろうとした七瀬が俺に気付いた。 「・・・あら皆守君、いらしてたんですか?珍しいですね・・・あぁ、九十九さんの回収ですか。 待っていてください、今貸し出しの手続きをしますから・・・」 回収って・・・七瀬、お前・・・(汗) 「――――――― ・・・A。」 「あ?」 思わず自分から問いかけたことすら忘れていた俺だったが 耳に届いた真里野の暗いオーラを背負った声に、俺は聞かずともあの遺跡の奥で何があったのかを悟る。 ・・・あぁ、コイツも九十九に手を焼いたんだな。 ・・・沈む真里野があまりにも哀れで、俺は奴の肩を数回叩くことしか出来なかった。 たとえ世界中の人間全部が全部、全く同じ容姿をしていたとしても その中から、葉佩九十九という人間を探し出すことは誰にとっても存外に容易い。 ―――――― ・・・少なくとも、皆守甲太郎にとっては。 だが葉佩九十九という人間を知っているならば 他の人間にとっても、然程難しいことのようではないようである。 |
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戯言。 すみません、よくわからないノリの話になってしまいました・・・(汗) 最初のほうは楽しかったのですが、最後のほうはいい加減ちょっと飽き気味。 任那の悪いクセです、どうでもいい内容で話が伸びる伸びる! あのまま続けても収集がつかなくなることは必死なので、後半駆け足になりました。 そして今回、九十九には皆守のツッコミが欠かせないことを知りました! 皆守のスリッパがないと九十九が暴走して話が進まない・・・ッ!! いやぁ、これには本当にほとほと困り果てましたよ。 しかし皆守も段々おかしな人になってきてますな。(夕薙もおかしい。) コホン。さて今更ですが今回は6話の、例の入れ替わりイベントのお話でした。 やっぱり皆さん、あそこで皆守が気付いてくれないのはかなり納得されてないようで・・・(苦笑) いえ、任那もその一人なんですけどね。 駄目ですよ、京一ポジションなんだから気付かないと!!!(どういう理屈) なんで気付かないかなこの男は! ならうちの九十九だったら間違えようがないだろうこのやろう! ・・・と考えたのがこの話でございます。 九十九と七瀬を勘違いできたらそれもそれで凄いと思う。 それでは、こんな駄文に長々とお付き合いくださりありがとうございました!! オマケ。 「・・・おいッ!お前もいい加減離れろッ!!」 スパーーーン!!! 「はぅッ!?・・・こ、甲・・・!!! 1日ほど喰らってないうちに、またスリッパの威力がパワーアップしてない・・・!?」 「ははは、甲太郎。さてはヤキモチか?男の嫉妬は見苦しいぞ。」 「え。・・・そうだったのッ、甲ッ!?」 「――――――――― ・・・ッ、そんなわけあってたまるかッ!!!!」 「・・・いや、しかし・・・となると拙者は・・・? むむむっ、だが拙者は漢だ!漢が漢にこのような不埒な想いを抱くのは・・・」 「―――――――― ・・・え?俺はいいと思うけど?男同士でも。」 「つッ、九十九!?お主、いつから聞いて・・・ッ!?」 「うーん、男同士もそれはそれで萌えだと思うけどなァ・・・ まぁ、俺は女だからそんな風に思えるのかもしれないけどさ。」 「――――――――― ・・・むっ?お主が、おなごとは・・・??」 「「「―――――――― ・・・あ。」」」 「や、やば!また俺・・・・・・こ、甲ッ!?」 「・・・・・・九十九。俺は確か、お前に言ったな?・・・・・・不用意にそれを口にするなと。 そしてお前は頷いた、“もう誰にも言わない”。 ―――――――― ・・・さァ、これでバラしたのは一体何度目だ?」 「こ、ここここここ甲ッ!?お、落ち着けッ。話せばわかるッ!!!!」 「・・・そうだな、お前がいくら言ってもきかないことぐらいはわかるかもしれないな。」 「――――――――― ・・・ッ!?や、やめてくれッ、それだけは・・・ッ!!! 頼むからハリセン持ってにじり寄らないでえぇーーーーーーッ!?!?」 「俺の“コレ”から逃げ切れると思ってるのか!?」 「いッ、嫌だあああぁぁぁぁッ!!・・・くそっ、こうなったらッ!!! 秘技!!腐女子の脚力、ナメたらあかんぜよおォォーーーーッ!!」 「・・・フッ、まだまだ甘いぜ・・・九十九ッ、これを見ろッ!!」 「え?・・・はッ!?鎖骨萌っ・・・・・・ッてぎゃあああッ!!!」 スパコーーーンッッ!! 「ふきゅうッ!?」 「ふむ。ついに甲太郎も、自分が持っているものを有効活用する手段を身に付けたか・・・」 「なんと・・・!!こうして男児を装ってはいるが、九十九は列記としたおなごだったのかッ!? 見事な腕前・・・拙者、すっかり騙されておったわ。 ・・・ん?ということは、拙者は漢で九十九が―――――――― ・・・」 「――――― ・・・なるほど。そうくるか、真里野・・・」 「!!み、皆守ッ!?」 「お前にこいつが見切れるか・・・ッ!?」 「お主いつからそ・・・・・・ッ!!lぺs;ぴxmーーーッ!?」 「・・・・・皆さん、ここは図書室ですよ・・・・・・・・・・・・・はぁ。」 皆守さん、上段蹴り炸裂した模様(笑) |
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2004/11/11