砂粒の数ほどもある未来















どこまでも続く砂の海。


雲1つない青空に、どっかりと腰を据えた太陽は
一面に広がる砂漠を、ギラギラと照らしだし
砂は太陽の光を受けて、キラキラと黄金色に輝いている。
そして時折風に乗っては、霧のように宙を舞う。

・・・既に何百年という刻を経てきたことを証明するかのように
石造りのピラミッドは所々風化しており、砂を被っている。
その一角に、大爆発でも起きたような大きな穴が、ぽっかりと口を開けていた。



そこに、1人の少年と初老の老人が立っていた。



怪しげな戦闘スーツに身を包んだ男達に、周囲を取り囲まれられ
銃口を突きつけられて、ピラミッドを背にする形で追い詰められている。
老人は男達にやられたのか、額からうっすらと血を滲ませ、砂に顔を付けていた。
大事そうに何かを小脇に抱えた少年は、悔し気に唇を噛み締めながらも
警戒を怠らない様子で怯むこともなく、目の前の男達を睨み返していた。




「・・・さぁ。秘宝をこちらに渡して貰おうか?」




中で1番偉そうに踏ん反り返っている、車椅子の男が
少年に向けて、静かにそう告げた。




「駄目じゃ!絶対に秘宝を渡しては・・・・・・がッ!」




横になったまま叫んだ老人の腹を、男のうちの1人が蹴り上げた。
それを見た少年の瞳が、一層険しいものになる。




―――――――――― ・・・誰が渡すものか・・・ッ!!!」


「・・・そうか。なら仕方あるまいな、残念だよ・・・」




車椅子の男の合図で、銃口が一斉に少年に向けられ・・・






ドガーーーン!!!






途端鼓膜を突き破るような爆発音が轟き、辺りは一瞬にして砂塵に包まれた。
とてもではないが目など開けていられる状況ではない。
少年はすぐそこまで迫ってきている砂塵に、反射的に強く瞳を閉じた。




「う、うわああああああああッッ!!!!」




突如としてそんな叫び声と共に、連続して銃声が響く。
けれどそれは、自分に向けられて発砲されたものではなかった。
銃弾は、自分とは正反対の方向に向けて撃たれている。
少年は腕に抱えた物の存在を感触で確認しながら、慌てて姿勢を低くし
ほとんど砂埃で見えない視界で、なにが起こっているのかと必死に瞳を凝らした。

瞳を開けても砂が入らないよう、ゴーグルを降ろす。
額につけていたゴーグルも、さっきの爆発で砂を被っていたが
まだ収まらない砂埃の中で瞳を開けるよりは、ずっとずっとましだった。
すると低い呻き声をあげながら、ぼんやりとした光を放つ、人の頭蓋骨にも似た“なにか”が
どこからかともなく現れて、スーツの男達に襲い掛かっている光景が目に飛び込んでくる。
少年は一瞬呆然となり、思わず固まりその場に立ち尽くしていたが
すぐ傍から聞こえてきた声に、ハッと我に返った。




「何をしておる、今のうちに逃げるんじゃ!!」


―――――――――― ・・・九龍!!Mr.サラー!!」


「截那ッ!!!」




後方から聞こえてきた、自分と老人の名を呼ぶ少女の声に
少年
――――――――― ・・・葉佩九龍の中で、全てが繋がった。
・・・先程の爆発音は、間違いなく彼女の仕業だろう。
だとすれば、アレも彼女がなにかしたのだろうか・・・?




「こっち!!」




少女は砂煙で身動きの取れない九龍の腕を引っ張り
自分の方へ引き寄せると、次はサラーと呼ばれた老人に肩を貸した。
少女はゴーグルもきっちり装備していて、さっきまで装着していたのだろう
防塵マスクまでが、その手元には用意されている。




「すみません、遅くなって!!
でもヤツラの目を掻い潜って爆薬投げるのも、なかなか大変だったんですよ!」


「やっぱりあの爆発はお前だったのか、截那。」


「あたり前でしょ?あたしは元々、2時間以上経過しても
九龍達が戻ってこなかった場合、2人を探しに行くのが役目だったんだから。」




砂の舞う視界と混乱の中で、まるで自分を導くように時折揺れる
背中まである彼女の黒髪を頼りに、九龍は砂に足を取られながら走った。
この截那という少女、実は九龍の義理の兄妹である。
兄妹とは言っても、年齢が同じなので、学校での学年も勿論同じだ。
もう随分前のことになるが、2人が出会ったのは両親が再婚したとき。
父と母お互いの連れ子で、それが2人の出会いだった。

つい先日まで全くの他人だった同年代の男と女が
いきなり今日から兄妹だ、なんてかなりむちゃくちゃなのではないかと
当初九龍は思ったのだが・・・今ではこうして、どうにかこうにかやっている。
寧ろ、彼女がいることが当たり前になりすぎたくらいだ。




「截那、あれはなんだったんだ?」


「あたしにも、わからない。・・・けど多分、怒りに触れたのよ。
それに触れたのがあたしなのか、アイツラなのかはわからないけどね。」




自らを秘宝の夜明け(レリック・ドーン)と名乗っていたあの連中が見えなくなり、喧騒も遠のいたところで
九龍は意識を失ったサラーを受け取り、截那に代わって背におぶる。
もう視界を邪魔するものはなに1つない。あるのは、どこまでも続いている砂の海だけ。
2人はサラーに言われた通り、彼に示された方角にあるというオアシスを目指し
・・・そうして、砂の舞う黄金色の大地へと、姿を消した。









■  □  ■  □  ■  □  ■  □  ■  □  ■










次に九龍が意識を取り戻したのは、低い機械音が響く飛行機の中だった。
医者の話によると、九龍と截那、そしてサラーの3人は
あのまま砂漠のど真ん中で、意識を失ってしまったらしい。
ふくよかな医者にいくつかの質問をされ、どうにか正常であると判断されると
九龍はベッドから起き上がり、忙しく辺りを見回した。




――――――――――― ・・・九龍!」




すると、ベッド同士を分断するカーテンをシャッと開けて
向こう側から、未だベッドに横になってはいたものの、截那が元気そうな顔を覗かせる。
そんな彼女の表情に、九龍はほっと安堵の息を漏らした。




「・・・よかった。截那が無事で。」


「大丈夫だよ。こう見えても、最後まで意識あったのはあたしなんだからね。」


「昔はあの辺りにオアシスがあったようだが、もう随分前になくなってしまったらしくてね。
君が倒れた後、彼女がH.A.N.Tで通信を入れたんだ。
いやぁしかし、H.A.N.Tがなければ君達の居場所も割り出せないところだった。」




オアシスと聞いて、九龍はもう1人の同行者のことを思い出した。




「あの、Mr.サラーは?」


「あっちで寝てるよ。」




截那が指差す先を視線で追うと
そこには規則正しく呼吸をして眠っているサラーが、ベッドに横たわっていた。
いくら熟練の宝探し屋案内人とはいえ、老いには勝てない。
彼が一番重症だろうと察知した九龍は、彼のことも看たのであろう医者をじっと見つめた。




「・・・大丈夫。衰弱はしているが、命に別状はない。休ませれば回復するだろう。」


「・・・そうですか。よかった、誰も死ななくて・・・」


「・・・うん。九龍、頑張ってた。偉いね。」





そのとき、ちょうどプリンターがガタガタと音をたてて、なにかを打ち出し始めた。
遠目から見た限りだが、なにかの書類のようだ。
すると突然、どこからかピピピと耳障りな機械音が聞こえ
音の源を見つけた九龍は、自分のH.A.N.Tはそんなところにあったのかと手を伸ばす。
そこへほんの少しの時間差で、並べて置かれていた截那のH.A.N.Tからも
メールが届いたことを知らせる着信音が鳴り響いた。

九龍が手馴れた動作でH.A.N.Tを開くと
女性のアナウンスの声がして、H.A.N.Tが起動した。
メールボックスを開いて、早速今しがた届いた新着メールをチェックする。









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送信者 ロゼッタ協会

件名 探索要請


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九龍がメールで送られてきた内容を目で追っていると
それを遮るように、白いものがH.A.N.Tの画面を覆い隠した。
医者が先程FAXから吐き出されてきた書類を
九龍と截那の目の前に、それぞれ1枚ずつ差し出していたのだ。




「君達の新しい任務が決まったらしい。次の任務地は、日本のとある高校だ。」


―――――――――― ・・・天香學園高等学校?」




いち早く紙を受け取った截那が、九龍が目で追っていた任務先の名前を読み上げる。
先程のメールにも、当然といえば当然なのだが出てきた名前だ。
截那がポツリと呟いた新しい任務地の高校の名に
九龍は何故か、ざわざわと落ち着かない胸騒ぎを感じていた
―――――― ・・・














戯言。


こんにちは、任那です。思いのほかハマってしまい、ついに書いてしまいました九龍。
主人公、名前変換にしようか迷ったのですが
魔人が一応名前固定なので、ひとまずこっちも固定でいこうと思います。

男主人公が葉佩九龍で、女主人公が葉佩截那です。
全く血は繋がっていない、義理の兄妹さんです。しかも同い年。
なんで任那はそういうのが好きなんでしょうかねぇ・・・(笑)

今回は紹介編でしたが、次からは多分天香に行きます。
ちなみに、截那は男装女主になりますので。ハイ。
詳細は後に作成する(つまり現段階で出来ていない、と)主人公紹介でどうぞです。





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2004/10/25