□ 風の中に君を想う □






 旅には様々な道具がいる。自身に対する薬や食料は勿論、何かと新米冒険者達の世話を焼く事が多い自分には薬の類はいくらあっても困る事は無い。そんな中での錬金術の利便性は身に染みて理解している。
 だがその肝心の錬金術を行う錬金術士は今や二人共――内、一人には頼もうなどと露ほども思わないが――放浪の旅に出てしまっている。その内の一人、自らの想い人でもあるロロライナ・フリクセルの方はたまにはアーランドにあるアトリエに帰って来ている様だが、再会する間もなくまた直ぐに旅に出てしまい、かれこれ数年会っていない。

 そんな最中、風の噂で彼女に弟子が出来たと聞いた。ガセかとも思ったが海辺のとある村に錬金術のアトリエが出来たという話も聞き、真実であると確信した。
 彼女の弟子という存在に興味が湧き、万が一にも彼女にも会えるかもしれないと思いつつそのアトリエを訪ねた。
 その彼女の弟子には第一声で悲鳴を上げられ、更にはその姉にまで悲鳴を上げられ――人攫いとまで言われた――少々……否、結構落ち込みはしたが同時に既視感も感じた。
 彼女との出会いもまた、顔が怖いと怖れられたものだ。懐かしい思いがした。
 それ以来、要り様の物が出来るとちょくちょく彼女の弟子のアトリエを訪ねるようになった。勿論、その弟子が錬金術士である事が大きな理由だが、他の理由も確かにあった。

 薬品や爆弾、あらゆる素材の入り混じった錬金術のアトリエ独特の匂い。
 彼女を連想させる彼女の愛弟子。

 それら一つ一つに彼女の痕跡を探す。確かに彼女はこの空の下のどこかに存在していると。
 彼女の弟子と彼女を重ねるつもりなど毛頭無いが、どうしても彼女の弟子を通して彼女の面影を探してしまう。街に行けば彼女の痕跡は至る所にあるのに、肝心の彼女自身がそこにはいないのだから。
 たまには旅先で擦れ違えてもよさそうなのだが、時々彼女の噂が耳に入ってくるだけだ。


 例えば。
 食料が尽きて通りがかったキャラバン隊の世話になった。

 例えば。
 何も無い舗装された街道で爆発を起こし石畳に穴を開けた。


 それらを聞く度に己は頭痛を覚え、何をやっているんだと彼女に面と向かって小言を言いたくなり――最後にはいつだって会いたくなる。



 簡素な食事を終え、焚き火の炎を何と無しに見つめる。逃げ出した元国王を追う旅は厳しいものだった。肝心の王自身はてんで見つからない上、旅先で無謀な事をした冒険者の尻拭いや、街道に出たモンスターの討伐など本来の目的とはかけ離れた事をしているうちに疲れてしまう事がある。
 そんな時は決まって彼女の顔が浮かぶ。あの、ぽややんとした肩の力など簡単に抜けてしまいそうな彼女の笑顔が。


 ――――ステルクさん。
 あの少し舌足らずな声で名前を呼んでほしい。

 ――――今日はプレーンパイを作って来ました! 一緒に食べませんか?
 あの料理人顔負けの絶品の手作りパイをまた食べたい。

 ――――夜の領域まで採取に行きたいんですけど……ステルクさん、付き合ってくれませんか?
 少し困ったような遠慮がちな顔でまた俺を頼ってほしい。それが採取や冒険といった事でなくても。


「会いたい……ロロナ…」
「ロ・ロ・ナー」

 ぽつりと無意識に呟いた言葉に返事があり、うんざりとした目を横に向けた。そこにいるのは自分の飼い鳩だ。どういう訳だか彼女の名前を覚え、喋れるようになってしまったのだ。
 初めてそれを聞いた時は耳を疑ったものだ。そしてそれが聞き間違えではない事が分かると驚き、そして呆れた。自分自身にだ。

(そんなに俺は彼女の名前を呟いていたのか?)

 なんだかとっても自分が情けない気がしてさっさと寝る事にした。



 彼女の弟子と出会って一年が過ぎようかという頃、待ち望んでいた噂を聞いた。

 ――ロロライナ・フリクセルがアーランドのアトリエに帰って来た。

 それも今までと違い、暫くアトリエに腰を落ち着けているという。目の前に立ち塞がる仕事も何もかも蹴散らし、すぐさまアーランドを目指して出立した。途中で王を探す為に放していた飼い鳩が己の元へ戻って来た。

「くるっぽ、くるっぽ」
「そうか……お前も彼女の気配を感じたのか」
「くるっぽー」

 肩に止まった鳩が肯定した。確かに彼女が街に帰って来たと。
 待ち続けた彼女の元へと歩を進める。今度こそ会えると信じて。
 

 そして己は見知ったアトリエの扉の前に居た。彼女はいるだろうか。会えた時どんな顔をするだろうか。怪我などしていないだろうか。あの笑顔は変わっていないだろうか。
 数年間燻り続けたあらゆる想いが全身を駆け巡り、一度目を閉じてから扉をノックするべく腕を上げた――――













架里亜さんコメント:
そして悲鳴を上げられる可哀想なスケさん(笑)こんなに想っていたのに…。
任那さん、ステルク→ロロナの感じ出ていますか?



任那コメント:
そうしてトトリのアトリエでのあのイベントへと繋がるわけですね、わかります。
任那が近々誕生日だと呟いたところ、リクエスト券(違)なる素敵なものをいただいたので、ステルク→ロロナなお話で!というかなーりアバウトなリクエストをさせた頂いたのですが、そりゃもう見事にステルク→ロロナなお話をいただきました。

うまい表現がなかなか見つからないのですが、架里亜さんが書くステロロは、原作の2人の雰囲気に本当に近くて、読んでいてほわーってなります。
そうそう、ステロロってこういう触ったら溶けちゃう砂糖菓子のような2人だったよね!って。私じゃどうやってもこんな風には書けません(笑)

今回、架里亜さんに快く許可していただき、サイトでも公開できることになりました。
いいだろうっ、羨ましいだろうっ!?・・・と見せびらかしてみる(笑)
架里亜さん、素敵な小説をどうもありがとうございました!架里亜さんの素敵なサイトはこちら→




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頂いた日:2011/07/30