Life x Love x Live =ルーチン編= 有川将臣の朝はそれなりに早い。 なにしろ、自分のぶんどころか兄のぶん、そして何故か幼馴染のぶんまで 昼のお弁当を計4個作る譲より、10分程度遅いだけなのだ。 異世界で生活していたときは、日の出前に起きることも ザラではなかった彼なのだから、決して起きられないわけではない。 ・・・しかし、長いのだか短いのだかいまいち良く解らない冬休みを、 幼馴染や兄弟達と大騒ぎをして過ごし、終えた将臣にとって、 3学期の最初、始業式の日というのは、やはり自堕落になるものらしい。 兄がなかなか起きてこないだろうことを予測していたのか、 “やっぱり・・・”などと呟いて、譲が起こしにやって来た。実に良くできた弟である。 「兄さん・・・兄さん、起きろよ。」 「う、ん・・・なんだよ譲、ゆっくり寝かせてくれ・・・」 「何言ってるんだよ、今日から学校だろ?先輩、迎えに行かなくていいのか?」 「―――――― ・・・っ、そうだった!!」 それまでまるで、纏わりついてきた蠅かなにかを追い払うような仕草で、 しっしっとやっていた将臣だが、譲の口から出てきた幼馴染の名前に、一気に脳が覚醒する。 あの、朝には滅法弱い幼馴染は、将臣が迎えに行かなければ 始業式なんて忘れて、夕方まで寝過ごす可能性だってある。それくらい、朝に弱い。 「あー、迎えに行かないとな。すっかり忘れてたぜ・・・」 「朝食の準備はもう出来てるから、着替え終わったら降りてきてくれよ。」 「あぁ、サンキュ。」 俄然テキパキと活動を始めた兄に、譲はそう言い残すと、 お手製弁当の続きを作るために、さっさと階段を降りて行った。 制服の上着を引っ掛けるようにして着た将臣は、1階へと降り 洗面所で顔を洗い、髪を適当に撫で付けてから、朝食のテーブルに着いた。 これから朝食を掻き込めば、食べ終わる頃にはお弁当が出来ているという、緻密な計算である。 ・・・予想通り、譲の弁当作りは終盤に差し掛かっているようだった。 いつも決まったテーブルの将臣の席には、トーストと、少し冷めかけた目玉焼き。 「ほら、将臣。早く食べて、ちゃん迎えに行ってあげなさい。」 「ん?・・・あぁ。」 コトリ、とコーヒーの入ったマグカップを差し出して言う母親に、 おざなりな返事を返して、将臣は早速朝食の処理に取り掛かった。 それはもう、食べるというよりは詰め込む作業に近い。 ほんの10分程で、将臣は用意された朝食を平らげてしまった。 「兄さん、弁当ここに置いておくからな。」 「ああ。」 キッチンから譲がひょっこり顔を出し、弁当を置いたのを確認して、将臣は歯磨きに取り掛かる。 歯を磨かなかったのがばれると、後で望美や譲が煩いし、 なによりそれを聞いたが申し訳なさそうにして、起きれもしないくせに、自力で起きるとか言い出すのだ。 こんな将臣だがの元へ行くと、人が変わったように働き出すのだから、 の寝起きの悪さというものが窺い知れるだろう・・・・・・ともかく、急がねば。 部屋の出入り口に掛けてあったコートを羽織り、 2人分の弁当を無理矢理詰め込んだ鞄を引っ掛けて、履き慣らした皮靴を履く。 ・・・母親が玄関まで見送りに来た。 「じゃ、行ってくるわ。」 「気をつけるのよ、ちゃんのことお願いね。」 思い切り開けた玄関は、バネかなんかの力で勝手に閉まるのに任せて、 将臣は買ったばかりのバイクに跨ると、隣駅にあるの家へと向かった。 の家へ向かう途中、しばらく走ったところにあるコンビニでいつものように の好きなフルーツサンドと、惣菜パンを1つずつ・・・朝はに朝食を作らせる暇も無い。 それからこれまた彼女の好物の、みかんジュースを買おうとし・・・きっと今日もの家にいるのだろう、 彼女の家にほぼ住み着いている男のことを思い出して、缶コーヒーとパンをいくつか買い足した。 そうして15分ほど走り続けると、の住むマンションにつく。 インターホンを鳴らしても、これくらいでが起きないのは実証済みだが、 一応2・3度鳴らしておき、将臣は預かっている合鍵で、オートロックの玄関を開けた。 の住む部屋は、このマンションの5階にある。 エレベーターが来るのを待って乗り込み、5階に続いて閉口ボタンを押した。 チン!と小さな音がして5階に着くと、将臣は後ろ手に閉口ボタンを器用に押して、エレベーターから降りる。 真っ直ぐの部屋に向かった将臣は、一応ここでも念のため ピンポンピンポンと悪戯のようにインターホンを鳴らしてから、結局先程と同じように、合鍵で扉を開けた。 ・・・これだけけたたましく来訪者を告げるチャイムを鳴らしても、 はピクリとも目を覚まさないのだ。 ガチャン、と少し重たい扉を押し開けると、予想通りというかなんというか 明らかにの物ではない男物の靴が一足、足元に転がっていた。 浅い溜息を1つ吐いて、自分の靴も一緒に蹴転がす。 玄関からリビングに続く廊下の途中にある、右側の扉がの部屋だ。 もう慣れたもので、将臣はコン!と1回、形だけのノックをすると、遠慮なく扉を開いた。 の部屋には、物があまりない。 だからだろうか、部屋に入るなという一言を、彼女の口から聞いたことは無い。 年頃の女の部屋にしてはちょっと味気ないほど、余計なものがないのだ。 「おい、!朝だぞ起きろ、今日からが学校だろうが!」 右手で部屋の電気を付け、日差しを遮っている窓のシャッターを上げる。 すると一気に差し込んだ朝日に、ベッドの上でなにかがもごもごと蠢いた。 「おい、起きろ・・・ってぇ!?」 振り返った将臣は、そこにある光景に唖然とした。 もごもごと動いたのはてっきりだと決め付けて、今日は目覚めが早いなぁなんて 気楽に思っていたのに、のベッドの上で眠たそうに将臣を見ているのは他でもない、 年上だと言うのにあちらの世界では将臣の弟ということになっていた、平知盛だったのだ。 「どぉしてお前がのベッドで寝てんだよ!?」 「・・・・なぜ・・・・・・有川、お前がここにいる・・・?」 寝起きなせいか、いつより数段気だるそうな口調でそう呟いた知盛は 大きな欠伸を1つして、ぼんやりと将臣を見た。 「なんでって・・・今日から学校が始まるんだよ!お前聞いてないのか!?」 「・・・・・・そういえば、がそのようなことを言っていたな・・・」 そう言って、また小さな欠伸を1つ。 どこまでもマイペースな知盛に、将臣はわしゃわしゃと髪を掻き毟った。 「だぁーーーッッ!!いいから起きろッ、どうせそこにいるんだろッ!?」 知盛の足元にたぐまっていた布団を、力任せにバッと剥ぎ取ると、 やはり将臣が目星をつけていた場所に、はなにかの幼虫のような格好で丸まっていた。 布団を取られた眩しさか寒さかで、の眉にきゅっと皺が寄る。 「ん・・・」 鼻から漏れたの声に、知盛が過剰に反応して、彼女の頬にそっと触れる。 知盛の手に引き寄せられるように、がパタリと寝返りを打つと、知盛の頬が微かに緩んだ。 そのままシーツに広がる彼女の髪を、くるりくるりと弄ぶ。 まるで割物を扱うような、知盛らしからぬその態度に、将臣は呆気に取られてしまったが やがて体温を求めて知盛に擦り寄ったを見て、ハッと我に返った。 「起きろーーッ!!!知盛ッ、お前もさり気無く抱き寄せるな!もう1回寝る気だろ!?」 「・・・・・・・・・・・・全く、五月蝿い兄上だ。」 知盛の手からを奪い返して、がっくんがっくん揺さぶると 固く閉ざされていたの瞼が、ぴくりと動く。 まだ半分ほどしか開いていない、焦点の合っていない瞳が、ぼんやりと将臣を捉えた。 「・・・・・・・・・・・ォミ・・・??」 「ほら、。今日から学校だぞ?さっさと着替えろ。」 「・・・・・が・・・っこぅ・・・・・・・?」 「・・・あぁ、そうだ。」 言いながらベッドの端に座り、前後に頭を揺らしているを見て、将臣は溜息を吐く。 仕方がないと、さっき買ってきたばかりのコンビニの袋から、冷たく冷えたみかんジュースを取り出した。 そうしている間にも、知盛はに絡み付こうとしている。 将臣は、から知盛を引き剥がし、口の中でもごもごと何か話しているの、 パジャマの襟首のところから長方形のそれを、ストンと中に滑り込ませた。 「うひゃあああああああッッ!?!?」 途端、は奇声に近い叫び声をあげて、ぱっちりと瞳を見開いた。 背筋を正したのパジャマの中に、ちゃっかり手を突っ込んで、 ジュースを取り出そうとした知盛の手を、すかさず将臣がパチンと叩く。・・・不満そうな知盛と目が合った。 「オ、オミおはよう・・・!!!」 「お、やっとお目覚めか?・・・ったく、相変わらず寝起き悪いのなお前。」 よろよろと立ち上がったの頭を、よしよしと数回撫でてやって 将臣はぼとりとフローリングの床に落ちたみかんジュースを拾い上げた。 「ほら、ちょっと泡立ってるかもしれないけどな。」 「・・・うん・・・ありがとう。」 目が覚めたといっても、まだどこかぼんやりしているは のろのろとした動作で、みかんジュースにストローを突き差した・・・ここからが、また長いのだ。 その間に将臣は、ハンガーにぶら下がっていた制服のスカートを下ろす。 普段のというのは、それはきちんとしているので、 少なくとも翌日学校のある日は、夜寝る前に制服の準備をしておけと言い聞かせてある。 はその将臣の言いつけを、きちんと守っているらしく、 ブラウスとネクタイ・・・それからセーターは、机のイスの背に掛けられていた。 「ほら、。ちょっとだけ、足上げろ。」 パジャマのズボンの上からスカートを履かせ、ホックを止めてファスナーを上げる。 はその間、将臣の肩に寄りかかりながらジュースを飲んでいて、 知盛が物凄い剣幕で将臣を睨みつけていることには、これぽっちも気付いていない。 内心ちょっとした冷や汗を掻きながら、とりあえずスカートを履かせ終えると、 将臣はから、まだ飲みかけのジュースを取り上げた。 「みかん・・・」 「あとでな。パジャマは自分で脱げよ?ブラウスはここな・・・おい知盛、俺達は出るぞ。」 「・・・クッ、なんなら俺が着替えさせてやってもいいが・・・どうする?」 「いいから来いッ!!!」 右手に知盛の首根っこ、左手にコンビニの袋をぶら提げて、 将臣はの部屋を出ると、足で扉を閉めた。 リビングまで知盛をズルズルと引き摺ってソファーに放り、ストーブの電源を入れる。 不貞腐れている知盛に、袋の中からパンを1つ取り出して投げつけた。 さっきまで寝惚けていたはずなのに、将臣が投げたそれを しっかり片手でキャッチして見せるところは、さすがというべきなのだろうか? 「・・・・・・なんだ?」 「それ、お前のぶんな。に作らせてる暇、さすがにないだろ。」 そう言えば、知盛は不満そうにしながらも、ピッとビニールを破いた。 「・・・全く兄上も、無粋なことをする・・・」 どうやら知盛は、将臣がの世話を焼き、構うのが気に食わないらしい。 将臣としては、知盛がやってくれれば問題ないとは思うのだが、 朝が弱く、なにかと理由を付けてはに構い、 自分のところに足止めしようとする知盛には、まぁ無理な話かもしれない。 「お前が起こしてやれれば問題はねぇんだよ・・・」 「引き受けてやってもいいが・・・?」 「ばーか。お前はすぐ引き込んで2度寝するか、そうでなきゃ放さねぇだろ。」 ・・・問題は、その知盛よりのほうが朝に弱いということである。 あちらの世界で、何年かぶりにと再会を果たしたときには 彼女の寝起きの悪さはこれほどまでだったかと、知盛のほうがまだマシだと思ったものだ。 「・・・・・・それよりお前、なんでのベッドで寝てんだよ。」 ポン、と缶コーヒーを手渡してやりながら尋ねると、 知盛は一瞬目を瞠り、それからまるで猫のように瞳を細めて、ニヤリと笑った。 「クッ・・・気になるか?」 「気になるっつーか・・・・・・ともかく、一先ず止めとけ。」 知盛は25歳、それに比べては17歳だ。 もし誰かに犯罪と言われてしまっても、可笑しくはないかもしれない。 「オミ・・・みかんは・・・?」 そこへギィと扉の開く音がして、が目を擦りながら、ブレザーを引き摺って歩いてきた。 そのへ、知盛がさり気無く手を伸ばそうとしているのに気付き、 将臣はからブレザーを奪い取ると、肩に両手を置いてくるりと方向転換させる。 「あー、とりあえず顔洗って、歯磨いて来い。それから、な。」 「ん・・・」 はなんの疑問も抱かず素直に、洗面所へと向かう。 ・・・ギロリと険悪な雰囲気を漂わせた知盛の瞳が将臣を射抜いたが、堪える。 「だってお前、1度抱え込んだらそう簡単には放さないだろ。」 「――――――― ・・・チッ。」 なにも言い返せなかったのか、知盛は舌打ちをして、コーヒーに口をつけた。 そうして知盛は洗面所の扉を睨み、 顔を洗ったり歯を磨いたりして、ついでに髪も整えて出てきたを、今度こそ捕まえた。 「・・・どうかした?知盛。」 突然抱き寄せられた挙句、知盛の膝の上に座らされたは、 けれど慌てふためくこともなく、いつもよりぼんやりした様子でそう言って、知盛の頭を撫でた。 「・・・別に。」 「そう?・・・良い子。」 大人しく撫でられている知盛が、将臣にとっておかしいと言えばおかし過ぎて、 しかしこうも大人しいのは、に対してだけなのだから、 やはり知盛はを好いているのだろう・・・ そのことを改めて見せ付けられ、将臣は無意識の内に溜息を吐いてしまった。 まるでぬいぐるみを抱くように、きゅっとを抱き締める知盛は、 恋人同士というよりは、どこか大きな子供が甘えているようにも見える。 そう思うと、の良い子発言も、妙にしっくりくるような気がした。 ただ只管にを抱き締めていた知盛は、やがて満足したのか、少しを拘束する力を緩めた。 そのタイミングを見計らって、に朝食のサンドイッチを渡す。 「ほら、いつものサンドイッチ。」 「・・・ありがとう、オミ。」 将臣にしてみれば、よくもあんな甘いサンドイッチが食べれるものだと思うのだが は嬉しそうに笑って、包装フィルムをペリペリ剥がし始めた。 その間に、知盛が早速覚えたらしいTVの電源を入れ・・・朝のニュースが流れ始める。 「・・・い゛っ!?」 画面の右端に表示された現在の時刻に、将臣は奇妙な声をあげた・・・8時を過ぎている。 普通高校と言うのは、バイクでの通学を認められていない。 将臣達の通う高校も、例に漏れず認められていなくて、 置き場所にも困るし、教員に見つかると後々が厄介だから、 将臣がを乗せてバイクでいけるのは、最寄りの駅までだ。 駅まで10分掛からないとしても、それから電車に乗り、更には学校まで歩く時間がいる。 「やばいッ!?、出るぞ!!」 「・・・え?」 将臣はそう言いながら、の腕を引っつかんだ。 言ってから行動に移そうとすれば、必ず知盛が邪魔をするに決まっている。 ちょうどサンドイッチを半分ほど食べたところだったは、 食べかけのサンドイッチと、みかんジュースをそれぞれの手に持った状態で、 将臣にされるがまま、玄関まで引っ張られていった。 コートを羽織らせ、の腕に鞄を掛けると、自分の鞄とコンビニの袋を持った将臣は 袋の中からもう1つパンを取り出し知盛に投げ付け、自分も急いで靴を履く。 「知盛、お前自分のマンション戻るのか!?」 「・・・さぁな。」 「あ゛ーッ!!!戻るにしろ戻らないにしろ鍵は閉めとけ、暑くなったらストーブ止めろよ! なんかあったら連絡してこい、俺達も授業あんだから無駄に電話掛けてきたりはするなッ! ・・・っとッ、メット忘れてるぞ!鍵と財布と携帯は持ったか!?」 「うん、持ったよオミ・・・」 「よーしっ、じゃあ行ってくるからな!また後でな知盛っ!!」 ・・・バタン。 「・・・・・・・。」 こうしてのマンションには、 誰が聞いていなくとも喋り続けるTVの音と、知盛だけが取り残されるのでした。 学校のある朝はあまり、に構って貰えない知盛が、 そのぶんまでもと夜になると構って欲しそうなのは、こうした理由があるのだとかないのだとか。 戦の無い現代に戻ってきても、有川将臣の1日の始まりは、このようになかなかハードなのである。 |
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戯言。 はい、任那はこういう無駄な描写を、だらだら書くのが好きです。 でも調子に乗ってダラダラ書きすぎちゃうと、収集付かなくなるので困りますが。 それにしても今回は、朝歯を先に磨くか後で磨くかとか、なん色々個性が出そうな内容書いちゃったな(笑) 最初は自転車にしようかと思ってたのですが、個人的に将臣は二輪の免許を持ってても似合うと思います。 でもうちのは、何故だか二輪を持っているというイメージがあって、 なら2人でツーリング、とか思ってます。頑張って知盛も取りそうですね、免許!(嬉々) 任那は二輪は乗らないので詳しくないのですが、知盛なら大型も似合うかもよ!! ちなみにこのあと、はむしゃむしゃ餌を与えられながら、駅というか電車内で、譲&望美と合流。 帰りは将臣とと望美の3人で、の最寄り駅まで行き、 その後将臣と望美が2人乗りで帰ると思います(無駄に細かい設定/笑) 朝は知盛、に放って置かれっぱなしです。 これがヒノエとか弁慶だったら、将臣も任せて楽できそうなのですが・・・。 どうだろう・・・知盛も、頑張れば出来るのかな? それにしても、うちの将臣とは接触が激しすぎると思ふ・・・でもいいの、将臣だから(何) |
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200/11/27