Life x Love x Live
=残り香編=






その日、と同じクラスの伊波が、何故か俺のところにやってきた。
あいつとは、小学校からの知り合いだし、その頃からの友人をしているから、
と望美の関係や家庭環境についても、知っている。

けれど別に、俺と伊波がどういう関係かといえば、ただの顔見知りだ。
・・・なのに何故か、あいつは俺を訪ねてきて、開口一番にこう言った。



『ねぇ・・・有川って、なにか香水付けてた?』



そう言って、俺がうんともすんとも言わないうちに、勝手にくんくんと匂いを嗅いでから、
難しい顔をして眉を潜め、そのまま何も言わず、首を捻りながら去ってしまった。
・・・前から一種独特の雰囲気を持つ奴だとは思っていたが、実際かなりの変わり者だ。



なんで匂いなんて嗅がれてんだろ、俺。



もしかして、なにか匂うのかとちょっと心配になってみて、
自分でも嗅いでみたが、さっぱりわからない。あぁ、わかるわけない。

そんなことをするうちに、あっというまに放課後がやってくる。
昔はこの半日が酷く長く感じたのだから、異世界での経験は大きかったのかもしれない。
こんなところで実感しても、仕方のないことではあるが・・・。
鞄を小脇に抱えて、まだ騒がしいクラスメイトの残る教室を後にする。

少し冷え込む鉄筋の校舎、いつも通り昇降口に突っ立っていると、
望美は来なくなってしまったが、しばらくして、が小走りでやって来た。



「オミ!」



緩んだ表情で微笑んで、俺を叫ぶに、聞こえてると軽く手を振ってみせる。
こんなことをしているからいつまで経っても、と俺が付き合っているなんて
誤解もいいところの噂が蔓延(はびこ)るのはわかっているが、ちょうど良い虫除けになるので放置だ。

以前はこうして3人で、昇降口で待ち合わせをして、一緒に帰っていた。
ときには譲も交えて4人になることもあったけれど、今では譲は部活があるし、
望美はここのところ毎日重衡が迎えに来ていて、一緒に帰っていない。
だからここ数週間は、と将臣が2人きりで帰る日が続いていた。

重衡がこうして毎日望美を迎えにやって来ているのに、
どうして知盛は来ないのか、不思議に思ってに尋ねてみたが
どうやらは知盛に、重衡が毎日学校まで望美を迎えに来ていることを、伝えていないらしい。

教えたら、その翌日からでも知盛が迎えに来ると、簡単に予測できるからだ。
普段は他人というものを全く気に掛けない知盛も、
に関してだけは違っていて、重衡や俺に妙な対抗心を燃やしている。
だからただ一言、来ては駄目だとしか告げていないらしい。

けれど知盛とは・・・まぁ、半ば一方的に知盛がに言い寄って、
言いくるめている状態だが、世間一般的には恋人同士というやつに当て嵌まるわけで。
それでもされるがままにしている辺り、も知盛が嫌いではないのだろう。
あののこと、本当に嫌なのだったら、平手の2・3発は喰らわしている筈だし、
第一そうでもなければ、わざわざ白龍に頼んで、こちらの世界にまで連れてきたりはしまい。

ならば余計、それこそ不思議だと思って、にどうしてかと尋ねれば、
知盛が迎えに来ることで、注目を浴びるのが嫌だとの返事が返って来た。
その返答が、らしいと思う反面、少しは成長して欲しいような気もして
兄代わりの将臣としては、嬉しいような、悲しいような気分だ。



「ごめんなさい、待たせてしまった?」

「いいや、別に?」



やっと叫ばなくても会話が出来る距離まで、がやってきた。
誰の為だか伸ばし始めた髪を、ふわりと風に靡かせて、息せき切って走ってくるは、
少々危なっかしくて、いつ人にぶつかったり転ぶんじゃないかと、ヒヤヒヤする。

自分の方が姉であるという認識故か、望美よりしっかり者で、けれどどこか抜けている
幼い頃から変わらないと思うのは、心のどこかで、
が離れていくことを寂しいと感じている自身が、存在しているからかもしれない。
その証拠に、はあちらの世界で俺が思う以上に、1人でも頑張っていたのだから。

・・・けれどまだしばらくは、この手からを離したくないから、
俺はなにかと、危なっかしいとの世話を焼き続けるのだろう。
大事に大事に守ってきた妹2人を、一遍にあの兄弟に横取りされるなんて堪ったもんじゃない。



「お前こそ、いつも言ってるだろ?そんな急ぐ必要な
――――― ・・・」

「・・・オミ?どうかした?」



突然、言葉を途中で切った俺を見上げて、が不思議そうに問いかける。
の後を追いかけていた髪が、ふわりと背に落ち、は乱れた髪を、軽く手櫛で整える。
そんなを俺は凝視して、それから妙に納得してしまった。





“ねぇ・・・有川って、なにか香水付けてた?”





「・・・あぁ、なるほどな。」

「なにが?」



さっぱりわからないといった仕草で、首を傾げてみせる
背中まで伸びた髪を、一房手に取って口元まで運ぶ・・・あぁ、やっぱり。



「・・・オミ?」

、お前
――――――― ・・・」

「なに?」















――――――――― ・・・知盛の香水、完全に移ってるぞ。」




















戯言。

はい、将臣視点からお送りしました今回のお話ですが
将臣視点だとわかっていただけたかどうかが、非常に不安であります。
そして今回、知盛自身はお話に出てきませんで、ごめんなさい。
あと、オリキャラ出してごめんなさい。
将臣から見た2人はこんな感じ、そんなお話でした今回、いかがでしたでしょうか。
実はこのお話のポイント、においに関しては、ヒノエで先にネタだししていたりします(笑)

ちなみに望美ちゃんが、銀をテイクアウトしているようですね。
知盛は、一定額ごとに1枚引けるコンビニのクジとかで
うわー、いらねぇと思ってもついてくる、アレ系です(笑)
の意思どうのこうのより先に、ついていくことを勝手に本人決定してます。

でも未だに学校では、将臣とが付き合っていると思われていて。
どうしてそんな風に思われるのか、その辺りも少し伝わったら嬉しいと思います。





BACK



2005/11/22