「・・・ヒノエって、それ自分で結ってるのか?」 「え?」 04.じっとしてて ・・・がヒノエを指差して、唐突にそう言った。 ヒノエはの指が指し示す先を目で追い、彼女が自分の髪のことを言っているのだと気が付く。 「・・・あぁ、そうだけど?」 はほぅ、と感心したように息を吐いて 畳に膝を付くと、そのままヒノエの傍までずりずりと寄ってきた。 そうして、繁々とヒノエのみつあみを観察する。 「・・・凄い、ヒノエは器用だね。」 「もしかしてお前、出来ないとか言う?」 「うん、出来ない。」 「自分の髪も、人の髪も?」 「うん、やったことない。」 胸を張れることでもないだろうに、そうきっぱり言い切るは キラキラと瞳を輝かせて、結ったヒノエの髪を見つめていた。 「ヒノエの髪と同じくらいの長さだから、の髪でも結えるだろうか?」 ヒノエとほとんど変わらない長さの、自分の髪を人差し指で弄びながらが言う。 それにふっと苦笑して、ヒノエは眉間に皺を寄せているの髪に触れた。 「オレが結ってやろうか?」 「本当に!?の髪でも出来るのか、ヒノエ!?」 するとヒノエの予想通り、はぱっと顔を綻ばせた。 その仕草が、予想していたものと寸分違わなかったので、ヒノエはまた笑いそうになる。 「・・・あぁ、構わないよ。お前がオレとお揃いでもいいって言うんならね。」 「うん、お揃いでいい!!」 ヒノエは、大声で返すの後ろにまわって、櫛で髪を梳き始める。 普段これといって手入れをしていないの髪は けれどやはりヒノエの髪とは違って、スルスルと指通りもいい。 ヒノエは適当な太さに髪を取ると、手間取ることもなく、器用にの髪を編み始めた。 「ヒノエ、出来たか?」 「あ、こら。・・・まだだって。動くなよ、じっとしてろって。」 すぐ振り返りたがるに前を向かせて ヒノエは最後に、口に咥えていた紐で髪を結んだ。 「・・・はい、出来あがり。」 ヒノエが手を離すと、は自らの手でその感触を確かめて、そそくさと鏡の前に移動する。 「本当に出来てる・・・・・・ヒノエとお揃いだ。」 は鏡に映る自分を熱心に見て、うわぁ、うわぁと何度も声をあげながら みつあみにした髪を持ち上げてみたり、触ってみたりしている。どうやら、かなりお気に召したようだ。 「・・・・・・。」 そんなをじっと見つめて、ヒノエは忍び笑いをする。 こんなところは、街中にいる普通の女の子となにひとつ変わらない。 それからしばらくの間、飽きずに鏡を覗き込んでいるの行動を、やはり飽きずに眺めていたヒノエは やがてなにを思いついたのか、ニヤリと唇の端を吊り上げた。 「・・・なぁ、。」 「なに?ヒノエ。」 「・・・それ、教えてやろうか?」 そうヒノエが提案すると、は瞳を丸くして、それから嬉しそうに二つ返事を返す。 あまりにもヒノエの予想通りに、事がとんとん拍子で進んでいくので、ヒノエは少しだけ苦笑した。 「いいのか!?」 「あぁ、それぐらいならいくらでも。・・・けどさ、お前確か妹いるんじゃなかったっけ? 小さい頃、結んでやったりしなかったの?」 「・・・うん。は不器用だし、髪を結ってあげる機会なんて、なかったから。」 「ふーん?」 なにか腑に落ちないものを感じながら、ヒノエは誰もいないはずの廊下に向かって声をかける。 「・・・八重はいるか?」 するとすぐそこに人の気配が生まれて、歳の割には落ち着いた女の声がそれに答えた。 「・・・はい、ここにおります。」 「今、に髪の結い方を教えてやってるんだけどさ。 ちょっとこっち来て、の練習台になってやってくれない? 」 「あら。そういうことなら、喜んでお相手致しますよ。」 襖を挟んだ向こうから聞こえてくる声は、どこか苦笑を孕んでいるような気がした。 「・・・やっちゃんの髪、長くて綺麗だね。」 「そう?ふふっ、ありがとう、。」 「まぁ、髪の手入れには気を遣ってるみたいだな。」 「・・・ふーん、気を遣うものなの?」 「そうよ、。髪は女の命なんだからッ。」 「・・・・・・(そんなCM、どこかで見たような気がする。)」 「でもの髪は綺麗だから、伸ばしたらもっと綺麗だと思うのだけれど・・・ねぇ、頭領?」 「・・・そうかもね。」 「そうだろうか?」 「ええ、女の子らしくなって可愛いんじゃないかしら。」 髪の毛を弄られながら、八重はそう呟いたが はう〜んと唸るばかりで、あまり良い顔はしなかった。 「・・・でもが髪を伸ばしたら、わからなくなってしまうから。」 言いながら、が三つにわけたうち右端の一房を取ると、横からヒノエのストップが入った。 こっちと言わんばかり、左側の房を、指でとんとんと叩く。 「違う違う、そっちじゃなくてこっちだよ。・・・それにしてもそんなに似てるのか?お前とお前の妹って。」 「うん、とても似ているよ・・・えっと、これはこっち?」 「そうそう・・・あぁ、もうちょっときっちり編まないとすぐ解けちまう。」 「わかった。」 「っ、ちょっと引っ張りすぎよ!」 「あっ、ごめんやっちゃん!・・・・・・これ、難しいな。」 こうして、ヒノエ直々に指導を受けて、半日ほども練習すると 陽が傾く頃にはもすっかり、綺麗なみつあみが編めるようになっていた。 「・・・最初に比べたら、かなり上達したんじゃない?。」 「本当か?」 「あぁ、大分うまくなったよ。」 「本当!最初はどうなるかと思ったけど、上手くできるようになったじゃない! あぁっ、このあたしが練習台になった甲斐があったわね!」 八重にまでそうやって褒められると、は嬉しそうにはにかんで ヒノエが結ったのと反対側に、今度は自分でみつあみを作ろうと試みた。 「・・・自分の髪だと、上手く出来ない。」 ほんの少しもいかない内に、は自分で自分の髪を編むことを断念した。 人の髪を編むのと自分の髪を編むのとでは、随分勝手が違ったのだ。 手元が見えないためか、どうも綺麗に髪がまとまらない。 ならば鏡を見れば出来るかというと、見ればかえって上手くいかないという有様だった。 「でも、他人の髪なら編めるようになったでしょう?」 軽く不貞腐れていたは、八重に訊ねられて、こくりと頷いた。 八重はに、時折見せる艶っぽい笑みを見せて、紅を差した唇をゆっくりと開いた。 「なら、上出来ね。」 八重の言っている意味が、いまいち理解出来ないは、不思議そうに首を傾げる。 「あら、やっぱり気付いてないの?だって・・・」 「――――――――― ・・・それでいいんだよ、。」 八重の言葉を遮ったのは、どこか誇らしげな様子のヒノエだった。 いや、彼はいつも自信に満ち溢れているのだが・・・今回のそれは、いつもと少し違う。 言うなれば、なにか企んでいるときに見せる、悪戯っ子のような表情だ。 そんなヒノエの表情を見て、傍目から見たらわからない程度に、はなんとなく身構えていた。 ・・・なんとなく、嫌な予感がするのだ。いや、虫の知らせとでも言うべきか。 するとそんなを満足そうに見下ろし、ヒノエは結っていた自分の髪を解くと 紐をの手の上に静かに落として、ニヤリと人の悪い笑みで笑った。 「これなら、今度から自分で結わないで済むね。・・・なぁ、?」 この瞬間、はヒノエにしてやられたと思ったが、時既に遅し。 この次の日から毎日。お膳立てではなくヒノエの髪を結うことが 寝起きの悪いに与えられた、朝のお仕事となるのだった。 ○ ● ○ ● ○ ● ○ ● ○ ● ○ ● ○ ● ○ ● ゴツン。 そんな鈍い音がして、こくりこくりと揺れていたの頭が、ヒノエの頭にぶつかった。 「・・・いて。」 「おい、人の髪掴みながら寝るなよ。」 「・・・・・・うー・・・・・眠いぃ・・・」 呻きに近い声を発しながら、それでもは今度こそ、覚束ない手つきでみつあみを編み始めた。 出来上がったそれの出来栄えを、鏡でよく確かめて、ヒノエは『よし』と呟いた。 は朝のひと仕事を終えて、またこれで眠れると思ったのか ヒノエの布団に転がり、頭にだけ上掛けをかけて、既にもう二度寝の体勢に入っている。 「。」 「・・・ぅん?」 上掛けの中から、もごもごとくぐもったの眠そうな声が聞こえてきて 子供じみたその仕草に、ヒノエは思わず苦笑する。 「・・・よくできました。」 |
|
戯言 『ヒノエって、毎朝自分でみつあみ編んでんのか?』 そんな任那の素朴な疑問から生まれたお話です。 ・・・ちなみに、みつあみが編めないのは任那だったりします(笑) いや、出来るには出来るんですけど、物凄く昔に人形の髪でしかやったことがない。 自分の髪じゃやっぱり勝手が違って出来なくて、確か他人の髪もやり辛かった気が・・・(苦笑) THE、不器用☆ 毎朝自分で編んでたら凄いなーと思います。 ところで、うちのは低血圧なんでしょうか?とても寝起きが悪いです(笑) なのでその設定も、ちょっと利用してみたりしました。 毎朝ヒノエにみつあみするのがお仕事で、お仕事終わったらそのまま寝ちゃったりしたら萌え・・・!!(笑) つまりは任那の萌え欲求に忠実になったお話だったりします。・・・うん、可愛いよソレ(阿呆) ちなみに、頭にだけ上掛けを掛けているのは暗いところでないと眠れないからだったりします。 ・・・他のところでも引っ張るつもりですよ、このネタ・・・!! |
BACK |
2005/01/21