「ヒノエ。見てて寒いから、もっと上になにか羽織って。」






01.ヌルい関係






真っ白な雪の降り積もった庭ですっかりはしゃいでいる
ヒノエは 『お前のほうが見てて寒いよ』 と言ってやりたかった。

の世界、の住んでいた場所では、雪が降るのは珍しく、積雪することは滅多にないのだという。
ましてや、これほどまでに雪が積もっているのは “げれんで” という場所でしか見たことがないし
こんな真っ白な雪は見たことがない、・・・と、珍しく興奮した様子で話していた彼女を思い出す。

だからだろうか?は毎日飽きもせずに雪の積もった庭を駆け回るのが大好きなようで
庭で雪遊びをするのが、ここの所彼女の毎日の日課になっていた。



「・・・お前こそ、寒くないのか?」



どう贔屓目に見たって、の方が寒そうだ。
ヒノエはもう1枚上に羽織ることにして、袖に腕を通しながらに尋ねた。



は寒くない。」



白い頬を紅く染めて、白い息を吐き出しながら、が言った。
ヒノエがもう1枚服を羽織ったことに満足すると、はまた庭を走り出す。
『まるで犬のようだ』 と思ったことは、ヒノエの心の中だけに留めておくことにした。

横に、縦に、斜めに、円に。思うまま、縦横無尽に。
まるで飛沫のように雪を蹴り上げながら、庭中を駆け回ったあと、
次には、庭に植えられている、雪化粧を施された木々のほうへ向かっていった。

何をしているのかと、ヒノエが眉を顰めれば、
はどうやら片端から、葉の上に積もった雪を落としてまわっているようだった。

ヒノエは、の奇妙な行動を楽しそうに眺めていた。
普通の女の子が、こうして雪遊びをするのを、ヒノエはあまり見たことがない。
余程幼い頃なら未だしも、大抵は綺麗だとか儚いだとか、そんなことを言って眺めるだけではないのか。
それともの世界の女の子は、皆こうなのだろうか・・?なんとなく、違うような気がした。
こういうところが、ヒノエがを気に入っている理由の1つかもしれない。



「・・・いたっ。」

?」



しばらくするとそんな小さな声が聞こえてきた。
ヒノエはそれを聞き逃さず、自らもザクザクと雪を踏みしめて、の傍に寄る。
の足元の真っ白な雪の上に、対照的な真っ赤な雫が一滴零れ落ちて、丸く滲んで染みていた。
どこを怪我したんだと問われる前に、が小さい声で白状した。



「指・・・」

「指?・・・あぁ、荊の棘で切ったのか。」

「荊・・・?薔薇が、咲くの?」

の世界では、ばらっていうのかい?
不用意に触れると怪我をする、鋭い棘を持った、けれどとても綺麗な花だよ。女の子と同ように、ね。」

「うん、薔薇と言う。」



ヒノエの軽い言葉も綺麗に流して、はこくりと淡白に頷いた。
それからまた、じわりと血の滲み出てきた指先に視線を落とす。



「痛い・・・」

「それは良かった。痛みを感じるのは、生きてる証・・・ってね。」

「えーっと、消毒薬。消毒薬は・・・」



言いながら、屋敷の中へ取って返そうとするの手を、ヒノエが掴んで引き止めた。
強く掴まれた腕を見て、それから眉を顰めて彼の顔を見上げたに、ヒノエは不敵に微笑んで見せた。



「消毒薬?そんなもの、いらないよ。」










ぱくっ。










「ぎゃああああーーーッ!?ヒノエが、ヒノエがの指を食べた!!!!」

「・・・これぐらい、舐めときゃ治るさ。消毒だよ。」

―――――――――― ・・・でも、血ってまずいよ。」



消毒なのだと知った途端、先程までの動揺はどこへやら、はすっかり大人しくなった。
血を苦い薬だとでも思っているのだろうか?
は渋い表情をして、自分の指に悠々と舌を這わすヒノエを見下ろしていた。

他の誰かが見たら、その色香にぽうっとなってしまいそうな光景だったが
もヒノエも、こんなのなんてことなさそうな顔をして、平然と会話を続けている。
は消毒だとしか思っていないし、ヒノエの行動はほとんど習慣のようなものなのだ。
指を食べてしまったんじゃないかと叫んだときよりも、数段落ち着いた様子で
はヒノエが傷の消毒を終えるのを、じっと待っていた。






・・・最後にヒノエは、ちょうど棘の刺さった場所を、名残惜しそうにペロリとひと舐めした。






「・・・そう?案外そうでもなかったけど。ほら、もういいよ。」

「まずく、なかった?」

「野郎の血よりはずっと美味いんじゃねぇの?」

「・・・ヒノエは吸血鬼なのかもしれないね。」

「きゅうけつき・・・?」



海賊という職業柄か、それとも本来の性格故なのか。
ヒノエはとても好奇心旺盛で、が知らない言葉を呟くと、なんでもかんでも疑問符をつけて聞きたがる。



「そう。血を吸う鬼、と書く。正確には、吸う、血を、鬼・・・になるけれども。
文字通り、人の生き血を吸って生き永らえる、西洋のあやかしだ。」

「へぇ、それで?」

「鋭い牙を持っていて、それを首筋に突き立てて人の生血を吸う・・・女の人の血を好んで。」

「・・・じゃあ、オレはその吸血鬼かもね?」

「でも、吸血鬼は鏡に映らない。水面にも、きっと映らないよ。けどヒノエは映ってる。」



氷の張っていなかった庭の池を、ヒノエに拘束されていないほうの手で指差して、が言う。
そこには確かに、向かい合って立っているヒノエとの姿が、揺れる水面に映っていた。



「それにヒ・・・っくしゅ!!」

「おっと、忘れてた。このままじゃ2人して風邪ひいちまうな。続きは屋敷の中で聞かせてくれよ。」

「・・・うん、そうする。」



ぽんと背中を叩いたヒノエに促されて、は屋敷までの道のり数歩の、雪を踏みしめる感触を楽しむことに専念した。



















戯言。


・・・あはっ。ついにやらかした遥か3。シリーズの中でも多分1番好き。
早速の犠牲者は、何故かヒノエ。いや、ヒノエは好きなんだけれども・・・寧ろ朱雀万歳。
なんとなく、この主人公で話が固まりそうです。そして弁慶に浮気しそう(うわぁ)

ヒノエって女の子にはあんなですけど、友達には多分普通に優しいと思う。
敦盛とのやり取りをみてるとそう思います。
でもヒノエって、朔と望美でも随分態度が随分違う気がするョ。

うちの子は特殊設定で、以前はヒノエに善意で(あくまで善意)男扱いされていた経緯があるので
ヒノエもなんとなく、いきなり180度態度変えて、女の子扱い出来ない・・・みたいな(笑)
男女の間に友情は成立しない派の彼に、初の女友達な関係!(爆笑)
でもやっぱり友情は成立しなかったとなるのか、成立してしまうのか。
それは任那の気分しだいです。っていうか、そもそも作品数増えるかどうかわかんないです(コラ)

・・・して、これってどうなの??ヌルい・・・?(苦笑)果てしなく疑問。






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2005/01/09