〜四重想〜 「・・・なるほどなぁ。」 いいながら、小さく切ったチョコレートケーキの欠片をフォークに突き刺す。 そのままケーキを口へ運んで、もごもごさせながら、はそう呟いた。 の正面に座っている話し相手―――― イオスは、力なくテーブルに倒れこんで、ガクリと項垂れている。 槍を振るっているときはまるで別人のような彼に、は小さく苦笑して 少し汗を掻いている、アイスコーヒーの入ったグラスに手を伸ばした。 「お前も苦労するねぇ・・・?」 「本当にそう思っているなら、笑っていないで助けてくれ。」 ついにテーブルに突っ伏したイオスは、恨めしそうにを見上げた。 本当に、自分より年上なのかと疑いたくなる仕草に、はイスの背凭れに背を預け、カラカラと笑い声をあげる。 「あははっ、悪いけどそれは無理だな。 アレを止めるには、さすがのでもそれなりの覚悟がいる。」 “アレを止める” その大変さを、身に染みて知っているイオスは、“はぁ・・・”と盛大な溜息を吐いた。 とイオスが向かい合って座っている場所。 そこはパッフェルがアルバイトをしていることでお馴染みの ゼラムにある、ギブソン御用達のケーキ店だった。 それでは何故、とイオスの組み合わせなのだろうか? ―――――――― ・・・この2人、実は意外と仲が良い。 喋らせてみれば、あの破壊的な行動とは裏腹に が意外とまともな考えを持っているのはわかることだったし もとがそういう性格なのか、はたまた彼が波乱万丈な人生を送ってきたせいなのか。 こちらから突っかからなければ、イオスはにとっても良い話し相手だった。 を護るということ、互いに尊敬する人間がいるという点でも意気が合う。 男女間に友情は成立しないという人もいるが、この2人に限っては、“友人”という関係が成り立っていた。 それもこれも、イオスにはという想い人がいて、 が純粋に、微笑ましい2人の仲を、応援しているからかもしれない。 また、イオスの尊敬する上司ルヴァイドが、に好意を寄せていることも、この関係に一役買っているだろう。 そんなわけで、これは仲間内でもあまり知られていないことだが ルヴァイドとイオスが行動を共にするようになってからというもの、 2人は度々、こうして一緒に出掛けては語らっていた。 場所は酒場であったり、今日のようにケーキ屋であったり、はたまた装飾品の店であったりするが 共通しているのは話題にの名前があがることが多い、ということだ。 今日も今日とて、はイオスに恋愛相談・・・というか、愚痴を聞かされていた。 なんでもといい雰囲気になると、毎回狙ったようにライバル達に邪魔をされるらしい。 ・・・いや、実際狙ってやっているのだろうけれども。 ―――――― ・・・その筆頭が、イオスとは並々ならぬ因縁のあるロッカだ。 レルムの村が襲撃されたことを皮切りに、同じ槍を使うことからも 互いの強さを比較しやすく、いつもライバル視しあっている2人である。 それが意中の人まで同じだというのだから、相当面倒臭・・・いや、白熱したやり取りが行われているのだろう。 完全に他人事のに対し、イオスは相変わらず、ズーンと暗い影を背負っている。 どうやら、邪魔ばかり入っていることが、かなり堪えているようだ。 イオスはデグレアの精鋭、黒の旅団の特務隊長を務めていただけあって 非常に有能な人物だが、唯一感情に左右されやすいのが欠点だった。 それがことに関することとなれば、尚更で。 ・・・このままでは、いざというときイオスが使い物になりそうもない。 かなり厄介なことに足を突っ込むことになるが、 どうやら自分が一肌脱ぐしかないらしいと悟ると、も大きな溜息を吐いた。 諦め半分テーブルに肘をつき、こめかみを掌で覆う。 「・・・で?」 「え?」 イオスが、まるで雨の中の捨て猫のようなまん丸な瞳でを見た。 確実に、なにかを期待している。 そんな彼と決して瞳を合わせないよう、顔を背けて問いかけた。 「誰を止めて欲しいのかって聞いてんの。1人くらいなら、面倒見てやってもいいけど?」 どうせロッカを足止めする羽目になるのだろう。そうわかっていながら、敢えては訊ねた。 並み居るイオスの恋敵の中で、1番厄介なのは彼だ。一見人当たりがよさそうだから、余計性質が悪い。 はイオスが答えを出す前に、ロッカを足止めする方法のいくつかを、既に脳内でシュミレートしていた。 1. アメルを使う。 2. リューグを贄として差し出す。 3. 実力行使。 ・・・う〜ん、3番が楽って言えば楽なんだが。 「そっ、それは本当かッ!?!!!」 ガタン!と大きな音をたてて、イスを倒しそうになりながら立ち上がり 救世主でも見るような眼差しを向けてくるイオスに、はともかく座れと手で合図した。 彼の容姿の良さは、女性陣の折り紙つきである。 ただでさえ、その整った顔立ちは良くも悪くも人目を惹くのに それが突然大声を出して席から立ち上がれば、否が応にも周囲の視線が集まるというもの。 ・・・・・・はっきりいって、立ち上がったイオスよりも、同席しているのほうが恥ずかしい。 「あー、はいはい。本当だから落ち着けって。 今達めちゃくちゃ目立ってんぞ。恋人同士の痴話喧嘩ってわけでもないんだから。」 「・・・あ。」 自分が目立っていることに気付いたイオスは、白い頬をぱぁっと赤くして 恥ずかしそうに俯きながら、席についた。 周りの一般客から、くすくすと押し殺した笑い声が聞こえてくる。それを聞いて、イオスは耳まで赤くなった。 「そ、それで・・・本当に、頼まれてくれるのか・・・?」 イオスは再びテーブルに伏せると、内緒話でもするように声を潜めて、 まだ赤みの治まらない頬もそのまま、縋るような瞳で、を上目遣いに見上げてくる。 その仕草が、女であるよりも数段色っぽいのだから、いっそ敗北感より感心のほうが増す。 何度も何度も確かめるように訊ねてくるイオスに、は苦笑しながら言った。 「お前は意外と常識人だからさ・・・あの非常識人が相手じゃ、さぞ大変だろうと思ってね。 なに、酒の数杯でも奢ってくれればそれでいいさ。」 言わずもがな、非常識人とはロッカのことである。 イオスはの言葉を了承と受け取るや、嬉しそうに微笑んで、 今までさっぱり手をつけていなかった紅茶を一口含んだ。 かたや片手でグラスを持ち、足を組みながらブラックコーヒーを飲み干す。 かたや頬を薔薇色に染めながら、上品にティーカップを持ち上げるイオス。 心なしか嬉しそうに紅茶を飲むイオスは、もはや恋する乙女といっても過言ではない。 これじゃどっちが男かわからない。 が喉の奥でくっと笑うと、イオスは視線でどうした?と問いかけてくる。 はなんでもないと、完全には失笑が拭えないまま首を横に振った。 「・・・全く、お前もルヴァイドももう少し融通が利く性格でもいいだろうに。 そうすれば、ロッカが少しぐらい暴走しても対処出来るだろうさ。」 「いや。それでも君が手助けをしてくれるなら、捨てたものではないかもしれない。」 「・・・ったく、調子のいい奴だな。」 が僅かに口元を緩めると、イオスからも、微かに微笑んだ気配が伝わってくる。 敵対していた頃と比べれば、彼も随分雰囲気が変わったものだと思う。 以前は、脆くて鋭い刃のような空気を醸し出していたのに。 「・・・でもさ、お前も変わったよな。」 「僕が変わった?どんなふうに?」 「なんていうか・・・そう、例えるならだなぁ。 前は死んだ魚みたいな瞳してたけど、今は新鮮ぴっちぴち!・・・みたいなさ。」 「・・・どういう例えなんだ?それは・・・」 「えー?でも、イメージとしてわかりやすくないか?」 言いながら、イオスが可笑しそうに笑うので、もつられて少し笑った。 イスに深く腰掛けて、その場に流れる穏やかな空気に身を任せる。 ちょっとやそっとの沈黙じゃ、今はもう気にもならない。 人通りの多い商店街大通りを、ガラス越しに眺めながら がのんびりコーヒーを啜っていると、イオスがわざとらしく咳払いを1つした。 外へ向けていた意識をイオスへ戻し、目を泳がせている彼が話しだすのを待つ。 ・・・こういうときのイオスが、なにか話したいことがあるのだと知ったのは、最近のことだ。 「それで・・・」 「ん?」 「ルヴァイドさまの、ことなんだが・・・」 「あ?ルヴァイドがどうかしたか?」 そこに出てきた思わぬ名前に、が身を乗り出す。 ルヴァイドとイオスがほんのちょっと前まで、トリス達と敵対していたことは、仲間内では周知の事実だ。 自分達がメルギトスの掌で踊らされていたことを知り 打倒メルギトスという同じ目的を掲げる彼等と、行動を共にするようになった。 形式上仲間になったとは言っても、すぐに馴染めたわけではない。 なにしろ、それまでは敵対していて、命の取り合いをしていた相手なのだ。 以前から見知っていたや、彼等のリーダー的存在であるトリスやマグナが 護衛獣達を連れ立って、ことあるごとに話しかけたりと、気を遣ってくれてはいたが 皆最初は、どう接したらいいのかわからない、と戸惑いを感じていたようだ。 そんな中、臆した様子もなく、至って普通に接してきたのがである。 思えば、彼女の態度は初めて出会ったときから、他者とは違っていた。 全てメルギトスの策略だったと知って、ルヴァイドが絶望の淵に立たされたときも 叱咤したのはイオスだったが、銃口を向けて発砲したのは彼女だった。 あまりのことに血の気が引いて、と一緒にを止めに入ったぐらいである。 これはあとから聞いた話だが、とルヴァイドは 任務を実行するとき以外にも、幾度か言葉を交わす機会があったらしい。 そのうえ、の相棒であるバノッサも、元は彼女と敵対していたのだとかで “昨日の敵は今日の友”という彼女の故郷の格言を挙げ、良くあることだとぼやいていた。 それからというもの、イオスはなんでも1人で抱え込む節のあるルヴァイドのことを心配し 気に掛かることがあっては、の次にに相談するようになった。 に言わせると、ルヴァイドはのことを気にしているようだったし は持ち前の性格のせいか、溜め込むルヴァイドの口を割らせるのが上手かったからだ。 ―――――――――― それがどれほどルヴァイドの救いとなり、 また支えとなっているかは、本人の知るところではないのだろうが。 そうしていつの間にかイオスは、ルヴァイドのことは真っ先にに相談するようになっていた。 彼女ならなんとかしてくれるだろう、そんな気持ちが根底にはある。 そのせいか、はまたルヴァイドになにかあったのだと思ったらしかった。 「い、いやッ!そうでは、ないんだが・・・」 当然のものである彼女の対応に、別の思惑のあったイオスは、過剰な反応を返してしまう。 ・・・前は半信半疑だったイオスにも、今では確信を持って言えることがあった。 ――――――――― ルヴァイドはに惚れている。自分がに焦がれるように。 最初は2人の年齢差に、多少戸惑いを感じていたイオスだが、 (だって彼女は、僕より1つ年下のはずだ)今ではすっかりルヴァイドを応援している。 と話しているときの、穏やかなルヴァイドの表情を見ていたら 歳の差なんて関係ないんじゃないか、なんて。 恋愛小説によく転がっていそうな考えを、肯定する気になってきたのだ。 だがまさか、2人の仲が進展したかどうかを、本人を目の前にはっきりと聞けるわけが無い。 イオスが口篭っていると、なにがいいたいんだとばかりに、が眉を顰めた。 「はっきり言えって。」 「その・・・ルヴァイドさまと居て、なにか変わったこととか・・・なかったか?」 「え、変わったこと?・・・いや、なにもないと思うけど?」 「・・・そうか。」 「なに?またアイツなんか様子おかしいのか?」 今回も、進展はなさそうだ。イオスがガクリと肩を落とすと、案の定はそう聞いてきた。 こういうときだけ、彼女の思考回路は極単純で、読み易くなる。 今度はイオスが苦笑して、紅茶を口に含んだ。 「そういうわけではないんだが・・・いや、大丈夫だ。驚かせてすまない、気にしないでくれ。」 「あぁ、そう?」 彼女は納得しないながらも、はっきりと“気にするな”と告げたイオスに 追及することを諦めたようだった。そのとき――――――― ・・・ 「2人とも、見つけたのです!!」 聞き慣れた・・・イオスにとっては愛おしい声が聴こえた。 2人同時に、声のした方向へ振り返ると、店の入り口でパッフェルに案内されている小さな影と、大きな影が1つ。 その片方がパタパタと歩み寄ってくるのを認めて、が呟いた。 「・・・・・・。」 「オイ。」 無視された大きなほうの影―――――――― の後ろを歩くバノッサの眉が 不機嫌そうにピクリと跳ね上がったのを見て、 イオスが慌ててのんびり腕を組んでいるの腕に、ビシィ!と突っ込みをお見舞いする。 は顔色ひとつ変えず、何事もなかったかのように付け足した。 「・・・と、バノッサ。」 「テメェ・・・!!」 が素直に(素直か?)イオスの言葉に従うと、ますますバノッサの顔が不機嫌になっていく。 バノッサが、イオスとの仲を勘ぐっていることは間違いなかった。 その証拠に、突き刺さるバノッサの視線が、さっきから痛くて堪らない。 ―――――――――― バノッサがイオスに向ける感情は、所謂嫉妬というヤツである。 どうしたものかと、イオスは表面上冷静に、けれど内心酷く動揺していた。 「ずるいのですッ、2人でこっそりケーキなんて食べて!」 本来なら、イオスは真っ先にに誤解されることを恐れるべきだが はイオスが、上司の恋路を応援しているということを知っていた。 寧ろイオスと一緒になって、ルヴァイドの幸せ獲得のため、日々奮闘しているくらいなのである。 イオスがどうしてと一緒にいるのか、その理由を勘違いしたりはしないだろう。 ・・・そう。つまりイオスは、に相談を持ちかけるためと ルヴァイドの為に彼女のことをリサーチするという2つの目的があって、と接触していたのだ。 だからこの場合、イオスが何を目的にとケーキ屋にいるのか それを知っているは、却ってこの状況のよき理解者と言えよう。 ・・・まさかそれに加えて、に恋愛相談を持ちかけているなどとは、微塵も思っていないだろうが。 「こ、これは・・・」 わかっているだろうにそう言って、膨れてみせるに、イオスはなんと返せばいいのか、一瞬言葉に詰まった。 ここで下手なことを言えば、に勘付かれる恐れがある。 そうかと言って、言わなければ言わなかったで、バノッサに怪しまれることは確実だ。まさに、色んな意味で板挟み。 「じゃあ。お前はここで、ケーキでも食べてくんだね。」 「・・・え?」 イオスが疑問を口にする前に、ガタンと音をたててが席を立った。 思わず呆けて、突如立ち上がったを見上げていると、 彼女はイオスをその長身で見下ろし、にんまりと薄く笑った。 「イオスが奢ってくれると思うからさ。なぁ、イオス?」 「ぇえええッ!?そ、それは本当なのですかイオス!?」 「え?あ、あぁ・・・さえ良ければ、喜んで。」 イオスが返すと、は目に見えて大喜びしていた・・・が。 はたと何かに気が付いて、小首を傾げた。 「はどうするのです?」 「?はお暇させて貰うよ。馬に蹴られて死ぬには、まだこの命が惜しいんでね。」 「ふーん・・・?」 そう言って、意味あり気な眼差しで自分を見てくるに イオスは危うく、飲みかけの紅茶を吹き出しそうになってしまった。 そんなイオスを余所には、“どうして街中なのに馬が出てくるのだろう?”と思っているような顔をしていた。 「じゃあパッフェル。これのケーキの代金と、口止め料ね。」 「はいはい〜、お任せくださいませ♪」 イオスが咳き込んでいる間にも、は自分の分の支払いを済ませ、店から出て行こうとしていた。 パッフェルと2人にっこりとやって、未だ置かれた状況を理解できずに、 イオスとを交互に見比べるバノッサを、問答無用で引き摺っていく。 もう少しで外に出る、という直前で、が肩越しにイオスを振り返った。 「それじゃイオス、またあとでな。・・・バノッサ、なにやってんだよ?さっさと行くぞ。」 「お、おい・・・!!」 なにか言いたそうなバノッサのマントを掴んで、ずるずる引き摺りながらまた歩き出す。 バノッサは何度か転びそうになりながらも、なんとかの後を追っていった。 「ありがとうございました〜、またのお越しをお待ちしておりま〜す!」 パッフェルの元気な声が、店内に響いた。 「・・・・・・ふぅ。とりあえず、任務は完了したのです。」 とバノッサの後ろ姿が、完全に消えたのを確認して、がぼそりと呟いた。 なんとなくそれを予想していたイオスは、苦笑しながら労わりの言葉をかけた。 「ご苦労さま。」 そう言いながら、メニューを手渡す。 は受け取ったメニューをパラパラめくりながら、イオスが悪いんだとばかり、むすっとして見せた。 「そう思うなら、と2人で外出するところを見られないで欲しいのですよ。 ・・・パッフェルー!いちごショートとミルクティーお願いなのですー!」 「はいは〜い!かしこまりましたっ、ただいま〜!」 調理場の方からパッフェルの良く通る声が、の注文に答えた。 には悪いが、そんな顔をする彼女も可愛いと思ってしまったイオスは くすくす笑いを深くしながら、口調だけ畏まってに訊ねた。 「どうして、ここに?」 「バノッサが、とイオスが一緒に出かけるのを見かけたって煩くて。 はどうせ、いつもみたいにお話ししてるんだろうって言ったのですけど・・・ それでもバノッサは、全然納得してくれなかったのです。 がイオスに気があるんじゃないかって、勘違いしてるみたいですよ?」 「それは困ったな。会う度あんな風に睨まれていたら、こっちは堪ったものじゃないよ。 いつか、射殺されてしまいそうだ。」 先程のバノッサの様子を見ていれば、それは容易く想像することが出来た。 イオスに向けられた剥き出しの敵対心。 スラム出身ということもあってか、彼の瞳は本物の獣のようにギラギラとした光を宿す。 追い詰められ、これ以上退がったら後がない。そんな必死さがあるのだ。 それは貧困街ならではの、過酷な状況がそうさせてきたのだろう。 ぬくぬくと育った者では、例え同じ戦場に出ていても、決してそんな瞳は出来ない。 イオスはそれを、ルヴァイドの元へやって来てから知った。 「そんな心配する暇があったら、さっさとを口説けばいいですのに・・・ 全く、なんのために今まで無駄に場数踏んで来たっていうんですかね。」 「そこまで言ったらさすがに可哀想だよ、。」 「そうですか?だって、昔は綺麗なお姉さんといっぱい遊んでたって聞いたです。 ・・・なのにあのヘタレ。1人じゃとイオスの間にも割って入れないっていうのですよ。」 イオスがとの密談を邪魔されたのは、なにも今日が初めてではなかった。 あらぬ噂を立てられたり、誤解を受けては堪らないから 出掛けるときは極力人目に付かないようにしている筈なのに、それでも必ずと言っていいほど邪魔が入る。 しかも妨害してくるのが、いつも決まってバノッサなのだ。 イオスは1度、どうして彼は自分達の居場所がわかるのだろうかとに訊ねたことがある。 すると彼女は大笑いして、訳がわからずしかめっ面をしているイオスに、こう答えた。 とバノッサは、同質の魔力を宿している。 やろうと思えばだって、バノッサの居場所くらい探ることができるよ、と。 それを聞いて、イオスは始め物凄く驚いたが、なるほどそれなら納得もいく。 なんでも彼女達は、魔力の気配というものがわかるそうで だからバノッサは、自分達の居場所を知ることができていたのだ。 だがの言うとおり、バノッサは決して一人では邪魔をしに来なかった。 毎回毎回その犠牲になっているのが、なのである。 は、イオスとの密談を阻止したいわけではなかった。 確かに、バノッサとの仲を応援している。 だが、イオスがと接触しているのは、ルヴァイドとを近づけるためなのだ。 ルヴァイドがに想いを寄せていると知ってから、はルヴァイドのことも応援している。 旗から見れば、余計なお世話といわれるかもしれないが 彼はバノッサに負けず劣らずの恋愛下手だ。(あくまで恋愛は、だが。) ならば過ごした年月が短いぶん、ルヴァイドのほうが不利と言えよう。 バノッサには頑張ってもらいたいが、ルヴァイドにも負けて欲しくない。 としては、かなり微妙な心境だったのだ。 だからどうせ邪魔をするなら、自分だけでやって欲しかったのである。 ―――――――― ・・・それでも最後には来てしまうところが、彼女の優しいところでもあるのだが。 「でも、彼の気持ちもわからなくはないよ。」 「・・・へ?イオス、わかるのですか?」 唐突に呟かれたイオスの言葉に、は意外そうに聞き返した。 は、よくわからない。好きなら好きと、口にすればいいじゃないか。 常日頃から伝えておかないと、後悔することもある。 だからは今までも、大好きな人達には“好き”と告げるようにしてきた。 マグナ、トリス、アメル、ルヴァイド、イオス、ゼルフィルド・・・勿論、サイジェントの皆にもだ。 バノッサがを“好き”という感情が、それらと少し異なることはわかっている。 けれど、好きなら好きと伝えるべきだと普段から思っている彼女には “好き”と伝えられない心境が、あるとはわかっていても、いまいち理解できないのだ。 たった一言の言葉なのに、どうして言えなくなってしまうのか。は度々、首を傾げていた。 そして自分にわからないものは、イオスにもわからないだろうという 漠然とした気持ちがあったのに、わかると言われて、はかなり面食らった。 「あぁ、わかるよ。きっとバノッサにとって、は初めて大切にしたいと思えた女性なんだろうね。」 「初めて大切にしたいと思えた・・・?」 「うん。彼はに出会うまで、女性は大切にするものだとか、護らなくてはいけないとか。 女性という生き物を、そういう対象として見たことがなかったんじゃないかな? ただ一時の快楽を求めるだけのものでも、ただ一緒に戦うだけの仲間でもない・・・ そんな存在が初めて出来て、それがだった。」 どこか、瞳に優しい色をのせて話すイオスに は思わず、口を開けて見入ってしまった。だって・・・ 「初めての存在に、どう対処していいかわからないんだ。 大切だから、迷う。大切だから、今まで通りにはできない、いかない。」 ますます、優しい色が深くなる。だって、これでは・・・ 「―――――――― ・・・大切だから、触れるのが怖い。」 まるで、イオス自身の体験を話しているようではないか。 「あの2人の絆は、ああ見えてもただでさえ深いようだからね。 大切すぎて、だから臆病になってしまっているんだよ。 上手くいかなければ今の状態が壊れるわけだから、それも当然かもしれないけど。」 まるでトウヤのことを話すときの、のような優しい表情。 ・・・そう。これは、なにかとても大切な。 心から愛おしいと思える存在のことを話すときの表情だと、は気付いた。 「・・・・・・イオスも、誰かそんな風に思ったことがあるのですか?」 「うん、あるよ。」 ―――――――― 今、想ってる。 心の中でだけそう付け足して、イオスは静かに、けれどはっきり答えた。 じっと見つめたの瞳は、微かに揺らいで、微笑むイオスを映し出している。 彼女の瞳に映った自分が、とても満たされた表情をしているのを確かめて、イオスは真っ直ぐを見つめた。 ・・・どうか、この想いが伝わりますように。 僅かに戸惑った様子を見せて、どんな気持ちか聞きたそうにしている彼女に そんな愚かな願いを込めて―――――――――― 「多分少し、違うけれど・・・」 バノッサとのような絆ではないけれど。 バノッサとほど、長い付き合いではないけれど。 多分イオスには、バノッサの気持ちが痛いほどにわかっている。 「簡単に、壊れてしまいそうだから。僕が護らなくてはいけないと、そう思ったことはあるよ。」 とイオスの間に、しばしの沈黙が降りた。少し身体を乗り出して、イオスが意を決して口を開く。 「、僕は――――――」 「お待たせしました〜っ!いちごのショートケーキとミルクティーのお客さま〜!」 「あっ!はいはーいっ、なのです!」 ガタン!! いっそこの想いを告げてしまおうかと思ったところへ、底抜けに明るい声が割り込んできて イオスは思わず、周囲に人がいることも忘れて盛大につんのめった。 「いただきますなのですーッ!!・・・って、ありゃ?イオス、どうかしたのですか?」 早速ケーキを頬張ろうとしたは、そこでやっとイオスがテーブルと熱烈なキスをしているのに気付いたらしい。 不思議なこともあるもんだと、茶色い瞳を丸くして、きょとんとイオスを見つめている。 の頭の中はもうすっかり、目の前まで運ばれてきたケーキに埋め尽くされていて、 イオスがなにを言おうとしていたのか、そんな疑問は頭を素通りしてしまったようだった。 一方ケーキを運んできたパッフェルは、イオスの状態を見てなにか勘付いたらしく 細めた瞳はいつものまま、申し訳なさそうに眉を下げた。 「ありゃりゃ・・・もしかしてわたし、やってしまいました? すみません、両手にトレイを持っているとあまり前が見えなくてですね・・・」 「・・・・・・いや、大丈夫だ。」 そうは言ったものの、実際はあまり大丈夫でもない。 恋敵という邪魔者がいなくても、自分はに告白できない運命なのかと、己の悲運を呪った。 「そうですか・・・?では、今度こそごゆっくり〜。」 パッフェルは明らかにこちらを気にしながら、それでもどうにか背中を向けると 他のテーブルへケーキを運ぶべく、足早に去っていく。 まるで引かれたガマガエルのように、テーブルの上で潰れているイオスの耳元で 青い触角を生やした誰かが、せせら笑う声が聴こえたような気がした。 「イオス、本当に大丈夫ですか?顔色悪いですよ。」 予想以上に近い声に顔をあげれば、同じように姿勢を低くして 心配そうにこちらの表情を覗く、の瞳とぶつかった。その口元に、生クリームがちょこんとついている。 「・・・あぁ、どうにか。」 それがまた可愛らしいなんて思ってしまった現金な自分に これは重症だと僅かにヘコみながら、イオスは弱々しい返事を返すことに成功した。 「そうですか?・・・辛かったら、無理せず言ってくださいね?」 それでもは少々渋る仕草を見せたが、結局最後は イオスの大丈夫という言葉を信じることにしたらしい、不承不承頷いた。 「大丈夫だよ、。ちょっと・・・そう、ちょっと気が抜けただけだから。」 「なら、いいのですけれど。」 そう言って、はミルクティーのカップを口に運んだ。 ずず、と一口含んだところで、思い出したように言う。 「そういえば、さっきなにか言いかけてなかったですか?イオス。」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・気のせいだよ、きっと。」 言葉を搾り出すまでに、かなりの時間を要してしまった。 だがは、今度はイオスの言葉を疑いもせず鵜呑みにして 耳が遠くなったのかもと、首を捻った。ずずー、とまた紅茶を啜る音がする。 「・・・やっぱりイオスは、にルヴァイドさまのこと聞いてたんですか?」 一端会話が途切れたところで、はのことへと話を持っていった。 その間も、手は休むことなく動いている。 のフォークが、クリームの上に乗ったいちごに狙いを定めた。 「うん・・・でも、残念ながら収穫はなかったよ。」 それはとルヴァイドの間に進展はなかったらしいということを、暗に仄めかしている。 はいちごを口に放り込み、はぁと溜息を吐いた。 「バノッサも進展ゼロですからねぇ・・・一体どうなることやらです。」 「本当に、はどっちを応援しているんだかわからないな。」 イオスが苦笑しながらそう言うと、は満足そうにケーキを見つめていた瞳を カッと見開いて、なにも刺さっていないフォークの先端を、イオスに突きつけた。 「どっちもですよ!」 そう強く言い切ってから、ふっと瞳を伏せる。 フォークの先も、の心に同調するように、ゆっくり静かに降ろされた。 「・・・、ルヴァイドさまには幸せになって欲しいのです。 でも、バノッサにも幸せになって欲しくって・・・それにはやっぱり、が必要だと思うから・・・」 しゅん、と項垂れるに、イオスは優しく頷いて見せた。 「そうだね、最終的には本人達同士の問題だけれど・・・」 自分達がいくら協力していても、最終的にこれは本人達の問題だ。 それくらい、もイオスもわかっている。 たとえそうだとしても、手を出さずにはいられなかっただけなのだ。 自分を気遣ってくれるイオスに、は悲しげに微笑んで、心の中で感謝した。 イオスはいつも自分が落ち込んだとき、優しく手を差し伸べてくれる。 それにどれだけ、が助けられているか―――――― 感謝しても、し足りないほどだ。 慰めるようなイオスの仕草に、はどこかほっとするものを感じて、小さく息を吐いた。 将来、今の達の関係が崩れるかと思うと、は今から怖くなる。 それだけにとって、3人は大切な存在で 3人が同じ空間に居られる今の状況に満足しているし、幸せだと感じているからだ。 もし、がどちらかを選んだら。 3人が一緒にいられることはなくなるだろうし、誰かが不幸になる。 みんなとても大切な人達だから、それはにとっても悲しいことだ。 けれどバノッサとルヴァイドが、それぞれに幸せを掴もうするならば それはいつか、来るべくしてやってくる未来なのだろう。 嘆息して、はぼんやりとガラス越しに、真っ青に澄み渡る空を見上げた。 空はこんなに澄み切っているのに、どうして人間はそういかないんだろう。 「みんなが幸せになるのって、難しいのですねぇ。」 「・・・確かに、そうかもしれない。」 上の空でぽつりと漏らしたの呟きに、イオスは思いのほか真剣な声色で答えた。 はぼんやり空を眺めていて、そんなイオスに気付いていない。 なにか、物欲しそうに空を見あげる彼女の横顔を見つめながら イオスは自分の中で蠢いている、その意志を再確認する。 ――――――― いつからか芽生えていた、この気持ちを。 たとえそうだとしでも、今は。 他人を不幸にしてでも、幸せになってやろうと思っている僕がいる。 「自分達の、頑張り次第だろうからね。」 「はいです。」 いつか、君に届くといい――――――― ・・・僕の想いが。 「お前ら、なに企んでんだよ?」 「は?なにが??」 バノッサを引き摺りながらの帰り道。いきなりの質問に、は訝しげに眉を寄せた。 最初はただ、ずるずる引き摺られているだけだったバノッサも 姿勢をどうにか修正して、今ではの隣に並んで歩いている。 「・・・最近、良くアイツと一緒に出かけるだろ。」 「アイツって・・・イオスのこと?」 バノッサは無言で頷いた。以前・・・と言っても、サイジェントにいた頃の話だが。 は出かけるときは大抵1人か、そうでなければ荷物持ちに バノッサかハヤトを連れて行く程度で、精々でも本屋へキールを誘うぐらいだった。 なのにどうしてここへきて、イオスと頻繁に出かけるようになったのか。 「あぁ、あれはね。」 軽い口調で呟くの横顔を、バノッサは真剣な眼差しで見つめていた。 「相談を受けてたんだよ。」 「相談・・・?」 なんの相談だ?とバノッサが眉を顰めると、はなんてことなさそうに言い切った。 「そ、相談。まぁ、所謂恋愛相談ってヤツかな?惚気と愚痴ばっかだけど。」 その答えに、バノッサは一瞬瞳を見開いて固まってしまったが、 続けられたの言葉に、ハッと我に返った。 「見てればわかるだろ?イオスは・・・」 「知ってる。あのガキのことが好きなんだろ?」 「・・・そうそう。なんだ、わかってんじゃん。」 わかってたならなんでわざわざ聞くんだよ?と、が不満気にバノッサを見た。 「そのことを相談されてたってのか?」 「うん、まぁね。なにをあげたら喜ぶかとか、どれがに似合うかとか・・・ あんまり可愛い内容すぎて、聞いたらみんな笑うだろうけど。」 そう言って、自身も小さく苦笑した。 よっぽど初々しい相談に乗っているのだろうと、簡単に想像がつく。 今時では逆に珍しいほど、純粋培養されているイオスなら、やりかねないことだった。 「けどさ、ほら・・・イオスの恋敵って、意外とキャラの濃い奴が多いだろ? それに比べて、イオスって結構常識人だからさ。並ぶと不利なんじゃないかと思って、ちょっと不憫でね。」 「・・・なるほどな。」 そう言われれば、バノッサも納得がいく。 なにしろ近頃のロッカときたら、所構わず槍を振り回すし グサグサ突き刺さる物言いや嫌味も、どこかに似てきたな、なんて思っていたところだ。 意外とお節介焼きなが、を護るという点で 一致団結しているイオスに協力をしていても、おかしいことではなかった。 「・・・っていうかさ。」 「あ?」 「はお前がそれわかってるから、毎回毎回連れて登場するんだと思ってたよ。 ほら。がイオスの相談にのってると、お前いっつも連れて来てただろ。」 「・・・・・・ッ!?」 バノッサの顔に、明らかな動揺の色が走った。 だがは偶然通りがかった本屋に目を取られて、それに気付きはしなかった。 そろそろ新しい本が欲しいなぁ、なんて呑気に思ってから、隣を歩くバノッサを振り返る。 「知らなかったなら、なんで連れて来てたんだ?」 「そ、それはお前・・・!!」 「???」 急に取り乱し始めたバノッサに、は“はて?”と首を傾げる。 バノッサがどうして突然慌て始めたのか、彼女には皆目検討がつかないらしい。 バノッサを見上げる彼女の瞳には、いつものからかうような光ではなく、珍しく純粋な疑問の色が浮かんでいた。 それが少しだけ、バノッサに落ち着きを取り戻させる。 「それはな・・・・・・」 「それは?」 じっと見つめてくるの視線に耐えられなかったのか、バノッサはふいっと顔を逸らした。 ヒュッと息を吸う音が、の頭の上で聞こえる。 「それは・・・あれだッ!お前らが一緒に出かける訳は知らなかったけどなッ!!! イオスの野郎が、ガキを気にしてるのはわかってたからなッッ。 だからあのガキさえ連れてきゃ、アイツは満足すると思ったんだよッ!!!!」 「・・・そりゃ、そうだろうけど。」 なんでそんなにキレてるんですか? そんなの疑問は口に出す前に、喚き散らすようなバノッサの声に掻き消された。 「俺様なりに、気を利かせてやったんだよッ!! あのガキに、誤解されたら困るんじゃないかと思ってなぁッッ!?」 そこまで一気に言い切って、はぁはぁと肩で息をするバノッサの背中を は馬にするように、“どぅどぅ”と数回叩いてやった。 実際にはは、イオスがと出掛ける理由を の知らない理由まで(正確には、彼女の知らない理由だけ)知っているのだが それはもバノッサも、預かり知らぬところである。 そうとは知らないは、苦し紛れのバノッサの言い分に 言った本人が肩透かしを喰らうほど、あっさり納得してしまった。 だがなるほど、バノッサの言うことも一理ある。 とイオスが度々一緒に出かけていることを、コソコソ隠していたら もしそれを知られたとき、がイオスとの仲を誤解しかねない。 他の人達にだけ内緒にしておいて、にはこの際 はっきりと伝えておいたほうが、変な誤解は受けないかもしれない、と。 バノッサがを連れて来てくれたのは、結果的に良かったってことかな? 腕を組み、うんうんと頷くを盗み見て、バノッサはホッと胸を撫で下ろしていた。 当然だが、バノッサがイオスとの密談を邪魔していた理由は、もっと別のところにある。 イオスがを好いていることは、彼の行動を見ていれば、嫌でもわかることだった。 だがそれならば、とイオスが一緒に出掛ける理由はなんだ?しかもこっそりと、人目を憚ってまで。 バノッサは、がイオスを異性として見ているのではないかと、邪推していたのだ。 バノッサがそんなふうに思うほど、近頃の彼等の間には、他者とは少し違う“なにか”があったのである。 ――――― ・・・最も、その“なにか”に気付けたのは自分だけだということに、バノッサは気付いていない。 そこでバノッサは、エルゴとしての能力を、ここぞとばかりにフル活用して(使い方が間違ってます) とイオスが一緒に出掛けたのを見計らって、邪魔してやることにしたのだ。 考えることが随分とみみっちいが、バノッサにとってこれは深刻な問題であり 彼自身、このときは大真面目だったのだから仕方ない。 前述したように、とイオスはを護るということで意気投合している節がある。 ましてや、イオスは確実にに惚れているのだ。 だからと一緒に行けば、例え邪魔をしたとしても 2人の怒りを買わないで済むだろうと踏んで、バノッサはに同行を頼んでいた。 彼は今、違うとわかってほっとしたような それではあまりにも自分が滑稽だったような、複雑な気分を噛み締めていた。 そんなバノッサを見て、は思い切り眉間に皺を寄せる。 「・・・バノッサ、お前なんか変だぞ?」 「んなことねぇよッッッ!?」 そんなことないというわりには、勢い良く否定しすぎた。 そうは思ったものの、は軽く肩を竦めただけで、それ以上追求しようとはしなかった。 「そうか?まぁ、いいけど。」 そう言って、が先を歩き出す。バノッサはそこで初めて、自分達が立ち止まっていたことに気が付いた。 しばらくなんの話題もないまま歩くと、やがて分かれ道に差し掛かる。 迷うことなく右・・・高級住宅街へ向かおうとしたを、大股で進んで追い越し、バノッサは左に曲がった。 「お、おいバノッサ!どっち行くんだよ?そっちはミモザの家じゃないぞ!」 「・・・シオンのとこで、蕎麦でも食って帰らねぇか?」 振り返らないままバノッサが言うと、は小走りでバノッサに追いつき それからわけがわからない、といった表情をして言った。 「は?どういう風の吹き回し?」 「ッ!?お、俺が腹減ったんだよッ・・・!」 「それならは、蕎麦よりいなりずしがいいな。」 自分の後を、素直に追ってきてくれたに、バノッサも今度は素直に白状した。 「・・・まだ、アイツラのとこには帰りたくねぇんだよ。」 「そうなのか?」 「・・・あぁ。」 「ふーん?」 なにか言いたそうに呟いて、はバノッサを横目でチラリと見た。 彼女が見ていることはわかっているものの、バノッサは視線を合わせるようなことはしない。 そんなバノッサを見て、は内心しょうがないなと思いながらも、何故か笑った。 「なにがあったんだか知らないけどさ。 酒を奢ってくれるならいくらでも、それこそ朝まで飲み明かしてもいいけど?」 早合点した罪滅ぼしと、安堵からくる空腹感と――――――― それからあとちょっとだけでいいから、と一緒にいたいという小さな願い。 でもそんな本心は、口が裂けてもいえないバノッサであった。 4人の想いは、それぞれ異なる音色を奏でる。 |
|
戯言。 うおおおおおッ!!ど、どうにか書き上げることが出来ました・・・ッ!くぅっ、長かった! 文章を書くことからしばらく遠ざかっていたせいか、書けないのなんのって! タイトルは、四重想でカルテットと読んでください。四重奏とかけてます。 4人それぞれに、それぞれ異なる想いと思惑があって行動していているんだよってお話です。 連載はまだまだ序盤なのですが、このお話は終盤が舞台になっております。 未来予想図って奴ですかね? 本当にそうなるかはわかりませんが、現段階ではこうなる予定。 とりあえず、ロッカが腹黒だったり、イオスとをルヴァイドの為に奔走させたり とイオスを気の合う友人・・・というより、戦友にする予定です。 ともあれ、98000HITありがとうございました! ほのぼの希望とのことでしたが・・・リクエストにきちんとお応えできているでしょうか? こんなものでよろしければ、お納めください。 踏んでくださった方に限り、煮るなり焼くなりお好きなようにどうぞ(笑) ・・・長編が進むにつれて、ツッコミどころが限りなく出てくると思いますが そこは目を瞑っていただけると嬉しいです(滝汗) |
BACK |