悪戯

















朝。イスラは1人、廊下を歩いていた。
目指すのは、せんせい・・・・・・もとい、アティの寝ている部屋。

昨日、久々にあのカイル一家がこの島にやってきて
そのまま、船上でちょっとした宴会になったのだ。
元からお祭り好きの彼等と、この島の住人のことだから、それは深夜まで続いて・・・

・・・実はここだけの話。
イスラは記憶が戻っていたりする。
けれどそれを打ち明けるには、まだ勇気が足りなくて・・・
アティにしか、その真実を告げてはいない。
アズリアは実の姉ではあるが、話せばきっと彼女の動向から、
記憶が戻っていることが知れ渡ってしまうだろう。



とは言っても。そういう意味で言えば、アティに話すことも大きな賭けだったのだが・・・。



生憎、道化を演じることには慣れてしまっていたから
それからも、記憶の無いままのイスラを演じ続けていた。

・・・話を戻すと昨日、イスラはその宴会のお陰で随分苦労させられたのだ。
カイルがアティに好意を寄せていることなど、見ていれば嫌でも解る。
だから、ただでさえアティをカイルの傍に置いてなんておきたくないのに・・・
アティもアティで、無防備に笑っていたりするから、気が気ではない。




その笑顔がどれだけの誤解を招いているか、解ってるわけ?




あの時ほど、記憶が戻っていることを秘密にしていたのを後悔したことはない。
記憶を失っていたときのイスラは、実年齢に輪をかけて子供っぽい性格で
どうしても、男というよりは子供という分類にされがちだ。
そのせいで、いくらイスラがアティの傍にいても。壁どころか、牽制にすらならない。

本当だったら、無理矢理にでもアティを引っ張って
その場から立ち去りたかったくらいなのに・・・


・・・まぁそれが不可能なのなら、子供という武器を使うまでだったのだが。



「“せんせいも一緒じゃないと、僕帰らない!”・・・・・・か。」



苦笑。我ながら良く言ったものだと、イスラは思っていた。
それを口にした次の瞬間には、辺りに誰もいないことを確認して、口を噤んだけれど。

どこで誰が聞いているかなんて解らないから
出来る限り、子供のイスラになっていなくてはいけない。

そんなこんなで、そのまま懐かしい彼らの船に厄介になることになり
結局ベッドに潜りこめたときには、午前3時を過ぎていた。

だから、まだアティが起きていないのを確認したイスラは
誰かが起こしに行く前に・・・と、すぐさまアティを起こしに行くことにしたのだ。












アティが寝ている部屋の前に着いた。
・・・一応、形だけのノックをして、ドアを開く。

・・・昨日あれだけ飲んでいたから、二日酔いではなくても、ちょっとやそっとじゃ起きないだろう。
室内に入ると、アルコール独特のにおいが充満した部屋のベッドの中で
案の定。アティがスヤスヤと、気持ち良さそうに眠っていた。
・・・この分だと、どうにか二日酔いは免れていそうだ。




「せんせい・・・?もう朝だよ、起きて・・・」




軽く体を揺さぶっても、起きるどころか眠りを阻害された気配もない。
イスラは1つ溜息を吐く。起こしに来たのが、自分で良かった・・・と。




「・・・・・・先生?朝だよ・・・」




もう1回。さっきよりは強めに揺さぶったけれど、それでやっと寝返りをうっただけ。




「・・・ん・・・ぅ・・・」




余程良い夢でも見ているのだろうか?
幸せそうな顔で、ゴロンと寝返りをうつ。それでも起きない。

イスラにしてみれば、昨日の夜からずっと気が気ではないのに
アティはそんなイスラの気も知らず、気持ち良さそうに眠っている。

なんとなく、ムッとする。
自分ばかりこんな気持ちにさせられて、なんだか理不尽だと。
だからちょっとだけ、いたずらしてやろうと思った。




「・・・アティ。ほら、いい加減に起きなよ。」




声色とは裏腹に、口元には知らず笑みが浮かんでくる。




「・・・ん。」




カーテンを開けたから眩しかったのか、アティが少しだけ唸り声をあげた。
けれどそれも少しのことで、イスラの身体ですぐにまた光が遮られると
アティは満足そうに、眉間に皺を寄せるのをやめた。



ギシ、と。



腕一本を付いて体重をかけると、ベッドが軽く軋む。




「でないと。
―――――――― ・・・どうなっても、知らないからね・・・?」




声に出して笑いたくなるのを、どうにか堪えて。
・・・あれだけヒヤヒヤさせられたんだから、これくらいは許されるだろうと
ゆっくりと、顔を近づけていく。


・・・あと、ほんの数センチ・・・


・・・とそこへ。バターンと大きな音を立てて、勢い良くドアが開けられた。




「おっはよーー、先生!!もう朝だ・・・」




元気のいい声と共に部屋に入ってきたのはソノラ。
片手を上げたまま、目を見開いて石像のように固まっている。

しばし、無言で見つめ合うこと数秒・・・
部屋の中の止まりかけていた時間を先に動かしたのは、ソノラだった。




「・・・・・・あ、そのえーっと・・・もう、ご飯だよって言いに来ただけなんだ、うん。」




笑顔だけは絶やさずに、けれど焦っているのが良く解る奇妙な動作で
ソノラは少しずつ少しずつ、後退していく。




「そ、それだけだったんだけど・・・・・・お邪魔、しちゃったみたいだね。
あ、あはははは・・・・・・し、失礼しましたーーーッッ!!」




そう言うなり、入ってきたときと同じように盛大な音をさせてドアを閉めると
バタバタと足音を立てて、急いで走り去っていく。




「・・・まずかった・・・かな?」




そう呟きながらも、イスラは複雑な心境だった。
ソノラのことだから、きっとスカーレル辺りに報告しに行くだろう。
・・・そうしたら、絶対にこの話はどこかへ漏れる。

それは記憶が戻ったことを隠している身としてはまずいことだったけれど
アティは自分のものだと公言してしまいたいイスラとしては、好都合なことで・・・。

イスラは、何も知らずに未だ夢の中にいる、アティの寝顔を眺めながら




まぁ、これで少しは子供・・・とは思われなくなるかな?




・・・そう思って、今日これから質問攻めに遭うだろう彼女の姿を想像し、苦笑を漏らした。






そろそろ道化も演じるのも、潮時だろうと思いながら・・・・・・。
けれど、アティと一緒にいられるというのなら・・・多分、それも悪くない。


















戯言。


はい、ただの勢いです。ネタもなんにも無しに
記憶は戻ってるけどアティ以外には秘密vなマイ設定をお披露目したかっただけです!
イスアティ同盟に参加した勢いで、脳内煩悩の一部を溢れさせてみました。
しかもアティまともに喋ってないしね!
ちなみに。『せんせい』が白で、『先生』が灰色で、『アティ』が黒です。(何)

よくないですか?白イスラだと思って油断してたら
実は黒イスラだったのって(笑)

カイルVSイスラって、妙な光景だよなぁ。

この後、黒イスラは開き直りますよ・・・
『見せてあげるよ!!』・・・って(笑)







BACK


2003/09/15