始まりの日 〜僕が彼女を見初めた刻〜 「アズリア!」 少しだけ潜められた、聞き慣れている、高く透き通るような声。 舞台袖にいたアズリアは、静かに後ろを振り返った。 「・・・アティか。」 「アズリア。在校生代表の挨拶、お疲れ様でした。・・・はい、お茶です。」 「あぁ、ありがたく頂いておく。」 ちょうど喉が乾いていたアズリアは、そう言ってアティの手からお茶を受け取る。 ズズッとお茶を飲んでいると、隣にいるアティが笑う気配がして アズリアは不審そうに、アティを見た。 「??・・・どうした、何が可笑しい?私の顔に何かついているか?」 「あ、いえ・・・そうじゃないんです。 新入生への激励を読み上げる時のアズリア、格好良かったなぁって。」 「・・・何を言い出すかと思えば・・・」 “お前の兄じゃないんだから・・・”と、アズリアは頭を抱える。 「だって、本当のことですよ。新入生も尊敬の目でアズリアの挨拶に聞き惚れていましたし。 ・・・レックスなんか、変に周りの人に可愛いよねって同意を求めて、白い目で見られていました。」 「〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッッ!!全く、あの馬鹿は!」 予想が的中してしまい、アズリアが恥ずかしそうに赤い顔を押さえたとき、会場に拍手が起こる。 舞台上では、丁度プログラムが1つ進行したところで アティの記憶が正しければ、次は新入生代表の挨拶の筈だった。 「・・・そういえば、次の新入生代表って、アズリアの弟の・・・えっと・・・」 「イスラだ。」 「そうそう、イスラさんでしたよね?」 アティがそう言うと、アズリアは誇らしげに微笑んだ。 それはとても綺麗な笑みで、レックスが見たら可愛いとか言って抱きつくんだろうな、と アティは何処か他人事のように思う。 「―――――――― ・・・あぁ。私はあの子を、誇りに思うよ。」 「あ!アズリア!見てください、イスラさんが出てきましたよ。」 アティの指差す先には、アズリア達がいる袖とは反対側の袖から 初々しい制服姿の新入生が1人、歩いてくるところだった。 「それにしても、さすがレヴィノス家ですね。 新入生代表も、在校生代表も、姉弟でやってしまうなんて・・・」 「何を言う。新入生代表はともかく、 在校生代表はお前とレックスが講師の推薦を蹴ったから、私に出番が回ってきたんじゃないか。」 心外だと言わんばかりの顔でアズリアにそう言われ、アティは気まずそうに苦笑する。 「あははは・・・どうも私もレックスも、こういう公の場は苦手で・・・」 「確かにお前とレックスなら、教壇に着く前に転びそうだがな。 ・・・だが講師も講師だ。お前たちの後始末を、いつも私に押し付ける。」 「・・・あははは・・・・・・・・・すみません。」 「なに、今に始まった事ではなかろう?」 強気な瞳で言われ、アティがアズリアには敵わないな・・・と思ったとき またも会場に拍手が巻き起こった。 「・・・どうやら、終わったようだな。」 無事、大役を果たしたのだ。アズリアが嬉しそうに、弟を見つめる。 すると、彼は姉の視線に気がついたのか、ちらっとこちらを見た。 「あ、こっちを見ましたよ!」 イスラがにこっと微笑み、アズリアはそんな弟に軽く手を振って見せる。 「ではアティ、私はまだ仕事があるからな。これで行くぞ。」 「あ、はい。頑張ってくださいね。」 「ああ。」 すれ違い様に簡単な言葉を交わすと アズリアは機敏な足取りで、さっさとその場を去って行く。 どうやら彼女は、弟の晴れ姿を見るためだけにここに留まっていたようだ。 それからアティは、イスラがまだこちらを見ていることに気がつくと 『これからよろしくお願いしますね』 ・・・そんな意味を込めて笑顔を作り、ペコっと軽く頭を下げた。 何と言ってもアズリアの弟なのだから、 これから彼とは色んなところで関わり合いになるだろう・・・そう、思ったのだ。 ・・・けれど、アティの一連の動作を見ていた彼は アズリアに向けたものとは随分性質の違う笑みを、アティに向けた。 ニヤリ。 ・・・まさにそんな表現が似合いそうな・・・ちょっと邪悪な笑み。 それを受けて、思わずアティは、ビクっと体を硬直させる。 あの笑顔を向けられた途端、何故か背中がゾクっとしたのだ。 「・・・???」 慌てて周囲を見回すが、これと言って何があるわけでもなく。 舞台の反対側の袖に戻って行く彼の後ろ姿を見送りながら なんだか良くは解らないが、この場にいてはいけない。 ・・・早く去らなければまずいような気がして アティはそそくさと舞台袖から消え、交替してくれる友人がいる場所へと走っていった。 得体の知れない不安感を抱きながら。 これが、アティとイスラの最初の出会い。 ・・・のちにアティの、この悪い予感は。ある意味的中したと、言えなくもない。 |
|
戯言。 始まってしまいました、パラレルの第一弾です。 イスラが軍学校に入学して参りました。 えっと、アティとレックスは目立つ仕事は好まないタイプです。 優秀なんですけど、大舞台に立つのが嫌いで 学級委員みたいな仕事も、成績優秀で人望も厚いのにやりたがりません。 だから、裏方でみんなにお茶を出したりする係りなんかやってます。 責任が重い仕事は得意じゃないんですね。 プレッシャーになり過ぎちゃって。 反対にそれが得意なのがアズリアなんです。 責任感とかプレッシャーを力に変えて突き進んで行くタイプ。 だから一見、レックスと恋人同士なんだけど 姉さん女房みたいに思われがち(笑) 意外と、そんなこともないんですけどね、実体は。 ともかく、そんな感じで始まってしまいました、パラレルもの。 あはははー。どうなるんでしょうねぇ。(無責任発言) ちなみにサブタイトルの見初める、は 初めて会った、の意味の見初めるです。 好きになった、の見初めるでも、全然問題はないんですけどね(笑) |
2003/10/06