You are My Master













切り立った崖の上にある、クリーフ村。
その1番奥の、周囲より少しだけ小高くなったところに、彼女の家はある。
脇目も振らず村を一直線に横切り、いつものようにエアの住む家へとやってくると
玄関を開けたタタンが笑顔で、ガブリオを家の中へ迎え入れてくれた。


ガブリオがきょろきょろと忙しなく、部屋を見回し
何かを探すような仕草を見せると、タタンはガブリオが口を開く前に
地下を指差し、エアは鍛冶場だと教えてくれた。


・・・ガブリオが、エアに会うために訪ねてきているのだということは
もうこの家で、周知の事実になっているらしい。


唯一この家で地下へと続く階段の前に立つと、ヒンヤリと冷たい空気が流れてくる。
地下からは規則正しく、カーンカーンと武器を鍛えるハンマーの音が聞こえていた。


階段は薄暗く、外よりもじめっとしていて
ガブリオはその階段を、コツコツと音をたてて一段ずつ降りながら
ふと、ここを降りるのは2回目だったなと思い当たる。


初めてこの階段を降りたとき。
それはガブリオが、ゲドーに頼まれ彼の召喚獣を村に連れ込み
この下にある、エアが寝泊りしている鍛冶場のベッドの下から
彼女が集めていた3本の魔刃を盗み出したときのことだ。


そんなことを考えていると、そんなに長くもない階段は、あっさりと終わりを告げる。
途端、薄暗かった視界に夕焼けのような色が広まり
むわっとした熱気と共に、タタラの傍で。エアとその護衛獣であるアーノとレキが
橙色に放熱する塊を、ハンマーで鍛えている姿が目に入る。


いつもは優しい色を宿しているエアの瞳も、今は真剣そのもので
以前ガブリオも仮面越しに向けられたことのある、戦うときのあの眼差しに似ている。
声を掛けたいのは山々だが、武器作りの邪魔をするわけにもいかず
ガブリオはエアが武器を鍛え終えるまで
部屋の隅で、邪魔にならないよう見学していることにした。






・・・そういえば、武器を鍛えるところを見るのって初めてだな。






知識としては知っていたが、こうして目の当たりにするのは初めてだ。
橙色の炎に煌々と照らされたエアの横顔は、いつもとはまるで別人のように見える。
・・・いつの間にか、ガブリオはその光景に熱心に見入ってしまい
エアがこちらを振り向くまで、ハンマーの音が止んでいることにすら気付けなかった。




「ごめんね、ガブリオ!折角来てくれたのに待たせちゃって。」




ゴーグルを外し、光る汗を拭いながら。エアはそう言って、にっこりと微笑んだ。
それにガブリオはハッと我に返って
他の何かも意一緒に吹き飛ばそうとするように、慌てて首を横に振った。




「ううん、気にしないで。武器を鍛える所を見るのは初めてだったから
こうして見ているだけでも、結構楽しかったよ。」


「そう?それなら、良かったんだけど。」




エアが照れ臭そうに鼻の頭を掻くと
彼女の指跡を辿るように、鼻に黒い線が引かれてゆく。
目敏くそれに気が付いて、ガブリオは一歩前に進み出た。




「エア、鼻に煤が付いてるよ。・・・あ。じっとしてて、とってあげるから。」




エアが煤を払おうと、指を延ばすよりも先に
ガブリオはそう告げて、エアをじっとさせることに成功すると
自らのマントの裾で、エアの鼻の頭に引かれた黒い線を、コシコシと拭き取った。
エアはガブリオに鼻の頭を拭かれている間中、きゅっと瞳を瞑っていて
そんな彼女の仕草に、ガブリオは思わず口元を緩めた。




「・・・はい、取れたよ。」


「・・あ、ありがとう・・・」


「どういたしまして。」




ほんのりと頬を桜色に染め、視線を伏せたエアを
ガブリオは瞳を細め、愛しそうに見つめる。




「ご主人さま!!」




ちょうどそのとき、背後からアーノがエアを呼ぶ声がして
リンリのときのように、またなにかとんでもないことを言い出すのではないかと
エアは過敏に反応して、慌しくそちらを振り返った。




「な、ななななに!?アーノ?」




・・・その途端、邪魔をされたと思ったのだろう。
ガブリオの顔が少しだけ、不満に歪んだような気がして
アーノの後ろにいたレキは、やってしまったとばかりに顔を手で押さえた。


普段ガブリオは“いい人”で通っているが
それでもやはり、不満に思うときは思うのである。
―――――――――― ・・・恋愛なんかに関しては、特に。


けれども、やってしまったことは仕方ないと、レキは気を取り直して
今さっき鍛えたばかりの槍を掲げ、いっそのこと開き直ってエアに尋ねた。




「この新しい槍はどうするんだよ?」


「あ、うん。壁にでも立てかけておくよ。あとでしまうから・・・」




言いながらエアは槍を受け取り、近場の壁に立てかける。
槍が立てかけられるさまを、思わず反射的に視線で追っていたせいで
ガブリオがこちらに向ける、何かが足元からねっとりと這い上がってくるような眼差しに
レキは少しだけ、気付くのが遅れた。




その瞳は、レキに果てしなく嫌な予感を覚えさせるには十分すぎるほど
真っ直ぐ自分に向けられていた
―――――――― ・・・




「・・・エアは、あれからずっとこの部屋で寝泊りしてるの?」




ガブリオがエアにそう問いかけるのが聞こえて、レキは無意識のうちにゴクリと生唾を呑む。
レキはガブリオの視線が、今や自分から逸らされて
この部屋にたった1つしかないベッドへと注がれていることに気付いたからだ。



・・・そう、この部屋にはベッドが1つしかない。



けれども、アーノとレキもまだ子供で体付きが華奢であることと
エア自身もあまり背の高いほうではないことから
3人で固まるようにして丸まれば、どうにかこうにか1つのベッドでも眠ることが出来る。
それでも稀に、寝返りをうった拍子にエアがベッドから転げ落ちたり
アーノがレキに蹴飛ばされることも、しばしばあるが。






間違っても下手なこと言うなよ・・・ッ!!






ここでエアが余計なことを言えば、恐ろしいことが起こるのは目に見えている。
今のガブリオは、そんな空気を持っていた。
・・・言うなれば、黒の剣士モード50%(?)というところだ。
レキは審判の刻を待つかのように
淡い期待と不安を籠めた瞳で、エアを見つめた。


・・・ところが肝心のエアは、ほんの少しだけ
身に纏う空気の変化したガブリオに、やはりというかなんというか、さっぱり気付く気配もなく。
いつもと同じ、のほほんとした笑みを浮かべて、ガブリオにこう答えた。




「うん。なんだかもう、ここにいるのが当たり前みたいになっちゃったし
レキとアーノもいるじゃない?前の部屋じゃはっきり言って、少し狭いんだよね。」


――――――――――― ・・・もしかして、3人とも同じ部屋で寝てたりする?」




ガブリオの声のトーンが、心なしか低くなり
レキはその瞬間、全身の毛が逆立つような感覚に見舞われていた。




「うん、そうだけど?」




小首を傾げながら、“どうしてそんなこと聞くの?”などと言いたげに無邪気な口調で尋ねる主人が
レキは今までに、これほど憎らしいと思ったことは無かった。




「はいです!ボク達は護衛獣なので、いつでもご主人さまと一緒です!」


――――――――― ・・・いッ!?」




余計な事を・・・!そう思ったレキは、思わず声をあげてしまった。
まるで咎めるような声をあげたレキに、全く何もわかっていないエアは不思議そうな顔をする。




「ん?レキ、どうかした?」


「あ、いや・・・な、なんでも・・っ!」


「・・・
ふーん、そうなんだ・・・




言い淀んだレキの声に重なるようにして。
どこかぞっとするようなガブリオの声が、背後からレキに忍び寄ってきた。
レキが首をミシミシいわせて、恐る恐る背後を振り返ると
そこには爽やか過ぎる笑みを全面に貼り付けた、ガブリオがいた。




「・・・ねぇ、エア。それなら、僕もエアの護衛獣に立候補していいかな?」



「「え゛ッ?」」




いきなりのガブリオの申し出に、エアとレキは同時に
カエルが押し潰されたような声を出した。
エアにしてみれば、ガブリオの申し出はあまりにも唐突過ぎるし
レキにしてみれば、まさかそうくるとは思ってもみなかった。・・・というところだ。
アーノだけは事態をうまく飲み込めず、先程までと変わらぬ表情で笑っていた。


酷く動揺した2人の声にも、ガブリオは怯んだ様子も無く
寧ろ満足そうににっこりと微笑むと、照れ臭そうに鼻を擦ってから
熱っぽい眼差しで、エアだけを真っ直ぐに見つめた。




「そうしたら、いつもエアと一緒にいられるし、キミの役にも立てるんじゃないかと思って・・・」


――――――――――― ・・・ガブリオ。」


「いい考えです!ガブリオさんなら大歓迎です!!」


「・・・っ!!(この馬鹿!)」


「あはは。ありがとう、アーノ。そういって貰えると嬉しいよ。」




呑気なアーノが、両手を振り上げてそれに賛成すると
それを見たエアは、腕組をして、う〜ん・・と真面目に考えこみ始めた。




「え、けどそれって・・・いいの、かなぁ?」


「でも、キミはもうレキとアーノの2人を、護衛獣にしてるんだろ?
だったら、今更僕がエアの護衛獣に立候補して
護衛獣が1人ぐらい増えたって構わないように思うけど・・・」




そこで一端、ガブリオは言葉を区切り
悲しげに瞳を伏せると、エアから視線を逸らして小さく呟いた。




「・・・それとも迷惑、だったかな?」


「う、ううん!迷惑だなんて、全然そんなことない!凄く嬉しいよ!」




大慌てでエアがそう告げると、ガブリオは今度こそ
満面の笑みを浮かべて、本当に嬉しそうにエアに微笑み返した。




「・・・じゃあ、これからよろしく。ご主人さま?」
















―――――――――― ・・・こうして。




晴れてガブリオは、エアの護衛獣という
彼女の傍にいる恰好の名目を手に入れてしまったわけなのだが
それを報告したときのタタンとオルカの表情ときたら、見事に正反対だった。


タタンは頬を高潮させて色めき立ち、オルカはそれこそ鬼の形相かと見間違うほどで
それでも兄という体面を守ろうとしているらしく
よろしくと返しながらガブリオに握手を求めた手は、ちゃっかり左手だった。
左手で握手を求められたガブリオは、けれど眉1つ動かさず平然として
笑顔のまま自らも左手を差し出し、2人は固く握手を交わした。


それからというもの、必ずといっていいほど
就寝時には、しっかりエアの隣を陣取っているガブリオの姿が見られたらしい。
鍛冶場にもう1つベッドが追加されるのも、時間の問題だろう。


――――――――― ・・・ちなみに。


ガブリオが護衛獣になって1番被害を被ったのは
やはりというか予想通りというか、勿論のことレキだったらしい。






『・・・レキが新しいベッドを使うことになるのは、間違いないでしょうね』(タタン談)













戯言。


・・・・・・すみません、またもや任那のお馬鹿加減を曝け出す結果となりました・・・
ガブエア小説、第三弾です。
今回のテーマは、『ガブリオをエアの護衛獣にしてみよう!』・・です。
いや、確かにベタなんだけど、でも折角ガブリオさん召喚獣なんですから
このネタ最低1回はやっておかないとと思い・・・ッ!!(間違ってる)

ことの始まりはベッド1つしかないのに、どうやって寝てるんだろうという任那の素朴な疑問。
・・・もとい、妄想から始まりました(オイ)

え!?でも鍛冶場ってベッド1つしかないよね!?・・ってことはやっぱり同じベッドで寝てるのかなぁ?
でもそれってアーノとかディナならまだしも、レキだったらちょっとおいしいかも・・・ッ!?(おいしいって・・)
(実際ディナだったら一緒に寝たがらなさそうだし、イグゼルドは無理な話だと思う)

・・・と、まぁそんなワケで。今回の話ではレキとアーノの2人が護衛獣として登場しています。
そうじゃないと、ガブリオの嫉妬加減が出せないので。
アーノに嫉妬していたら、ガブリオは余裕なさすぎだと思う(苦笑)

いや!ある程度してるだろうけど!!(爆笑)
この話みたいな暴挙に出るには、やっぱりレキぐらい危うい材料がなければやりますまい!
・・・と、任那の脳内では判断されました(笑)

ガブリオだって護衛獣にしてもいいと思うよ!?
ほら、首輪ついてるしネ!!(だからなに)
いっそのことリョウガだってOKです!(それはそれで某兄弟子のように下克上っぽい)
そういう意味じゃガブリオとリョウガって、どこまでも争えると思う。
剣の腕とか(多分リョウガが勝つだろうな・・・)どっちがエアを大切に想ってるかとか。
どっちがエアのこと知ってるかとか、どっちがエアのニオイわかるかとか!!(違)
そして左手の代わりにドリルを差し出すオルカ兄さん・・・う〜ん、理想だv(コラ)

・・・最後に反省。1stプレイの護衛獣レキなのに、口調とかあんまり定かじゃなくてごめんなさい。
いや、なんかもう・・・アーノのほうがキャラが強すぎてね、うん。
でもレキもよい子だと思う。やたら護衛獣だから護ってやる!!と連呼されが気が。






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2004/09/26