十日夜 ・・・あぁどうして。 手を伸ばして、触れてしまうのが躊躇われる。 触れてしまったら、もう戻れなくなるような気がして・・・ そして僕は、いつも貴女に触れる寸でのところで、ふと我に返る。 けれど、君は―――――――――― ・・・ 「どうかしたか?弁慶。」 「・・・え?」 「え?じゃないだろ。どうしたのかって聞いてるんだよ。」 どうして貴女は、いつもそんな僕に気付いてしまうんでしょう? 「・・・いえ、なんでもありません。」 下手に笑顔で誤魔化そうとした方が、却って君の不信感を煽ってしまうから。 だからそう答えたのだけれど、君にはいつも見透かされてしまう。 前を歩いていた筈の彼女は、いつの間にか僕の隣に並んで歩いていた。 「良く言うよ。今、結構どす黒い感情がぶわって渦捲いたぞ、ぶわって。 あれでなんでもないってことはないだろうに。」 「・・・さんには敵いませんね。」 呆れたように言う彼女に苦笑して、僕は呟く。 「言ったろ?はその手の感情に敏感なんだ。 普通の人間は表面を取り繕う技術はあっても、心の内を悟られるだなんて思ってもいないから、 どんな感情を抱いたかまでは、隠しようがない。」 望美さんより年上だというのに、妙に子供っぽい仕草を見せていた彼女は、 けれど次の瞬間、歳相応の表情になる。 「特に、お前みたいに表面と内面がちぐはぐな奴ほど顕著に顕れる。」 嘲笑うかのようなその笑みは、同じ年頃の娘達とは明らかに異なる。 そう。確かに普通なら、心の内を悟られるなんて思いもすまい。 絶対に在り得ないというそれは、人間がそう思い込んでいるだけで、 在り得ないかどうかなんて、本当は誰にもわからない。 けれども人がそう思うのは、普通ならば心の内など読めないからだ。 いつものおちゃらけてばかりいるのに、こんなときばかり声が真剣みを増す彼女は、 嘲笑とも羨望とも取れる眼差しで遠くを見つめ、まるで自分が普通ではないような言い方をする。 「・・・・・・。」 僕の沈黙をどう取ったのか。 彼女はすぐにいつもの調子を取り戻して、嘆息する。 「・・・ま、なに考えてるかまではわかんないから安心しなよ。」 果たして、わからないことは幸いだったのか。 ほっとする反面、いっそ全てに気付いてしまってくれれば楽なのにと思う僕がいる。 ・・・そうすれば。本当は優しい貴女は、きっと僕のために苦しんでくれるでしょう? 「―――――――― ・・・それは、良かった。」 ・・・けれど。この感情が暴かれたら、僕は今の僕ではいられなくなってしまうから。 「あぁ、でもさ――――――――――― 」 なのに、どうして君は――――――― ・・・ 「無理はするなよ。そんなんだからお前、年齢の割に苦労と心労背負い込むんだぞ。」 僕が欲しい言葉を、“わかって”くれてしまうのだろうか。 「・・・・・・ったく、もう少し九郎がアレだったらなぁ・・・」 「ふふ。でもそうでなくなったら、九郎ではありませんよ。」 「・・・・・・そりゃそうだ。」 それこそわかっているとばかりに、諦め半分にそう呟いた彼女は、けれど不意に。 その紫紺の瞳いっぱいに、僕の姿を映し出した。 面食らった自分の顔が、透き通ったそこに見えたような気がした。 「でもは、お前のその人間らしい狡賢さも冷酷さも、 そのくせ馬鹿みたいにお人好しで、自分ばかりを責める愚かしさも、愛おしいことだと思うよ。」 そう言って僕を見る彼女は、とても綺麗に微笑んでいて。 だから、僕は――――――― ・・・ 「(―――――――― ・・・期待、してしまう。)」 この人なら。地獄に堕ちるべきこの身さえも、嗤って受け入れてくれるのではないかと。 |
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戯言。 どうも。調子に乗って書いてしまいました、遙かinサモンなお話です。 ・・・あれ、逆かな?ごめんなさい、英語は文法もニュアンスもさっぱりです。 サモン夢の主人公達が、もし遙かの世界に飛ばされたらという設定のこのお話は、 かなりく前に気分で走り書きしたものだったのですが、最近になってそれを発掘し、加筆修正しました。 時間軸としては、サモン2や3以降ということになります。 なので設定にも色々変更というか追加がありまして、なんかはとある事情から、 感情というものがある程度は感知できるようになってたりします。 長編のネタバレになってしまうので、表立っては載せませんが、 やの裏設定とでもいいますか、 そういうのはそのうちなんらかの形で書けたらな、とこっそり思っています。 さて、結局何がいいたいのかはいまいちわからないこのお話のタイトルは、 “十日夜”と書いて、“とおかんや”と読みます。 月が真ん丸になって欠けてゆき、再び満ちて真ん丸になるまでの周期は、29.うんとか日で(適当だな) 月の見えない新月から数えて15日目が大体満月になるわけです。 そしてまた約15日かけて欠けてゆく・・・ その新月から数えて10日目の月が、今回のタイトルである十日夜になります。 15日が満月なので、丸に近いけど真ん丸じゃない。 つまり、それぐらい弁慶さん暴かれちゃってるけど微妙に見えない部分残ってますみたいな。 そんな意味で付けました・・・・・・といいますか。 たったそれだけのことを説明したいが為に、ぐだぐだ書き過ぎだよってお話ですね(笑) |
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