□ それは砂糖でできている □ |
「・・・ふむ。ジュード達は、一体なにをしているんだ?」 そう言って彼女が指差した先を目で追うと、かぼちゃの中身を刳り貫いて穴を開け、目や口を作ったものや、一体どこから持ってきたのか、かぼちゃと同じように目鼻を開けたシーツで、なにやら仮装しているらしいジュード達の姿が視界に入った。 ・・・いや、訂正しよう。恐らくジュードは、レイアやエリーゼに強引に押し切られて、巻き込まれただけだ。サイズの微妙に小さいかぼちゃの被り物に、力尽くで頭を押し込まれているジュードを見て、ガイアスは思った。彼は、妙なところで押しが弱い。 「・・・何故、俺に聞く?」 「それは、お前が一番手近にいたからだな。」 その光景を見て溜息を吐くガイアスに、疑問をぶつけた当の本人――― ミラは、どこ吹く風でそう言った。 ガイアスの記憶が正しければ、彼女にそういった説明を懇切丁寧にするのは、本来あそこでかぼちゃに頭をねじ込まれているジュードの役割ではなかったか。 「――――― あれは、地霊小節(プラン)の最終日に行うハロウィンと呼ばれる行事だ。」 しばし逡巡した後、ガイアスは重い口を開いた。 自称“人間好き”の彼女はこういったことに興味津々で、ガイアス達人間が当然のこととして受け入れていることに、あれはなんだこれはなんだと興味を示す。 “そのときは面倒だと思っても、きちんと説明しておいたほうが後々の面倒が少ないんだよ。” そう、笑顔で言っていたジュードの言葉を思い出した。 「はろうぃん・・・?」 「魔を払うためにああいった格好をして、各家庭をまわる。」 「ほう、魔除けの儀式なのか。」 「・・・本来はな。今では、人々が楽しむための催事としての意味合いが強い。Trick or Treatと言われたら、Happy Halloweenと応えて菓子を渡すことになっている。」 「なんと、菓子が貰えるのか!それは、なんとも美味い・・・いやいや、楽しそうな行事だな。」 そう言うミラの瞳は、先程とは違った様子でキラキラと輝いている。 その表情があまりに嬉しそうだったから、ガイアスは普段なら興味も抱かないこの行事に参加してみようかという気になった。 「・・・ならば、試してみるか?」 言葉の意味を図りかねたミラが、ん?と首を傾げているうちに、ガイアスはその言葉を告げた。 「Trick or Treat」 精霊の王と称する彼女が、思いのほか食べるという行為が好きだということは承知の上。その彼女が、たとえ菓子を貰ったとしてもそのままにしておくことなどないということは、最初からわかっていた。 ミラはガイアスがそんなセリフを口にしたことに一瞬驚いて見せたあと、折角の問い掛けに応える術がないことに肩を落とす。 ―――― だがそれも、全てガイアスの予想通りだ。彼女は苦笑して言った。 「残念ながら、今の私に菓子の持ち合わせなどないよ。」 「知っているか?Trick or Treatとは、菓子をくれねば悪戯をするという意味らしい。」 つい先程までハロウィンを知らなかったのだから、知っている筈がない。そうとわかっていて、ガイアスは問うた。 そうと知らず、ミラは真剣な表情をして“ハロウィン”を理解しようと腕を組み、考え込む仕草を見せる。 「・・・ふむ。それはつまり、私が菓子を持っていないのでお前が―――――― 」 最後まで言わせず、ガイアスは柔らかい金糸の髪に指を通してミラの頭を引き寄せた。 少し離れたところから、レイアとエリーゼの悲鳴が聞こえるが気にはしない。その中にジュードの声が混ざっていないことから察するに、未だ例のかぼちゃと悪戦苦闘しているのだろう。 (甘い―――― ) 自分でも驚くほどそうっと重ねた唇は、マシュマロのように柔らかく、チョコレートのように甘かった。 このままだと触れ合った部分から伝わる熱で彼女が溶けてしまいそうな気がして、ガイアスは名残惜しく思いながらも唇を離す。間近で見たミラの表情は更に甘く、ガイアスはひとつの疑問を抱いた。 人とは、こんなにも甘いものだったろうか?いや違う、彼女は――――― 「そうか・・・精霊の主は菓子でできていたのだな。」 極々真剣な眼差しで、吐息交じりに呟いたガイアスの言葉のほうが、レイアとエリーゼには菓子よりずっと甘いように思えた。 |
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ただガイミラをいちゃいちゃさせたかっただけのお話。 一体どういう状況なの?というツッコミはなしでお願いします(笑) 強い男性と女性の組み合わせって、いいと思うんですよ。特にガイアスみたいなタイプは、ミラみたいな人じゃないと隣にいられないと思います。 |
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2011/11/29