「こっちだよッ!」




はしゃいでいるジルに手を引かれながら、達は入り組んだ道を進んだ。
繁華街から商店街に続く、ゼラムの台所ともいえる大通りは
一歩大通りからはずれると、細い道が蜘蛛の巣のように広がっている。
地の利がない者が無闇に踏み込めば、迷ってもなんら不思議はないだろう。
そんな道を、達はいかにも慣れた風で、悠々と進んでいた。




「ジルは、サイジェントって街に行ったことあるか?」




が尋ねると、ジルは“サイジェント?”と首を傾げ、それからふるふると首を横に振った。




「・・・ううん、名前しか知らない。
ずっと前に近くまで言ったけど、お父さんが今はよくないって言って行かなかった。」


「それってさ、どれくらい前のこと?」


「うーんと・・・今から、1年と半年くらい前だったかな。」


「・・・そうか、なら仕方ないな。はね、サイジェントから来たんだ。」


はサイジェントの人なの?」


「そうだよ。今はサイジェントの街も、あの頃よりずっとよくなっているから
お父さんが元気になったら、いつか一緒に行ってみるといい・・・歓迎するよ。」


「うん!」




すっかりを信用したのか、ジルはよく彼女に懐いている。
少し背伸びをしながらと手を繋いで歩くジルは、
事情を知らない者が見れば、本物の姉弟と見間違えるだろうほどだった。










〓 第21話 破壊者の横顔 後編 〓










「ところで、ジルのお父さんはどんな症状なんだ?」




煉瓦の埋め込まれた些か足場の悪い道を歩きながら、が尋ねた。
の質問に、ジルは途端顔色を曇らせる。




「・・・ずっと、熱が下がらないんだ。」


「熱が?」




苦しそうに俯き、きゅっと眉を寄せるジルの表情からは、
父親の具合が、よくある症例にしては決して楽観的ではいられない状況であることが読み取れる。
それはと繋がれた手を握る、縋るような力強さからもわかることだった。




「・・・うん。ファナンに向かう途中で、僕達はぐれに襲われたんだ。」


「・・・・・・。」




ジルの言葉に、今度はが顔を顰めた。
自身、はぐれ召喚獣と呼ばれても可笑しくはない存在であるからだ。
姿形こそ違えど、似たような境遇の存在に襲われたと聞いて、決して気分は良くない。

は、自分や仲間達の事例から、
召喚獣と人間が共存することは、不可能ではないと思っている。
だが凶暴化し、人を襲うようになったはぐれ召喚獣はあとからあとから、
それこそまるでカマキリか蜘蛛の子のように湧いてきてキリがないし、
実際にジルの父親のような被害も、後を絶たない。

可能ならば、は召喚獣に無闇に怪我を負わせたり、命を奪ったりするようなことはしたくない。
だが現在のリィンバウムでは、まだそれも難しい状況にあることは事実だ。
人間だってはぐれに襲われる度に逃げるわけにも、無抵抗でいるわけにもいかないだろう。
そうしてまた誤った召喚獣のイメージが、人々の中に植えつけられていく。
召喚獣は戦いの道具だ、人を傷つけるものだ・・・



――――――――― ・・・人間と共存できない生き物だ。



・・・こんな状況では全ての召喚獣と人間が共存することなど、夢のまた夢。
そう思うと、かなり重たい溜息が漏れそうになる。どうしてこう、世界は上手くは廻ってくれないのか。
こりゃあエルゴも、さぞかし苦労したのではないだろうか?
が顔を顰めたのにはこれっぽっちも気付かないで、ジルが続けた。




「お父さんはとっても強いんだよ。けど僕を庇いながら戦って、怪我しちゃった。
ファナンで会った親切な人が、ストラでお父さんの怪我を治してくれて
それからしばらくは、お父さんも元気だった。
商品を売って、仕入れをして・・・今度はゼラムに向かったんだ。
けどゼラムに着いてすぐ、お父さんはいきなり高い熱を出して、倒れちゃったんだ・・・」




もし、ここがの生まれ育った現代日本なら。
病人は真っ先に病院へ連れていって、医者に診せるべきである。
だが、食事や生活習慣など多くのものが地球と似通っているリィンバウムにも
たった1つだけ、地球と決定的に違うところがあった。


それは一言で表すならば召喚術の存在、及びそれによる弊害。


リィンバウムでは召喚術が存在する為に、召喚術のない地球では、
それらの力の代用品として発展を遂げてきた科学や医療といった技術が、発達してこなかったのだ。

例えば、日本で怪我をしたならまずどうするだろう?
とりあえず、水で傷口を洗うなりして汚れや雑菌を落とし
消毒をしてからガーゼや絆創膏を貼って、傷が自然治癒するのを待つ。
ところがこれがリィンバウムでは、消毒や絆創膏の代わりに召喚術なのである。

リィンバウムにおいて、怪我の治療は基本的に召喚術で行うものであり、
召喚師が本業のかたわら、副業として医者の役割を果たすことが多い。
だからリィンバウムには、病人を大勢収容できる施設もなければ
治療を専門に行うプロフェッショナルなんてものは、ほとんど存在しないのだ。
これが軍隊や騎士団ともなれば、専属の医師がいるのが通例だが
それでもストラや回復の召喚術に長けている者が、そのまま軍医をしている場合がほとんどである。

それでもキールによれば、医療用機械人形という、
ロレイラルの住人が存在するらしいが、決してその辺りでポンポン見かけるような存在でもない。
治療についてのきちんとした知識を持った)セシルのような医師は、かなり珍しいほうなのだ。
(最も彼女は、現在は婚約者でもあるラムダのために、必死に学んだのだろうが)

がまだ、サイジェントに住んでいた頃。
サイジェントの街で、メルクルの眠りという伝染病が流行ったことがあった。
普段眠るのと変わらないように眠りに就き、そのままぐっすり、一生目が覚めないという、
穏やかなようでいて、空恐ろしいものがある病だったが、
よりにもよってその病に、フラットの子供達が感染してしまったことがある。

メルクルの眠りもそうであったが、召喚術では怪我を治療することが出来ても、病を治すことはできない。
あのときでさえ、やフラットのメンバーが頼ったのは病院でも医師でも、ましてや領主なんかではなく、
本職であるシノビの傍ら、正体を隠す為に副業で薬屋を営んでいた、シオンその人だった。

そんな世界だからこそ、レルムにいるという聖女の噂がここまで広まったのだろう。
召喚術では癒すことの出来ない“病気”や
目や身体の不自由な人、召喚術による治癒の効かない症例を治療するために、
多くの人々が聖女
―――― アメルの起こす奇跡を頼った。

目にしたって、現在の地球には角膜の移植手術なんて技術が存在するし
車椅子や、義手や義足を造る技術なんてものもある。
元の体と同じように・・・とまではいかないだろうが、人が人の手で治療する術を得ている。
それ以前に、早期にきちんとした治療を施していれば
その人達は視力や行動の自由を、失うことはなかったかもしれないのだ。
・・・それほどまでに、リィンバウムで医療というものは遅れている。

は症状を聞いてしばらく考え込んだ後、自分達に少し遅れて背後を歩くバノッサの表情を伺い見た。




「・・・どう思う?」


「妥当なところで言えば、毒だろうな。」


「それで発熱してるって?」


「あァ。」




バノッサが神妙な顔で頷くと、は静かに瞼を閉じ、
“う〜ん”とわざとらしい唸り声を発しながら、またもや何事かを考え始める。
そして、そんな自分の様子を横から瞬きもせず見上げていたジルに、こう尋ねた。




「ジル、お父さんに怪我をさせたはぐれ召喚獣のことなんだけど
どんな姿をしてたとか、どんなふうに襲ってきたかとか、思い出せるかな?」


「お父さんが戦ったはぐれ召喚獣?」


「そう、ジルが覚えてるだけでいいんだけど。」




の質問に、今度はジルが考え込む。
数秒して、ジルは自らの記憶を確認していたのか、確信の口調で言った。




「カボチャに良く似た格好の、橙色をしたはぐれ召喚獣だったよ。」




“これくらいの”と、ジルは両手で楕円形を作って見せ、
に父親に怪我を負わせたはぐれ召喚獣の、その大きさを伝えようとしていた。
はジルの作った楕円を眺めながら、不可解そうに眉を顰める。




「・・・パンプキーノ?それなら、毒は持ってない筈だぞ?」




なぁ?と自分の記憶に間違いがないことを確かめるように、彼女は背後を振り返った。
後ろを歩く2人に視線だけで問いかけると、リューグがそれに無言で頷く。




「他に原因があるってのか?」




リューグが頷くのを横目でチラリと確認しながら、バノッサが呟いた。
しかし、自分で口にした“他の原因”とやらがなんなのかまでは、思いあたらなかったようだ。
他の原因という可能性を提示され、はさもらしく顎に手を当て首を傾げる。




「んー、じゃあ傷に菌が入ったことで引き起こされた発熱とか?
でも、それでいきなり発熱なんてするものか?炎症とか起こすほうが先だと思うんだけど・・・。
それとも拒絶反応でも起した?アレルギーとか?
いや、それでもやっぱり最終的には“何に?”に行き着くよなぁ・・・」




完全に自分の世界に入ってしまったらしいが、
俯き加減のまま、ブツブツ呟きながら歩いていると不意にジルが、
の服の裾を引っ張って、彼女の歩みを妨げた。




「ここ、ここだよ!」




その一言で初めて、は自分が目的地に到着したことと、
考え事に夢中になっていて、目的地を通り過ぎようとしていたことに気付く。
足を止めて、足元に向けていた視線を上げる・・・そして、呆然とした。




「って、ここ・・・」


「・・・俺達がゼラムに来て最初に泊まった宿屋だな。」


「大当たり。」




背後から、妙に落ち着き払った声で告げてくるバノッサに、も振り向かないまま返事をした。
なんの準備も心当たりもなく、ゴロツキ共の抗争に巻き込まれたため、
襲撃を受けた際に、多大な被害を出してしまった、曰く付きの場所である。
特別大きいわけでもないその建物が、突然物凄く敷居の高い場所のように思えて
は思わず目を細め、眩しそうに宿屋を見上げた。
・・・確か、いかにも人の良さそうなお爺さんが1人で経営していて、1階では食堂も併設していた筈だ。




「・・・うわー、微妙に入り辛いな・・・」


「なんだよ?お前らここでもなにかやらかしたのか?」




宿に入るのをどことなく躊躇している様子のに、
腕に抱えたたくさんの袋の合間から顔を覗かせて、リューグが尋ねた。
ハルシェ湖での、あの騒動を目の当たりにしているだけに
この2人なら、どこで問題を引き起こしていようとも、可笑しくないように思えた。

実は達が、ゴロツキ共の襲撃に遭って
大きな被害を出してしまったのは、この宿屋だけだった。
普段なら、例え喧嘩をするときであってもある程度は、周囲への配慮を忘れないだが
まさかそんなことになるとは、露ほどにも思ってもいなかったため・・・
・・・まぁ、はっきり言えば油断していたのである。

別に、だからといって宿の修理代を踏み倒したとかいうわけではない。
ただこの宿屋のご主人が、あまりにも“いいひと”だったものだから、尚更申し訳ないのだ。
そこまで考えてはまだ、自分が良心なんて殊勝(しゅしょう)なものを持ち合わせていたことに感心する。




「いや、達がっていうよりやらかしたのは他のヤツラなんだけど、
達が目的だったというか、なんというか・・・」




全部話そうとすると、なかなかに面倒臭いことになるので
なんとも煮え切らない説明をしていると、ふと不安そうにこちらを見上げるジルと瞳が合った。
不安げに揺れる彼の瞳を見て、はいけないいけないと頭を振る。

中途半端なの返答は、やはりリューグにとっても
満足のゆく回答とはいかなかったらしく、眉間に深い皺が刻まれる。
けれど彼にとって、それは然程重要な問題ではなかったらしい、すぐ興味は失せたようだった。




「まぁ、俺はなんだっていいけどな。コイツの親父の容態も
ココでごたごた言ってるより、実際に見たほうが手っ取り早いだろ。」


「そりゃそうだ。」


「だったら、さっさと入ろうぜ。」


「・・・まさか、早々にリューグに(さと)される羽目になるとは。」


「・・・・・・なんか言ったか?」




ジトっとした眼差しを向けるリューグに、は構わず背を見せて
自分の服の裾にぶら下がるように掴まっているジルに、にっこりと微笑んだ。




「いや、なんでも。それじゃあジル、行こうか。」


「・・・ぁ、でも・・・」


「大丈夫だよ。別に、入りたくないわけじゃないから。
ただ、ここのご主人にはちょっと悪いことしちゃったなって、思ってただけさ。」


「本当に、平気?嫌じゃない?」


「あぁ、だから心配しなくていいよ。」




自由なほうの手で、髪をくしゃくしゃとしてやると、ジルはくすぐったそうに笑った。
ジルはジルで、幼いなりに必死に気を遣ってくれているらしい。
こんな小さな子に、気を遣わせてしまったことを反省すると同時に、
本当にしっかりした子だと感心もして、の口元によくわからない苦笑が浮かぶ。
少し重量のあるドアを開けると、その振動に合わせて、
ドアの上部に取り付けられた小振りの鐘が、からころんと心地のよい音を立てた。




「いらっしゃい。」




その音に呼ばれて、奥のほうからいそいそとやってきた初老の男性は
そこにとバノッサの姿を認めて、おや?とばかり瞳を見開いた。




「あんた達は・・・あぁ、やっぱりあのときの!どうだい?
こっちはあれからぱったり何も起こらなかったが、あんた達は大丈夫だったかい?」




どうやら、いくらここが聖王都の首都とは言っても
真夜中に突然、ゴロツキ連中の襲撃を受けるお客は珍しいらしい。
ただでさえ、格好の派手さ(主にバノッサ)や言動(主に)で注目を集めやすいこの2人は
たった数日泊まっただけの宿屋の主人にも、それはもう強烈な印象を残したようだった。
そのことに気付いて、は微かに失笑する。




「あはは・・・いやもう、あれからずっと付回されっぱなしでさ。
寧ろ、そろそろ打ち止めかなってぐらいだよ。」




くすくすと忍び笑いをして、カウンターに身を乗り出し
は宿の主人に極々簡単な近況を報告した後、更に身を乗り出して、人目を(はばか)るような小さな声で訊ねた。




「あのさ・・・」


「うん?なんだい?」


「・・・・・・部屋の修理費、あれで足りた?」




がそう訊ねると、宿の主人は一瞬きょとんと目を丸くしてから、
“なんだそんなことか”と、柔らかく微笑んだ。




「あぁ、それなら大丈夫。きちんと足りたよ、だから心配しなくていい。」


「そう、なら良かった。」




がほっと胸を撫で下ろすと、紙袋を腕いっぱいに抱えたバノッサが
まるで割り込むようにして、2人の間に入ってきた。




「おい、親父。それよりもこのガキが泊まってる部屋はどこだ?荷物が邪魔でしょうがねェんだよ。」




苛ついたように、持っていた荷物をドンッ!と乱暴にカウンターの上に乗せる。
その横で、バノッサに押し出される形で退いたが顔を顰めて
今の態度を咎めるような視線を送っていても、彼の態度が改まることはなかった。

しかし、宿屋の主人もほんの数日の間に慣れてしまったのだろうか?
そんなバノッサの態度も一切気にせず、
バノッサの言う“このガキ”とは一体誰のことだろうかと、不思議そうに首を傾げていた。
それに気付いたらしいバノッサは、“下を見ろ”と主人に目で合図を送る。すると・・・




「おじさん、ただいま。」




バノッサとの間に、半ば埋もれかけていたジルが
一生懸命爪先立ちになって、なんとかカウンターに顔を出すことに成功していた。
そこでようやく、宿屋の主人はジルが一緒だったことに気付いたらしい。
優しげな笑みを浮かべて、ジルを出迎えた。




「おぉ、おかえり!あんた達、その子の知り合いだったのかい?」


「いいや?偶然繁華街を歩いてたら、性質(タチ)の悪い連中に絡まれてるとこに出くわしてね。
そしたら父親が高熱で倒れてるっていうだろ?首を突っ込んだついでに、様子を見に来たんだ。」


「そうか・・・坊主、親切な人がいてくれて良かったな。きちんと買い物は出来たか?」


「うんッ、達が一緒に行ってくれたから大丈夫だったよ!」


「そうかそうか・・・あんた達、ありがとうよ。」


「いや、大したことじゃないさ・・・で、ジル。君達の泊まってる部屋は?」


「2階にあがって右側の、突き当りの部屋。」


「そう、じゃあとりあえずお父さんに会わせて貰えるかな?まずは達が診てみるよ。
それで原因が分からなかったら、薬草に詳しい人を知っているから頼んでみようね。」


「うん!」




ジルは元気に返事を返すと、先頭に立って2階へ続く階段を登り始めた。
も宿の主人に一言掛けてから、その後に続く。
颯爽と、まるで部屋に吸い込まれるように消えていくとジルの背中を眺めて、
“荷物のない奴の足取りは軽いな”と、リューグは浅い溜息を吐いた。
そして自分の隣で、同じように置き去りにされている男を見上げる。
その表情は不満というよりも、既になにかを諦めきっているようにも見えた。




「・・・お前、もしかしてずっとこんな調子でアイツに振り回されてんのか?」


「・・・・・・・・・・・・うるせぇぞ、赤触覚。」




リューグの一言はかなり痛いところを鋭く、それも深く抉ったらしい。
反論してきたバノッサの口調が、言葉の荒さに比べて、随分弱々しかったので
いつもなら真っ先に怒鳴り返すリューグも、言い返すのを忘れてちょっと同情してしまった程だ。
そんな2人の様子を見ていた宿屋の主人が、苦笑雑じりに告げた。




「すまなかったね。私がついていってやれれば良かったんだが
その間、店を空けていくわけにもいかなかったものだから。」


「あの馬鹿が好きでやってんだ、オヤジが気にするようなことじゃねぇよ。」




はぁ、と小さく溜息を吐いて、バノッサは数回肩をまわすと
カウンターに降ろした荷物を、また全て掻き集めた。
そして思う。いつから自分は、これほどまで彼女に感化されてしまったのだろうか?
・・・もう明確に、“いつから”とは思い出せないほど前のことであることだけは確かだった。




「それで、あのガキの父親の容態は?」


「あぁ、ずっと熱が下がらなくてね。
私らが見た限り、はぐれにやられたっていう傷口もきちんと塞がっているようだったんだが・・・」


「つまり、お手上げってことか。」




バノッサの言葉に、宿の主人は苦い顔をして頷く。
それなりに努力はしたらしいが、解決するには至らなかったようだ。




「冒険者をしてるあんた達なら、私らよりもはぐれや怪我の治療法にも詳しいだろう。
なにかわかるかもしれない・・・すまないが、診てやってくれないか。」




主人の願いをバノッサは、“そのためにここまで連れて来られたんだ”と鼻で笑った。
素直でないバノッサの言葉に、宿の主人は軽く苦笑する。




「・・・そろそろ、あの馬鹿が遅ぇッて騒ぎ出す頃だな、俺達も行くぞ。」




仕方なさそうに言うバノッサに、リューグが“あぁ”と頷こうとした、ちょうどそのとき。
バタン!と扉が開く音がして、しばらく前に消えた筈のが、ひょっこり顔を覗かせた。




「遅い。2人とも何してんだよ?さっさと来いって。」


「・・・うるせぇ、今行こうとしてたところだ・・・」


「・・・・・・。」




たったそれだけのやり取りで、バノッサの年季の入った苦労を垣間見てしまったリューグは
前を歩く彼の背中に掛ける言葉も見つからず
腕いっぱいの袋を抱えて、文句も言わず大人しく階段を登ることにしたのだった。














内側からキィっと扉が開かれて、バノッサとリューグはその隙間に体を滑り込ませるようにして中に入った。
部屋はシンプルな2人部屋で、突き当たりに大きな窓がひとつあり、
外を眺めながら座れるよう配慮してか、傍にはテーブルとイスが一式。
壁も家具も、木材をそのまま使用した木目調の物が中心で、淡いグリーンのカーテンがよく合っていた。




「おい、様子はどうだ?」




バノッサの後を追うようにして、リューグが部屋に入ったときには
既にはベッドサイドに寄って、ジルの父親の容態を診ているところだった。
がそこにいるところをみると、荷物で手が塞がっている自分達を気遣って
内側から部屋の扉を開けてくれたのは、どうやら彼女ではなかったらしい。
リューグの予測を裏付けるべく、扉の影から現れたジルが、扉を静かに閉めながら
“荷物は奥の、テーブルの上に置いてくれますか?”と、申し訳なさそうに言った。

リューグとバノッサが、荷物を置きに指定されたテーブルのほうへと歩いていくと
がジルの父親を見つめたまま、目を離さず呟いた。




「あー、うん。なんか傷口はきちんと塞がってるみたいなんだ。」


「・・・だろうな。宿屋の親父もそんなこと言ってやがったぜ。」




さっさと荷物をテーブルに降ろしたバノッサは、そそくさとの横に並び
ベッドに片手をついて体を支えると、時折苦しそうに魘されるジルの父親を見おろした。




「治療した奴の腕が良かったんだな、痕も残らず綺麗に治るよ。」




そう言っては、もう治りかけている、けれど怪我としては、
かなり重傷だったろう、その傷痕を見せる。
それはもう、“傷”というよりは“傷だったもの”になりかけていた。




「他に外傷はないのかよ?」




荷物を置き終えたリューグも、達と同じようにジルの父親を囲んで尋ねた。
ベッドの反対側から顔を出したリューグを、瞳だけでチラリとだけ見上げて
はもう1度、他にどこか外傷がないかを、丁寧にチェックし始める。




「服まで脱がせてないからわからないけど、多分・・・・・・ん?」


「どうした?」




訝しむの声に、リューグだけでなくバノッサもすぐさま反応して顔をあげた。
部屋の端っこで大人しくしていたジルまでもが寄ってきて、全員がベッドの周りで前屈みになる。
はジルの父親の、左足首の辺りを見ているようだった。




「なんだ、これ?・・・・・・咬み痕、か?」




どうやらなにか見つけたらしいが、それがなんなのか判断がつかないらしい。
眉根を寄せて、唸りながら首を捻った。




「あァ?どこにあんだよ?」




バノッサは瞳を細め、の目線の先にあるものを見つけ出そうと、先程よりも前傾(ぜんけい)姿勢になる。
それでも、なかなかそれらしいものが見つけられないバノッサに
痺れをきらしたは、体をずらして場所を空けると、じれったそうにここだと指で差し示した。




「だから、ほら・・・・ここだって!分かり辛いけど、親指の付け根んとこ・・・
なんか小さい点が3つあって、三角形作ってるだろ?」




が指し示した場所を、バノッサは眉間にめいっぱい皺を寄せて見つめる。
ややあって、“あぁ”と声を出した。




「・・・・・・確かに、なにかの痕みてぇだな。」


「だろ?」




バノッサとが、咬み痕だとか違うのではないかとか
いつものように決着のつかない言い争いをしていると、リューグが妙なところに関心を示した。




「今、三角形って言ったか・・・?」


「へ?あ、うん。言ったけど・・・なに?リューグ、心当たりあるのか?」




なにか思うところのありそうなリューグには、“こっちへ来て見てみろ”と手招きをする。
リューグは素直に反対側にまわって、の隣までやって来た。




「少しだけな・・・どこだ、それ?」


「ほら、ここだよ。」




の指差す先を、リューグはしげしげと観察する。
そこには確かに薄っすらと、棘かなにかで刺してしまったような痕が3つあった。
それは常人なら、見落としてしまってもおかしくないくらい目立たないものだったが
それに気付けたのは、彼女の洞察力が鋭いからか、それともただの偶然か・・・。

しばらくその“痕”をじっと見つめて、リューグは確信を得る。
そして、隣でこちらの様子を窺っているに、ニヤリとした笑みを向けた。




「こんな小さいもん、よく気付いたな。」


「あぁ、うん・・・まぁ、偶然?」




は軽く首を傾げて見せてから、この“痕”の正体はなんなのかと、視線だけでリューグを急かした。




「・・・こいつは多分、毒蛇だな。」


「毒蛇?」


「あぁ。」




聞き返すに、リューグは軽く頷いて見せた。
はバノッサと顔を見合わせ、2人とも同じタイミングで首を捻る。
こんな咬み痕を残す蛇に心当たりがあるかどうか、互いに確認しているようだった。




「お前達が知らないのも無理ねぇよ。コイツはこの辺りだけにしか生息してないからな。」


「ご当地限定の蛇ってやつか?」


「なんだよそいつは・・・ッて。んなことは今、この際どうでもいいぜ。
とにかく、長細い牙が3本あって、草みたいな色してる紛らわしい毒蛇だ。」


「ほぅ?そりゃ確かにサイジェントの辺りじゃ見かけねぇようなヤツだな?」


「牙が細くて、咬まれてもほとんど痛みがない。
しかもその痕跡があんまり目につかねぇから、気付かない奴も多いんだよ。」


「へぇ、ヤケに詳しいじゃん?」


「・・・こうやって高熱出す奴が、村にも・・・」




そこまで告げたリューグはけれど、一瞬言葉に詰まった。
どうして自分がそんなことに詳しいか、その理由を無意識のうちに思考で追いかけて、
今、一番思い出したくない答えを見つけてしまった。

夜だというのに煌々と、真っ赤に燃え上がる空。
黒く焼け焦げて崩れ落ちる、力無く倒れこんでいる人だったモノ、家。
瞬間にして、その光景が鮮明に蘇ってしまい、リューグはそれを追い出すように、軽く首を振った。




「・・・・・・・・・村にも、年に何人かいたんだよ。」




瞬きもせずにはがリューグをじっと見つめている。
それを、頬の辺りに感じながら、リューグはその圧力に押し出されるように、どうにかそれだけを紡ぎ出した。




「・・・そっか。」




あまりにあっさりしたの返答に、ちょっと拍子抜けする。
・・・もっとなにか言われるのではないかと思って、身構えていたから
彼女の反応があまりにも淡白で、肩透かしを喰らった気分だ。

薄情なのか、感情を抑制しているのか。良く解らない声色で一言だけ。
ちらっと横目で覗き見ると、は困ったように苦笑していた。
奇妙な顔つきをしているリューグに、差し伸べるように手を出して、“どうぞ?”と続きを促す。
なんとなく気まずくて、リューグはジルの父親に視線を戻した。




「・・・毒自体は弱いから、体中にまわるまでにそれなりの潜伏期間がある。
咬まれたことさえわかっちまえば、死ぬ確率は低いんだがな。確か、特効薬になる薬草が・・・」




特効薬になる薬草も、この辺りに自生していた筈だ。
だがそれについてはリューグより、アメルやロッカのほうが詳しいだろう。
そう言いかけたとき、が声をあげてリューグの言葉を中断させた。




「あ〜・・・、そんなのは今わかんなくてもいいって。」




言いながらも、彼女はそそくさと数歩後退って、ベッドから適当な距離を置いた。




「特効薬になる薬草の話は、後でジルにでも教えてやって。
そういうのは、知っておいて損になることは絶対にないからさ。
でも今はジルのお父さんもこんなに弱ってるんだし?手っ取り早くいこうか。
今の話を要約すると、つまりは毒が原因ってことなんだろ?」




瞳を丸くしながら、リューグはの言葉に肯定を示した。
しかし、特効薬を作らないでどうするつもりだというのか・・・




「・・・まぁ、な。」


「それなら。」




はリューグの疑問など見透かしたように、ニヤッと面白可笑しそうに笑った。
彼女はなにかを探るように、片手を腰の鞄に入れる。
そこでリューグは気が付いた。が何をしようとしているのかに。
ブツブツと何事かを呟き・・・リューグの予想に違わず、緑色の光が鞄から溢れ出た。




「・・・幻獣界の友よ、我が声に応え姿を現せ・・・・・・ウィーリィっ!」




彼女の声に応えて、一際眩い光が部屋全体を包みこむ。
もう何度目かになるとはいえ、リューグはまたもその眩しさに、反射的に瞳を瞑った。
やがて光が治まると、そこには穏やかな笑みをたたえた人魚
―――――
幻獣界メイトルパの住人、ローレライの姿があった。
下半身には、足の変わりに尾鰭が付いていると言うのに、
どうやっているのかはわからないが、まるで空中を泳ぐように浮いている。

ローレライは、呆然としているリューグやジル、そして室内をゆっくりと見回し
自分を見上げている者達の中にの姿を見つけると、彼女に向けてにっこり微笑んだ。




「お呼びですか?。」


「応えてくれてありがとう、ウィーリィ。」




どうやら、ウィーリィというのがこのローレライの名前らしい。
リューグは、バノッサの言葉を思い出していた・・・
―――― 『アイツの召喚獣は1匹1匹、種族名とは別に名前があんだよ・・・。』
漸く能が正常に活動し始めたリューグは、そこでやっと浅い溜息を吐く。




「・・・・・・お前な。召喚術使うなら、せめて前もって予告してからやれよ。ジルが驚いてる。」




リューグの発言に、それまでのほほんと召喚獣と会話を交わしていたが、
“しまった!?”と言わんばかりの表情をした。
・・・リューグの腰には、召喚術の光に余程驚いたのか、
目を瞠り、石のように固まってしまったジルが、精一杯の力でもってしがみついている。


これほどまでにジルが驚くのも、無理はなかった。
とそれなりの付き合いらしいバノッサは、慣れているのか微動だにもしなかったが
既に何度かその光景を目の当たりにしているリューグでさえ、
なんの合図も無しに行われる、唐突なの召喚術に、これほどまでに驚かされている。
せいぜい予告があったとして、鞄に手を入れる動作のみだ。
彼女はきちんとした呪文の詠唱すら、必要としないのだから。

一般市民にとって、召喚術とはそれほど日常生活から掛け離れているものだった。
しかも召喚師という連中が、揃いも揃って秘密主義者で
潔癖なまでに部外者に対して排他的な態度を取るのは、とても有名なことだ。

中には例外もあって、どこの派閥にも所属していない召喚師くずれが、金を積めば技術を差し出したり、
召喚術を商売として利用している金の派閥なんて召喚師集団もあるが、
彼等は決して、積極的に召喚術を広めようとはしない。

その為、街で普通に暮らしている人間のほとんどは
まともに召喚術が発動するところすら見た事がない者が多いのだ。
そんな世間の流れだから、ジルの反応は寧ろ当然のことだと言えた。


――――――――― ・・・だからこそ。


人々は自分達の知らない力を持っている召喚師を、畏怖(いふ)と尊敬の目で見るのだが。
そうすることで召喚師は、自らの地位を確立し、守ってきた。

一般的に、召喚術は戦う術とされているし
多くの召喚師は、召喚獣を戦うための術、道具としてしか見ていない。
その点から言えば、リューグの知り合いでもある、
底抜けに明るくて、お人好しな双子の召喚師は、かなりの変わり者の部類に入った。




「あー・・・、ごめん、ジル。驚かせちゃったかな?」




屈んで、バツが悪そうにが苦笑すると、ジルはそこで我に返ったらしい。
ハッとなって、服を思いきり掴んでしまったことを慌ててリューグに謝罪してから、
驚愕と尊敬がない交ぜになったような声を出して、に詰め寄った。




は召喚師だったの!?」


「召喚師って呼べるほど、きちんとした召喚師ではないんだけどね・・・」




ジルの問いに、は少し逡巡(しゅんじゅん)して・・・




とウィーリィはね、友達なんだよ・・・うん、やっぱりそのほうがしっくりくるな。」




自分の導き出した答えに満足して、にっこり笑った。
ハルシェ湖で騒ぎを起こしたときから思っていたが、も少々・・・
いや、かなり変わり者の召喚師に分類されるらしい。

・・・そういえば、を男だと勘違いして殴ってしまったあとに
彼女が女だと怒り狂って叫んでいた奴も天使だったと、リューグは今更ながらに思った。
主が主なら、召喚獣も召喚獣だ。リューグがぼんやりそんなことを考えていると
に召喚されたローレライを見て、バノッサが(おもむろ)に口を開いた。




「サイジェントを出るとき、ハヤトに押し付けられた奴じゃねぇか。」


「そうだけど・・・そういう言い方するなよな、ウィーリィが傷つくだろ?」




その言い方が不服だと、むっとした顔をして見せるの後ろで
ローレライのウィーリィが、こくこくと頷いてそれに同意を示していた。

だがそんな言葉とは裏腹に、その辺りにいる召喚師よりはよっぽど、
バノッサの方が、召喚獣に対しても対等に接している。
それを知っているから、も本当に嫌悪を感じているわけではないし
言われているウィーリィ自身も、実際そう思っているというよりは、
と一緒になって、半分バノッサをからかっているところがあるようだ。

なにしろバノッサは口が悪いので、そこまで察するのはなかなか難しいが
そうでなければがリューグに殴られたときも、
あのように、リプシーに大人しく擦り寄られていたりしていなかっただろう。




「もう“真の名”を聞きだしたのか?・・・ッたく、いつも通り無茶苦茶やりやがるぜ。」




ケッ!とわざとらしく悪態を吐いて、バノッサがそっぽを向いた。
そんなまるで、本当の友人達のようなやり取りを見て
彼等にとって召喚獣はモノではなく、あくまで友達なのかもしれないとリューグは思う。

そもそもリューグは、トリスやに出会うまで
人と話すことの出来る召喚獣がいるとか、そういうことは深く考えていなかった。
今までに見てきたはぐれ召喚獣達は、唸るだけで言葉を解していなかったし、
リューグ自身倒そうとは思っても、話してみようとは微塵も思わなかったからだ。
召喚獣は戦うための道具だというイメージが先行して、根付いてしまっていたのだろう。
こんな風に召喚獣と会話しているなんて、これまでの常識では考えられない話だった。




「それでね、ウィーリィ。早速で悪いんだけど・・・」


「また、なにか異常状態に?は本当に、異常状態に弱いですからね。
マスターが懸念されるのも、無理はありません。」




深く、深く溜息を吐かれて、はひきっと頬を引き攣らせた。
リューグの気のせいでなければ、バノッサもウィーリィに同調しているように見える。




「あ、あははは・・・いや、でも今日治療を頼みたいのはじゃないんだ。」




は今にも裏返ってしまいそうな声で笑って、話を誤魔化した。
ウィーリィが、不思議そうな面持ちで尋ねる。




「・・・と、申しますと?」


「こっちの人なんだけど・・・」




の視線に促されるようにして、部屋にいる全員が、ベッドに横たわるジルの父親へと目を向けた。
高熱のためか頬は火照っていて、額には薄っすらと脂汗が浮かんでいる。
瞳は閉じられているが、呼吸も荒く、見るからに辛そうだ。




「なんか、中央エルバレスタ特有の毒蛇に咬まれたらしくって。
解毒、お願いできるかな?ちょっと大変かも知れないけど・・・」




ウィーリィは神妙な面持ちで、背を丸めてジルの父親の顔を覗きこむ。




「・・・これは、確かにお辛そうですね。」




ジルの父親の容態は、ウィーリィの目から見ても(かんば)しくないのか
彼女は眉間に皺を寄せ、普段より幾分か低い声で、苦々しく呟いた。

そのとき、なにか小さいものが、ウィーリィの目の前に突如として飛び出した。
突然のことだったので、すぐにはわからなかったが、
それはやリューグの合間をすり抜けて、やっとのことで顔を出したジルだった。




「お願い、ウィーリィ!!僕のお父さんを助けて!!」




突然視界に現れたジルに、ウィーリィは一瞬きょとんとしたあと
心配顔のジルを安心させるように穏やかな笑みを作り、それからしっかりと頷いた。

・・・こういうとき、子供は純真で無垢だ。
大人のように召喚獣だとか人だとか、馬鹿みたいなことをごちゃごちゃと考えないで
素直な思いを、そのまま口に出来るのだから。




「・・・ええ、もう大丈夫ですよ。あなたのお父さんは、必ず助けて見せますから。」




優しい声色でそう言って、ジルの顔に安堵の色が広がるのを見届けてから
ウィーリィは、ジルの後ろにいるに視線を移す。




「そういうわけですので、。」


「なに?」




が問いかけると、ウィーリィはキリッとした表情になって
少しだけ悔しそうに、首を横に振った。




「残念ながら私の力では、熱を下げることまでは不可能かと思います。
私が毒を浄化したあとのことは、貴女にお願いできますか?」


「それは、勿論。こちらこそ願ってもないことだよ、ウィーリィ。
ありがとう、ジルの力になってくれて。」




は優しげに微笑んで、足元から自分を見上げるジルを見下ろした。
ジルは少しの間ぽかんとして、とウィーリィの顔を交互に見比べていたが
がポン、とジルの頭に手を置くと、あっというまに笑顔になった。




「・・・ありがとうッ、ウィーリィ!!」




嬉しそうなジルを見て、ウィーリィもつられたように口元を綻ばせる。
それからふと真剣な眼差しになって、幾分申し訳なさそうにに告げた。




。いつもより、その・・・ほんの少しだけ。魔力を多く、消費するかもしれませんが・・・」


「あぁ、構わないよ。それぐらいなんともないさ、どーんとやっちゃって。」


「はい、ありがとうございます。」




あっけらかんと言い放ったに、ウィーリィは敬意を表して軽く頭を下げ
少しだけ嬉しそうに微笑んでから、ジルの父親の治療に取り掛かった。

ウィーリィが胸の前に手を伸ばすと、そこに先程までは存在しなかった槍が出現する。
そしてふわふわ浮いているそれを手で掴むと、祈るように瞳を閉じた。
ベッドで眠るジルの父親にそっと槍を向けると、やがてその先端が淡い光を放ち始める。




「・・・オイ、どういうことだよ?」




ウィーリィの使う、リフレッシュアクアの光が部屋中を満たす中
耳元でこそこそ囁くバノッサに気付いて、が一瞬だけ背後に視線をやる。




「え?あぁ・・・いや、なんてことはないんだけど、
どうもハヤトの奴が、ウィーリィにを護ってくれって頼んだらしくって。
それ以外のことには、どうも力が使い難いって言ってたんだ。・・・ったく、誓約ってこうとき不便だよな。
ちょっと頼み事しただけなのに、意図してない効果をもたらすんだから。」




そうやって、がブツブツ文句を言っている間に治療は終わったらしい。
段々と青白い光が治まっていき、ついには完全に消えた。
ウィーリィが“ふぅっ”と肩の力を抜くと、役目を終えた槍が、空気のように掻き消える。
額の汗を拭いながら振り返ったウィーリィに、が労いの言葉を掛けた。




「お疲れ様、ウィーリィ。無理させて悪いね。」


「いいえ。私が至らぬばかりに、にも負担をかけてしまいました・・・すみません。」


「それこそ、気にすることなんてないのに。
誰かがなにかを失敗したんだとしたら、君へのハヤトの“願い方”だ。」




ウィーリィは顎に手をあてて、“そうですね”とくすくす笑った。
それからふと、まだ目を覚まさないジルの父親に視線を落とす。




「毒は無事浄化しましたが・・・毒に蝕まれて、体のほうが随分衰弱しています。
目を覚ましても、しばらくの間は養生が必要でしょうね。」


「そう・・・ありがとう、ウィーリィ。」


「いいえ、のお役に立てたのならなによりです。マスターもきっと、喜んでくださるでしょう。」


「ウィーリィって、本当に謙虚だな・・・・・・役に立ったよ、とってもね。」




そう優しく微笑んで、は“じゃあ、またなにかのときに”と、ウィーリィを送還した。
去り際、ジルが“ばいばい”とウィーリィに手を振って、ウィーリィも嬉しそうに手を振り返していた。
ウィーリィの姿がすっかり消えてから、手を上げたまま、ジルが静かにに尋ねた。




「・・・ねぇ、。お父さん、治る?」




ジルの父親の顔から、もう苦渋の表情は消えている。
無意識に眉間に寄っていた皺も、時折聞こえる呻き声も、もう聴こえない。
だがジルの父親は、穏やかな顔をしたまま、一向に目を覚まさない。
は静かにベッドサイドに寄って、ジルの父親の脈を取り、熱を測った。




「・・・大丈夫。毒は消えたから、あとは熱がさがるのを待つだけだよ。」


「本当に?」


「あぁ。随分(うな)されていたから、疲れたんだろうね。しばらく寝かせておいてあげよう?」


「うん・・・良かった。」




ここまで来てやっと安心したらしく、ジルが感慨深く呟いた。
そんなジルを見て、は頬を緩める。




「・・・なぁ、ジル。」




そうやってが呼びかけると、ジルは“なに?”とを見上げた。




「しばらくは、まだゼラムにいるだろ?」




ジルは1度ベッドで眠っている父親を見てから、再びに向き直り、こくりと頷いた。




「うん、いると思う。」


「じゃあ・・・そうだな、今夜辺り。お父さんの様子を見に、またここへ来てもいいかな?」


「・・・勿論ッ!!」




一瞬間をおいて、それから元気に返事をしたジルの顔は、心の底から喜んでいるようだった。
ジルの返事を聞いて満足そうにしていたは、“ふむ・・・”と考え込む。




――――――― ・・・バノッサ。」




ちょっと前に住宅街で会った、一見人が良さそうな笑顔がクセモノの・・・
――――― ・・・今は薬師じゃなくて、蕎麦屋か。
ともかく知り合いを思い出しながら、はバノッサの名を呼んだ。
きっと今なら、まだ朝会った場所にいるだろう。
バノッサが、諦めたように“はぁ”と溜息を吐くのが聞こえた。




「・・・わかってる。解熱剤、用意させりゃいいんだろ?」




名前を呼んだだけで、バノッサにはが何を言いたいのかわかったらしい。
彼はいかにも面倒臭そうに、けれど断りもせず、
渋々といった様子でキッカの実の詰まった袋を何袋か手に取った。
不器用なその優しさに、はくすくすと笑う・・・やっぱり、根はいい奴なのだ。
ああいう態度にでもでなければ、彼は他人に優しく出来ないだけで。




「あぁ、頼むよ。」




は軽く手を振って、振り返りもせず部屋を出て行くバノッサの後姿を見送った。




「・・・あいつ、どこ行ったんだ?」


「ちょっと解熱剤・・・キッカ薬を、作って貰いにさ。心当たりがあるんでね。」




不思議そうに問いかけてきたリューグに、簡潔に答えを述べる。
ジルは“本当!?”と喜び、リューグもそれ以上追求してはこなかった。
それは、今のにとっては救いだったと言えよう。
今から思えば、ギブソンとミモザの屋敷に案内してくれたときのシオンは
既にトリス達のことを知っているような口振りだったからだ。






・・・絶対なにかあるぞ、あれは。






内心ちょっとだけほっとしながら、はバノッサが帰ってくるまでの間
文字通り山ほど買ったキッカの実を片づけないかと、ジルとリューグに提案したのだった。













「ちょっと、本気で買い込みすぎたかな?」


「だから、最初に言ったろ。」




今頃になって謙虚に首を傾げてみせるに、リューグが鋭い指摘を入れる。
は“そうだったけ?”とワザとらしく空っとぼけて見せていた。

あれだけたくさんあった袋は、それでも随分数が減った。
キッカ薬を作るために、その大半をバノッサが持って行き、
(少々手間が掛かるが、その方が日保ちもするし持ち運びも楽だ。)
残りはジルの父親の滋養強壮と、旅を続ける際には必要不可欠な品物として、
そのままジルの荷物に仕舞われたり、2・3袋の手に渡ったりしたが、
それでもまだ残ったものは、今ここにいる3人で全て胃の中に処分することが決定された。

そんなわけで今、リューグの目の前には、どこからか持ってきたイスに座り
嬉々としてリューグの手元を覗き込む、とジルがいたりする。

・・・どうしてよりにもよってリューグが、キッカの実の皮剥きなんてしているのか。その原因はにあった。
このままでは食べ辛そうだと判断した彼女は、これまたよりにもよって、
召喚術を使ってキッカの実を、食べ易く切り刻もうとしたのである。
勿論これには、リューグとジルが大慌てで止めに入った。






有り得ない、普通に有り得ないだろその発想は・・・(滝汗)






・・・と、かれこれそういう事情で、部屋にあったナイフを拝借し、リューグが皮を剥いているのである。
ナイフを片手に慣れた仕草で、綺麗に皮を剥いていくリューグを見て
が “ほぅ・・・”と感嘆の溜息を吐くのが聞こえた。




「リューグって、見かけによらず器用なんだな・・・」


「(見かけによらずってなんだよ・・・)なんだ?
もしかしなくてもお前、トリスと同じで料理は壊滅的に駄目なほうなのか?」


「・・・・・・うるさいよ。」




リューグの言葉に一瞬ピタリと固まったは、懸命に何かを堪えようとしている声で呻くと
ぎゅと眉間に皺を寄せて・・・不貞腐れてしまったらしい、プイっとそっぽを向いた。
どうやら、リューグの考えは当たっていたようだ。
もしかしたら、自分が優位に立てたのはこれが初めてではないだろうか?
・・・リューグがちっぽけな優越感に浸っていると、それでも言い訳がましく彼女がぼやいた。




「・・・・・・まぁ、壊滅的っていうか?
台所使用禁止令が出て、食器運びくらいしかさせて貰えないけど・・・」






そりゃ、壊滅的なんだろ。






そう言いたい衝動を、リューグは内心必死になって押し殺した。
まだハルシェ湖での騒動は鮮明に、そして生々しく、リューグの脳裏に焼きついている。
は足を組みながらイスに座って、まだ拗ねているのか、むっすりとしていた。
その仕草が妙に子供染みていて、ここまできて漸く歳相応な姿を見たんじゃないかと思う。
ミモザによると、はトリスやマグナと同い年・・・つまり、
リューグより1つ年上でしかないらしいが、言動を見る限りよっぽどあの双子よりは大人だ。
まぁ、フォルテと同属性の、あんまり性質が良いとは言えない大人っぽさではあるが・・・・・・
そこでふと、ミモザの顔が脳裏に浮かぶ・・・・・あぁ、自分の周りはそんなのばかりじゃないか。

そんなことばかり考えて、リューグは知らず溜息が漏れていたりなんかしたのだが
彼が皮を剥き終わって、実を食べやすい大きさに切り分けていた、ちょうどそのとき。
の冷ややかな声で、部屋に流れていた和やかなムードは一変した。




―――――――― ・・・静かに。」


「どうした?」




真剣な表情のに、しかしリューグは落ち着き払って訊ねた。
ここでリューグまで慌てると、ジルにも無駄な動揺を与えかねない。




「・・・誰か、来る。」


「・・・・・・アイツじゃないのか?」




顔を近づけ、潜めた声で言うに、リューグも少し声を小さくして問い返す。
ジルも強張った顔をして、2人の会話に耳を(そばだ)てた。
出かけていたバノッサが戻ってきたのではないかというリューグの質問に、
けれどは、すぐさま否定を示して首を横に振る。




「いや、違うね。バノッサの気配じゃない、多分ジルに絡んでた奴らのお仲間だ。」




ジルの体に、今度こそ緊張が走る。カタッ、とイスが音をたてて揺れた。
それに気付いて、はしーっと人差し指を立てて見せてから、“大丈夫”とジルに微笑んだ。




「・・・リルエット。」




が喚ぶと、先程のような大袈裟な光もなしにポンッ!と小さな煙が立って、目の前に精霊タケシーが現れた。
タケシーは、大きな人魂に手と羽をつけたような生き物で、
つぶらな瞳と裏腹に、口は耳・・・があるのかどうかは別として、その辺りまで割けている。
びっくりしているリューグとジルにお構いなく、に召喚されたタケシーは
既に事態を把握しているような様子で、ヒソヒソとの耳元で鳴いていた。




「ゲレゲレー。ゲレ?ゲレッゲレゲレレー?」
訳: “わかってるって。あれでしょ?麻痺させて動けなくしちゃえばいいんでしょ?”


「・・・あぁ、頼むよ。」




リューグには、タケシーがなにを言っているのかさっぱりわからなかったが
(いや、なにかを伝えようとしているのだということはわかるのだが・・・)
彼女には通じているらしい、はニヤッと人が悪そうに笑って、タケシーに言った。

それにタケシーも笑って、まるで人が足音を殺すように、ゆっくりと浮遊する。
そうして、ふよふよと扉に近づいて行ったかと思うと、扉に耳(?)を()てがい、
くるりと後ろを振り返って、最終確認のつもりか、2人は視線を合わせ同時に頷いた。
途端、外の廊下でバリーンッッ!!というけたたましい音がすると同時に
誰かの“ぎゃああぁぁ!!”という、断末魔にも似た悲鳴が聞こえてくる。
タケシーが、してやったとばかりにを振り返って“ゲレ!”と言うと
も上手くいったと満足そうに立ち上がって、パチンと1回指を鳴らした。




「よしッ、リューグドア開けろ!」


「・・・お前、本気で言葉通じてんのか・・・?」




場違いな質問だとわかっていても、そう尋ねずにはいられない。
尋ねながら、リューグがドアノブを捻って扉を押すと、扉が何かに(つか)える。
少しだけ開いた隙間から外を覗くと、部屋のすぐ目の前の廊下に
先程の雷撃で痺れたのか、体をヒクヒクと痙攣させている男が2人ばかり転がっていた。
そのうちの1人と目が合って、リューグは思いっきり顔を顰める。
それは確かに、繁華街でジルからカツアゲしようとしていた男の1人だったからだ。




「ゲレゲレレェーー!!!」
訳: “べろべろばぁーー!!!”




いつの間にか、リューグの背後にまで飛んできていたのタケシーが
ドアの隙間から大きな口を、その思いもよらず小さい手で広げ、あっかんべーをして見せる。
リューグからしてみれば、“なにをやってんだコイツは?”といったところだったが
それだけで、身動きの取れない男達を怯えさせるには十分だったらしい、
彼等は唯一自由な口で、“ヒイィィィ!?”と非常に情けない悲鳴をあげた。




「た、頼むっ!殺さないでくれッ!!」




懇願する男に、タケシーは“ケケケッ!”と、バルレルのような笑い声を上げて、ニタリと笑う。
その笑みときたら、邪悪という言葉がピッタリで
隣で見ているだけのリューグですら、ちょっと御免被(ごめんこうむ)りたいところがあった。




「リルエット。」




が咎めるように呼ぶと
―――――― ・・・リューグの聞き間違いではなければ。
タケシーは“チッ!”と、あの長い舌で器用に舌打ちをして
さっきと同じようにふよふよ空中を漂って、のほうへと戻っていった。

・・・背中についている羽は、飾りなのだろうか?そんなどうでもいい疑問が、頭を掠める。

は肩の辺りにぴったりと、精霊タケシーを付き従え
ズボンの裾をジルに引っ張られながら、扉のところまで歩いて来た。




「・・・なんでが、お前達なんか殺さなきゃなんないのさ?
そもそも折角見逃してやったのに、わざわざ返り討ちにされに来るなんてどういった用件?」


「お前達なんだろう!?わかってるんだ・・・!!」




扉に凭れかかるようにして顔を出したは、男の言葉に眉を潜める。
細面のその男は、恐怖と怒りがごちゃ混ぜになったような顔をしてを見ていた。




――――――― ・・・なにがだ?」




の口から漏れた、思いがけず低い声は
それまでの彼女の口調と、なんら変わらぬはずなのに、妙な迫力があって
リューグは不覚にも、ビクリとしてしまった。




「ラングを・・・俺達の仲間を殺したのは!!」




もう1人の、猫背の男が大声で叫んだ。
物騒な発言に、リューグは驚いてを見たが
彼女はその名前に覚えがなかったらしい、眉間に寄せた皺が更に深くなる。




「ラング?誰だ、そいつは。」


「お、俺達と一緒にいた顎に傷のある男だよ!あんたもさっき見た筈だ!」


「・・・あぁ、そういえば1人足りないね。」


「とぼけるなッッ!!俺達がちょっと離れた隙にッ!
短時間であんな風に殺れるのは、あんたら終焉しかいねぇよ・・・!!!」


「・・・あんな風に?」


「あんな、あんな・・・ッ!!首と心臓だけを狙って、一瞬で・・・ッッ!!」


「おい、ちょっと待てよ・・・!」




雲行きの怪しくなってきた会話に、リューグは堪らず口を挟んだ。
確かに、ジルに絡んでいたヤツラは3人組だったが、今は2人しかいない。

・・・かと言って、が殺し?あのが?

今日会ったばかりの子供にキッカの実をこれでもかというほど買い与え
あまつさえ、お節介にもその子供の面倒をここまで見ているが・・・?

そんなことあるわけない、真っ先に感情が否定する一方で、彼の思考は冷静だった。
彼女の強さの一端を垣間見ているだけに、完全に否定は出来ないと思ってしまっている。
それにも、人を殺した経験が全くないとは言うわけではないだろう。



でも、仮にが殺したのだとしたら、いつ殺したんだ?だってコイツは・・・



そこまで考えて、リューグはハッとした
――――― ・・・彼女に出来る筈がない。
そう。あのときはまだ生きていた人間を、ずっと自分と一緒にいたが殺すのは無理だ。
その答えに行き着いて、自分のことでもないのに、リューグは何故かほっとした。
それにしてもややこしいのは、黙ってしまって何も言わないの態度だ。
彼女はどうして、真っ先に自分ではないと否定しなかったのか。




「コイツは今まで、ずっと俺達とこの部屋にいた。
それにいくらなんでも、子供連れで殺しなんてするかよ?」


「・・・え?」




リューグの一言に、細面の男は面食らったようだった。
猫背の男も呆けていたが、部屋の中にバノッサがいないと見て取ると、すぐ気を取り直して叫ぶ。




「じゃ、じゃあもう1人の男のほうだッ!そうに決まってるッ!そうでなきゃ・・・!!」


―――――― ・・・アイツがそんなくだらない殺し、するわけがない。」




猫背の男は尚も何か言い募ろうとしたが、迷いなく言い切るの声に遮られた。
信じている、とか希望している、のではなくて、彼女は既にバノッサではないと確信しているらしい。
そんな迷いのない強い言葉に、男もそれ以上反論が続かない。

だがは、それだけ告げるとまた口を噤んで、なにやら考え込んでしまった。
その眼差しは、戦場にいるときのように鋭いまま、
けれど焦点の合わない瞳で、ここではないどこか遠くを見つめている。
どうやら自分だけではなく、バノッサの弁解もする気は全くといって無いらしい。
リューグは仕方なく、彼女の身の潔白を証明するために口を開いた。




「お前たちの仲間が殺されたのは、どれくらい前だ?」


「・・・さ、三十分ほど前・・・」




細面の男が、虫の鳴くようなか細い声で言った。
するとそれだけで、賢いジルはバノッサにも、と同じことが言えると気付いたらしい。
ハッとした表情で、でも恐ろしいのかとリューグの影に隠れながら、懸命に証言した。




「バっ、バノッサお兄ちゃんは、その頃まだここに居たよ・・・!!
宿屋のおじさんだって、僕たちが一緒に入って来たのを見てるもの、間違いないよ!!」




そう。その時間なら、まだバノッサはこの部屋から出て行っていなかった。
そのバノッサにも、彼等の仲間を殺せるはずがない。時間的に無理が生じる。

今度は明らかに、猫背の男の顔にも動揺が走った。
所詮彼等の“あの2人が仲間を殺した”という結論は、空想でしかない。
猫背の男は言った
―――――― “俺達がちょっと離れた隙に”、と。
つまりそれは、誰も達が彼の仲間を殺害する現場、果ては姿も見てはいないということだ。

それでいて達を犯人と決め付けていたのだから
彼等の想像力は逞し過ぎる・・・いや、ここまで来るとただの被害妄想か。
リューグがそう結論付けて、心底呆れ返っていたとき。隣でが、小さく舌打ちをした。




「・・・・・・チッ、駄目だったか。」


「・・・あ?なにが駄目だったんだよ?」




そう言って、すぐ傍にあったの顔を覗きこむと、彼女は“いや”と首を振った。
心なしか、先程よりも顔色が悪いように見える。
そんな神経を持ち合わせているとは到底思えなかったが
やってもいない殺しの容疑を掛けられては、それも仕方のないことなのかもしれない。
だがどうやら、は自分の世界からは帰って来たようだった。
表情の硬さは消えなかったが、瞳に光が戻っている。




「・・・ジル、ちょっとこのお兄さん達とお話があるから、そろそろ行くね。」




がそう言った途端、まだ動けない男達が、目に見えて体を震わせる。
ジルはチラリと男達の様子を窺い、戸惑いながらも頷いた。




「う、うん・・・」


「我が名のもとに、来たれッ!ローレライ!遠異近異!!」




が声にすると、すぐさま鞄から光が溢れ出て
先程会ったウィーリィと、また名も知らぬシルターンの召喚獣が姿を現した。




「リルエット・・・それからウィーリィに焔、氷!」




初めて聞く焔と氷という名は恐らく、が遠異近異と言っていた召喚獣の名前だろう。
青と赤の、まるでリューグと兄のロッカように対照的な髪の色をして、頭に角を生やした小鬼のようだ。
彼等はの声色に何か感じ取ったのか、神妙な面持ちで次の言葉を待っている。




「ちょっと状況が変わった・・・悪いんだけど、
みんなにはジルの護衛と、ジルのお父さんの看病を頼みたいんだ。
はとりあえず、その殺された男ってのを見てこようと思う。」


「心得ました、。」


「ゲレ、ゲレゲレレ。」
訳: “わかった、気をつけてね。”




ウィーリィは静かに頷き、焔と氷と言うらしい召喚獣は、任せろとばかりに胸を張った。
リルエットだけは、相変わらずゲレゲレと鳴いていたが。




「・・・何度も喚び出して悪いね、ウィーリィ。」


「いいえ。それよりも、嫌な予感がします・・・・・お気をつけて。」




ウィーリィの言葉に、は頷くだけで応え、それから流れるようにジルを見た。




「ジル、また夕方来るから・・・そしたら一緒に、夕飯でも食べようか?」


「うん・・・、気をつけてね。」




ジルも子供ながらに不穏な空気を感じ取ったらしい、不安そうにそう告げた。




「大丈夫だよ。だから心配するな、ジル。・・・行くぞ、リューグ。」


「あ、あぁ・・・」




名前を呼ばれ、反射的に返事をしてしまってから、“決定事項なのかよ”と思う。
理不尽だと思う一方、ここに残っても自分が何を出来るわけでもないとわかっていたので
イスの脇に置いてあった紙袋を3つほど抱えると、急いでの後に続いた。

はそのまま外に出ようとして、廊下で痺れている男達に、扉を思い切りぶつける。
それを見ていたウィーリィが、すかさず槍を取り出して
未だ痺れている男達にリフレッシュアクアを掛け、身動きが取れるようにしてやった。
すぐさまそれを行える辺り、彼女はかなり気が利いている。




「お。サンキュ、ウィーリィ。」




扉を開けたまま、が振り返って礼らしきもの(さんきゅってなんだ?)を言うと
ウィーリィはやはり、にこりと微笑んだ。




「・・・う、動ける。」


「さっさと行くぞ、その男のところに案内しな。」




召喚術の効果を目の当たりにして、目を点にしている男達の背中に
は容赦ない蹴りと、ドスの利いた声をお見舞いしたのだった。













は銃を一丁抜き、男達の背中に狙いを定め
何時でも撃てるようにして、自分達の前を歩かせた。ギィギィと、階段が嫌な音をたてる。




「・・・あいつは放っといていいのかよ?」


「あぁ、バノッサなら平気だろ?放っとけば、勝手にくるさ。」




どうやって、知りもしない場所にやって来れるというのだろう?
・・・そう思ったが、敢えて言わないでおいた。がそうだと言うのだから、そうなのだろう。
あの男は、に来いと言われれば。
水中だろうが宇宙だろうが、それこそ異世界にだって行きそうな気がする(酷)
階段を降りて行くと足音に気付いたのか、宿屋の主人がカウンターから顔を出した。




「おぉ、あんたか。叫び声が聞こえて来たんだが、どうかし・・・」




宿の主人はそこまで言い掛けて、に銃を突きつけられて歩いている
ガラの悪い男達に気付いたらしい。目を丸くして、その場に固まった。




「・・・アンタ達、ちょっと止まりな。」


「「はっ、はいぃぃ!?」」




男達を止まらせると、は来た時と同じようにカウンターに肘を掛けて
ニヤリと挑戦的に、宿屋の主人を見上げた。
――――――――― ・・・だがその間も、銃口はゴロツキ達に向けられたままだ。




「大丈夫、今度はどこも壊してないよ。」


「・・・あぁ、そうかい?それはよかっ・・・いや、そうじゃなくてだね・・・」




はそんな宿の主人の様子に、くすくすと笑う。




「ただ、ちょっと話を聞きに行くだけさ。別に虐めてるわけじゃないから、安心してよ。
これは保険。妙な気起こして暴れられでもしたら、こっちが困るからね。」


「そういうことなら、構わないんだが・・・」




宿屋の主人は口ではそう言いながら、渋い表情を崩そうとしない。
腕を組み、むむむと難しそうに唸っている主人の口からは時折、
“若い女の子なのに危ない”とか“そんな連中と話なんて・・・”といった言葉が聞こえてくる。
・・・それを気にも留めず
――――― あるいは意図的に無視して―――――
が一段と声のトーンを低くして尋ねた。




「ところでおじさん、あの部屋の代金どうなってるの?」




突然の話題変換に、しかし宿の主人は“そのことか”と眉を動かした。




「・・・あぁ、もう3日分滞納してるんだが・・・なにしろ、父親があの状態だろう?
あの子には他に身寄りもいないみたいだし・・・放り出すわけにもいかなくてね。
とりあえず、父親が回復してから相談しようと思っているんだが。」


「そっか、ありがとうな。」


「いやいや。あんな良い子を見捨てたら、その方が後味悪くてしょうがないよ。」




ふぅ、と疲れたように言いながら、それでも結局面倒も見てしまう
お人好しな宿の主人に、は軽く苦笑して見せた。
そして銃を降ろさずに、空いているもう片方の手で、鞄の中身をゴソゴソとやる。




「3日分、だっけ?」


「あ、あぁ・・・?」




鞄から引き抜かれた手に、無造作に握られていたのは、お金だった。
は銃口をさげないまま、器用にヒョイヒョイと硬貨を数える。




「確か、ここって1日これぐらいだったよな?じゃあ3日とあわせて・・・はい、これで一週間分。」




はズイッと手を出し、カウンターの上にじゃらじゃらとバームを広げた。
宿の主人は呆気にとられた表情で、目の前でばら撒かれていくバームを見つめていたし
猫背の男と細面の男は、目の前の金にすっかり目を奪われている。
リューグは“またかよ”と額に手をあて、それはそれは、深すぎる溜息を漏らした。
確か今日は道具屋でも、似たような光景を見た気がする。
しかしそんな周囲の様子にも、は全くお構いナシだ。




「毒は抜いたから、あとは熱が引くだけなんだけどさ。
普通ならあと3日もありゃ十分だろうけど、随分こじらせてたみたいだから。」




宿の主人がひぃふぅみぃ・・・とカウンターに散らばったバームを数えていると
そこへが、更に追加のバームをバラバラ落とした。




「あ、あとこれでジルとあの子のお父さんに、うまいもんでも食わせてやってくれる?
また日が暮れてから顔出すつもりだけど、それまでにお腹空かせてたら可哀想・・・」




そう言いながら引っ込めようとしたの手を、宿の主人がやんわりと掴む。
そして呆然としているの手に、何かを握らせた。
手を引いたが、ゆっくり指を解いていくと、そこにはが支払ったバームの半分ほどが返還されていた。




「へ?おっさん・・・」


「これだけで十分だよ。」


「・・・へへっ、ありがとな。」




宿屋の主人の好意に、はくすぐったそうに苦笑してから
金に目を奪われてぼうっとしていた男の背に、冷たい銃口をグリグリと押し付けた。




「もういいぞ、歩け。」


「・・・お前、男には容赦ないのな(汗)」


「当たり前、を誰だと思ってんの。」


「俺はいいが・・・アメルとかミニスの前で、あんまりそういう真似はするんじゃねぇぞ?」




は一瞬、リューグの言葉にきょとんとしてから
懸命に笑いを堪えている様子で、いかにも楽しそうににんまりと笑った。
彼女の瞳は、確かにリューグを捉えている。
・・・そうして、大して気をつける気もなさそうな、緩い声で付け足した。




「・・・善処はするけど、非常事態のときは勘弁してくれよ?」













――――――― ・・・確かに、あのときジルに絡んでた男だな。」




猫背と細面に案内されて着いた場所は、もしかしたら彼等の隠れ家か何かなのかもしれない。
繁華街から路地裏を通って裏通りに入り、治安の悪いところにあるあばら家の1つで
床に敷かれた使い古しのシーツの上に、“ソレ”は丁寧に横たえられていた。


―――――――― ・・・顎に傷のある男の、遺体は。


見た目は綺麗なものだった。だから吐き気を催すほどでもない。
外傷は少ない。だが1つの無駄もなく、そして的確に。
“ソレ”は人間の急所と言う急所を突かれて、見事に殺されていた。
彼等の言っていた“あんな風に”とは、この事だったのかと思い当たる。

周囲をおっかなびっくり取り囲んでいる彼等の仲間は、遠巻きにこちらを見ていた。
そんな風に見られるのは気分が悪いが、どいつの目にも恐怖が見て取れるのは気のせいか。
ふと隣のを見ると、彼女は先程よりも険しい眼差で、男の遺体を見下ろしていた。




「・・・・・・。」


「おい・・・どうした?」


「頸動脈切断のうえ心臓を一突き・・・しかも傷は深い。無駄のない、確実なやり方だ。」




問いかけると、は遺体にある傷を眺めてそう言った。
それには同じ印象を抱いていたから、あいつの言葉に俺も同意をしてみせる。




「あぁ、かなり手馴れた連中だな。首も心臓も綺麗に一発ずつだ、薄気味悪い。」




思った事を素直に述べるとあからさまに、の顔が苦々しく歪められた。
―――――― ・・・そして吐息を吐くように言う。




――――――――― ・・・この手口、は心当たりがある。」


「・・・なに?」




の言葉に思わず眉を顰めた、ちょうどそのとき。
遠巻きに俺達の様子を窺っていた奴らが、突然ざわざわと騒ぎ始めた。
何事かと思って背後を振り返ると、まず真っ先にド派手な鎧とマントが目に入った。
ヤケに白い肌、紫がかった色素の薄い髪に、際立つ真紅の瞳・・・バノッサだ。
彼は鋭い視線の一瞥だけで、周囲に群がるゴロツキ達をあっという間に黙らせてしまった。
そういうところは、正直凄いと思う。今までの彼の経験が出せる、迫力という奴だ。
それも凄いには凄かったのだが、今驚くべきところはそこではない。




「・・・オイ、テメェらこんなとこでなにしてんだ?」


――――――― ・・・本当に来やがった。」


「あァ・・・?」




―――――――― ・・・まさか、本当に来てしまうとは。
思わず呟いてしまうと、それを耳聡く拾ったバノッサが訝しげな表情をしたので
慌てて、なんでもないと視線を逸らした。・・・が、振り向きもせずに言う。




「あぁ、バノッサ。遅かったな、薬は?」




その言葉に、なんら可笑しいところは無い筈だった。
―――――――― ・・・少なくとも、俺が聞いていた限りでは。
なのに彼女の背中を見て、バノッサはこれでもかというほど顔を顰めた。




「・・ッてお前、なにやって・・・ッ!?」




バノッサは何かを叫ぼうとして、けれど思い(とど)まったらしい。
一瞬周囲に目をやって、チッ!と大きく舌打ちをすると、至って平静を装い口を開く。




「・・・あァ、日暮れまでには用意しておくって言ってたぜ
――――― ・・・で、なにしてんだよ?」




多少の苛付きを含んだ声で問われ、そこではやっと、バノッサを振り返った。
真剣な顔は崩さず、視線だけでお前も見てみろとバノッサを促す。
言われた通り、今まで俺達が見ていたものを覗き込んだあいつは、瞬間息を呑んだ。




「コイツは・・・っ!」


「・・・やっぱり、お前もそう思う?」




は否定して欲しそうな声色だったが、バノッサは無残にもそれを無視した。




「・・・それ以外に考えられねェだろうがよ。
これだけの手口で人間殺せるヤツラなんて、アイツ等以外に誰が居るってんだ?」




バノッサが蔑むように言うと、ほんの少し距離を置いてその話を聞いていた
細面の男と猫背の男が、一斉にに詰め寄った。




「は、犯人を知ってるのかッ!?」


「誰なんだよッ・・・頼む、教えてくれ!!」




どうやらこの2人は、殺されたこの男とかなり親交が深かったらしい。
その表情には怒りと悔しさと・・・そして悲しさと、切実さが滲み出ていた。
猫背の男と細面の男に、縋るような目で問い詰められて
最初は言葉にすることを躊躇っていたも、ついに観念したように口を開く。




――――――― ・・・赤手袋。」


「あ、赤手袋・・・?」


「“コッチ”の世界で生きてて、ヤツラを知らないのか?
まぁ、アンタ達の親玉なら知ってるかもな・・・ともかく、これを機会に良く覚とくんだね。」




誰かが、ごくりと唾を呑む音が聞こえた。
はそこで大きく息を吸い込んで、1度呼吸を整える。




「・・・殺しを専門に商売をしてる、暗殺集団さ。」


「ッ!?」




―――――― ・・・だからか。がさっきから難しい顔をしていたのは。




「この無駄のない殺し方、それに手際の良さ。・・・どれを取ってもヤツラに間違いない。」


「な、なんでそんな奴らにラングが・・・!!」




最もな質問ではあったが、こればっかりは本人にしかわからない。
もう喋れなくなってしまった男を見下ろして、バノッサが妥当な意見を言った。




「大方、ヤバイ山に手でも出したんじゃねェのか?」


「・・・そういう気配はあったか?」




もとからは、決して眼つきがいいほうではない。
だが今彼女の眼つきは普段より数倍険しく、綺麗に研がれた刃のような鋭さを宿していた。
それを真正面から受けて竦みあがったのか、細面の男が一瞬たじろぐ。




「いっ、いや、俺達はわからねぇけど・・・あッ!」




突然大声をあげた男に、が無言のまま先を促した。




「そういやこの前、一緒に酒場で飲んでたとき、あと少しで大金が入るって・・・なぁ?」


「・・・あぁ。割のいい仕事だとは言ってたんですが
それ以上のことは俺達も、なにも聞かされちゃいません・・・」




同意を求めるように視線を向けられた猫背の男は、
こちらの方が度胸が据わっているのか、きっぱりとした口調でそう言い切った。
固くなった言葉からは、達への畏怖とも尊敬ともつかぬ感情が見え隠れしている。




「・・・そう。生きていたら計画の邪魔になると判断されたんだろうな。」


「それで、俺達はどうすれば・・・」


「どうすれば?下手なことはせずに、放っておくしかないさ。それが長生きするコツだ。」


「け、けどッ!?」


「姿がなかったってことは、生きていられたらマズイ奴はもう処分し終わったってことだ。
アンタらも殺すつもりだったなら、今頃ここで一緒に転がってるだろうね。
・・・下手に嗅ぎまわったら、邪魔者としてブラックリストに載ることは間違いない。
アンタ達の実力じゃまず敵わないよ。まぁ死にたいって言うんなら、は別に止めないけどね。」


「そんな・・・」




がきっぱり告げると、細面の男はがっくりと肩を落とした。
見れば猫背の男も、悔しげに下唇を噛んでいる。
だが両者とも、がただ意地悪くしている訳ではないことは、解っているようだった。




「・・・赤手袋の、名前の由来を知ってるか?正式名称は“赤き手袋”。
殺した奴等の血の色で、手袋はいつも真っ赤だって意味だよ。役立たずはすぐ切り捨てる。
いざとなれば仲間も殺すし、自爆すら厭わない嫌なヤツラだ。」




そう忌々し気に吐き出すは、まるで知り合いのことを話しているようで。
――――――――― ・・・そう思ったら、思わず尋ねていた。




「・・・なんでそんなこと、お前が知ってんだよ。」




そう告げたときのの顔ときたら、傑作だった。
狐に(つま)まれたような顔をして・・・あぁ、それでこそ俺の知ってるって奴だ。




「あっはっは!それは秘密です!」


「なぁーにが秘密だ、この馬鹿が。」


「えー?折角重苦しくなってきた空気を吹き飛ばそうと思ったのに・・・」


「吹き飛ばすな!・・・んな必要、ねェだろ。」




バノッサに小突かれたは、まだ俺が見ていることに気が付くと、困ったように苦笑した。
多分俺は、それほどマジな顔をしていたんだろう。




「・・・んー、まぁ何度か()りあったことがあるってだけかな?」


「何度かって、お前・・・良くそれで生きてるな。」


「あははッ、まぁね。だって・・・」




そう告げたの瞳の色が、また昏くなる。
・・・こいつはいくつ、知らない顔を隠しているのか。まだ俺に、見せていない顔があるのか。
どれだけ違う場所に立ち、そして違う世界を見ているのだろう?ふと、そんなことを思う。




――――――― ・・・なんと言っても達は、世界を紅く染めてしまう“終焉”らしいから。」




最後に笑い飛ばしたには、けれど。自嘲めいた笑みが浮かんでいた。












戯言。


また予定よりも長くなってしまいました・・・こんにちは、任那です。
どうやってコメントしたらいいのか凄く迷う今回のお話、21話後編ですが、
今回はリューグの観点からと言いますか、リューグがどんなふうに考えているかとか、
彼から見たら達がどれだけ不可解な生き物か、なんてことを中心に書いたつもりです。

あとはとりあえず、任那は綺麗で確実な人の殺し方なんて知りませんので、当然の如く適当デス。
なので専門知識(え?)をお持ちの方、違うだろ!
と思っても見逃してくださいといったところでしょうか(笑)・・・あ、蛇の話も適当です。

それから、21話は前後編で召喚獣もいっぱい登場させました!
最初は、必要最低限だけ登場させればいいかと思っていたのですが、
召喚獣はサモンナイトの魅力の1つでもあるので、ここぞとばかりに増やしてしまいました。

本当は、ジルにカツアゲをしていた3人組みにも、どうして1人は股間ばっか押さえてるのかとか、
色々設定があったりなんかして、個人的には非常に楽しかったです。
話の中で語るつもりだったのですが、長くなり過ぎたので見送ってしまいましたが。

21話は全体的に閑話でしたが、後々ここから引っ張られてくる話もあると思います。
他にも細かい所に色々詰め込んでいるので、ちょっとした所も気にして頂けると嬉しいです。
ちなみに、ジルが途中からをお姉ちゃんではなく呼び捨てにしているのは、意図的にですので(笑)





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