竜の愛し子 4.別れ 翌朝、空が朝焼けに染まる頃。 はセシルとカインを見送りに、城門のところまでやって来ていた。 「、見送ってくれなくても平気だったのに・・・」 見送れるギリギリのところまでやって来ると、セシルは申し訳なさそうに言った。 本当なら洞窟の入り口辺りまで見送っていきたいところだが、カインに後を任されている身としてはそれも適わない。 「駄目よ。ローザにも頼まれているの、“私の分まで見送っておいて”って。」 「それにしたって、お前昨日はそんな話これぽっちもしていなかっただろう。」 「ええ、だって話さなかったのだもの。」 が言うと、カインは朝っぱらからこれでもかというほど盛大な溜息を吐いた。 それを無視して、は予め用意していた袋を取り出す。 「はい、どうぞ。」 「、これは?」 セシルが不思議そうな顔をしながら袋を受け取り、カインも渋々それに倣った。 もしかしたら、彼は袋の中身まで予測がついていたのかもしれない。 「ポーション10個、フェニックスの尾3つ、毒消し3つに目薬3つ、それから―――――― 」 「そんなに入っているのか!?」 驚愕したようにカインが叫んだが、遠征の度に団員全員分のアイテムやら食料やらを調達している立場から言わせて貰えば、これくらいは確保して欲しい所だった。 「・・・カイン、今回の任務は団で行う普段の任務とは違うのよ。魔道士はいないし、普段2人とも遠征の準備なんて自分でしないでしょう?だからこれは、からの餞別よ。あなた達のことだから、最低限のアイテムしか用意していないだろうと思ったの。近いからって油断して、食料なんて全然もっていないんでしょう?」 「確かに、食料は持っていなかったけれど・・・」 「やっぱり、そうだったのね!」 「でも、この時間から発てば日暮れまでにはミストの村に着けるよ。」 「セシル!なにかあってからでは遅いのよ?大した距離ではなくても、なにかのときのために最低1日分の保存食は持っておくべきだわ。」 鼻息も荒く、は袋を無理矢理2人に押し付けた。 そして困った顔をする2人に、トドメの一言を放つ。 「ローザとも相談して準備したのよ。彼女も、白魔法を使える人がいないのならこれくらいは持って行くべきだと言っていたわ。」 ローザの名前を出すと、2人は同時に静かになった。 にとっては少々皮肉な手段だが、ローザの名前はそれだけで効果がある。 「・・・わかった。ありがとう、。」 最初にそう言ったのはセシルだった。 兜の奥で微笑んでいるのだろう彼は、ゆっくりとの頭を撫でる。 着替えは当に済ませていたが、見送るだけだからと言って、竜騎士の象徴ともいえるあの兜は未だ被っていなかった。 髪を撫でていたセシルの指が降りてきて、顔の輪郭を確かめるように触れる。 静かに離れていくその手を、は名残惜しく見送った。 「・・・・・・本当に気をつけて。セシル、カイン。」 「なんならいっそ、お前も付いて来るか?。」 「・・・出来るなら、そうしてしまいたいくらいだわ。」 からかい雑じりに告げるカインの言葉に、今はどうしても乗る気になれず、は本心からそう言った。 同じ塔に部屋があっても所属する部隊が違ったから、いつもセシルと一緒にいられるわけではなかった。 それにこれまでだって、何度も任務でセシルがいなかったことはある。 慣れている筈なのに、今はセシルもカインもいないこの城に置いていかれる事がこんなにも心細い。 思わず俯いてしまうと、カインの手が額に押し当てられ、そのままぐいっと上を向かされた。 「な、なに・・・?」 「熱は・・・ないようだな。」 「―――――――― ・・・あるわけないでしょう?」 言いながら、はカインの手を振り払った。 やめて欲しい。カインはただでさえ、の心を乱す存在だ。 しかもそれが心の弱っている今なら、尚更。 無駄だとわかっているのに、妙な期待をしたくなってしまう。 いつものように、“お前ってやつは”と呆れて言ってくれればいい。 だが、が手を振り払ったのに、カインはちっとも呆れた様子を見せなかった。 「、お前がそんなだとこちらの調子が狂う。」 「・・・・・・。」 わかっている、不安なのはのほうだ。 これから任務に赴くはずのセシルやカインのほうが、余程落ち着いていた。 の不安が、彼等に無駄な心配をさせている。 「・・・。」 「・・・ごめんなさい、大丈夫よ。まだ少し、寝ぼけているみたい。」 「。」 カインが、再び名前を呼んだ。 聞こえなかったわけではないけれど、は構わず話を続けることにした。 今遮られると、また弱音が出てしまいそうな気がしたのだ。 「団のことは任せて、きちんとやるわ。大丈夫よ、カシューは頼りになるし最近はだって」 「。」 「・・・・・・。」 強い口調で言われて、さすがのも押し黙った。 こういうときばかり上司らしくて、はカインに抗えない。 「・・・大丈夫だ。俺もセシルも、すぐに戻ってくるさ。」 「そうだよ、。ほんの少しの間だけだから、待っていてくれるね?」 厳つい兜の奥に隠れてしまって見えないが、セシルはいつもの優しい笑みを浮かべているのだろう。 それがわかったら何故か安心してしまって、今度はも笑って見送ることが出来た。 「・・・ええ、待っているわ。」 そうして、漸く歩き出した2人の背中を見つめていると、数歩行ったところで突然カインが振り返った。 まだ何か足りないものがあったかしらと首を傾げていると、戻ってきたカインがにそっと耳打ちをする。 「―――――― ベイガン殿には気を付けろよ。近頃のあの人がお前を見る目付きは、やはりおかしい気がしてならん。」 がしっかりと頷き返したのを見届けると、カインは立ち止り待っていてくれたセシルのもとへと走っていく。 それからしばらくの間、はその場に残り立ち続けていたが、やがて2人の姿は完全に見えなくなってしまった。 大規模な地震がバロンを襲ったのは、その日の夕方のことだった。 |
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戯言 カインにとって、は恋愛対象としては見れないけれど大切な幼馴染なんです。 なにをさせても格好付けになってしまうカインは、さり気なく気を持たせることとかしていそうだ。 |
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2008/02/12