彼の者の名は
Zwei









あれから、一体どれほどの時間が経ったのか。
それを知る術はここにはなく、またツヴァイには興味もなかった。
・・・ただ1つ、この場に時間の経過を示すものがあるとするならば、それはシビル。
腕の中に閉じ込めたシビルは、いつしか悲鳴をあげなくなっていた。

シビルは、ツヴァイと向かい合うように膝の上に跨り、ぐったりとしていた。
けれどその腕は、まるで縋り付くようにツヴァイの首にまわされている。
その躯を貪っても、もうシビルがツヴァイから逃れようとすることはなかった。
シビルはただただツヴァイの行為を甘受し、甘く、毒のように辺りを侵してゆく声を漏らす。

・・・彼女の魂のあげる叫びが今までと異なっていることに、ツヴァイはとうに気付いていた。
珠紀の魂の叫び声は、今や以前ほど苛烈ではない。
じわりじわりと染み込んでゆく水のような、静かな絶望と苦悩が渦を捲いている。



「・・・何を嘆いている、シビル。」



ツヴァイの問いかけに、珠紀は荒い呼吸を吐き出しながら、ゆっくりと顔をあげる。
前髪は、しっとりと汗ばんだ額に張り付き、表情には疲労の色が滲み出ていたが、
彼女を今一層儚げに見せている要因は、それだけではなかった。



「なんでも・・・っぁ、ん・・・ない、よっ・・・?」



未だ繋がったままの躯は、すぐさま熱を取り戻そうとして、
極僅かな刺激にも、過剰なほどに反応を示す。
珠紀は時折喘ぎながら、途切れ途切れにそう言って、無理に笑みを作ろうとして見せた。

・・・何故かそれが、ツヴァイは気に入らなかった。
思わず、腕を掴む手に力が籠る。
けれどシビルは、そんなツヴァイを見詰めて今度こそ微笑んだ。



「・・・そんな顔、しないで。」



言いながら、珠紀は眼帯の上からツヴァイの瞼に口付けを落とし、
細い指を髪に挿し込み、ツヴァイの頭を抱き込むようにして、肩口に顔を埋める。



――――――― ・・・ツヴァイは考える。



何故自分は、今でもシビルを傍に置いているのか?
ツヴァイは珠紀の魂の叫びを、1度だけでは惜しい、幾度となく味わいたいと思っていて。
けれどそれならば。以前のように叫ばなくなったシビルを、傍に置いておく必要はないはずだ。
・・・ツヴァイにとって、今珠紀の魂が発する嘆きは、決して心地が良いものではないのだから。


だがやがて、ツヴァイは考えることを止めた。


元より、ツヴァイの思考は魂を狩ること以外には、あまり積極的に働こうとはしなかったし、
どうしてか、自分がシビルを傍に置いている理由を追求する気にはなれない。

ツヴァイは、それまで必死に追っていた思考をあっさり手放すと、
背中まである珠紀の髪を掴み、それをゆっくりと撫で始めた。

そうやってしばらくの間、ツヴァイが珠紀の髪を撫で続けていると、不意に珠紀が身動ぎをする。
そしてツヴァイの耳元に、今にも泣き出してしまうのではないかと思う声で囁き
――――――――
・・・ただツヴァイは、どうして自分がそんな風に思ったのかだけがわからなかった。



―――――――― ねぇ、ツヴァイ。」



その声には甘く強請るような響きがあって、耳に心地良い。
僅かに躯を離し、俯いている珠紀の頬を、そっと掠めるように撫でる。



「・・・なんだ?」



珠紀はいつの間にか顔を上げていて、もう後がないとでもいうような、
やけに切迫した表情で、ツヴァイを見ていた。



―――――――――― ・・・あなたは、誰なの?」

――――――――― ・・・」



その問いかけに答えるものはなく。珠紀の声は、辺りの闇に同化し、溶けて消えた。
―――――――― ツヴァイは、その問いに応える術を知らない。
ただ頭の奥で、いつもの声の主が、なにかを必死に叫んでいるような気がした。















戯言


はい。彼の者の名は、第2話をお届けです。
なんと言いますか、こいつらもうずっこんばっこ・・(自主規制)

・・・こほん。ともかく、どことなくツヴァイ視点でお送り致しました。
このお話、わかる方はおわかりかと思いますが、元は真弘ED直前の、
『ツヴァイ、珠紀拉致監禁(←監禁はしてないだろ)事件』が大元になっております(笑)
あのとき任那はときめいたっ!遂にこのときが来たのだと!なのになんだよ結局そんなオチかよーと!

・・・いっそのこと、あそこでツヴァイは本格的に珠紀を攫って、
そのままツヴァイルートに入れば良かったんですよ(オイ)・・・妄想力、逞しいなぁ自分。





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2006/08/15