「・・・まさか、召喚術にあんな使い方があるとはのぅ・・・」




テーブルでお茶を啜りながら、アグラ爺さんが呟く。
丁度アグラ爺さんの正面に座っているは、それに軽く微笑んだ。

あの後。がローレライを召喚し、浴槽に水を溜め
バノッサがプチデビルを召喚して、あっという間に水を湯に変えたのだ。

召喚術は、一般的に戦う手段として世間に広まってしまっている。
だからこそ、召喚術の意外な使用法にアグラ爺さんはとても驚き、そして感心していた。




「・・・うん。まぁ、あんまりああいう用途に使い過ぎるのも良くないんだろうけど
召喚術って言うのは、決して戦いの道具ってワケじゃないんだよ。
・・・だから世間一般的に思われている程、恐ろしいものでもないし・・・」


「そういえば、お前さん達は召喚術で呼び出す、あの竜を移動手段にしておったな。」


「うん。でも大切なのは、彼等にも意思があるってことなんだ。
召喚獣は、人間の言うことをなんでも聞く便利な“モノ”なんかじゃないから・・・
は、みんなに色々お願いしてるだけ。」




―――――――――― ・・・お願い・・・?」




確か。召喚術とはその誓約によって、召喚獣をほぼ強制的に縛り付けるものではなかったか?
そう聞いていたアグラ爺さんは眉根に皺を寄せ、首を傾げる。




「・・・・・・そう。そうだ、じいさん。そこの鞄取ってくれる?」


「あ、あぁ・・・これでいいのか?」




唐突にそう言われ。アグラ爺さんは何も疑うことなく
自分の座っているイスのすぐ傍に置いてあった、の鞄に手を伸ばす。
そして、彼女が持つには少々重いんじゃないかという重量の鞄を手に取り、テーブル越しにに手渡した。

“ありがとう”と礼を言って鞄を受け取りながら
は上手く物事が運んだことに、満足してにんまりとほくそえむ。




――――――――――― ・・・丁度こんな風にね。
じいさんだって、こうやって頼めば鞄を取ってくれるだろ?それと同じだよ。」


――――――――――― ・・・!」


「・・・召喚獣達だって、“獣”なんて言われてるけど
やじいさん、それにアイツとなんにも変わらないんだ。
ちゃんと意思持って行動していて、生きてる
――――――― ・・・」




そう言うの瞳は、今まで見た事がないくらい優しく細められていて
アグラ爺さんは、なんとなく。召喚獣達が彼女に懐く理由が、理解出来たような気がした。




「だから得意なことなら、案外簡単に手を貸してくれるんだ。
例えばそれは火や水を出すことだったり、空を飛ぶことだったり・・・色々だけど。
でも彼等にとっては、人間と違ってそれは物凄く難しいことなんかじゃない。
ちょっと手間なだけだよ。じいさんがにお茶を淹れてくれるのと同じぐらいの・・・ね。」


「・・・アンタが、召喚獣達に好かれる理由が解った気がするわい。」


――――――――――― ・・・へ?そう?」


「ああ。」


「そりゃどーも!あはは!・・・・・・でも、も元は彼らと同じだから。
・・・だから、そう言う風に考えられるのかも知れないな。」




・・・ほんの一瞬だけ垣間見せた、憂いを帯びた瞳。
年の功とでも言うのだろうか?

口調も何も変わらないそれは、本当に些細な変化で。
見逃してしまっても全然可笑しくはなかったけれど。

それに気付いたアグラ爺さんは、訝しげに首を傾げた。
尋ねても良いものか、微かに迷い。・・・それでも、尋ねてみようと決心した時。




さま!お風呂が空きましたよ!」




廊下の向こうから良く通るフェスの声が聞こえてきて、がイスから立ち上がった。




「今行く!・・・じゃあ、先に入らせて貰うよ?じいさん。」




そうアグラ爺さんに問いかけるからは、もうさっきの翳はカケラも見出せない。




「・・・あぁ、ゆっくり温まってくるといい。」




だからアグラ爺さんは追及することを止め、そう返事をした。
そもそも。今日会ったばかりの自分が、首を突っ込んでいいことなのだろうか?
――――――――――― ・・・そう、思い直したから。

走っていったと入れ違いに
暖かそうに、身体から湯気をたてているバノッサが部屋に入ってきて

さっきまでが座っていた席の隣の席に、ドカッと腰掛ける。
顔を赤くして、酒が飲みたいなどとぼやくバノッサに苦笑し、アグラ爺さんは彼にお茶を勧めた。




―――――――――― ・・・あの、嬢ちゃんのことなんじゃが・・・」


「あ?」






今度は何を言い出す気だ?






そう言いたげに、不信そうな目でこちらを見るバノッサに
アグラ爺さんは、多少口篭りながら告げる。




「明るくて饒舌に見えるが、なかなか・・・全てを口に出す子ではないようじゃな。
歳のわりには、感情を隠すのが上手い。」




それはまた、根の正直な自分の孫のそれとも違って。
何と言ったら正確に言い表せるのか解らないが、ある意味。“大人”だと言うことなのだろう。


感情を殺すことに慣れている・・・とでも言えばいいのだろうか?


いくら喚き、叫んでも。どうにもならないことがあることを知っていて
その“理不尽”を、当然の如く。
・・・仕方のないことなのだと、甘んじて受け入れている。

それを、もう1人の孫のように笑顔で隠すこともなく
“普通”の中に上手く紛れ込ませているから、あまりにそれを周囲に感じさせないのだ。

・・・外見から察するに、歳は孫達と大差ないだろう。
なのに、そんな芸当をあっさりとこなしてしまう彼女が・・・少し、哀れになった。





・・・最も、彼女はそんなことを望んでいないだろうけれど。





アグラ爺さんの口から漏れた、意外な一言に。
それをどう解釈したかは定かではないが、バノッサは瞳を丸くして、けれどすぐに。
・・・何事もなかったかのように装って、あまり気の進んでいなかったお茶を口にした。




――――――――― ・・・んなこと。ジジイより俺の方が身に沁みて知ってんだよ。」


「・・・そうか。そうじゃな・・・・・・」




口調は、相変わらずぶっきらぼうなまま。でもそれだけではない、バノッサの表情に
アグラ爺さんはなんだかヤケに安心して、ほっと息を吐いた。
彼がついているのなら、自分がそこまで心配する必要もないだろう・・・と。








ドダダダダダ・・・・








「・・・?」




そこへ、微かな振動と共に、慌しい音が響いてくる。
アグラ爺さんはその発生源らしき、風呂場のある方向を不思議そうに見つめた。
その音は、だんだんこちらに近づいてきて・・・・・・




「あー、ちっくしょう忘れてきた!!・・・バノッサ!お前シャンプーライム持ってる!?」

(↑入浴時の必需品。)




・・・が、壁の向こう側からひょっこりと顔を出した。
エストを従えて、決して丁寧とは言えない言葉遣いで話すのはいつものこと。




けれど、今のがいつもと違っていたのは
―――――――――― ・・・




「マスター。そのような格好で歩き回られない方がよろしいかと思いますが?」


「・・・だって、もう1度服着るの面倒臭いんだよ。別に、家の中なら問題ないだろ?」




―――――――――― ・・・彼女が、バスタオル1枚だけしか身に付けていなかったということ。
一応、廊下と部屋を遮る壁に、半分以上体を隠してはいるが。

普段あまり露出させない肌は思いのほか白く
肩にかかった鮮やかな髪が、その白に良く映える。

キャミソール姿は見慣れているが(見慣れてるのか)これはこれで新鮮だ。
なかなか拝むことの出来ない光景だけに
バノッサの視線が釘付けになってしまうも、どうしようもないことで・・・。

思わず。バノッサはお茶を飲んだ体勢のまま固まり
アグラ爺さんは注ぎ足そうと思っていたお茶を、そのままテーブルにドバドバと溢す。
その様子を冷静に眺めていたエストが、ポツリと呟いた。




「・・・マスターはともかく、バノッサ様が困るのでは?」


「あ?なんでバノッサが困るんだ?エスト。」




自分の名前が出たことで、我に戻ったバノッサは
白い顔を真っ赤にして、家が吹き飛びそうな勢い(凄すぎ)で怒鳴り声をあげた。








「うるせぇっ!!余計なお世話だッッ!!!(焦)」








けれど、バノッサの言葉をまともに受けたエストは、深々と頭を下げる。




「そうでしたか・・・それは申し訳ございません。」




・・・ぐっ!!

(↑我慢してる。)




照れ隠しに怒鳴っただけなのだから、素直に謝られてもそれはそれで困る。
バノッサは1年ちょっとの付き合いで、天使であるフェスはともかく
・・・悪魔のエストは融通がきかない性格だということを、重々承知していた。






俺がアイツをどう想ってるかには気付いてるクセに・・・ッッ!!!(苛)






――――――――――――― ・・・俺が悪かった。頼むからアイツを止めてくれ。(汗)」




だからどうにか声を絞り出して、まだ赤い顔を隠すためにテーブルに突っ伏した。
・・・これはぶかぶかのYシャツ1枚よりも、ある意味心臓に悪い。




「・・・御意。」


「そんで、シャンプーライムは?」




変わらぬ態度で尋ねてくるに、大きな溜息が漏れる。
全く話を聞いていなかったのか、あるいはそこから何も推察しようとしていないのか。
・・・多分、彼女のことだから後者だろうが。




「・・・俺様が使えねェ属性の石持ってると思ってんのかよ、テメェは。」




うんざりと返したバノッサの答えに、はポンと手を叩く。




「あー、そういえばお前獣属性使えないんだっけ。役立たずだなーったく。」






「テメェは俺に喧嘩売ってんのかあぁッッ!?!?」

(情けないやら腹立たしいやら)



バタン!!






バノッサが、泣きたいような笑いたいような。複雑な心境で、一際大きくそう怒鳴った時。
風呂場の方にいた筈なのに、どうしてそうなったのか・・・

ぜーはーと息を切らせたフェスが、何故か玄関から。転がるようにして室内に飛び込んできた。
そしてバスタオル1枚のを視界に捉えると、呼吸を整えることもせずに声を荒げる。




「・・・さまッ!!またそのような格好でウロウロされてッ!!」


「ゲッ!?フェス!!休憩しに散歩に出たんじゃ・・・・!?」


「あれだけバノッサさまが(切実に)大声で叫ばれれば、誰だって気が付きますっ!!」




そんなに響いてたのか。




フェスの予想外な登場に一瞬怯んだものの、は気を取り直したらしい。
いつもの強気な姿勢を取り戻すと、ちょっと逃げ腰になりながら。必死にそれに反論した。




「だってさ!!フェスがいつもうるさいから
だって多少は気にして・・・今日は壁に隠れてるじゃないか!!」


「そういう問題ではありません!!
そのような格好で出歩こうと考える、その思考を直して頂きたいのですッ!!」


――――――――――― ・・・くっ!!
そもそも!キャミソールとだったら露出度大差ないだろッ!?」


「ですから!!出来るのならキャミソールとやらで家の中をうろつくのも
やめるようにといつも私が申しているでしょう!!!
・・・・・・エストリル!お前もだ!!さまを止めるようにと、あれだけ言っているだろう!?」


――――――――― ・・・マスターがそうするのが良いと判断したのであれば
無理矢理に押さえ付けてお止めすることなど出来はしない。」


「エスト!!大好きだーーーッ!!」


さまッ!!(怒)・・・ともかくお戻りください!!そのままでは風邪を引かれますッ!!」


「はいはいはーい。わかったよ、フェスは小姑みたいだなぁ。」




―――――――――――― ・・・さま・・・?(背中に黒いオーラ)」




ユラリと不穏なオーラを発し始めたフェスを見て
ビクっと顔を恐怖に歪めたは、回れ右をして脱兎の如く走り出す。




「エストッ!撤退ッ!!(汗)」


「・・・御意。」




来た時と同じように、バタバタと足音をたてて走り去っていく
嵐のように訪れ、そして去っていったそれに、アグラ爺さんは完全に取り残されていた。
一言口を挟む隙さえ与えられなかったのだ。
額から滴る汗を拭い、疲労を隠せない表情でフェスが2人に振り返る。




「・・・大変お見苦しい所をお見せして申し訳ありません、アグラバイン殿。」


「い、いや・・・ワシはいいんじゃが・・・。ひとまず、茶でも飲んで休むか?(汗)」


―――――――――― ・・・頂いてもよろしいでしょうか?」


「あぁ、かまわんよ。」


「お気遣い、有難く存じます。」




そう呟いて。フェスは溜息を付きながら、熱いお茶を口へと運んだ。




本当にあの人の召喚獣やってていいんですか?君。


















〓 第10話 惨劇の傷痕 後編 〓















「あー、やっぱ労働の後の風呂は最高だよなぁ。」


「・・・ジジくせぇ奴。」


「・・・・・・・・・なんか言ったか?バノッサ?(爽)」


―――――――― ・・・なんでもねぇよ(汗)」




良い気分に水を差したバノッサを、銃で牽制しながら
持ってきた携帯食と、じいさんが作ってくれた軽いおかずで夕食にする。

じいさんが作ってくれたのは、本当に簡単なものだったけれど・・・
2人で作るよりはずっとマシな筈だ。

・・・こういうときは、カノンがいてくれないととてつもなく困る。
(そんなに下手なのか。)

・・・まぁ、何故かいも類の出現率が高い気もしなくなかったが
それはこの際置いておいて・・・・・・味も、悪くはない。

じいさんから借りた、彼の孫のものだと言う服は丁度良いサイズだった。
・・・といっても男物だから、緩めであることは確かだけれど
ピッタリとした服より、多少余裕のある服の方がは好きだ。

銃口を突きつけられて、サッと顔を背け押し黙ったバノッサも
流石に彼の体格上、と同じ、じいさんの孫の服は着れそうになかったけど
じいさんから白いYシャツを借りて、今はそれに着替えている。





・・・相変わらず、アイツは鎧脱ぐとただのチンピラっぽいよなぁ・・・(シミジミ)





「・・・しかし、本当に良かったのか?」




そんなことを考えていたら、そう尋ねられて。
・・・突然のことに、結構間抜けな顔で問い返したんじゃないかと思う。




「へ?なにがだ?」




じいさんが、ほんの一瞬だけ瞳を伏せた。




「・・・こんな所に、一晩留まると決めたことじゃよ。
お前さん達なら、あの竜に乗って今夜中にゼラムに行く事も出来たじゃろ。」


「・・・あぁ、いいんだよ。あれだけ働いて、今更ゼラムに向かうのも一苦労だしね。
折角汗流したんだからさ、もう1度汗掻くのも嫌だろ?それに、人込みあんま好きじゃないし。」


「・・・相変わらず我儘なヤツだぜ。」



「お前にだけは言われたくない。」
(キッパリ)






バチバチバチ・・・ッ!!






そう言って、またいつものように火花を散らしあう。
けれど、風呂上りだったせいもあって、それはフン!と顔を背けるだけで何事もなく終わった。

・・・ふと視界の隅に。そう答えてもまだあまり納得していないような
そんな様子のじいさんの顔が見えた。




慣れてるって言えば慣れてるから、別に平気なんだけどな。




じいさんの言う“こんな所”の意味が解ったから。
そうは思ったけれど、それを口にするのは躊躇われて・・・

たとえこんな廃墟になってしまっても、ここはじいさんにとって大事な場所のハズだから。
が見慣れてしまったただの血生臭い戦場と、それを一緒にしたくはない。


・・・だからは身の上話をするフリをして、さり気なく話題を逸らすことを選んだ。




とコイツは、賞金を稼いで暮らしてるんだ。
盗賊退治とか、護衛とか・・・まぁその程度の仕事だけどね。
―――――――― ・・・お陰でいつも野宿なんかザラだし、だから別に平気。
屋根のある場所で寝れるだけ、マシなぐらいだよ。」


「ほぅ・・・?」




良く解らないが、突然じいさんが好奇心を湛えた瞳でバノッサを見る。
まぁ、珍しく色々と話し込んでたみたいだから、アイツも成長したってことなんだろう。




「・・・それに、さ。の故郷には、亡くなった人が迷わずに天国に逝けるようにって
亡くなった人の傍で、丸1日蝋燭の火を絶やさないようにする風習があるぐらいなんだ。
――――――――――― ・・・もやったなぁ、アレ。」


「・・・・・・それは珍しい風習じゃな。」


「あぁ、そうだね。珍しい・・・んだろうな。そういえば、こっちに来てから1度も見た事がないよ。」


「・・・嬢ちゃんの故郷は遠いのか?」




そう問い返されて。口に出してしまってから、ハッとする。
こっそり覗き見ると、バノッサが、また。・・・その紅い瞳で、じっとこちらを見ていた。
それはさっきのような、問い詰める瞳ではなかったけれど・・・少し失敗したかな、と思う。
妙なところでバノッサは、そういうのを気にするから。






――――――――― ・・・気にしなくても、は大丈夫なのにね。






そういう意味を込めて、微笑を絶やさぬまま告げる。




「・・・・・・そうだよ。多分、知ってる人はほとんどいないだろうな。」


「じゃが、あの空飛ぶ竜なら大抵の場所にはあっという間に行けるじゃろう?」


――――――――――― ・・・うん。
でもそれでも。あの子の翼でも、遠過ぎるんだよ・・・・・・凄く、ね。」




話しているうちに少しずつ、声が沈んでいるのが自分でも解った。
今では恋しさよりも懐かしさのほうが募る・・・以前、がいた世界。




―――――――――― ・・・そういえば兄さん、どうしてるかな・・・




泣いてないといいけれど。
そう考えて。普通立場が逆じゃないかと、嘲笑にも似た苦笑が口元から漏れた。




「・・・んなもん、レヴァティーンで飛べばすぐ着くだろうが。」


―――――――――― ・・・あ?」




今まで黙ってを見つめていたバノッサが、突然はっきりとそう言い放ち
その意図するところが理解できず、は間抜けに口を開いた。

守護者の仕事をするようになってから、もう結構経つけれど。
相変わらずバノッサは、たまに良く解らないことをする。

どういう意味だと視線を向けるが、バノッサはが見ていることに気付いているのに。
でも、こちらを見ようとはしなかった。




「あの間抜けなタヌキも、ガキ共も。・・・・・・あいつらだって、お前の帰りを待ってるだろうが。
だったらお前は、“アレ”を“ソレ”以外になんて言うつもりなんだよ?」




アレだのソレだの・・・一見解り辛い会話だけれど、なんとなく、バノッサの言いたいことが解った。
一緒に過ごした時間ってのは凄いもんだと、改めてそうも思う。



サイジェントには、にとって大切な人達がいて。
それは、のことも大切に想ってくれている人達で。


――――――――――― ・・・あそこは・・・の・・・






還るべき、場所。






・・・を、励まそうとでもしているのだろうか・・・?
あのバノッサが自分を励まそうとしているなんて、少しだけくすぐったい感じだけれど。

それでもやっぱり、ちょっとは嬉しい。
なんだかんだ言って根は良い奴なんだと、こういうとき思い出す。




「・・・そうだな、あそこはの故郷だね。フラットも、オプテュスも・・・」


――――――――――― ・・・解ってんなら、それでいい。」




所謂、第2の故郷とでも言うやつだろうか?
の回答に満足したのか、バノッサは何処か誇らしげに頷いた。

それから、少し心配そうな顔でこちらを見ていたことには知っていたから。
は、じいさんに向けて軽く手を上げて・・・




「・・・というワケで。の故郷は結構近くにあるらしいよ?」




そう言って、ニッと笑って見せた。




じいさんにも、いつか笑ってそう言える
――――――――― ・・・新しい“故郷”と呼べる場所が出来ることを祈っておくよ・・・













「・・・さて。ワシは少しばかり、森へ行って来るとするかのう。」


「・・・森?ジジイ、こんな時間にんな場所行って、どうすんだよ?」


「・・・昼間張った罠を見にいくんじゃよ。
明日の朝食は、思っていたより人数も増えそうだからな。」


「じいさん、1人で平気か?なんならもついてくけど・・・?」


「いや、ワシ1人で十分じゃよ。どれ、ちょっと行って来るとするか。」




言って、のんびりと立ち上がるじいさんは初めて出会った時。
物凄い剣幕でに襲い掛かってきた人間と、同一人物だとは思えないくらい優しい表情だ。




「ん、わかった。じいさん、一応気を付けろよー。」




もう、エストとフェスは送還してしまったから
じいさんが部屋から出て行くと必然的に、部屋にはとバノッサだけが残される。
しばらく沈黙が流れるけど、今更そんなものを気にするような仲じゃないし・・・。
ズズッ・・・と最後までお茶を飲み干してから、隣に座っているバノッサにゆっくりと声をかけた。




――――――――――― ・・・なぁ。」


「あ?どうかしたかよ?」


「・・・あのじいさん、何者だと思う?」




そう問いかけてバノッサを見ると、彼は少し考え混んでいる様子だった。




「・・・さぁな。」




興味の無さそうなことを言ってはいるが
それと反対に口元には、面白そうだと言わんばかりの笑みが浮かんでいる。
予想通り楽しそうなバノッサの表情に、はやっぱりな、と苦笑しながら呟いた。




「・・・1対1(サシ)で勝負したら、お前とどっちが強いかな?」


「・・・そりゃあ、俺様に決まってるだろうが。」


「そうか?なかなか決着つけられなかったの、どこの誰だっけ?」


――――――――――― ・・・うるせぇよ。」


「・・・でも、さ。1度本気で、とことん戦り合ってみたいんじゃないの?そのへんどうよ?」


「戦意のない奴相手にしても、張り合いがねぇよ。」


「・・・ふ〜ん?」


「・・・なんだよ、その瞳は。」


「べっつにぃ〜?誰かさんも大人になったな、なんて思ってないって!!」


「思ってんじゃねぇかよッ!」


「あははは!・・・・・・う・・ふぁ〜あ、ねむ・・・」




思いっきり背筋を伸ばして、出来る限りの大きなあくびをする。
たくさん空いてる部屋があるから、使って良いってじいさんは言ってたけど
家主であるじいさんが居ない内に、勝手に適当な部屋に入り込んで寝てしまうのも気が引ける。
だからはバノッサに背を向ける形で、再びイスに座り直した。




「・・・・・・おい。」


「んあ?」


――――――――――― ・・・お前、なにする気だよ。」




多分、が何をしようとしてるのか。
予想は付いているのだろうに、バノッサが問いかける。




「バノッサが鎧付けてないのをいいことに、背凭れにして寝ようと思ってる。」


「・・・あのなぁ!!」


「・・・いいじゃんいいじゃん・・・役得ってことで・・・さ。・・・諦めてよ。」


「・・・・・・・!?・・・!・・・!」




答えながら、夜通しレヴァティーンで飛んでいたのが祟ったのか
は自覚した途端襲われた激しい眠気に、抵抗する気力もなく。
バノッサの非難の声らしきものをBGMに、強制的に眠りにつかされ始めていた。




――――――――――― ・・・そういや、昨日一睡もしてないんだっけ・・・




そう思ったのを最後に、は睡魔に意識を委ねた。










「・・・チッ!」




バノッサは、自分の肩に凭れかかって
気持ち良さそうに寝息を立てるを見下ろし、小さく舌打ちをした。

舌打ちが小さいのは、彼女を起こしたくないと心のどこかで思っているから。
最も、本人がそこまで認識できているのかは定かではないし
ちょっと大きく舌打ちをしたからといって、今のが目を覚ますとは到底思えないが。





そんなに疲れるくらいなら、意地張って真夜中なんかに出発しなけりゃいいんだよ。





は普段、バタンキューで寝てしまうほど寝付きは良くない。
それは、何度も一緒に野営をしたことがあるのだから、確かなことだ。
がそんな風に寝てしまうということは、余程疲れていたのだろう。

それじゃあ、その疲れた原因は何かと言うと
それはやっぱり、夜通しレヴァティーンで飛んで来たからで・・・





それくらいだったら、朝になってから出発すれば良かったんだ。





・・・そう、バノッサは思う。
でもきっと、彼女のことだから妙な責任感を感じていたに違いない。


・・・それはあの日、呆然と立ち尽くして雨に打たれていたを見れば、容易に推測できることだ。


そこへ扉を開ける音がして、バノッサが視線を移すと
その先には、手ぶらのアグラ爺さんが立っていた。




――――――――――――― ・・・早かったじゃねェか。」


「・・・あぁ。昨日の今日じゃから、動物達はまだ帰ってきておらんかったようじゃ。
それで嬢ちゃんは・・・なんだ、寝てしまったのか。」




アグラ爺さんは、バノッサの陰で死角になっている位置にの姿を見つけると
そう呟きながら2人の傍まで歩いてくる。
そして微笑ましそうに、安心して眠りこけるを優しい眼差しで見つめた。


それは自分の孫を見るような、暖かい眼差し。




「・・・夜通し飛びっぱなしだったからな、疲れてたんだろ。
元々体力ねぇんだよ、コイツは・・・。で、ジジイ。どこにコイツを運べばいいんだ?」


「・・・あぁ、それならすぐそこの部屋を使うと良いじゃろう。」




アグラ爺さんが、1番手近にあった戸を開け
手にしていたランプで、室内を明るく照らしだした。




「わかった。・・・おい、馬鹿。部屋まで運んでやるから少し起きろ。」


「・・・む・・・」




背凭れになっていた肩をずらし、軽く体を揺さ振ると
は瞳を閉じたまま、声にならない唸り声をあげる。
・・・でも少しは意識が浮上したらしく、どうにか自力でイスに座っていた。

それを確認したバノッサは、素早くの正面にまわりこむと
彼女の両腕を自分の肩に誘導する。




「・・・ほら、行くぞ。」


「・・・・・・ん。」




はうん、と返事をしたつもりなのだろうが、生憎きちんと発音されたのは、最後の“ん”だけ。
そして力の入っていない体は、促されるまま。バノッサの腕にすっぽりと納まった。

まるで子供を抱き上げるようにを抱き上げたバノッサは
スタスタとを部屋へ運び込み、ベッドの上に横たえた。
その様子を苦笑して眺めながら、アグラ爺さんは枕元にあった古いランプに火を燈す。

人気の無い部屋のシーツの冷たさを肌に感じて
ベッドに乗せられたは眉間に皺を寄せ、きゅっと四肢を縮こませた。
バノッサは、そんな彼女から体を離そうとし・・・・・・




けれど、服をの手に強く掴まれて、それ以上離れられなくなる。




「・・・・・・おい。」


「・・・・・・。」




不満と焦りを乗せた声で低く呟いてみても、が起きる気配はない。
多分、シーツがあまりにも冷たくて、バノッサの体温が恋しいのだろう。
バノッサは、あまり体温が高いほうではないけれど、それでもシーツよりはずっと温かい筈だ。

・・・何度か、が掴んでいる服の端を引っ張ってみても。
彼女の手は固く握られていて、バノッサを離してはくれない。
いや、あまり強くは振り払えない・・・というのが、本音かもしれない。




「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・役得・・・?」


「・・・どうしたんじゃ?」




流石に、ずっとその場から動かないバノッサを不思議に思ったのか
アグラ爺さんが、黙ったままのバノッサに声をかけた。




――――――――――――― ・・・おい、ジジイ。」


「なんじゃ?」


「俺様も、ここで寝る。」


「・・・は?」




アグラ爺さんは顎が外れそうなくらい、大きく口を開けて
呆気に取られた表情でバノッサの背中を見ていたが
その間にもバノッサは、布団をかぶっての寝ているベッドに潜り込む。

野宿をしているときも。彼女は寒いと言って
バノッサのマントに包まって眠っていたのだから、同じベッドで眠るなんて今更だけど。






――――――――――― ・・・彼女が自分を必要としてくれていることが、堪らなく嬉しかったから。






バノッサがベッドに滑り込むと、は温かさを求めて、もごもごとバノッサに擦り寄る。
バノッサもバノッサで、当然のように擦り寄ってきた彼女をその腕に抱え込み・・・

けれど、まるで親子のようなその姿に、アグラ爺さんはほっと安堵の息を吐く。

それが聞こえたのか、バノッサの紅い瞳が不満そうに開かれた。




「・・・なにもしやしねェよ、ジジイ。ただ、ここで寝るだけだ。」




自分で言っていて、少し悲しくなったのか。
その声は、最後のほうは溜息交じりだったけれど。

冷たいシーツと外気から、彼女を守るように。
ぎゅっとを抱きしめるバノッサを見下ろして、アグラ爺さんは顔を綻ばせる。
その姿に、自分の孫達の小さい頃を思い出したからだ




――――――――――― ・・・おやすみ、2人とも。良く眠るんじゃぞ?」




きっと、バノッサはよりも眠りが浅いに違いないけれど。
パタンと部屋の扉を閉めながら、アグラ爺さんはそう思った。


















――――――――――――――― ・・・んっ。」




鳥のけたたましい鳴き声で、目が覚めた。
爽やかな朝を演出するのに欠かせないその囀りはけれど
眠りを阻害するのには十分な、耳障りな甲高さを持ち合わせている。

あの声は朝が来た証拠だ。
でもその割りには、外の明るさを感じないことを不思議に思いながら
はゆっくりと体を起こそうとした。



―――――――――――――― ・・・が。



何か重いものが体の上に乗っていて、思いのほか起き上がるのに苦労する。
数秒後。どうにかそれを振り落とすことに成功して、やっと上半身だけ起き上がった。
そして、自分に圧し掛かっていたものの正体に目をやり・・・




―――――――――― ・・・バノ・・・???」




起きたばかりで、なかなか上手く言葉を紡げない口からは
決して発音しやすいとは言えない、彼の名前の断片だけが漏れた。


正確に言えば、重しになっていたのは彼の腕。


たった腕一本だったが、完全に意識のない彼の腕は、にとって少々重かった。
どうしてこんなことになっているのか、首を傾げ辺りを見回す。
体を支える手が触れているのは、柔らかい布地の感触・・・つまりシーツ。
そしてがいるのは、ベッドの上だ。

でも自分にはベッドに入った記憶はないから、恐らく。
背凭れにしてしまったバノッサが、愚痴りながらもベッドに運んでくれたのだろうと
それは容易く見当を付けることが出来た。

何度か仕事で野営をすることになったときも、寒いと言って彼のマントを占領した
バノッサは意外にも律儀に、マントにくるんだまま寝かせていてくれたから。

目を覚ますと、はバノッサの肩に寄り掛かって眠っていて。
カノンが一緒のときは、彼が反対側に寄りかかっていて。
2人で、バノッサを間に挟むようにして眠っていた。



・・・たまに。胡坐を掻いたバノッサの膝の上に、が納まっていることもあったけど。



どちらにしろ、寝ている間に動かされた記憶はこれっぽっちもない。
それほど彼には気を許しているということなのだろう。
でもまぁ、それも悪いことではないと思うけれど。




「・・・っと、それはいいんだけどさ。どうしてコイツまで同じベッドで・・・。」




呟いて、鬱陶しく垂れ下がってきた髪の毛を掻き上げる。
は、ブツブツ呟いていてもどうにもならないことに気が付いて
まぁいいか、とあっさり思考を切り替えた。そして、出来る限り静かにベッドを抜け出し
部屋の片隅にちょこんと置かれた、鞄の上に乗っている自分の服を掴んだ。
少し冷たく感じるそれに手早く着替えると、腰に馴染んだ銃の感覚。
それを手に取り、キンとした。・・・金属の心地よい冷たさに、笑みを浮かべた・・・・・・




――――――――― ・・・朝だぞー、バノッサ。起きろー。」


「・・・・・・。」




そう言ってはみるが、予想通りとでも言うのか。バノッサはやはりピクリとも動かない。
けれどもは、それを見ても嫌そうな顔はせず、寧ろ笑みを深め・・・




カシャン。




・・・そんな金属音が部屋に響いても、バノッサが目を開く様子はなかった。






「カウントダウン開始。
5・・・4・・・3・・・2・・・」



がしっ!!







そこまでがカウントしたとき。
にょきっと白い手が伸びてきて、が突きつけた銃口を掴んだ。
そしてその手は、腕相撲でもするような要領で銃の照準を頭からずらす。




――――――――― ・・・あ。」






バキューン!!






けれど・・・その手との意思に反して、銃口からは火が吹いた。
・・・よく見ると、あまり厚くない木の壁の
ベッドで隠れるか隠れないかぐらいの位置に、また1つ穴が増えている。






「本気で撃つんじゃねェよ、この馬鹿ッッッ!!!!
テメェは俺様を殺す気かッ!?!?(汗)」







寝起きにも拘らず脂汗を掻き、ゼーハーと荒い呼吸を繰り返すバノッサに
やっぱり少しだけ驚いたらしい。いくらか呆然とした声で、が答えた。




「・・・お前がそんな勢いよく銃口掴まなけりゃ
だって誤射せずに済んだんだけど・・・・・・?」


「それ以前にだッ!その起こし方はやめろって言っただろうが・・・ッ!!」


「だってさ、屋外ならともかく。お前こうでもしないといつも起きないじゃないか。」




決まり悪そうに視線を逸らして、が不満を口にしたそのとき。






バタン!




「ど、どうしたんじゃッ!?」






勢い良く開かれた扉が、ギィギィと音を立てて揺れる。血相を変えたアグラ爺さんは
バノッサに銃口を向けると、その銃を掴むバノッサを見て。悪い顔色を更に悪くした。




―――――――――――― ・・・ッッ!!」


「じ、じいさん・・・?」




その屈強な腕に抱えられていた果物が、いくつかゴロゴロと床に転がった。












レヴァティーンが、その大きな翼を広げる。
その足元に、とバノッサとアグラ爺さん、3人の影があった。




「すまんすまん。わしはてっきり、嬢ちゃんが何かされて発砲したのかと・・・」


「何かってなんだコラ、ジジイ。」




苦笑したアグラ爺さんの言葉を、不機嫌なバノッサの声が遮った。




「あははは、良いって良いって。
バノッサのセクハラ紛いは今に始まったことじゃないしね。」


「なッ!?俺様がいつテメェなんかにんなことしたんだよッ!?」




達の世界特有の言葉である“せくはら”
正式名称セクシャルハラスメントとやらの意味を知っているバノッサは
色の白い肌をかっと紅くすると、勢い良く振り返り大声で抗議をする。
アグラ爺さんはやはり言葉の意味が解らないようで、首を傾げた。




「せくはら・・・?」


「んー・・・、例えば。必要以上に女の人の体に接触するとか。
・・・本来は性的ないやがらせとか、そういうのを指し示すのかな?簡単に言えば社会悪だ。」


――――――――――― ・・・ふむ。」




なにやら、の言葉に納得しているらしいアグラ爺さんを
バノッサが乱暴に押し退け、に詰め寄る。
いつも色々と我慢しているつもり(我慢してるのか)のバノッサにとって
それはあまりにも、身に覚えのない不名誉だ。




「だからッッ!!何時、俺様がテメェなんかに、んなことしたってんだよ!?」


「だってさ、のこと担いだり、野宿のとき一緒に丸まって寝たりするだろ?
それって、十分セクハラに当て嵌まると思うんだけどなぁ・・・」


「それはお前が俺で暖取ってるんだろうがッッ!!」


「最近は色々と過剰すぎるところも無きにしも非ずだけどね。
・・・湯たんぽ代わりにしてるのは確かだし。
でもそうじゃなくたって今更気にしないから大丈夫だって!お前の天然だしな。」






・・・っていうか、その服装自体ある意味セクハラじゃないか?


嫌だな、天然のセクハラって。






―――――――――― ・・・あのなぁッ!!(怒)」




バノッサが口を開き、何かを叫ぼうとしたとき
レヴァティーンが、その体格に似合わないか細い鳴き声を上げる。
銀色の竜を、とバノッサは同時に仰ぎ見て・・・




「あー、悪い悪い。・・・すぐ、出発するから・・・」




何処か遠くを見ながら呟いたの一言で、その場に流れる空気が変わった。
すぐそこに、別れの刻がきている。・・・そのことに、誰もが気付いていたから。

一瞬だけ、寂しそうに伏せられたの瞳は
けれどアグラ爺さんを視界に捉えると、すぐに細められる。




「早く空を飛びたい・・・ってさ。」


「・・・そうか。お前さん達には、すっかり世話になってしまったな。」


「・・・それはいいけど。じいさん、本当にいいのか?良かったらゼラムまで送るよ?
なんなら、食料だけでも買って来ようか?ほら、この子でならすぐだし。」




いいよな?とバノッサに視線で尋ね、彼が頷いたことを確認すると
はアグラ爺さんを見つめたが、アグラ爺さんは静かに首を横に振るばかり。




「・・・いいんじゃ。食料は森で調達できる。
それにもしかしたら・・・孫達が帰ってくるかもしれんからな。」


――――――――― ・・・そっか。そうだな、帰ってくるかもしれないね。」








―――――――――― ・・・生きているのなら。








それはにも言えることで・・・決しては、口に出さなかったけれど。




「すまんな。世話になった上に、こんなおいぼれの心配までさせて・・・。」


「いや、いいんだ。ただ、あんまり無理はするなよ?」


「・・・くたばるんじゃねぇぞ、ジジイ。」


「・・・わかっておるわい。」




バノッサも、そう無愛想に呟いて。
簡単な言葉だけを交わして、2人はそのままレルムの村を後にした。

・・・そしてその後の激動の日々のお陰で、再びこの地に戻って来るまでの間。
はこの日のことを、すっかり頭の隅に追いやってしまう事となる。














「っひゃーー!!ここがゼラムか、大きいな!!」




ゼラムの町の城門を潜りながら大きく両手を広げ、が感嘆の息を吐く。
その後ろ姿を呆れたように見つめるのはバノッサ。




「・・・おい馬鹿、田舎者みたいなことすんじゃねぇよ。」


「そうは言うけど、達実際に田舎者だろ?今更なに見栄張ってんのさ?
・・・それより!早く行くぞ!!何が出るかな〜♪」




こうなってはもう止まらない。
そう思ったバノッサは観念して、小走りをしているに続いて歩き出す。
はバノッサの少し先を走っていたが、城門を抜けたところで何を思ったのか、ふと立ち止まる。
お陰でバノッサは、難なくに追いつくことが出来た。

見ると、はそこに立てられた看板と睨めっこをしているようだ。
バノッサが追いついてきたことを、気配で察知すると
は確かめもせずに、パッと後ろを振り返る。




「・・・なぁバノッサ。これ案内板みたいだけど、どっちがどこだって書いてあるんだ?」


「あぁ?」






そういえばコイツ、字は読めないんだったな・・・






言葉は通じるので、普段の意志の疎通にそう不便があるわけでもない。
だから忘れがちになるが、達名も無き世界の人間は
リィンバウムの文字を読む事が出来ないのだったと思い出す。

バノッサは面倒臭そうに背を折って、けれど律儀に。
そこに書かれている文字をに読んで聞かせてやった。




「・・・右が繁華街と商店街、正面が導きの庭園・・・だとよ。・・・どっちに行くんだ?」




しかも、ご丁寧に決定権まで与えてやって。




「んーーー・・・そうだなぁ。じゃあ、まずは繁華街行ってみるか!」




を探し出すことが、ここへ来た本来の目的だけれど
嬉しそうに言って自分のマントを引っ張るは、珍しい程はしゃいでいて
いつもの破天荒さは、ひっそりとそのなりを潜めている。

こうしていればも・・・・・・多少は。普通の女の子に見られ易くなるわけで
傍から見れば、デートのようだと言えなくもない。
(非常に表現が曖昧なところはご愛嬌。)






――――――――――― ・・・たまには、こういうのも悪くねェな。






そう思って。バノッサもまた、珍しいこの状況を楽しむために繁華街へ向けて歩き出した。
道すがら、が指折り何かを数え始める。




「えっと、まずはリプレに服を縫う為の布だろ?それからキール達に、最新の召喚術の本。
そんで子供達にはおかしで・・・サイサリスにはぬいぐるみがいいかな!あとは会長に・・・」


「ちょっと待てッ!!」


―――――――――― ・・・あ?」


「・・・・・・それ全部買う気なのかよッ!?(焦)」
(↑荷物持ちは自分だと確信している模様。)


「・・・そのつもりだけど?あ?なんか問題あったか?(素)」




・・・本来の目的そっちのけで
すっかりテーマパークにでも遊びに来た気分でいるだった。




















戯言。


すみませんすみませんすみませんっ!!
・・・いつものことながら、この上ない程どうにもならない文章です。
これがもう任那にもどうにもならなくてですねー(汗)
ってかこのヘタレ文書くのに前後合わせて何日かけたよ任那?(馬鹿)

アグラじいさんのについての考察は『俺の方が知ってるもん!!』
的発言をバノッサに言わせたかった、ただそれだけです(笑)
なので適当に書いたんですが、まぁ。大人にしてみれば
所謂年齢の割りに冷めた性格の嫌な子供だってことなんです、は。
リィンバウムには素直な子が多そうなので(笑)異色の存在で目立つと良いなと思っとります、はい。

は、いかにも何か。過去っていうか、影というか。
そういうのがあるキャラだと思われてるといいです・・・ドキドキ。
短編にちょこっとネタがあるのですよ。
その伏線というか・・・繋がり?短編と長編に関連性を持たせたいもので。

え〜っと、それから今回は。甘くするっていうのが1つの課題でして!!(爆)
一生懸命甘くなるようにしたつもりです。
加糖だよっ!任那!!・・・って意気込んで書きました。
だから最後、ちょっと仮恋人(爆)っぽくなってますが、は何も考えてません。
バノッサは文字の通訳として必要だっただけなんですよ(苦笑)
は鈍感。は無神経で逝きます・・・!(ぇ?)

達もゼラム地方にやってきたので、次回はついに・・・!!
・・・・・・記憶をなくしたが、マグナ達・・・と・・・・再会・・・するの??(滝汗)

・・・とまぁ、そうなるように頑張ります、はい。





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