「ハッ!バケの皮が剥がれたな、やっぱ奴らの仲間だったのか!!」 黒の旅団が撤退を開始し、完全に姿の見えなくなった頃。 達の去っていった方向を見つめ、リューグがそう言葉を吐き捨てた。 「違うわよッ!!そんなわけないでしょ!?」 それを聞いたトリスはかっとなり、荒い息を整えずに叫ぶ。 あのときリューグが飛び出して来なければ、何かが変わったかもしれないのに。 そう思うと、余計に怒りがこみ上げてきた。 「トリス、ちぃっとは落ち着けって。 一先ずが無事だってことはわかったんだから、いいじゃねぇか。 ・・・リューグも、ちょっとばっかし頭に血がのぼり過ぎだ。」 フォルテに制されても、両者はしばしの間ギリギリと睨みあっていたが ギブソンまでもが仲裁に入ったことで、どちらともなく、ふぃっと顔を背けた。 ・・・トリスだって、解ってはいるのだ。 こんな言い争いをいくら繰り返しても、何の解決にもならないことぐらい。 それに、リューグ頭の中が、アメルを守ることだけで一杯なことも。 彼もアメルを守ろうと必死で、だからこそ余裕がない。 頭ではそれを理解しているけれど、心が言うことを聞いてくれなかった。 理性より感情が勝って、を敵視するリューグに苛立ちが募る。 あたし達が間違えて召喚しなければ、はこんなことには―――――――――― ・・・ そんな考えが、脳裏を過ぎった。 過ぎ去ったことを悔やんでも、今更どうにもなりはしない。 時間は遡らない。それは自然の摂理だ。考えれば、誰にだってわかること。 そんなこと、ずっと昔に嫌と言うほど思い知らされた筈なのに・・・ それでもそう思ってしまう自分がいることに、少しだけ嫌気が差す。 だって、あの場所に偶然居合わせただけの被害者だ。 その彼女が、何故ここまで言われなくてならない?だって、アメルを助けたいと願っていたのに・・・ ・・・その理不尽さが、今はただひたすら悔しくて、腹立たしかった。 「―――――――――――― ・・・トリス。」 ふと名前を呼ばれ、トリスは顔をあげた。 でも顔をあげなくたって、誰の声なのかはわかっていたけれど・・・。 「・・・ネス。」 視線をあげた先にあったのは、予想通りの兄弟子の姿。 困ったような笑みを浮かべて、ゆっくりと歩いてくる彼は 手の届く距離までくると、慣れた手つきでトリスの髪を優しく撫でてくれた。 長い間一緒にいた兄弟子は、口に出さない不安や苦しみもきちんと汲み取ってくれる。 多分、今のネスティの視界には、頼りなく笑うトリスが見えているに違いない。 ・・・例え、他人にはなに1つ変わらない笑顔に見えても。 「は、君のことを覚えていたのか?」 「・・・わからない。でも、あたしの名前を呼んでくれたの。 ―――――――――――― ・・・、苦しそうだった。」 声を詰まらせながら、自分の名前を呼んだ。 不安そうに揺れる、彼女の潤んだ瞳いっぱいに、自分の姿が映し出されていた。 その声が、その表情が。 どうしたらいいのかわからないと、訴えかけているような気さえした。 彼女自身も戸惑っているのだろうと、そう思う。 ・・・なら。それならば、あたしのとるべき行動は1つだ。 「でもね、ネス。あたしはを信じるよ。 他の誰が信じなくても、敵だって言われても、あたしはを信じる。 だって、あたしの知ってるは、アメルを――――――― ・・・ あたし達を、傷つけるような子じゃなかったもの。」 「・・・トリス。」 「だから、はリューグを殺さなかった。 だからは、隙だらけのあたしを殺さなかったのよ・・・。」 あたしが信じないで、誰がを信じるの? 例え彼女のとった行為そのものが、裏切りと呼ばれるものだったとしても。 決して、裏切ろうとして裏切ったわけではない。 ―――――――――― ・・・そう、あたしは信じ続けるから。 「・・・君の好きなようにするといいさ、トリス。 ――――――――― ・・・彼女は君達を傷つけるような人間じゃないと、僕も思うから。」 どうするのかと尋ねれば、恐らくマグナも、トリスと同じような言葉を返すだろう。 いつから彼らは、こんな強い眼差しをするようになったのか・・・ 派閥にいた頃は、どこか居心地悪そうにして。 自分かラウル師範ばかりを頼って、何処へ行くのにもマグナと離れられなかったのに。 いつの間にか、1人でも飛べるようになっていたんだ。 派閥という檻が、彼女を閉じ込めていただけで。 そう思って、ネスティはこっそりと苦笑を漏らした。 〓 第13話 交錯する想い 〓 「・・・っ!」 「ッ!!」 「ちゃん!!」 小さい呻き声が聞こえて、前方を走っていたが崩れ落ちる。 両脇を支えて飛んでいた召喚獣達は 心配そうに倒れてしまった召喚主の周りを飛び回っていた。 召喚獣に支えられていたとは言え 負傷した足で走るのは、そろそろ限界だったのだろう。 いや。自力では立てなかったのだから、ここまで保っただけでも上出来だ。 「ここまで来れば、一先ず安心だろう。 ゼルフィルド、誰かが近づいてきたら知らせてくれ!」 「・・・了解シタ。」 ゼルフィルドが返事をしたのを確かめると イオスはしゃがみ込んでしまったに駆け寄り、膝を付く。 「、大丈夫か?誰か!まだ回復の術を使える者は!?」 「あ、はい!俺、まだ大丈夫です!!」 申し出た彼は、サッとの前に進み出ると サプレスのサモナイト石を掲げ、呪文の詠唱を始める。 綺麗な紫色をした石が、ぼんやりと淡い光を放った。 「・・・イオス、あたし・・・」 肩で大きく、荒い呼吸を繰り返しているは、息も絶え絶えに けれど、何かに縋りつくように言葉を紡ぐ。 イオスの服を掴む、カタカタと震える手が 言葉にしなくとも、彼女の不安を物語っていた。 「、もう大丈夫だ・・・」 今日は、色々なことが一遍にあり過ぎた。 出来るだけ、不安定になっている彼女を落ち着かせるようにそっと囁いて ゆっくりとその柔らかい髪を撫でてやると、は小さく嗚咽を漏らし始めた。 「イオス、イオス・・・!!」 自分に縋りついてくる彼女を、そっとそっと。ワレモノを扱うように引き寄せて。 名前を呼ばれるその度に。 応えるように、細い身体を抱き締めた。 そうしていないと、彼女が消えてしまいそうに思えたから。 「今・・・あたしが、イオスやゼルフィルド。 それにルヴァイド様のことを大切に思ってるのは、本当だよ? 旅団のみんなも優しいし、一緒にいると楽しい。」 「・・・あぁ。」 ずっと俯いていたが、顔をあげた。 大きな瞳一杯に涙を溜めて、イオスを見あげる。 ・・・それを綺麗だなんて思う、不謹慎な自分がいた。 「でも、でもね・・・!?さっきの紫色の髪をした女の子を見たとき あたしの中にいる、別のあたしが言うの・・・ッ!! あの子は優しい子だよ、傷つけちゃいけないって!とてもとても、大切な子だよって!! わかるの!!記憶を失くす前のあたしが、あの子を凄く大切に思ってたこと!! 今のあたしが、イオス達を大切に想うのと同じくらいに・・・ッ!」 「・・・」 「イオス、あたし怖い・・・ッ!! 今、あたしが感じてる・・・イオスや旅団のみんなを大切だと思う気持ちは本物だよ! なのに、もし記憶が戻ったら。全部それが消えてしまうような・・・ さっきの男の子が叫んで、あの子の声を遮ったみたいに あたしのこの気持ちも、そうやって掻き消されちゃいそうで・・・ッッ!!!」 そう泣き叫ぶの声は 酷く掠れていて・・・今にも、途切れてしまいそうで・・・。 本当に、消えてしまいそうで。 「・・・大丈夫。大丈夫だよ、・・・」 だから、そんな彼女を繋ぎ止めるように イオスは何度も何度も、大丈夫だと繰り返す。 繰り返し囁いて、抱き締めて・・・どれくらいの時間が経っただろうか? きっと、数秒もそうしていなかっただろう。 けれどそれは、イオスには酷く長い時間に感じられた。 ・・・はイオスの胸に顔を押し付けて、声を出して泣き始める。 これ以上彼女を歩かせるのは無理だろうと、イオスは思った。 「・・・誰か、馬をここまで連れて来てくれ。」 そのとき、イオスに出来たのは。 震えの止まらないの身体を、せめて吹き曝す風からも護るように ・・・彼女を抱く腕に、力を篭めることだけだった。 黒の旅団が撤退したのち。 ギブソン・ミモザ邸のリビングでは、少しでも敵の正体が掴めないかと 今回の襲撃で戦った相手について、報告会が行われていた。 「・・・そう、そっちはそんなことになっていたの・・・。」 神妙な面持ちで、ミモザが呟く。 雨が降る前のどんよりとした雲にも似た、重苦しい雰囲気が辺りに漂った。 ・・・ギブソンと共に正面から彼等を迎え撃ったトリスが 敵の中にがいたことを報告したからだ。 それはこの場にいる者たちにとって、どれほどの衝撃だったろうか? 「アイツは最初から奴らの仲間だったんじゃねぇのかよ?」 「リューグ、止めるんだッ!!」 まだ熱の冷めやらぬまま、リューグが吐き捨てるように告げ 無神経な弟の言葉に、ロッカが制止の声を荒げる。 自分達はそうではないが、トリスやマグナは、仲間として、友人として。 今まで彼女と行動を共にしてきたのだ。 だから、それでも彼女を信じたいと願うのは、至極当然であろう。 ・・・そう考えるだけの冷静さを、今のロッカはかろうじて持っていた。 そしてなによりも。 それを聞いたアメルが、辛そうな表情をしていることに気が付いたから。 「―――――――――――― ・・・いや、その可能性はないだろう。」 落ち着いた、優しい声色で。 けれどもはっきりとリューグの考えを否定したのは この屋敷の主でもあるギブソンだった。 ただでさえ、彼とミモザに世話をかけていることは、リューグも十分承知だ。 それに彼は、先程の襲撃でもその強さを存分に発揮している。 頭に血がのぼったままのリューグや、集中力を欠いたトリスだけでは 彼らを退けることすら叶わなかっただろう。 それを解っているから。 ・・・いくらリューグでも、ギブソンの意見を聞かないわけにはいかなかった。 ぎゅっと握った拳から力を抜き、不満を露にして言う。 「・・・なんでだよ。」 「・・・彼女はトリスとマグナに二重誓約されてきた存在だ。 彼女が喚ばれてしまったのはほぼ事故のようなもので、予測できるものじゃない。 偶然と偶然が重なって、彼女はここへ来たんだ。 そんな彼女が、最初から敵と通じていた可能性は極端に低い。」 ギブソンに指摘されて初めて。 その事実に、トリスとマグナがハッとした表情を見せる。 「そ、そうよ!召喚したあたし達だって まさかを二重誓約しちゃうなんて、わからなかったんだからっ!」 「そうだそうだッ!!を召喚しちゃったのは、たまたまなんだぞ!」 「―――――――――――― ・・・胸張って言えるようなコトじゃネェだろうがよ(汗)」 しかもそれ、今まで忘れてたのか?(呆) 力説するトリスとマグナを横目に、呆れた表情でバルレルが呟いた。 「・・・で、でも!さんの潔白を証明するのには、十分な筈ですっ!」 「・・・・・・(コクリ)」 「事前ニ全テヲ予測シ、行動出来ル確率ハ限リナク0%ニ近イデス。」 トリスの後ろに隠れるようにして、レシィがそう言い 同じくマグナの後ろに控えていたハサハとレオルドも、レシィの意見に頷く。 じっとこちらを見つめる10の瞳に このときはリューグも、それ以上何か言うのを諦めたようだった。 「―――――――――― ・・・しかし、ギブソン先輩。 彼女は・・・は、一体何者なんでしょうか? 全ての属性の召喚をこなしたうえに、呪文の詠唱なしで召喚術を行使するなんて・・・」 「・・・なぁ、そのことについてなんだがよ。 俺達にもわかるように、詳しく説明してくれねぇか?イマイチ解らなくってよ。」 フォルテが降参だとばかりに、両手をあげてみせる。 良く見るとアメル達も、いまいち要領の得ていない表情を浮かべていた。 そこでトリスは、派閥が外部へ対して とても閉鎖的な態度を取っていることを思い出した。 「そうね。召喚師ではない者にとっては、あまり縁のないことかも知れないわね。」 「それもそうですね・・・トリス、マグナ。」 「「う゛ぇぇッ!?」」 指名を受けたトリスとマグナは、いきなりのことに素っ頓狂な声をあげる。 嫌な予感に蒼褪める2人を見て、ネスティは眼鏡をキラリと光らせた。 「・・・いくら君達でも、これぐらいは説明できるだろう・・・?(爽)」 優しく微笑むネスティの背後には、言い知れぬ威圧感が漂っている。 それを見たトリスとマグナは、逃れられないことを悟って、覚悟を決めた。 「え、えっとー・・・まず、ハサハのいた鬼妖界シルターン、レオルドのいた機界ロレイラル。 それから、バルレルのいた霊界サプレスと、レシィがいた幻獣界メイトルパ。 合計4つの属性があることは知ってるよな?」 「あぁ、それくらいは聞いたことがあるぜ。」 「あたし達召喚師って言うのはね、あらかじめ、使える属性が決まってるの。 だから名のある召喚師の家なんかは、一族で扱える属性が決まっていたりするのよ。 普通は、召喚師1人につき1属性。多くても、2つの属性しか使いこなせないんだって。」 ・・・で、良かったんだよね?マグナ・・・(焦) ・・・多分、そうじゃなかったか?トリス・・・(汗) いつになく、それこそ戦闘中よりも緊張して汗を掻き それでもどうにかそこまで説明した2人は、そっとネスティの様子を窺う。 じっと、こちらを監視するように見守るネスティからは お得意のアレ(名セリフ、『君は馬鹿か』)が出る気配が見受けられなかったので 2人はどうやら合っていたらしい、と安堵の息を漏らした。 「・・・召喚術はサモナイト石を媒介に、詠唱と魔力によって発動するの。 だから召喚術を使うには、本当は詠唱がいるはずなんだけど・・・」 「はその法則に当て嵌まらなかった。だから問題なのね?」 確認するケイナの声に、2人は大きく頷いて見せる。 「・・・それに関しては、私達に1つだけ心当たりがある。」 「―――――――――― ・・・それは本当ですか、ギブソン先輩ッ!?」 驚くネスティにゆっくり頷いて見せてから、ギブソンはミモザへ視線を向ける。 ギブソンの言う心当たりに思い当たったミモザは、彼女にしては珍しく、厳しい表情を見せた。 「―――――――――― ・・・ギブソン。それってやっぱり・・・」 「ああ。だが、そうとしか考えられない。」 2人は顔を見合わせ・・・・・・しばし、沈黙が訪れる。 その沈黙が、あまり表沙汰にはしたくない内容であることを示していた。 それを感じ取って、けれど痺れを切らしたように、マグナが口を開く。 「先輩!お願いです、のこと・・・なにか知っているなら、教えてくださいっ!」 「あたしからも、お願いします!!」 マグナとトリスの真剣な眼差しとぶつかって、ミモザはふっと表情を緩めた。 「――――――――――― ・・・いいわ、話してあげる。 あなたも異存はないはないわよね、ギブソン?」 「あぁ、私は構わないよ。」 ギブソンの顔も見ずに問うミモザは 最初から彼が頷くと解っていて、尋ねているようだった。 「多分、そのちゃんって子は、“名も無き世界”の住人だわ。」 「“名も無き世界”、ですかッ!?」 「ネ、ネス・・・!!名も無き世界って確か 無属性のサモナイト石と関係があるんじゃないかって言われてる世界だよねッ!?」 「・・・あぁ、そうだ・・・(溜息)」 心なしか、ネスティが疲れの混じった声色で答える。 彼の眉間に、皺が1本増えていた。 兄弟子の肯定されたトリスは顔色を悪くして 同じように顔色を悪くしているマグナを見上げ、こそこそと囁く。 「・・・ど、どうしようマグナ・・・?」(ヒソヒソ) 「どうしようって言ったってトリス・・・(汗)」(コソコソ) そういえば俺(あたし)達 無属性のサモナイト石で召喚したんだったっけ・・・!!(焦) 今更ながらにそんな事実を思い出し、内心ダラダラと冷や汗を掻く。 「1年前。無色の派閥の反乱という事件が起こったのは知っているわよね?」 そんな2人の様子を気に留めることなく、ミモザは話を進めた。 「・・・確か、ギブソン先輩とミモザ先輩が派遣された事件でしたよね?」 そんなことを、以前たまたま出くわした時に、ネスティが言ってた筈だ。 そう思い出して、動揺の治まりきっていないまま、マグナが言う。 「・・・ええ、そうよ。」 「私達はその事件を追っているときに “名も無き世界”からやってきたという少年達に出会ったんだ。」 「その子達はね。全ての属性の、高位召喚術を使うことが出来たのよ。 ―――――――――――― ・・・しかも、呪文の詠唱無しでね。」 「全属性の高位召喚を、詠唱なしで!?そんなことが可能なんですか・・・ッ!?」 「信じ難いかも知れないけれど、真実よ。ネスティ。 あたし達は彼らの力を借りて、あの事件を解決したの。」 「まぁ、そのときの命令違反で 今はこうして、謹慎の身なんだけれどね・・・。」 苦笑して。最後に、ギブソンがそう付足した。 「でもギブソン。その子が名も無き世界の住人だとしたら・・・」 「・・・私も、今それを考えていたところだよ。」 「・・・まだ、何かあるんですか?」 軽く首を傾げて、じっと自分を見上げるトリスを見下ろして、ミモザが口を開いた。 「ねぇ、あなた達?ちゃんのこと、他に何か聞いていないかしら? どんな些細なことでもいいんだけど。」 ミモザに問われて、レシィとハサハはお互いの顔を見合わせる。 「さんの、ことですか・・・?」 「・・・???」 「レオルドくんは、なにか聞いてますか?」 「身体的特徴ノでーたナラバアリマスガ。」 「え、えっと・・・それはちょっと、違うと思うんですけど・・・(汗)」 「ピーピーギャーギャー煩かった、それだけは確かだぜ。」 「バルレルッ!!・・・う〜ん、記憶喪失だってことぐらいしか・・・ねぇ、マグナ?」 「・・・そうだなぁ・・・・・・なにかあったっけ、ネス?」 「いや、これと言って思い当たらないが・・・」 考えても考えても。 出てくるのは彼女の突拍子もない言動の数々ばかり。 誰も彼もが首を傾げて唸っている。 ミモザとギブソンが、これといった情報は得られないかと思い始めたとき・・・ 「あッ!!!」 突如、ポン!と掌を叩いて、マグナが声を上げた。 「なになに!?なにか思い出したの、マグナ!!」 みんなの視線を一身に集めて、マグナが嬉々とした表情で告げる。 「俺達に召喚される前は、サイジェントに住んでたって言ってましたよ!」 「・・・あぁ。そういえば、そんなことを言っていたな・・・」 「「サイジェントだって(ですって)ッ!?」」 気を抜けば吹き飛ばされてしまいそうな声でそう叫ばれて、マグナは目を白黒させた。 ・・・ミモザだけならともかく、ギブソンまでもがこうして声を張り上げるのは、とてつもなく珍しいことだ。 「そ、そんなに驚くようなこと言いました?俺。」 まだバクバクいっている心臓を押さえて、マグナは自分の言った言葉を反芻する。 けれどいくら探しても、あれほどまでに驚かれる要因は見つからない。 「・・・あぁ。すまない、驚かせてしまったようだね。」 そう、小さく苦笑すると。ギブソンは一呼吸おいてから、再度口を開いた。 それがいつものギブソンであることに、マグナは安堵する。 「実はね。さっき話した“名も無き世界”出身の友人から、久しぶりに手紙が届いたんだ。 なんでも、仲間の1人が突然光に包まれて、行方不明になったらしい。」 「「―――――――――― ・・・え゛。」」 「・・・先輩、まさか・・・・・・(汗)」 「多分そのまさか・・・よ、ネスティ。 いなくなった子の名前は、って言うらしいわ。」 「彼らはサイジェントに住んでいてね。 君達から彼女のことを聞いたとき、私もミモザも、もしかしたらとは思ったんだが・・・」 「いくら珍しい名前でも、確かめもせずに報告するわけにはいかないでしょ? だから、本人に会うまで返事は先延ばしにしよう、ってことにしてたのよ。」 「だが、ここまで証拠が揃っているとなると 彼女がその探し人であることは間違いないだろうな。」 「いくらなんでも、世の中そんな都合良く出来てないと思ってたんだけど、わからないものねー。」 言ってミモザはケラケラと笑ったが を召喚してしまった張本人、トリスとマグナはとてもじゃないが笑える心境ではない。 笑えませんよ、ミモザ先輩・・・ッ!! 「私達の方から、彼らには事の成り行きを説明しておこう。 既にこの近くまで、彼らの仲間が来ているらしいから、すぐそちらにも話は伝わる筈だ。」 「お手数お掛けします、先輩・・・」 「「よろしくお願いします、先輩。」」 ネスティが深々と頭を下げたので、トリスとマグナも慌てて頭をさげる。 こうして、のことは一段落したかのように見えた。 「―――――――――――― ・・・それでも。」 突如響いた冷たい声に、全員の注目が一気にそちらへ集まった。 それは最初に話したきり、今まで一言も言葉を発さなかった、リューグの声。 多分、ずっと彼なりに考えていたのだろう。 そんな彼がやっと口にしたのは、それでもを否定する言葉だった。 「・・・それでも俺は、アイツを許せねぇよ。」 「・・・リューグ・・・?」 その、どこか追い詰められた声に、アメルが不安そうに呟いた。 「もし本当に、アイツが記憶を失くしちまってんだとしてもだ!! 知らなかったから、で済まされる問題じゃねぇだろッ!? アイツは俺達の村をあんなにした連中と、何にも知らないで仲良くやってんだぞ!?」 「リューグ・・・!それは言い過ぎだぞ!!」 「じゃあ兄貴は、全部笑って水に流せるって言うのかよッ!?」 「それは――――――――― ・・・ッッ!?」 「ハッ!だったら俺と同じじゃねぇか!!」 それはまるで、噴火した火山から噴出すマグマのように。 留まることを知らず、リューグの中から次から次へと、絶え間なく溢れ出る。 一度堰を切ってしまったものは、なかなか止めることが出来ない。 「おいおい、お前ら!今はそんなことで言い争ってる場合じゃ・・・」 どうも喧嘩っ早いこの双子を引き離そうと、フォルテが割って入ろうとしたとき・・・ 「・・・なら、リューグは何も知らないが・・・ 何も覚えてないが、全部悪いって言うの・・・ッ!?」 必死に何かを押さえ込んでいるような、そんな・・・微かに震える声が聞こえ まるで時間が止まったように、瞬間その場がシンと静まり返る。 言い争っていた張本人、リューグとロッカも、ただならぬその声に、反射的に口を噤む。 一瞬、誰だか解らなかった声の主を、ケイナが目を見開いて見つめた。 「―――――――――― ・・・トリス・・・!?」 驚くケイナの声を気に留めることなく、トリスは続ける。 「気が付いたときには誰もいなくて、全然知らない場所に1人放り出されて・・・ どうやって明日を生きていけばいいのか、途方に暮れる・・・っ! そういう不安が、リューグに解るの!?そんなの、ただの八つ当たりよ! ばっかりが悪いようなこと、言わないでッッ!!」 「――――――――――― ・・・トリス!」 そのままリューグに喰ってかかりそうな剣幕のトリスを 後ろから伸びてきたマグナの腕が止めた。 双子とはいえ体格の違うトリスは、マグナにあっさりと動きを封じられてしまう。 それでも彼女は、自分を拘束するマグナから逃れようと その腕の中で必死にもがいていた。 「離して・・・ッ!離してよ、マグナ・・・ッッ!!」 「マグナ、トリスを・・・」 「うん。・・・わかってる、ネス。」 暴れる妹を押さえつけながら、マグナはネスティの言葉に頷き これが本当にあのマグナだろうかと見間違うような、氷のように冷たい瞳でリューグを一瞥すると 喚き続けるトリスを担ぎ上げて、部屋から出て行ってしまった。 その後姿を、ハサハとレシィが心配そうに見送る。 ネスティは内心、暴れ出したのがトリスだけだったことにほっと安堵して ・・・それから、ことの発端であるリューグを見た。 ネスティと瞳が合うと、少し冷静になったのか。彼は気まずそうに視線を逸らす。 双子なだけあるのか、見るとロッカも同じような表情で俯いていた。 「・・・みんな、もう少し冷静になりましょうよ。アメルの気持ちも、考えてあげて。」 ケイナの声に全員がハッとして、アメルに視線を向ける。 彼女は俯いて、自分の手をきゅっと握り締めていた。 「・・・お願い、もうやめて・・・。」 訴えるようなアメルの声に、ロッカとリューグは、苦々しく顔を顰めた。 感情任せに振舞ったことで、彼女を傷つけてしまったのだと気付いたから。 「あたし、力を使ったときに視たんです。 ・・・さんは、本当に澄んだ心をしていたんです・・・!!」 気付いてくれた・・・レルムの聖女じゃない、“アメル”に。 「聖女じゃなくて、アメルって呼んでくれた。 友達・・・だって、言ってくれたの。・・・何かあったら、相談してって・・・」 あの村で、聖女として扱われるようになってから。 そう言ってくれたのは、1人の普通の女の子として見てくれたのは・・・彼女が、初めてだった。 キズを癒す存在であるはずの聖女を癒したのは、彼女の言葉。 ・・・だから。 「――――――――― ・・・だからお願い。そんなこと、言わないで・・・」 あたしはさんを・・・あの優しさを、信じるから・・・ 「・・・そうね。キミがイライラするのも解るけど、他の人のことも考えないとね。」 相変わらず穏やかな瞳をして、ミモザがリューグに微笑みかける。 少しだけ、重苦しい空気が緩和されたような気がして 召喚主の不在から不安になっていたレシィもハサハも、ほっと胸を撫で下ろした。 ・・・何が楽しかったのか、バルレルだけは面白そうに笑っていたが。 そんな中、ネスティが無言のまま、その赤いマントを翻した。 「・・・ネスティ。」 「・・・トリスの様子を、見てきます。」 呼び止めたギブソンにそれだけを告げると 軽く頭を下げて、ネスティはリビングから消えた。 暴れるトリスを連れて、2階にある 彼女に宛がわれた部屋にやってきたマグナは 真っ白なシーツの敷かれたベッドの上に さっきより少しだけ大人しくなった妹をそっと降ろす。 降ろされた途端、トリスは黒騎士達を相手に戦ったときのような 強い眼差しでマグナを見上げた。 「マグナは、あんな風に言われて悔しくないのッ!? だって、きっと・・・不安でいっぱいなのに・・・ッ!」 マグナはトリスに視線の高さを合わせ 錯乱状態の妹を落ち着かせるように、その小さな両肩に手を置いた。 そしてじっとこちらを見つめる、真剣なマグナの瞳に 喚き散らしていたトリスは、ぐっと押し黙る。 少しだけ、レルムの村から脱出したときの。・・・あの瞳に似ていたから。 「俺だって、トリスと同じ意見だよ。でもトリス。 ここでトリスとリューグが喧嘩したら、アメルを不安にさせるだけじゃないか。」 「――――――――― ・・・!!」 トリスの瞳が揺れる。 それを確認して、マグナが続けた。 「トリスだって、覚えてるだろ? が捕まったって聞いたとき、アメルがどんな顔をしてたか。」 「・・・うん。」 「は、俺達より先にアメルに会ってた。友達になったって、嬉しそうに話してた。 だからきっと、が代わりに捕まったことに、アメルは責任を感じてる。」 「・・・・・・うん。」 少しだけ、居心地が悪そうにマグナから視線を逸らし けれど素直に頷く妹に、マグナは軽く溜息を吐いて、微笑を浮かべる。 こういう仕草は、今も昔も変わらない。 「・・・トリス、少しは落ち着いた?」 「――――――――――― ・・・ごめん、マグナ。 あたしも、ちょっと頭に血がのぼってたみたい。」 頭を掻いて苦笑するトリスは、もういつものトリスだ。 ・・・そう、勉強が嫌いで脱走ばかりしていた、あの。 肩から力が抜かれ、瞳の奥にあった燃えたぎる炎のような意思も 今ではすっかり、そのなりを潜めている。 「・・・がね、あたしの名前を呼んだとき・・・ すっごく、不安そうだったの。」 「・・・うん。」 「あたし達が、を二重誓約しちゃって・・・ いきなり知らない場所につれて来られちゃって、知らない人に囲まれて。 それでも元気に笑ってた、あのがだよ・・・?」 「うん。」 「だからね、あたし思ったんだ。1人ぼっちで、全然知らないところに連れて行かれて。 ・・・その上記憶まで、失くしてしまったは あのときの・・・派閥に連れて来られたときのあたし達と同じなんじゃないかって。」 「トリス・・・。」 「あたし達には、派閥以外に居場所がなかった。 帰る場所なんて、他に知らなかった。 自分は何をしてしまって、何をするべきなのか。・・・わからなかった。」 全部自分の手で壊してしまって。 残っていたものは全て取り上げられて。 何も解らずに、絶望感と喪失感だけを手に 派閥まで連れてこられたあの日。 派閥以外に生きる場所は与えられなかったし 何の選択権も与えられなかった。 自分が何をやってしまったのか それすらもきちんと理解出来ないまま。 「けど、あたし達の周りにはラウル師範がいた。ネスがいた。 ・・・そんな風に、も帰る場所がわからなくて・・・見つからなくって。 でもそこには、あたしたちじゃなくて、あの人達がいた・・・ただ、それだけなんじゃないかって。」 「・・・・・・。」 幼い頃の自分と同じように、彼等以外は、誰も縋る人がいなくって ・・・同じように、自ら望んだわけではなかったけれど、知らずにやってしまったことがあって。 ・・・それを、思い出したから。 『知らなかったから、で済まされる問題じゃねぇだろッ!?』 そう言った、彼の言葉が痛かった。 だけが悪いんじゃない、そんなつもりでやったんじゃない・・・ そう、大声で言いたかった。言ってあげたかった。 いつのまにか、口を閉じ。 様々な感情の入り混じった瞳で、自分を見ているマグナに気付いて トリスは自嘲気味な笑みを浮かべる。 「ごめんマグナ・・・なんだかあたし、変なこと言ってるね。 あはは・・・あたし、を自分と重ねちゃったみたい。」 けれど、他の誰もが誤魔化されるようなトリスの笑いにも マグナの表情が緩められることはなかった。 その代わり、子供の頃とは違うしっかりした腕に、ぎゅっと抱き締められた。 「・・・大丈夫。俺には、痛いほどわかったから・・・。」 耳元でそう囁く声は、低くはなってしまったけれど 昔と変わらない、優しい声。 「――――――――――― ・・・うん。」 呟いて、瞳を閉じて。 ・・・そうして、想う。 ―――――――――― ・・・多分あたしは心のどこかで。 あのときのあたしは、あたし達は悪くなかったんだって。仕方なかったんだよって・・・ 誰かに言って欲しいと思ってるんだ・・・ そんな会話が部屋の中でされている頃、ネスティはドア一枚を隔てた廊下にいた。 ノックをしようとあげた手は、軽く握られた格好のまま止まっている。 ――――――――――― ・・・そう。彼女たちに似ていたからだ。 唐突に、ネスティはそう思った。 ふと、気が付いたのだ。 どうして自分が、会って間もない少女に、あれほどまで気を許していたのかを。 あの村で、と離れたあの日から。自分達には関係の無い人間だ。 いくらそう思っても、彼女を心配する気持ちは消せなくて。 “僕達が殺されてしまったら、誰がを助けるっ!?” 自分の吐き出した言葉に、ただ戸惑いと焦燥感を覚えて。 どうしてあんなことを自分は言ったのか、ずっとずっと、その意味を考えていた。 こちらが呆れるくらい、ひたすらにまっすぐで、明るくて。 そのくせ、他人の痛みを知っていて。 だからこそ、いっそ無謀なくらいに誰かのために一生懸命になれる。 簡単に、他人のために体を張ってみせる。 2人の愚かだとも取れる素直さに 純粋に僕を見上げる、信じて疑わないあの瞳に、僕は救われたんだ・・・ も自らの身を省みず、飛び出してくる・・・ 無鉄砲だと、こちらがヒヤヒヤさせられるくらいに。 けれど痛みを知っているから、あんなふうに他人に笑ってみせるんだ。 そして何の算段もなく、素直にその感情をぶつけてくる。 トリスとマグナに似ているのだ、彼女・・・・・・は。 そうだったのだと解った途端、なんだか気分が軽くなった気がした。 一緒に過ごした時間は短いのに、彼女はスルリと僕の中に入り込んできた。 でも、それはとても簡単なこと。 彼女達と似ていたから、僕はを大事に思った。心を許した。 1度わかってしまえば・・・それはあまりにも短絡的で、滑稽なほど単純な理由。 彼らの持つ、その素直なひたむきさに。 ―――――――――――― ・・・僕はずっと、焦がれていたのだから。 「・・・あ、あの・・・」 突然足元から聞こえてきた、か細い声に。ネスティはハッと我に返った。 視線をゆっくり降ろしていくと、オドオドとしたレシィが 困ったように自分を見上げていた。 そんなレシィの背中にくっつくようにして、ハサハもネスティを見上げる。 「ネスティさん、その・・・入らないんですか?そんなに、ご主人様たち・・・」 「あ、いや。・・・もうトリスも大分落ち着いたようだ。入ろう。」 ネスティがそう言ってやると、レシィは安心したのか、ぱぁっと表情を明るくして頷いた。 後ろにいるハサハに、もう大丈夫だとかなんとか声をかけている。 ・・・そういえば。以外にも、世話をするものが増えたんだったな。 そう思ってクスクスと苦笑し、止まっていた手で、ドアをノックした。 「トリス、マグナ。・・・僕だ、入るぞ。」 ドアを開けて室内へと消えて行くネスティの後姿を 呆気に取られてレシィが見ていた。 扉の前で思い詰めた顔をしていたから、中の様子が余程なのかと思ったら 今度は比べ物にならないくらい穏やかな表情をして、部屋へ入っていってしまった。 「ネスティさん・・・一体どうしたんでしょう?」 思わず立ち尽くしてしまっていたレシィの服の裾を ハサハがピンピンと引っ張る。 レシィが振り返ると、ハサハは瞳を細めて嬉しそうに微笑み、こう告げた。 「大丈夫・・・ぽかぽかしてたよ。」 「ぽかぽか、ですか?」 「・・・(こくり)」 どうもハサハの言うことは抽象的で、時々何を言いたいのかわからないときがある。 今が丁度それで、レシィには何がぽかぽかなのか、いまいち良くわからない。 「レシィ、ハサハ・・・?どうした、入らないのか?」 なかなか入ってこようとしないレシィに、不思議そうにネスティが問いかける。 「・・・あ!は、入りますっ!」 レシィは慌てて返事をして、ハサハの手を引き、自分達も部屋の中へと入っていった。 瞳に痛いほど鮮やかな、オレンジ色をした太陽が その体を、既に半分ほど地に沈めている。 もうすぐ陽が落ちるというのに、黒の旅団の駐屯地は 時刻に相応しくない騒がしさだった。 それはゼラムへ行った特務隊長率いる先遣隊が戻ってきた為。 とある1つのテントから少し離れたところに、大きな人だかりが出来ていた。 「おいっ!ちゃんが怪我して帰ってきたって、本当なのかッ!?」 その人込みを掻き分けて エルは、ゼラムから帰還した仲間に、噛み付くように問いかけた。 「あ、あぁ・・・。聖女一行との交戦中に、完治していなかった足のキズが開いたんだ。」 「それで、ちゃんの容態は・・・!?」 続けざまにそう問うと、彼は途端に眉を顰める。 それは、事態があまり良い方向へ向かっていない証。 「・・・怪我自体は、大した傷じゃないよ。 治癒しかけてた傷が、開いただけだから。ただ・・・・・・」 「――――――――――――― ・・・ただ?」 「今は。ちゃんの心のほうが、心配だ・・・」 そう、テントを眺め呟いたとき。 重い布が擦れる音がしてテントの中から1つ、人影が出てきた。 集まっていた旅団員達の注目が、一気に彼に集中する。 「・・・特務隊長っ!」 「ちゃんの様子はどうですかっ!?」 誰も彼もが一斉に口を開き、あっという間にイオスの周りを取り囲んだ。 半ば予測していたのだろうか? 詰めかける彼らにイオスは驚く様子もなく、冷静に質問に答えた。 「足の怪我の治療は済んだ。他に目立った外傷も見当たらない。 少々熱が高いが、大したことはないそうだ。明日になれば下がるだろう。」 「良かったッ・・・!」 「・・・ちゃん!」 安堵の表情を見せる彼等に、イオスも思わず顔が緩む。 がやってくる前の黒の旅団は いつ命を失うか知れない敵国への進軍と、不本意な任務。 それによって、もっとピリピリした空気が流れていたような気がする。 少なくとも。全員が一様に誰かを心配し、喜ぶなんてこと・・・ここ最近はなかった。 けれど次の一言で、そんな彼等をまた不安に陥らせると思うと・・・ イオスは少しだけ、気が引けた。 「―――――――――― ・・・だが、彼女の精神は衰弱し、とても不安定な状態にある。 今は薬で眠っているが・・・しばらく休ませる必要があるだろう。」 ほっとしたのも束の間。 一転して、重苦しい空気が旅団員の間に満ちた。 ・・・特に、ゼラムへ行った者達は の様子を目の当たりにしているだけに、なんとも言えない表情になる。 「・・・解ったのなら、各自それぞれの持ち場に戻れ。 ここで騒いでは、がゆっくり休めないだろうからな。」 渋々彼等が散って行ったのを見届けると、イオスはもう1度 さっき出てきたばかりの・・・が眠っているテントを振り返る。 「――――――――――――― ・・・。」 彼女の名前を呟き、そして自分もまた ゼラムでの出来事を報告すべく、上司のいるテントへ向けて歩き始めた。 |
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戯言。 はい、こんにちは。そしてすみません(苦笑) 任那、自分を追い詰める為に13話UPです。 12話の残りとか、そんなものでほとんど出来上がっていたこの話なんですが やっぱりどうにもなんか・・・ね。 もう少しどうにか出来そうで出来ないのです。 なので1度UPしちゃって、まぁどうにかなりそうだったらその後に手直ししろよ・・・と。 いつまでも同じところで突っかかっているのは 前にも後にも進めない感じで非常に良くないので。うん、ふんぎりは必要だよ。 交錯する想いってことで、それぞれの心境を書いたこの回なんですが なんだかこれだけだと、リューグがかなり無神経なお馬鹿さんに見えますね(笑) いえいえ、今後たくさん成長して貰う予定ですよ、彼には。 それにしても、よく暴れるねー君。(やらせてるのはお前だ。) トリスとマグナの、所謂心のキズとか ネスティは2人に似てるから世話してやらなきゃ・・・ という保護欲から恋愛に発展しちゃうタイプなんだとか(爆) リューグはアメルを守ろうと必死で、それでを悪く言っちゃうわけなんだけど みんなの知らないところにアメルはと会ってるから のことをとっても気に留めてたりとか。 まだ皆、お互いを解り合おうっていうよりは一方通行な感じ。 そんなお話でした、今回は。 さて今後は、が復活するまで?する過程・・・?? とにかく、そんなものになる予定です。 ヒマそうにしているので(笑)&バノッサも出てきそうな予感です。 |
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