その日も、とバノッサは少しでも情報を掻き集めるため、別行動をとっていた。
昼から始めた聞き込みは夜まで続き。
は一足先に区切りの良いところで調査を終え
仕事後の一杯とやら(でも一杯どころじゃない)を楽しみながら
待ち合わせ場所のいつもの酒場で、バノッサがやってくるのを待っていた。




「ぷっはーーー!!やっぱ働いた後の酒は格別だね!
あ、マスター!こっちのテーブルもう1本追加ねーー!!」


「今日もいい飲みっぷりだけど、いつものお兄ちゃん来るまで待ってなくていいのかい?」


「あはは!!アイツはいいのいいの!
アイツ来たらどーせ、もう1回注文しなきゃ足りないんだからさ!」




あのチンピラA達と乱闘を繰り広げた酒場で
はもう、すっかり馴染みの上客になっていた。

酒場のマスターがお酒の入ったビンを持ってきてくれて、は嬉々としてそれに手を伸ばす。
ここのマスターはなんとなく雰囲気がペルゴに似ていて、は結構気に入っていた。

が上機嫌で次々と酒を飲み干していると
なんだか、酒場の入り口付近が騒々しくなってきた。

興味本位でそれを覗き見て。
・・・けれどそれを見た途端。はもう少しで、折角の酒を吹きだすかと思った。



そこにいたのは、左腕に(サソリ)の刺青を入れた男と、その取り巻きだったからだ。






ど、どう考えても同族・・・ッ!!(汗)






そんなことを思っていると、その男とばっちり目が合ってしまい
は慌てて、隠れるようにその場にしゃがみ込む。






や、ヤバ!!目、合っちまったよ!!(焦)






がマズイ、と思ったとき。
もうすぐ手の届く所まで、男の影は迫ってきていた・・・。














〓 第15話 嵐の前の騒々しさ 〓















「フォルテ、なんだか奥の方が騒がしくないかしら?」




ミニスの探しているペンダントが、闇オークションにかけられている可能性を考えて
繁華街の、あまり治安の良くない奥地までやって来ていたフォルテとケイナは
結構な時間の探索の末、軽い食事を取ろうと足を踏み入れたばかりの酒場で
奥のほうに妙な人だかりが出来ていることに気が付いた。




「・・・確かに、なんかあるみたいだな。どれ、俺もちょっくら覗きに行って来るか。」


「あ、ちょっとフォルテ!待ちなさいよ!!」




やっちまえだのなんだのと、あまり穏やかでないヤジを飛ばす野次馬たち。
フォルテはそれを器用に掻き分けて、そんな彼を盾にするようにケイナは後を付いていく。

そうして辿り着いた渦中にいたのは、いかにも喧嘩慣れしていそうな無骨な男と
その周りを固めるように立つ、数人の男たち。それから・・・




「・・・そんなワケだ。俺達の相手も勿論してくれるんだろうな、ネェちゃん。」




マグナやトリスと大して変わらない年齢だろう、1人の少女。

彼女を見て一瞬だけ。フォルテは男か女か迷ったが。
姉ちゃん、と呼ばれているということは、女性なのだろう。
身長のわりに華奢な体付きも、そうだとわかれば納得がいった。

それこそ言葉の通り、この辺りにはゴロゴロいそうなゴロツキ連中に囲まれて
少女は呆然とその場に立ち尽くしている。

少女の雰囲気からして、娼婦の類だとは到底思えないし
人気(ひとけ)のない場所へ無理矢理に連れ込まれようとしているわけでもないようで。
どちらかといえば、ゴロツキが一方的に喧嘩をふっかけているように、それはフォルテの視界に映された。




「・・・喧嘩か?」




妙な取り合わせに、疑問系でフォルテが呟く。
少し遅れてその光景を目にしたケイナが、口を開いた。




「女の子1人に何人も・・・恥ずかしいと思わないのかしら!?
フォルテ、助けてあげなさいよ。」




ケイナに上目遣いで言われ
元々その気だったフォルテは、“あぁ”と頷いて輪の中に進み出た。












「・・・今は頼りになるお仲間もいねぇ・・・どうするんだ?」




その言葉に、はピクリと眉を吊り上げた。
今の言い方からするとこの男は、バノッサの存在を知っているのだろう。
ちなみに、コイツは蠍男に命名した。(それはどこの怪人の名前ですか。)






コイツら、わざわざが1人のときを狙ってきたのか・・・






四方八方を塞がれている、またもや一見不利な状況下で。
けれどもは、そんなことを考えていた。

こういう連中同士の抗争っていうのは良くある話だが
どうやらゼラムでは、そのチームの数がやたら多く存在しているらしい。

そして彼等の言い分を聞く限り、龍の刺青のあった男。
チンピラA(命名)率いるチームと彼等は対立・・・というか
お互いに競い合っているチーム同士なんだそうだ。まぁ簡潔に言えば縄張り争いだ。
だからつい先日、チンピラAがどこぞの冒険者に負けたという話は
当然の如く、すぐに彼等の耳に入った。

その報告を受けて、蠍男は考えた。

チンピラAに付き従っているヤツは、それこそ何十人単位でいる。
だが、彼等を負かしたという冒険者はたったの2人。


チンピらAのチーム全員を相手にするより
彼等を負かした達を、個別に撃破するほうが断然楽なのではないか?


そして達を倒すことで、自分達のほうが彼等より格上だということを周囲に示せる。
・・・と、つまりはまぁそんな怠惰な考えから、この暴挙に至っているらしい。






全くもってはた迷惑な。
お互い勝手に潰し合ってればいいものを・・・。






内心ぼやき、だがバノッサがいないと面倒臭いのも確かだった。
たとえ1人でも、こんな奴等に負ける気は毛頭ないが、素手で相手をするのなら
バノッサがいない分も、自身が頑張らなくてはいけないことになる。

ゲルニカやツヴァイレライで、どっかーんと派手にブチかまして良いのなら話は別だが
公共の場では、さすがにそういうわけにもいかなかった。

彼等の生死や、無関係な周囲の人間を巻き込むこと
それに店内の損傷を考えなければ、それはの得意とする分野である。
何と言ってもが得意なのは、単純に壊すことなのだから。

けれども、裏の社会に身を置くのでなければ
いくら汚いこともしていても、するだけの力があっても。
時と場合というものを考え、節度ある行動というものを取らなければならない。



・・・まぁ彼女達の場合。
既に半分、足を突っ込んでいるようなものなのだが。



・・・ただ、それでもやっぱりどこかで。
あの一見は平和な世界で生きてきた自分の理性が
殺しや破壊といった殺戮行為にブレーキをかけているのも確かだった。


ここまで実力の差が開きすぎていると、この人数を相手に。
決して致命傷には至らないように。けれども、身動きの取れない程度には痛めつけて。
・・・という絶妙な加減をしながら戦うのは、かなり骨の折れる作業だ。

その微妙な力加減を考えて行動しなければいけないことばかりが
今のにはただひたすらに面倒臭く、彼女のやる気を削いでいるのだった。






・・・こんな奴相手に、無駄弾使うのも嫌だしなぁ・・・






どうするか、と。どうもする気もなく思っていると(人はそれを現実逃避と言う)
と男の間に、1つの人影が立ちはだかる。




―――――――――――――― ・・・へ?」




バノッサのものではない後姿に、はポカンと口を開ける。
そもそもバノッサだったら。その魔力の気配で、近づいてきただけでわかるはずだ。
その影に遮られて、の視界から蠍男が姿を消した。

視界の大半を埋め尽くすのは、所々ほつれた、くすんだ黄土色のマント。
それが、の視界から蠍男を消した原因。
多分蠍男の位置からも、今の姿を見ることは出来ないだろう。

に背を向けて立つ男は、それぐらい大きかった。
身長は・・・そう、やっぱりバノッサと同じくらいあるだろうか?
けれども、そのがっしりと筋肉質なその体格で。彼はバノッサよりも大きく見える。
風貌から推測するに、彼は冒険者かなにかのようだった。




「おいおい、兄ちゃん達。女の子1人に寄って集ってってのはいただけないなぁ。」


「あァ?なんだお前は?・・・この女の連れか?」




蠍男の訝しむ声だけが耳に届いて
冒険者らしき男の背に隠れたまま、はふるふると首を振る。
バノッサなんかと間違えられたら、彼が可哀想だ。






バノッサは血色も人当たりも、こんなに良くないってば。(酷)






「いやいや、俺の連れはあっち。俺はただの通りすがりの冒険者さ。」




そう言って彼が指差すのは
艶やかな黒髪を背中の辺りまで伸ばした、美しく整った顔立ちの女性。

・・・はっきり言おう、美人だ。

彼女が身に纏っている服装に、は見覚えがある。
カイナが着ていた巫女装束に少々飾りは違うが、良く似たものだ。
だから恐らく、彼女はシルターンの巫女さんなのだろう。




「だったら首突っ込むんじゃねぇ!引っ込んでろ!」




蠍男が叫ぶ。・・・が、冒険者の男はそれに動じることもなく。
こちらに振り返るとふっと優しそうに。・・・そう、まるで小さい子を安心させるように微笑んで。
それから小さな声で、にこう告げた。




「もう大丈夫だ、安心していいぜ。」


「あ・・・」









もしかしてッ!!
この人助けに入ってくれちゃったワケッッッ!?(焦)



今更ですがな。









らしくない、間抜けな声を漏らしてしまってから。は慌てて、“平気だ”と口にしようとしたが
冒険者の男はすぐに視線を蠍男に戻してしまい、それはかなわなかった。
いつの間にか蠍男の注目も、完全に目の前にいる大柄な冒険者の方に移っており
既には、ほとんど彼の眼中にないらしい。




「ちょっ・・・」


「まぁまぁそう言わず、ここは見逃してくんねぇかな。」


「見逃すだと?・・・それは出来ない相談だな。
そっちこそ、今なら見逃してやってもいいんだぜ?」




半ばを無視する形で、話は雲行きの怪しい展開をみせる。




「やっぱり駄目か。けどよ、はいそうですかって、引き下がるわけにゃいかねぇんだ。
女子供を見捨てるのは、どうも俺の性に合わないんでね。
――――――――――― ・・・その言葉、そっくりそのまま返してやるぜ!」









やっぱりいぃィィーーーーーッッ!?(絶叫)









「あの・・・ッ!!」




一応、無関係の人間は極力巻き込まないように、というのがの信条である。
もう1度、は声をあげようとしたが
けれどもそれを遮るように女性の悲鳴が重なって、またもやその声は掻き消されてしまう。




「アンタ達、何するのよッ!!!離しなさいっ!!」




その悲鳴に、と冒険者の男はハッとして声のしたほうをみた。






――――――――――― ・・・しまったッ!!!
妙なこと考えてるうちに美人なお姉さんが大変なことになってる・・・ッ!?(阿呆)






けれど気付いたときには既に遅し。
冒険者の連れだというあの女性は、蠍男の部下に腕を捻り上げられ
その白い首筋には、鈍い光を放つ刃が突きつけられていた。
冒険者の男が、忌々しそうに舌打ちをする。




「・・・チッ!」


「・・・残念だったな。正義の味方気取りで格好良く登場したのによ。
こういうこともあろうかと、手駒を伏せておいたのさ。」




蠍男が、薄汚い笑みを浮かべた。






おいおい、どうす・・・






どうするつもりなのか、と。冒険者の男を見上げて、は絶句した。
彼は至極真剣な表情で、じっと人質になっている女性を見つめていたからだ。
そして人質になっている女性もまた、強い眼差しで彼を見つめ返している。






―――――――――― ・・・待て待てッ!!アンタ達本気かッ!?






そう尋ねたい衝動に駆られ、けれどもは寸前でそれを飲み込んだ。
もしここで言葉にしてしまえば、すべて無駄になってしまう。
彼等の表情を見るに、多分冒険者の男は
彼女を人質に取られたままでも、抵抗を試みるつもりなのだろう。


確かにこのまま大人しくしていても、暴れても。どちらにせよ行き着く先は同じなのだけれども。


男が静かに、腰に差した剣の柄に手を伸ばす。
その行動が、の読みが正しいことを裏付けていた。




「おっと!!女の命が惜しけりゃ動くなよッ!?」




そんな脅しをかけても彼が止まらないことぐらい、には解りきっていた。
けれどこのままでは、人質となっている女性が怪我をしてしまうのは確実だ。








を助けに出てきて、の目の前で怪我される・・・?
そんなの、プライドズタズタにされるのもいいところじゃないか。冗談じゃない。








は1つ舌打ちをして、今度は迷うことなく。
今まで上着で覆い隠していた、腰の拳銃を一丁引き抜いた。









バン!!









「ひぎゃああああッッ!!」




耳慣れた乾いた音に続いて、大きな悲鳴があがる。
それは先程まで、女性の首に短剣を突き付けていた男のもの。
彼の握っていた短剣が、軽い音をたてて床に転がる。
男は手を押さえながらガクン、と床に膝を付いた。


―――――――――― ・・・その手から。
生ある者の証である、赤い鮮血をダラダラと垂れ流して。




「お、おいっ!?大丈夫かっ!?」




人質を捕まえていたもう1人の男は、仲間の怪我に酷く動揺した声を出す。

それぐらいの覚悟も出来てないんなら、喧嘩なんて売るもんじゃない。
彼等とでは、決めた覚悟の度合いが違うのだから。
彼等よりもずっとずっと重い覚悟を背負って、達はここまでやってきたのだ。
それを考えると、呆れとともに微かな苛立ちが募る。

自分達から喧嘩を売ってきたくせに、たったそれだけで喚き出す男を一瞥し
は冒険者の男の背中から進み出ると
何が起こったか解らず目を剥いている蠍男に、淡々と言い放った。




「・・・悪いけど。は短剣だけを撃つなんて器用な真似、しないから。」




男の手から滴り落ちる紅い雫に
が見たら嫌がるだろうな、なんて少しだけ思ったりした。

もし、が今の自分の立場であったなら。
間違いなく、彼女は短剣だけを狙い撃ちしていた筈だ。






――――――――――― ・・・でも生憎、じゃない。






彼女のように初心には、もう戻れない。
肉を絶つ感触も、命を奪う方法も知ってしまった。覚えてしまった。


人質にされていた女性は、突然のことに驚いて瞳を丸くしていたが
すぐに我に返ると、隙を見逃さずもう1人の男の腕を掴み
自分よりずっと体の大きい彼を、あっという間に投げ飛ばす!




「てやあぁぁッ!」


「・・・ひぃッ!!」






ドッターン!!






景気の良い音と共に、彼女の腕を捻り上げていた男の体は宙を舞い
情けない声をあげて、勢い良く床に叩きつけられた。
やっと今の状況に頭が追いつき始めた蠍男は
悔しそうに奥歯をギリリと噛み占め、を睨みつける。




「こ、このアマ!!よくもやりやがったなッッ!!」


「やりやがったって。先に手を出してきたのはアンタらだろ?これは正当防衛だよ。
・・・ま、すぐに過剰防衛だって言わせてやるから、覚悟して待ってなよ。」




言いながらは銃をしまい、人質になっていた女性の傍まで歩いていく。
はただ歩いているだけなのに、誰も彼女に攻撃をしかけない。
の放つ空気に圧され、飛び掛ろうにも飛び掛れないのが現状だ。

それだけの場数は、踏んできたつもりだ。
は口の端を吊り上げてニヤリと笑うと、まずは床に蹲っている男に声をかける。




「・・・やぁ、具合はどう?」


――――――――― ・・・ッ!?」




彼は酷く怯えた表情でを見上げると
撃たれた手を押さえ、きゅっと身を縮こませる。
余程痛かったのか、それとも今まで痛い目を見る機会がなかったのか・・・。
は蔑むように息を吐いて、呻く男に構うことなく、その手を無理矢理掴み上げた。




「・・・・・・骨は避けてるし、弾も貫通してる。しばらくは痛みが続くだろうけど
ちゃんと手当てすれば使い物にならなくなる、なんて心配はないよ。・・・その程度じゃあね?」




そう大して興味もなさそうに呟くと、クッと嘲るように喉の奥で笑いを殺し
なんでもないように、掴んでいた手を放る。
そしてその表情を瞬時に柔らかいものに変え、今度は女性に問いかけた。




「巻き込んで悪かったね。どこか怪我はしてない?」


「え、えぇ・・・」




彼女が頷いたのを確認すると
は“それは良かった”と呟いて、男達に向き直る。

そして彼女と同じように。
呆気に取られて固まっている、冒険者の男を視界の隅に止めると
決まり悪そうに苦笑いを浮かべた。




「そこのお兄さん。助けて貰っておいて悪いんだけど
話し合いが出来るような連中なら、元からこんなことになってないんでね。」




平然と言ってのけたを、冒険者の男が驚愕の眼差しで見ていた。
が背を向けても、彼が纏わりつくような視線を向けていたことには気づいていたが
敢えてそれを無視し、は周囲に群れる野次馬に叫ぶ。




「誰か、モップくれない?やっぱり無駄弾使いたくないし、この程度のヤツラならそれで十分だから。
モップなら店に穴も開けないし、まさに一石二鳥ってヤツ?」


「はいよ、モップだ!!」




するとすぐさまそんな返事が何処かから返ってきて、それと同時にモップが飛んできた。
はそれを、上手く宙で受け止めることに成功した。




「ん、ありがと。」


「この間みたいにやっちゃってくれよ!!ガツンとさ!」


「俺達も散々な目に遭ってんだ!!」


「そうだ、やっちまえーーー!!」




わぁっと、周囲が異様な沸き立ちを見せ。はその声援に、妖しく口元を歪めた。




「・・・うーん、そうだね。助けようとしてくれた恩人にまで手出しされたんじゃ
いくらでも、黙って見過ごすわけにはいかないし?」




びゅん!とモップを一振りして、は好戦的な眼つきで男達をみやる。
口元は笑っているが、瞳が笑っていない。
その態度に酷く手馴れたものを感じ取って、男達はジリ、と身構えた。




「アイツがいないの見計らって来たみたいだけど、無駄だったね?
――――――――― ・・・残念。アンタ達如き、アイツに頼るまでもないさ。」













結局、その後。は助けに入ってくれた2人に協力して貰い
難なく、というか当然の如く。蠍男率いる連中を撃退することに成功した。

多少店内を散らかしてしまったが
野次馬からは拍手喝采を受け、マスターからもお酒をご馳走していただいた。
は助けてくれた2人へ感謝の意味を込めて。
お酒と食べ物を振舞いながら、どうして絡まれていたのか、その経緯を説明していた。




「・・・ってわけで、絡まれちゃってたんだなー。あははは!!」




あっけらかんとした笑い声をあげながら
は正面に座る冒険者の男・・・フォルテという名前らしい。
空になった彼のグラスに酒を注いだ。




「いやぁ、お前の慣れた動きを見たときは
連中同士のいざこざに首突っ込んじまったのかと思って、こっちがヒヤヒヤしたけどな。」


「でも、貴方達も災難だったわね。あんな連中の抗争に巻き込まれちゃうなんて。」




フォルテの隣で穏やかな笑みを浮かべているのは、彼の相棒であるケイナ。
彼女の言葉に、は溜息を吐いて頷いた。




「全くだよ。お陰で折角の酒が不味くなった。」


「・・・けどよ、まさかお前さんがあんだけやるとは思わなかったぜ。
ありゃ俺達がしゃしゃり出る必要もなかったかもな。」


「ま、これでも賞金稼ぎなんてやってるからね。自衛の術の3つや4つ、用意しておかないと。」


は賞金稼ぎを職業にしているの?」


「うん、そう。生憎、それぐらいしか能がないからね。
でも達が得意なのは壊すことだけだから
野盗とか、野生化したはぐれ退治が仕事のほとんどだよ。
これでも、前にいた街じゃちょっとは名が知れてたんだけどな。」






―――――――――― ・・・壊すことだけって・・・(汗)」


「あ、あはははは・・・」







にっと笑って見せるに、2人はちょっとだけ引き攣った笑みを見せる。
彼女の戦いぶりを見ているだけに、それは笑って済ませられない気がしたのだ。
本気で大暴れされたら、どれほどの被害が出ただろうか・・・?




「賞金稼ぎっていやぁ、噂で聞いたんだがよ。
なんでも凄腕の賞金稼ぎが、ゼラムに来てるらしいぜ?」


「・・・へぇ?」




酒を一口含み、はおざなりな相槌を打った。




「確か・・・ “紅き終焉”とかって呼ばれてんだと。
見た奴の話じゃあ、そいつらが通った後には荒野しか残らねぇって話だ。」


「ほー?そりゃまたド派手な話だね。
けど、達はあんまりそういうの詳しくないから、聞いたことがないけどな。
機会があったら見てみたいもんだね。」


「そっか、知らねぇのか。」


「なに?その噂の賞金稼ぎでも探してるの?」


「いやいや、そうじゃねぇんだ。
出来るもんならどれほどの腕前なのか、お手並み拝見と行きたくてな。
実はの知り合い、なんてオチを期待してみたりしたんだけどよ。」


「あはは。そりゃご期待に添えなくて悪かったね。
生憎、同業者の知り合いって少ないんだ。他のチームと組んで仕事なんて、しないからさ。」




豪快に笑うと、手にしたグラスの底を数回まわし
残っていたアルコールを一気に飲み干し、大きな音をたててテーブルに置いた。




「・・・けど、本当のところ助かったよ。
1人であの人数相手にするのは、出来ないことはないけど骨が折れるからね。
どうしようかと思ってたとこだったのさ。」


「それにしても見事な槍・・・もとい、モップ捌きだったな。
どこかで槍術でも習ってたことがあるのか?」


「・・・ん?もしかしてフォルテって、武術とかに目がないクチ?」


「さすがにそこまでじゃないけどよ。これでも結構詳しいほうだとは思うぜ。」


「あれはね。前にいた街で、騎士団の人間に、ちょっとだけ習ったことがあるのさ。」


「ほぅ?だからきちんと型になってたのか。」


「そゆこと。それよりも、はケイナのほうが凄かったと思うけどな。」


ったら、その話はもういいじゃない。」




ケイナが恥ずかしそうにそう言い
頬を染め訴える彼女を見て、は面白そうに苦笑を漏らす。




「いやいや、あれは凄かった!なぁ、フォルテもそう思うだろ?」


「フフフ、甘いぜ!ケイナの真の実力はあんなもんじゃ・・・!!」









「フォルテ。アンタは黙ってなさい。」


「はべぶッッッ!?(汗)」









ケイナの見事な裏拳が決まり、テーブルにめり込んだ(怖ッ!?)フォルテを見て
はケイナに小さく拍手を送った。




―――――――――――― ・・・よーくわかった。実演ありがとう、フォルテ。」




ちょっとばかりフォルテを突付くと、彼は微かに身動ぎをしたので。・・・まぁ、無事ではあるだろう。
最も、復活にはもう少々時間がかかるだろうが。


・・・の脳裏に、麺棒を振り翳すリプレと、彼女に平謝りするガゼルの姿が浮かんだ。




「でも、さすが。あれだけ見事な一本背負いをやるだけあるわな。」




うんうん、と納得するの一言に
メリメリ・・・と音をたててフォルテがテーブルから顔を上げ、眉を潜めた。




ちょっと見た感じホラーなその光景を、けれどもはどこか微笑ましそうに
懐かしさの籠もった瞳で見つめている。


ょっとしかホラーじゃないんですか、それは。




「・・・一本背負い?」




そして、フォルテの口から発された言葉が
自分に向けられた疑問の声だと気付くと、ハッとして口を開く。




「へ?・・・あぁ、うん。あれ、柔道の技の1つだろ?詳しくはないけど、有名な技だよな。」




は確認するようにそう問いかけたが、返事はない。
フォルテはサッとケイナに視線を走らせ、その意味を汲み取ったケイナは
その言葉に心当たりはないと、首を横に振った。つまりそれは・・・






―――――――――― ・・・それを突き詰めれば
ケイナの記憶を見つけ出す、手掛かりになるかもしれないということ。






「・・・???」




2人の様子には違和感を覚えたが
なんのことだか解らないので、取りあえず首を傾げてみる。
必要があるのなら、それは知ることが出来るはずだ。
じっと自分を見つめるフォルテに、ケイナはコクンと頷いた。




「あのよ、。お前に聞き・・・」




何か手掛かりになりそうなことを知っているのなら、出来る限りで良いから教えて欲しい。
・・・それがどんなに些細なことでもいいから、だから・・・




フォルテはそう告げようとして、けれど。
の後ろでピタリと足を止めた柄の悪い男に、途端その視線を険しくする。
もしかしたら、先程の連中の残党がいたのかもしれない。
ケイナは逸早くフォルテの変化に気付き、自身もいつでも動けるよう身構えた。

フォルテを睨みつけてくる、血のように紅いその瞳からは
さっきのヤツラとは比べ物にならないほどの、とてつもない威圧感を感じる。

あれは1日や2日で身に付くものではない。
ずっとずっと、長い年月を掛けて体に染み付いたものだ。
フォルテの野生の勘が、コイツはヤバイと訴えていた。

面倒なヤツのお出ましかと、フォルテはイスに腰掛けたまま
いつ斬りあいに雪崩れ込んでも良いように、そっと剣の柄に手を伸ばす。
尋常ではないフォルテの様子に気が付いた
くるりと後ろを振り返り、フォルテが何に対して警戒態勢をとっているのかを悟ると
緊迫した空気をガラガラと壊すように、大慌てて両手をブンブンと振って見せた。




「わーーーっ!?ちょっと待ったフォルテ!!悪い!
コレ、この白いヤツ!!ガラは悪いけど、これが正真正銘の連れなんだ!」




叫ぶに、フォルテとケイナは瞳を丸くする。
連れがいるとは聞いていたが、まさかこれほどのやつとは思ってもみなかった。
(↑色々な意味で。)




――――――――――― ・・・マジ?(汗)」


「うん、めちゃくちゃマジ。悪いね、驚かせて。
見た目通り態度も性格も捻じ曲がったヤツでさ。でも性根はそんなに悪くないと思うんだけど・・・」




あははは、と陽気に笑うの態度に、フォルテから肩の力が抜ける。
に“コレ”と指をさされた白いの・・・もといバノッサは。
それでも視線を緩めることなく、フォルテを見つめていた。
・・・ただ、先程までの物凄い威圧感だけは、多少緩和されていたが。




「白いは余計だ、この馬鹿。・・・それより、コイツラはなんなんだよ?」




捻じ曲がってる自覚はあったんですね。




「・・・あぁ、実はとある縁でついさっき知り合った冒険者で・・・」




が説明をし始めたが、たったそれだけを口にしただけで
バノッサは途端、訝しげに眉を顰めた。




――――――――――― ・・・俺様のいない間に、今度は何やらかした?」


「・・・失敬な。その言い方だと
がいっつも問題ばっかり起こしてるみたいじゃないか。」


「実際その通りじゃねぇか。」




不満そうに呟くに、間髪入れずそう言い返す。
はうんざりした様子で溜息を吐くと、テーブルに両肘を付き
かったるそうに、その上に顎を乗せた。




―――――――― ・・・人のこと言えないクセに。無自覚はこれだから嫌だね。」


「・・・テメェが“とある縁”なんて言うときは、大抵揉め事起こした後だろうが。」




そう言われ、返す言葉が見つからないのか
はそっぽを向くと、諦めたように溜息を吐いた。




「・・・この間の龍の刺青入れた男とさ、張り合ってるっていう集団に絡まれたんだよ。
お前がいないから面倒臭いなーって思ってたら、この2人が助けに入ってくれたんだ。
・・・っていうかさ、龍の刺青の次は蠍の刺青ってそれはあんまりにも単調過ぎるだろ、とか思わない?」


「・・・・・・それで、怪我は?」


「ないね。こんなとこで腐ってる奴等なんかに、が負けると思った?」


「負けるとは思ってねェよ。ただドジ踏んでんじゃないかと思っただけだ。」


「フン、誰がヘマなんかするか。」




一通りの事情を聞いたからか。普段と何一つ変わらぬの減らず口に
バノッサから、やっといくらか鋭い眼光が緩められる。
そしてフォルテとケイナに向き直ると、ぶっきらぼうに言い放った。




「・・・馬鹿が世話掛けたな。」


「・・・いや、大したことはしてねぇよ。
俺達がお節介にも、首突っ込んじまっただけだからな。」


「ええ。それに、こっちこそには助けて貰っちゃったもの。」


「・・・うっわ、保護者気取られた。寧ろ反対なのに・・・」




視線を逸らし、ボソリとが呟いた。




「いたぞ!あの男だ!!」




そのとき、ふいにそんな大声が聞こえてきて、達3人は何事かとそちらを向く。



―――――――――― ・・・そう、3人。



その先には、やっぱりあまり日頃の行いが良く無さそうな男が2人立っていて
どう見ても、達の方を指差していた。




「こっちだ!!」




手招きをし・・・おそらく、仲間を呼んでいるのだろうが。




「・・・チッ!もう見つかったか・・・」


―――――――――――― ・・・で?お前はなにやらかしてきたの?」




そう小声で吐き捨てるバノッサに
はニヤニヤとおかしそうな笑みを浮かべて問いかけた。
彼女の瞳は“ほら、お前だって似たようなものじゃないか”とあからさまに告げている。




「妙な女に声かけられて適当にあしらったら
それがどっかの集団の頭の娘だったらしくてな。それからずっと付き纏われてんだよ。」


「うっわマジか!?うっひゃーー!!けどさ、お前に目を付けるなんて
趣味が良いんだか悪いんだか、わからないよな。」




他人事のように、ポンポンとバノッサを叩く
バノッサは諦めたような、悲しそうな・・・そんな複雑感情の籠もった視線を一瞬向け
けれどすぐにそれを押し隠すと、面倒臭そうに言った。




「・・・・・・うるせぇよ。いいから、さっさとここからずらかるぞ。」


「はあぁッ!?なんでまで逃げなきゃいけないのさ!?
まだこんなに酒だって残ってるのに・・・わぁっ!」




すぐには動き出しそうに無いを、バノッサはまたも問答無用で担ぎ上げる。
酒を飲んで気分が良いのか、それともそれだけ酔っているのか。
今日は然して、は暴れはしなかった。
その様子を、ちょっと驚いた様子でフォルテとケイナが見つめている。




「・・・このセクハラ常習犯め。」


「つべこべ言うな。運んでやるって言ってんだから、有難く思え。
女だって知れたら、結局お前も追い掛け回されるハメになるんだぜ?」




は少し勘違いをしているようだったが
そのほうが返って都合が良いと、バノッサは敢えて黙っていることにした。

・・・たまにいるのだ。この世の中には自分の趣向に合った男共を集め、侍らせて
まるで家畜かなんかのように飼い馴らしたがる人種っていうのが。

それは大抵、金持ちだとか、権力者だとか。そういった奴等に決まっている。
最も、それだけの財がある人間でなければ、大人数を養うなんてこと出来やしないのだから
それも当然といえば当然なのかもしれないが。

新しいおもちゃのように、次から次へと目に止まったものを欲しがり
望んだものが手に入らないと、途端こうやって実力行使に出るのだ。

・・・しかも。自分の意のままにならない原因が別の女だったりすると
特に一段と酷い執着を持って追いかけてくる。
そういう奴等の執着心というのは、一種目を瞠るものがあるとバノッサは思っていた。






・・・まぁ、俺様も人のことは言えた義理じゃねェか・・・






ハヤト達と、召喚師を目の仇にしていた自分を思い出し、そう思った。
視界の隅で、あのときは敵だったの足が、バタバタと揺れている。




「うげッ!?それだけは勘弁してくれよ!
セシルにラムダとの仲を勘繰られただけでもう十分だ・・・・・・(沈)」




そう叫んでぐったりとしたを、もう1度担ぎ直して。
・・・まさか自分が女連れだと口走ってしまったから彼女を連れて逃げようとしているなんてことは、勿論秘密だ。
言ったら最後、がなにをしでかすかわかったもんじゃない。




「・・・行くぞ。」


「あ、おい!!」




そう呟くと、フォルテが焦ったような声をあげた。
バノッサは何か言いたげなフォルテに気が付いたが
そろそろ店内に踏み込まれるのも時間の問題だろうと判断して、見切りをつけ走り出す。




「ちぇっ!仕方無いな・・・じゃあお二人さん、そういうことで!
またどっかで会えるといいな!」




定期的な振動に揺られながら、はバノッサの肩越しにパタパタと手を振った。
フォルテは2人を止めようと立ち上がったが
彼の背中とそこにくっついているを、立ったまま見送ることとなった。




「親父!裏口借りるぞ!」


「はいマスター、これお代ね!・・・あ、釣はいらないからーー!!」


「毎度あり!また来いよ。」




去り際にカウンターに代金を置くと、2人は嵐のように去っていってしまった。
達が出て行くのとほぼ同時に、男たちが店内に雪崩れ込んでくる。




「あの男、どこ行きやがったッ!?」


「捕まえて帰らねぇと、俺達が叱られちまう・・・!」


「おい!裏口から逃げたみたいだぞ!なんとしても探し出せ!!」




そしてキョロキョロと辺りを見回し、目的の人物の姿がないことを悟ると
入ってきたときと同じように、バタバタと外へ駆けて行く。

・・・まるで嵐のようだった。

取り残されたフォルテとケイナは、しばらく呆けていたが
仕舞いにはクスクスと声をあげて笑い出した。




「なんだか、本当に嵐みたいな2人だったわね。」


「全くだぜ、お陰でお前の記憶のこと聞き損ねちまった。」


「ふふふ。・・・でも、縁があればいずれまた会えるでしょう?
どうやらここの常連さんみたいだし。」


「・・・あぁ、そうだな。」




ケイナにそう返事をしながら、フォルテは思う。
今度彼女達に会えたとき。あの2人を、自分の仲間達に紹介したらどうなるだろうか?
ただでさえ自分の仲間達は、境遇も性格も。全然違う、個性的な人間の集まりなのだ。

そこへあの2人を連れて行って
そして個性的な仲間の代表格でもある、が戻って来たら・・・

それはそれでちょっと面白くなりそうな気がして、フォルテは小さく苦笑を漏らす。






・・・まぁ、ただの旅ならともかく。
アメルを連れて逃げてる俺達が、あいつらと一緒にいられるわけねぇけどよ。






その横で、相棒の様子にケイナが不思議そうに首を傾げていた。















戯言。

はい、こんにちは。まぁた、どうでも良いこと書いてしまいましたが・・・(汗)
バノッサとが、どれだけドタバタな日常を過ごしているのか
それを痛感して頂ければ幸いです、な第15話でした。
更にとバノッサの、こう・・・
因縁めいた腐れ縁加減を感じ取って頂ければ、尚の事良しです。

&バノッサ、フォルテ&ケイナに出会いました(笑)
でもミモザ達にはお互いのことを聞いていないので、さっぱりわかってません。
にはと合流してからも
仲間を引っ掻き回して頂きたいものですね、ええ。

前回の黒の旅団諜報員さんのお話では、達は冒険者となっていますが
今回は賞金稼ぎだと自分で言っております。
これは誤りではなくてですね、ニュアンスの違いって彼女たちの中にはあるんですけど
知らない人にしてみれば同じなんです。
だからはその場その場で適当に名乗ってます。
賞金稼ぎだとか冒険者だとか。
けどフォルテ達は冒険者なので、賞金稼ぎ、とちゃんと説明してるワケです。

はいさて、次回のお話ですが、実はまだ
これも続きがあったりするんですね〜(汗)酒場を出て行った後の話が。
なので次もダラダラと編。街中で、あのお方を見つけます(笑)


追記;1度データがぶっとんだので、結構前と話が変わってます(笑)
残ってるデータに、かなり加筆修正してたんですよ〜。
本当はもうちょっとシリアスな展開だった気がします。





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