「こんちはー!!・・・うっひゃー、ちょっとだけ降られちゃったよ。」




フラットの玄関で、呑気に髪に付いた滴を払っているのはアカネ。
彼女の手には野菜やらなんやら食材がぎっしり詰め込まれた袋があって。




彼女の声を聞きつけたリプレが出迎えに出てきた。




「やっほー!リプレ。これ、師匠からだよ。」


「・・・いつも悪いわね。でもありがとう、助かるわ。」


「いーのいーの。師匠のアレは一種の趣味みたいなもんだからさ。」




そんななんともない会話を交わしながら、奥へと歩を進める。
いつも人の多いリビングに付いた時、アカネは思わずその惨状に声をあげた。




「う゛・・・!!なにこの重苦しい空気!」




みんな集まってはいるのにこれといって会話がなく。
数人に至っては背後にズーン・・・という文字が見えそうなほど。
アカネの反応に、リプレは困った顔をして・・・




「実はね・・・」


「ん?アカネ、もう雨が降ってきたのかい?」




まるでリプレの言葉を遮るようにして。二人の会話に割り込んできたのはトウヤ。




「うん、そだよ。もう結構前から降り出してるけど?」


、あれだけ早く戻ってきてくださいって言ったのに・・・」




アカネの返答を聞いてそう呟いたのは、クラレットだった。




「・・・の奴、大丈夫かな?」


「へ?ハヤト、どっか出かけてんの?」


「俺達が帰ってくる前に散歩に出たきり・・・だとよ。一体何時間散歩すりゃ気が済むってんだか・・・」




お茶を飲みながらぶっきらぼうに、ガゼルが言う。
それにアカネは袋を持ったまま、器用にポン!と手を叩いて。




「あ、じゃあアレやっぱだったんだー。」


「「「アレ?」」」




何人かが、眉を顰め・・・視線でアカネに先を促す。
アカネは持ってきた荷物をテーブルにドン!と置くと、みんなに向き直り、笑顔で告げた。




「バノッサに担がれて、どっか連れてかれてたよ?」


















〓 第3話 消えた影を探して 後編 〓


















「・・・つまり。その二重誓約とかいうもので、
お姉さんはどこか別の場所に召喚されてしまった・・・ってことですか?」


「・・・そうらしい。も今日、クラレット達に聞いて初めて知ったんだ。」




はもう空になっているコップの底を見つめて、そう呟いた。
しかし、次には口の端を吊り上げて・・・




「・・・まぁ、絶対に見つけてみせるけど。」




笑みを作る。楽しいとか、嬉しいとか。
そういう感情からくるものではなかったけれど、それは意気込みというより、確信の表情だ。




「・・・お前、それでフラットから出て、一人であんなとこにいたのかよ?」




バノッサが呆れた顔をして尋ねると、はちょっとだけ間を置いて簡潔に答えた。




「・・・そうだよ。」




の返事を聞くなり。バノッサは思いっきり疲れた顔をして、溜息を吐く。
綺麗に掃除された床を眺め、それから視線を上げると、『なんだよ』と不満そうに
バノッサを見ていたと視線がぶつかる。


そんなの様子に、またバノッサは息を吐き出した。





・・・こういうことを言ってやるのは、あんまり自分のガラではない。
本当なら、一緒に住んでいるんだしフラットの奴等が言ってやるべきじゃないだろうか?
―――――――――――――― ・・・特に。







散々懐かれてやがるんだ、それぐらい言ってやればいい。







トウヤ。






あいつはなんでそこまで懐かれているのに、そんな簡単なことを言ってやらないんだろうか。
・・・そう、理不尽に思う。




「・・・・・・あのなァ、お前は気ぃ遣ったつもりでも。
見えねェところでしょげられてるほうが、よっぽど気分悪ぃんだよ。」


「そういうもんか・・・?」




眉を顰めてそう問う
痛いくらいの視線を受けて・・・別に耐え切れなくなったわけではないが、バノッサは顔を逸らすと
そのままコーヒーに口をつけ、目を合わさないまま呟いた。





「・・・少なくとも俺様はな。それに・・・」





ふと、思い出す。
いなくなった、消えたのだというのこと。


いつもいつも、自分たちのところまでひょこひょことやってきて
クルクル楽しそうに表情を変えていた、あのガキ。


今にも、そこのドアを壊れるんじゃないかってくらいに勢い良く開けて
自分目掛けて突進してきそうなのに。


より一つだけしか年下じゃないというのに、カノンや自分よりもずっと子供で。

も・・・・・・あぁ見えてもアイツは世話好きだから、なんだかんだで面倒をみてた。
底抜けに明るくて、記憶がないというのにやたらと前向きな思考の持ち主。






・・・笑っている記憶しか残っていない、思い出せない。






「あのガキだって、別にテメェにしょげてなんか貰いたくないだろ。
テメェがしょげてるなんて聞いたら、アイツにまで心配されるぞ?」








『どうしたのですかッ!?今日は大人し過ぎるのですよッ!
何かあったですかッ!?』








そう言うを想像したのか、一瞬の表情が和らぐ。
それはでも直ぐに・・・また後悔に逆戻りした。



「でもさ、・・・嫌だって叫んでたんだ。助けてくれって、全身で言ってたよ。
・・・なんか、1年前のこととか思い出しちまってな。」






―――――――――――――――――― 1年前。






それを聞いた途端に、自分の中で記憶が時を遡る。
・・・まだ昨日の事のように覚えている・・・いや、忘れられないだけ。
忘れることなんて、とてもじゃないができっこない。


自分がオルドレイクの口車に乗せられて巻き起こした、無色の派閥の乱と呼ばれる・・・
いつ思い出しても嫌になる、あの事件。



全てに気付いた時にはもう遅すぎて、元には戻れなくなっていた。



あの時は・・・あの時だけは。



口にするのも悔しいが、はぐれ野朗どもを含むフラットの奴等に。
・・・世話に・・・なったとは、思ってる。







・・・あとでエドスにも泣き付かれたしな・・・(汗)







修復不可能だと思われたものを、修復してくれたのはあいつらだ。


ハヤトが言っていた。
そのときに、1年前に。今目の前にいる・・・この馬鹿が。
一言、たった一言だけ吐いた弱音。






昔の自分のように、無力な己を呪う言葉。






・・・つまりは、その時もなにも出来なかった自分を思い出して、また。
今回も。自分は何も出来なかったと、余計に落ち込んでいるわけで・・・


・・・1年前にそんな気持ちを植えつけたのは、他でもない自分達。





実際は。・・・かなり・・・いや、個人としてはとても。
この馬鹿にも世話になってるとは思うんだが・・・(汗)





沈黙。





どちらかと言うと3人のうち2人は、自分達にもちょっとだけ責任があるような気がして
どうしようかと内心焦っていただけなのだが。
は自分が、2人に言ってはいけないことを言ってしまったのだと解釈したらしい。



「・・・あ、悪ィ・・・」



そう言ってはぁ・・・と盛大な溜息を吐くと、ついに項垂れてしまった。







これじゃ相乗効果じゃねェかよ・・・ッ!!(汗)







どうにかこの状況を打破せねば!!
そう決心すると、隣に座って自分と同じようにどうしたものかと焦っているカノンに目配せをする。






カノン、お前しばらく席外せ。


わかりました。他の人たちも近づかせないようにしておきますから。
お姉さんのことお願いしますね、バノッサさん。








目だけでここまで達者に会話が出来る義兄弟に乾杯。








カノンが思い出したように席を立つ。・・・あくまでも自然に。




「・・・あ、僕洗濯物畳まなきゃいけないんでした。ちょっと席外しますね。急に雨が降ってきたから
急いで取り込んで、そのままにしてきちゃったんです。」


「・・・あぁ。・・・その、嫌なこと思い出させて悪かったな、カノン。」


「いえ。寧ろ僕は、あの時助けて下さったお姉さんやみなさんに
感謝しているくらいですから。全然平気ですよ。」




いつものようににっこり微笑むと、ゆっくりしていってくださいとだけ告げ
カノンはいそいそと部屋を出て行った。




「・・・カノンはさ、ほんといい奴だよな。お前、幸せ者だぞ?」


「・・・まぁな。」




膝に肘をついて、カノンの去った方向を見つめるに、それだけ答える。

どう切り出そうか・・・?言葉を捜して視線を泳がせていると・・・








「・・・・・・もいつか喚ばれるのかな・・・」








「あ!?」





必死に言葉を探していただけに、先に話題をふられて脱力する。
しかも唐突すぎはしないか?








・・・今までそんなことが心配だなんて、一言も言わなかっただろうが。








「会長達は誓約者だ。・・・そうそう・・・いや、絶対誰かに喚ばれたりなんかしないよ。
けどは・・・と一緒で、誓約者じゃない。」


「お前だって、仮にもサプレスのエルゴ兼、その守護者じゃねェか。」




そう、誓約者も特殊な職業だが、も特殊といえば特殊だ。
1年前に消滅した、サプレスのエルゴの代役とサプレスのエルゴの守護者。
その両方を兼任しているのだから。




「・・・でもカイナやエスガルドは、守護者としてこっちに召喚されてきたんだろ?
だったら守護者は召喚されても可笑しくない。それに・・・」






・・・ったく、相変わらず屁理屈こねるのが上手い奴だ。






はお前とも違って、この世界の住民でもない・・・」


――――――――――― ・・・心配なのかよ?」




ストレートに聞いてみる。でも、確かな反応はなく。




「・・・どうだろな。自分でも良くわからない。」




そう言って、軽く首を横に振って見せるだけ。表情は動かない。




「フラットのみんなと・・・・・・トウヤとも、また離れ離れになるかもしれない。」







―――――――――――――――― ・・・またトウヤか。







しばらく前に治まったはずのイライラが、また熱を持ってきた。
今まで何回このセリフを聞いて、そして同じことを毒づいただろうか・・・?
この馬鹿は、なにかというと全てトウヤだ。









・・・トウヤトウヤトウヤトウヤトウヤってうるせェんだよッ!!

(↑そこまで言ってません。)








これでまだ、恋人同士だとか。好きなんだとか言われれば




あぁそうかよ、単なるのろけか!(怒)




で済ませられるのだが、そう聞けば確実に違うと否定する。




こっちがイライラするのも仕方がないことだとは思わないか?




・・・まぁ、人前ではここまで。トウヤに依存していることさえ、垣間見せないのだから
良しといえば良しなのだが。


・・・それでも気に喰わないことに変わりない。










「・・・そんなに不安なら・・・俺がここに縛り付けてやる。」










「・・・あ?」




今度は。間抜けな声をだすのは向こうのほうで。




「・・・この俺様が!テメェと誓約してやるって言ってんだよッ!!」


「はぁ・・・?」




ここまで言っても要領得ないこの女は
返事はしたものの疑問形だし、顔に良くわからないと油性ペン太字(細かッ!)で書いてある。




忌々しい。そう思いながらも言葉を続けた。




「そうしたらお前はここからいなくなることなんかねェ。
・・・この俺より強い魔力を持ってる奴なんざ、数える程しかいないからな。」


「・・・つまり、がバノッサに“マスター”とか言うのか?」





すぐ、モナティとかいうあのタヌキ(酷)を想像しているのだとわかる一言。





・・・けど別に、そんなことは言わなくてもいい。そんなのは問題じゃない。

ただ傍に在ればいい。それだけの束縛の意味が、誓約には付き纏うから。

いなくならない・・・隣から消えない、どこかへ行かない。






俺のいるところに存在する。






そんな・・・それだけの確証があれば、それでいい。




すっかり呆けているを目の前に、真剣な表情は崩さないまま・・・








しかし。








ッ!!ここにいるんだろ!?出てこいよ!!」






聞いた事のある声が北スラムに響き渡る。
―――――――――――――――― ・・・ハヤトだ。









・・・今ばかりは本ッ気でアイツに殺意が芽生えた!!









出会ってから今までで一番の殺意を

バノッサがハヤトに抱いた瞬間、
95%(←なにが)























頭の中がこんがらがった。
なんだかとんでもないことを言ってないだろうか、コイツは・・・?




アイツ、目が真剣だし。確かに元から俺様気質で




『俺様に従え!!』




・・・的なところはあったけど、まさか本気で実行に移す気だとか・・・?
(↑違ッ!)




いや。それよりもずっと思ってたが、この年で自分に様付けするのもどうかと思う・・・
(↑なんか違う所に考えがいき始めた)




あまりのことに呆けてしまっていると、召喚された日から
毎日聞いている声が、最大ボリュームで聞こえてきた


その声にハッと我に返って、
自分がモナティのように『マスター!』とか言いつつ、バノッサに懐いてる図。

・・・そんなのを一瞬想像してしまったは思わず。




「・・・ブッ!・・・・・・あはははは!!」






あり得ない、あり得なさ過ぎる・・・ッッ!!!!


(そこまでいいきりますか。)






耐え切れずに笑い出すと、予想通りしかめっ面のバノッサの顔があった。
これ以上笑ったら怒り出す。わかっていても止まらなくて困っていたところに・・・




「駄目ですよ!ハヤトお兄さん!!」


「だって、この中にがいるんだろ!?なんで駄目なんだよ!?」


「そ、それは〜〜〜!!」




なにやらカノンとハヤトの声が、直ぐ傍から聞こえてきて・・・




バタン!




一気にドアが開かれた。
キッと眉を吊り上げたハヤトと、その後ろから困ったように出てくるカノン。





ッ!!」





ハヤトにしては物凄い、まるで怒っているような剣幕で。
・・・それはカノンを押し退けて、無理矢理ここまで来たらしいことからもわかるのだが
どうしてそんなことになっているかがわからない。

さっきまであれほど笑いが止まらなくて困っていたのに、お陰ですっかりそれも治まってしまった。




「ハ、ハヤト・・・??」




つい数時間前に、は確かにハヤトを追い回していたけれど
それはとても日常的なことで(それもどうかと思う)真剣に怒るようなことじゃないだろうし・・・(汗)




戸惑った声をだしてもハヤトは表情を緩めることなく、ズカズカとこちらに向かって歩いてくると
力いっぱいにの手首を掴んだ。・・・正直言うと、ちょっとだけ痛い。




「あ!?」


「ほら帰るよ、!」


「ちょ、ちょっと待てよハヤト!これ全部借り物だし・・・」




は自分の格好を思い出し、そう抗議した。


するとハヤトは既に外に向かおうとしていた足をピタリ止める。
振り返り、ハヤトに引っ張られた形でイスから立ち上がったの姿を、改めてじっと見る。

長い。どうみても男物のYシャツに、上から羽織ったハヤトも見慣れたマント。
それにの足よりいくつかサイズが大きくて、スリッパみたいにズルズル引き摺ってしまう靴。





――――――――――――― ・・・じゃあ、俺ものこと担いで帰ろうか?」





「いや、さすがにお前には無理だろ。(即答)」



身長だってたいして変わらないし。





どこをどうしたらハヤトがそんな発想に辿り着いたのかはわからないが
息継ぐまもなくそう返答して、はハヤトの手を振り解いた。




「・・・どうしたんだよハヤト?ひとまず落ち着け。いくらでもそんだけ強く掴まれたら痛いっての。
いきなり帰るなんて、カノンにも悪いだろ?ほら、お前の様子が変だからカノンも困って・・・」






の声に、ハヤトの中で何かがざわつく。






・・・まただ。
またそうやって、頼る対象としては見てくれない。






「・・・・・・。」


「・・・??ハヤト?」






さっきまであんなに騒いでいたのに。突然今度は黙って俯いてしまったハヤトを不信に思い、
がハヤトの顔を覗き込む。




「・・・だよ。」


「あ?聞こえないって。もっとはっきり言えよ。」




があんまりにも俺達を頼らないからだよ!!」




「・・・へ?」




急にまた怒鳴られて、ポカンと口を開ける
そんなふうに言われるなんて、ちっとも思っていなかったようだ。




「俺達に隠れて落ち込むから、みんな心配するんだ!
今だって、雨が降り出したっていうのにがなかなか帰ってこないから
みんな心配してたんだぞ!!」





「あ?へ?・・・うんとさ、・・・ハヤト・・・」



がし!っと肩を掴まれた。
ヒートアップしてきたハヤトに、が何か言おうとするが。それはいともあっさり、ハヤトによって却下される。

普段、がヒートアップしたときにストップをかけるのがハヤトだ。

つまり、普段とは完全に立場が逆で。

そのせいか、カノンはおろかバノッサまで瞳を丸くしたまま、
と同じように呆気に取られてハヤトを見ていた。





「もっと愚痴こぼしていいんだよ!トウヤだけじゃなくて、それこそ俺だって、
ナツミだって、アヤだって・・・そこにいるバノッサだっていいんだ!」





そりゃあ1年前は。
自分も出来事一つ一つに対処するのに必死で、それだけで精一杯だった。

けれど今は。そこまで余裕のない、切迫した状況ではないし
なんといっても自分自身、あの時よりはずっと成長できたと思ってる。

1年前の自分は、現実主義のトウヤやにしてみたら本当に子供だったかもしれない。





でも。



・・・・・・少なくとも今、同じラインには立っている。・・・そう、思いたい。





「誰にでもいい!・・・だからもう少しまわりを頼ろうとは思えないのか!?
一人でどっか行っちゃってなかなか帰ってこなくて!
俺は・・・俺達は!にとってそんなに頼りない!?頼れないッ!?」


「・・・あ、いえ・・・決してそんなことはないんですが・・・(汗)」





思わず敬語になり、数歩後退する
ハヤトはふぅ、と自分を落ち着かせるために息を吐き出すと・・・
今度はちゃんと力も加減して、の手首を掴んだ。




「・・・ほら!もう帰るよ!!みんな待ってる!」


「わ、わかったよ。けどの服・・・それにこの格好じゃあ・・・なぁ?」




機嫌を伺うように、上目遣いでハヤトを見る。




「じゃあ俺のコート上から着て!!これでいいだろ!?」


―――――――――― ・・・了解。」




これは何を言っても無駄だ。そう悟ったは、
大人しくハヤトに突き渡されたコートをバノッサのマントの代わりに羽織った。

ハヤトはもう一度、念のためにの手を掴むことも忘れない。
それからカノンに振り返った。




「カノン!悪いけど服は後日取りに来るから!!」


「は、はい。それは構いませんけど・・・」


「よし。じゃあ帰るよ、!」




ハヤトはカノンの返事に満足そうに頷くと、の手を引っ張って玄関へ向かう。




「・・・あぁ。わかったからあんまり引っ張るなよ、ハヤト。ちゃんと付いてくって。」




口調は変わらないが、言っている内容に反してには笑顔が浮かんでいる。




なんとなく、あったかい気分になった。
自分にもたくさん心配してくれて、困った時には助けてくれる仲間がいる。




そう思うと自然と口元が緩んできて・・・
それが例え以前の敵であったとしても、心強いものだと思う。




なんだかんだ言って、みんな心配してくれてるんだ。
落ち込んでいた自分がなんだか馬鹿馬鹿しく思えてくる。


クスクスと苦笑を漏らしながら、がハヤトに手を引かれて出て行こうとしたとき
背後からバノッサの声がかかった。




「・・・あ、オイ!馬鹿!!」




そういや心配させた上に、笑い飛ばしただけだったな・・・




は思い。少しハヤトの手を引っ張り返して歩みを止めると。
イスから立ち上がって、そのまんま固まっているバノッサに振り返った。




「大丈夫だ・・・は絶対に、誰かに喚ばれてなんかやらない。
・・・サイジェントがの居場所だからな!」




さっきまであんなに落ち込んでいたのに、今これだけ笑っていたら
彼は呆れるのだろうか・・・?


自分らしくもないことを、ベラベラと喋ってしまった自覚はあったから。




「・・・まぁ、その気持ちには感謝しとくよ!!じゃあな!」




簡単に礼を述べて、はハヤトと一緒に北スラムから去っていった。
ハヤトに『なんのこと?』そんなふうに問われながら。

















「あーあ。バノッサさん、なんで『俺んとこに来い!』って言っちゃわなかったんですか?折角だったのに・・・」



ハヤトにが連れて行かれたそのあと。あっという間に静かになった部屋で
カノンがそう、苦笑しながら呟いた。

引きとめようとしたのか、片手を挙げたまま立ち尽くしていたバノッサは
カノンの声で呪縛が解けたように動き出し、苛立たしそうにドカッ!とイスに座りなおした。




・・・一応、口説き文句のはずではあったのだ。
それがなんでこんな展開になれるのか。




それはの思考とハヤトの登場に問題があるわけで・・・




「・・・チッ!あいつ、解ってて避わしてやがんのか?それとも天然かッ!?」




直接それを本人に尋ねることなんて出来ないが、どっちにしろ結構な強敵だ。
もし、聞けたとしても。がそれに素直に答えるとは思えない。






『さぁ?・・・どっちだろうな?』






子供がいたずらを思いついたときのような顔で、そう言われるに決まっている。(脱力)




――――――――――― ・・・もうすっかりいつもの彼女を取り戻したのだから。




「次はもっとストレートにいかないといけませんね、バノッサさん。」




カノンがぐっと拳を握り締め、ファイティングポーズを取る。






めちゃくちゃストレートなつもりだったんだけどね。(悲)






・・・一体本日何度目になるのか。
もう数えるのも嫌になるくらいの溜息を吐き、けれどバノッサはこう言った。




「・・・ま、フラットがって言われるよりはマシだがな。」








簡単に手に入るもんなんて、つまらねェだけだろ。








自分にそう言い聞かせて。バノッサは自分を納得させるのだった・・・



















フラットへの帰り道、は未だハヤトに手を引かれたまま歩いていた。

始終ニヤニヤと顔を緩ませて、でも何も話さない
・・・正直、さっきは頭に血がのぼっていて、ちょこっと我にかえったらしいハヤト。

ほんの数分で、すっかり立場は元に戻り。ハヤトは勢いに任せてずっと掴んでいた手を
今更ながらに離すべきか離さないべきか迷っていた。

今手を急に離すのも、それはそれでわざとらしくて嫌だけれど
だからと言ってずっと繋いでいるのも・・・からかわれるのは目に見えている。
帰ったら誰に何を言われるか、わかったものじゃない。

結局それでも繋いだままでいることに決めて、それから気恥ずかしそうに声を掛けた。




「・・・・・・なにずっと笑ってるんだよ、。」


「いや・・・もバノッサのこと言えないと思ってね。」


「???」




ハヤトが首を傾げるが、またはそれに答えず。笑いながら首を横に振るだけ。




「ひとまず・・・心配かけて悪かったよ、ハヤト。」




ハヤトに謝るなんてそうそうしないが、珍しく・・・ふんわりと笑ってそう言うものだから
手も繋いでいるせいもあって、ハヤトは妙に焦ってしまう。



「お、俺は・・・!」


「あーはいはい。わかったからさっさと行くよ。
さすがにこの格好、ウロウロするには寒いんだ。」



そう言うと、今度はがハヤトの手を引いて先を歩き始めた。
少し後を、引っ張られて歩くハヤト。




「あ、待てってば!」




もうすっかりいつもの二人。
水溜りをバシャバシャ走る二人分の足音が、人気の少ない道に響く。



その足取りは、一人のときよりもずっとずっと軽かった。


















フラットに帰ったを待ち受けていたのは、
同居人達からの激励と叱咤と質問責め(主にYシャツについて)で。



は必死に謝ったり、怒ったりしながらも、どこか嬉しそうだった。



それをちょっと離れた位置で眺めながら。トウヤがハヤトに満足そうに声をかける。



「うん。バノッサ達とハヤトのお陰で、もすっかり元気が出たね。助かったよハヤト。」


「トウヤ・・・お前が励ましてやれば一番早かったんじゃないのか?」



ハヤトが、誰もが思っていただろう疑問を口にする。
しかし。それにハヤトは笑いながらあっさりと答えた。




「僕じゃあ駄目だったんだよ、ハヤト。
が僕の為に・・・っていつも思ってくれているからこそ、僕じゃ駄目なんだ。」



「・・・どうして?」



「・・・僕が目に見えて心配したら、は無理に頑張ろうとするからね。
それじゃあ溜め込むだけで、根本的な解決にならないだろう?(爽)」




「・・・・・・。」




やっぱりに関して、トウヤに勝てる者はいないのだった。
















――――――――――――― ・・・後日。



雨に濡れたが翌日からばっちり風邪をひいて。
ほぼその事態を予測していたカノンがメロンを持って





『あ、やっぱりお姉さん風邪引いちゃいました?
そうじゃないかとは思ってたんですよ。あんな格好で帰っちゃいましたし。』





・・・とお見舞いにくるのは、もうちょっと後のこと。































戯言。

・・・ごめんなさい、この話収集不可能になりました(汗)
いや・・・ね。かいてるうちにどうにもならなくなってきたので、無理矢理強制終了。
これ以上いじっても手に負えません。

う゛ぅ〜・・・機会があったら書き直したいですけどそれも怖い(笑)

はい、今回はがいなくなったあとのフラットバージョンです。
ちょうど時間的には前回のの話のときと同時進行。
それにしてもなんでこんなに長くなってしまったのか(汗)
収集がつかなくなったからなんですけどね。

でも実は、任那ナツミでしかプレイしたことないので(横切り愛してます!)
他の誓約者とパートナーって、口調とか解んないんですよね〜。
最初のシーンだけは見たのでそれと、あとはクラフトソードの知識で。

あ!そしてついにでましたね!クサイ台詞帝王の任那が!
バノッサーー!!クサイ台詞吐かせてごめん☆
任那にクサイ台詞書かせたら一級ですよ(爆)
古ッ!?クサッ!?ていう。笑える奴に限りますが。







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