「ひょへえぇぇ!?ゼラムにケーキ屋さんがあるのですかッ!?」


「ああ。知らなかったのか?。」


「全然知らなかったのです。・・・そもそも案内してもらう前にアレでしたから・・・
フォルテは物知りなのですねー。」


「いやぁいやぁ。それほどでもあるけどな。」


「フォルテ!に妙な事、吹き込まないでよね!」


「大丈夫だって・・・。ならよ、。」


「はい?」


「明日、そこで待ち合わせねぇか?相談したいことがあるんだが・・・」


「相談って・・・さっき言ってた、聖女がいる村・・・とかって話ですか?」


「そうそう。お前の連れ、召喚士なんだろ?だったらなんか知ってるかもしれねぇし・・・
出来たら一緒に付いてってくれると、俺達としても頼もしいんだがな。
お前も診てもらったら、何か解るかもしれないぞ?」


「・・・そうなのですねぇ・・・。個人としては全然構わないのですけど
所詮はトリスとマグナの護衛獣ですから。二人の見聞の旅ですし。
でもあの二人は良いって言いそうなのです。問題は石頭のネスティなのですよ!」


「あの眼鏡の兄ちゃんか?・・・確かに頭固そうだったよなぁ・・・」


「そうなのです!しかもめちゃくちゃ疑り深いのですよ!!」





も根掘り葉掘り聞かれたのです!!





根に持ってたんだ。





「なら尚更、明日そこで会おうぜ。俺から話してみるからよ。」


「はいです!!ケーキ食べたいですもん!!・・・でもどこにあるですか?」


「えーっとだな。まず繁華街の・・・」


「待つです!・・・レオルド!音声の記録をお願いするのですよ!!」


「了解シマシタ。・・・準備完了。音声でーたヲ記録デキマス。」


「準備万端!さぁ!言ってくださいなのですよフォルテ!!」






ゼラムにから役人を連れて行く途中で交わされた、もう一つの会話。



















〓 第5話 遥かなる旅路 前編 〓



















「・・・レオルドの記録によるとこの辺みたいなんだけどなぁ・・・」




辺りを見回して、マグナが言った。




「トリス!トリスは何のケーキ食べるですかッ!?」


「あたしはねぇ・・・やっぱりショートケーキかな?」


「ショートケーキですか!いいのですね・・・はレアチーズケーキとかがいいのですよ!」


「じゃあ、少しずつ交換して味見しようか。!」


「うをををッ!!ナイスアイディアなのです!トリス!!」


「あ、俺も俺も。だって色んな種類食べたいしさぁ。」


「・・・いっそのことみんなでまわして食べちゃう?」


「をををを!!それでは・・・えーっと。ネスティとレオルドは食べないとしても
6種類は食べられるのですよ!!スゴイですーーー!!」






「君達は、店を見つけなければ
そんな話で盛り上がっても
意味がないことを理解しているのか?」







はしゃぐ3人に、ネスティのうんざりとした声が掛けられた。
それにはぶーっと頬を膨らませて抗議する。




「解っているのですよ。そんなに慌てなくても、きっと見つかるです。」




が丁度そう言ったとき、レシィが前方を指差した。




「あ、あれじゃないですか?さん。」


「え!?レシィどれなのですかッ!?」



レシィの横に素早く並ぶと、はレシィが指差した方向をじっと見つめる。
そこには、ショーウィンドウのようにガラスが張り巡らされた、
可愛らしい雰囲気のお店があった。


ほとんどの部分がガラスなので、ここからでも店内まで見る事が出来る。
ショーケースに並んだ、様々な種類のケーキ。
まるっきり、自分がいた世界のケーキ屋さんのイメージだ。






どこ行ってもケーキ屋さんは不変なのですねv


いや、違うと思う。






「昨日の・・・お兄ちゃんとお姉ちゃんがいる・・・」


「あ、本当だ!フォルテさんとケイナさんがいるよ!」




マグナがそう言い、二人もこちらに気付いたのか。マグナ達に向けて大きく手を振っている。
マグナがそれにブンブンと手を振り返していた。


「あそこなのです!!急ぐのですよ!みんな!!」




そう叫んで、は一目散にお店の入り口目掛けて駆け出す。
ケーキなんてみるのも久々だったし、
甘い物好きとしては異世界のケーキを見逃すわけにはいかない・・・!!(←え?)





あ〜、フラットのみんなにも食べさせてあげたいのですねぇ。





そんなことを思いながら走っていると・・・




「えッ!?でも!そっちは・・・!!!」




トリスの、驚愕の声が聞こえた。何に驚いているのかと、後ろを振り向くと・・・




「ほへ?どうしたのですか、トリス?」


「馬鹿!前を見ろッ!!」




ネスティの叱咤に、は前を見ようとした・・・のですが・・・





ドゴン!!!





何かに、ぶつかった。





「〜〜〜ッッ!?痛いのですーーーッ!!!(汗)」





そのままの勢いで尻餅を付き、顔を押さえる。




痛い、痛い、痛すぎる・・・!!顔面強打なのです!!
ゴールキーパーも泣くですよこれはッ!!




!大丈夫!?」




足音が聞こえてきて、マグナの声がすぐ傍でした。
マグナの体で光が遮られる。
滲んでいる視界の中では。マグナがしゃがみ込んで、の様子を窺っていた。




「お、おでこ・・・おでこと鼻をぶつけたのです!!」


「見せて。」




言われた通りに顔をあげる。目尻にうっすらと、涙が浮かんでいるのが自分でもわかった。
視界に入ったマグナは、何故か一瞬動きを止めて。




???ゆでだこになっているのですよ、マグナ。
あの着色料で赤くなってる方の(しかもそっちなのか)タコさんウィンナーみたいなのです。




「・・・マグナ?」




けれどそう声を掛けると、マグナはハッとして頭をブンブンと振ってから。
にスッと手を伸ばす。

ゆっくりと伸びてきたマグナの手が、優しく前髪を掻き上げた。




「うぅ〜・・・どうなってるですか?」


「うん。少し赤くなっちゃってるけど、血は出てないよ。」


「はうぅ〜〜・・・(泣)」




そう唸っていると、背後からとてもとてもとても(言い過ぎ)大きな溜息が聞こえる。
振り向かなくても誰だかわかる。・・・これは絶対に・・・




「全く。変わった性格だとは思っていたが、ここまで変わっているとは思わなかった。」




――――――――――――― ・・・ネスティ。




でやがったのですよ、この若年寄りが。(怒)




心の中で悪態を吐いて、ジトメでネスティを見上げた。
すると、呆れたようにこちらを見下ろしているネスティと視線が合う。




「君は馬鹿かッ!?ガラスに向かって走っていくなんて、何を考えているんだ!?」




兄弟子じゃないのに君馬鹿(略すな)発言なのですか・・・(汗)




「へ?ガラス???だって・・・・・・」




不思議そうなの声に、ネスティが眉を吊り上げた。




「??・・・それ以外に何があるというんだ?」




「なにやってんだよ、!」


!大丈夫だった!?」




フォルテとケイナがお店の中から飛び出してくる。
多分、ガラスに突進していくのを見たのだろう。
その背景に紛れて。お店の人がびっくりしてこっちを見ているのが見えた。





・・・けれど心配されている当の本人は・・・





ネスティの言葉に瞳を丸くして、自分がぶつかったガラスをただただ、見上げていた・・・。


















「「「「「じどうどあ???」」」」」




何重にも重なった、疑問の声が店内に響き渡る。




「あ。やっぱりないのですか・・・自動ドア。」




ジュースをストローでズズ・・・ッと啜りながら。はそう呟いた。




、その・・・じどうどあって、なに?」




トリスが首を傾げながら尋ねる。




「えーっと、センサーっていうのがついててですね。人が来ると勝手に開くドアのことなのです。」


「そんなものがのいた世界にはあったの!?」




興味津々と言った様子で、テーブルから身を乗り出すマグナに
はコクンと頷いて見せた。




「リィンバウムにもあるのかと思ってたですけど、違うみたいなのですから・・・
のいた世界特有の物なのですね。今まで一般常識だと思ってたのですよ。
サイジェントには、あれだけのガラス張りのお店もなかったですし・・・」




まだいくらか痛む額を擦りながら。
ふぅ・・・と溜息を吐く。




「ソノヨウナ装置ナラバ、ろれいらるニモ存在シテイマシタ。」


「そうなのですか?レオルド。」


「ハイ。」


「ネス、知ってた?」


「そういう装置を作る技術が、ロレイラルにあったことは知っているが・・・
“じどうどあ”、というのは初めて聞いたな。」




ふむ・・・と考え込むネスティ。




「・・・一体君はどこから来たんだ・・・?」





イタタタタッッ!?(汗)





まぁたそこにいくのですかねッ!?この色白眼鏡はッ!!





・・・内心そう、ネスティを罵り。
けれどは、そう叫んでしまいたい衝動をどうにか抑えた。




「・・・そんなことに言われてもですねぇ・・・が聞きたいのですよ。」




そう言って、無意識に溜息が出た。
本当は、自分の住んでいた世界を覚えてはいる。
・・・けれどこれも正直な気持ちだったから。

名も無き世界・・・なんて言われて。どこにあるのかも、その存在すらも。

未だ詳細は掴めていない。

確かにロレイラルもサプレスもメイトルパも。人間が住んでいるシルターンでさえも。
リィンバウムから見れば異世界は異世界なのだが、




自分達の世界はもっと遠い
―――――――――――― ・・・




実際何がどうなってるのか、聞いてみたいもんなのですよ。




の溜息に、マグナとトリスが横からネスティを小突く。
他のみんなからも白い目で見られて、やっとネスティは自分の失言に気が付いた。




「・・・すまない、そういうつもりで言ったのではなかったんだが・・・」


「あ、いいのですいいのです。別にそんなの気にしてたわけじゃないのですよ。
ただ・・・本ッ当にどこなのですかこんにゃろー・・・とか思ってただけなのです。」





気にしてるし!!





そう思って。ネスティはどうしたらいいのかと目を泳がせたが、
はそんなネスティに、にっこりと微笑みかける。




「大丈夫なのです。ネスティがそんなつもりで言ったんじゃないってことは
ちゃんとわかっているのですよ。」





キールもそのタイプだったですからね。


だからかよ。





ネスティは一瞬驚いた顔をしてから、照れ臭そうに視線を逸らした。




―――――――――― ・・・なら・・・いいんだが。」


「あ、ネスが照れてるーー。」


「本当だ!ネスは色が白いから、すぐわかるんだよなぁ。」


―――――――――――――――――― ・・・君達は・・・ッッ!?」




トリスとマグナにからかわれて、ネスティが反論しようと口を開きかけた時。
タイミングが良いというかなんというか、丁度注文したケーキが運ばれてきた。

勿論ほとんどの人の注目が、ケーキに集まる。




「き、きたのですーー!!ケーキなのですよッ!!」




今にもよだれを垂らしてしまいそうなのも、若干1名。




「じゃああたしはまずこれ〜〜。」


「あ、トリスずるいのです!ももう食べてしまうのですよ!?」


「え!?早い者勝ちなのかッ!?うーんと俺は・・・どうしようかな・・・?
ハサハはどれがいいんだ?」


「・・・ハサハ・・・甘いのが、いいな・・・」


―――――――――― ・・・ケーキなんてどれも甘いに決まってんだろが。(呆)」


「ソノヨウナコトハアリマセン。糖度ニ違イガ見ラレマス。」


「あ、じゃあ僕はそっちのタルトがいいですv」




口々にそう言うと、ケーキを食べ(貪るとも言う)始めた。
ネスティが溜息を吐き、レオルドはなにやらレシィに頼まれて
ケーキの成分分析なんかをしていたりする。(←出来るのか!?)

フォルテもどこの保育園か、はたまた小学校かという光景に呆然とし、
それを見ていたケイナが、面白そうに苦笑を漏らした。




「あなた達といると退屈しないわね。」


「あーー・・・ケーキ食うのに熱心なのもいいんだけどよ。そろそろ本題に入ってもいいか?」


「ふぁ、ふぉーふぉふぉーふぉふぁふぉふぇしゅ。
(訳:あ、どーぞどーぞなのです。)」




口にケーキを入れたまま、が言う。




・・・話すのは食べてからにするんだ。」


「ふぁーふぃふぁふぉふぇしゅ。
(訳:はーいなのです。)」





言ってる傍から・・・!!(怒)





ネスティは心なしか頭痛のしてきた頭を片手で押さえ、
大変そうだなと苦笑いしているフォルテに向き直った。




「それで・・・から聞いてはいますが、話とはなんです?」


「ああ。ここからちょっと行った所に、レルムって村があるんだが
そこには病気や怪我を治したり、奇跡を起こす・・・聖女ってのがいるらしい。」




「聖女・・・??」




ケーキを必死に貪っていた、トリスが顔を上げる。
マグナも興味を持ったようで、食べながらではあったが。じっとフォルテを見ている。




「・・・って噂を聞いたんだがな。聞いたこと、ない・・・か?」




それにブンブンと首を振る一同。




「ありゃ?おかしいな、確かな筋からの情報なんだが・・・」


「ほら!やっぱりただのデマなのよ!」




―――――――――――― ・・・一応、噂だけなら。」




意外なことに、そうボソリと呟いたのは。一番噂なんか信用しなさそうなネスティ。
一気に。全員の注目が、ケーキからネスティに切り替わった。




「本当かッ!?・・・な?だから言っただろ?」


「う、うそ・・・・・・」




フォルテが自慢げに言って、ケイナは完全にガセネタだと思っていたのだろう。
瞳を丸くしてネスティを見ていた。




「真偽は定かじゃねぇが、俺達はその村に行ってみようと思ってる。
そこで、だ。出来れば、あんた達にも同行して欲しいんだが
――――――― ・・・どうだ?」


「あたし達に・・・ですか?」




トリスの問いに、フォルテは大きく頷く。




「ああ。その得体の知れない聖女の力ってのがどんなもんなのか。
召喚士のあんたらなら、見たら何かわかるかも知れねぇだろ?」


「そりゃまぁ・・・普通の人よりはわかるかもしれませんけど・・・」




マグナが、チラチラとネスティの様子を窺いながらそう言った。
それにフォルテも気付いたらしい。真っ直ぐにネスティを見て、口を開いた。




「実はな・・・ここにいるケイナは記憶喪失なんだよ。」


「はい。それは昨日、が同じ境遇の人がいたとはしゃいでいましたから・・・聞いてはいますが・・・」




ネスティにそう言われ、はケイナとフォルテに乾いた笑いを見せる。
あんまりこういうことを、勝手に言ってしまうのは良くないと思っていたのだが
・・・つい。つい、同じだということが嬉しくて。3人にも話してしまったのだ。


けれどケイナは、そんなに微笑みかけてくれて。



別にいいのよ。



・・・そんな風に言って貰えたような気がした。




「つまり、聖女の力で記憶が戻らないか。あるいは何らかの手がかりを・・・ということですか?」


「まぁそういうこった。・・・それに、聞いたところによると。そこのも記憶がないんだろ?
だったらも一緒に診てもらったら・・・とも思ってな。
そうしたら俺達も助かるし、上手く行けば収穫があるかもしれない。」





悪くは無い条件だろ?





フォルテの表情がそう、言っていた。





はっきり言ってしまうと、は以前の自分を取り戻すということに
あまり執着心はない。

自分はどこにいても、自分以外の何者でもないんだと、
フラットのみんなが教えてくれた。



今の自分で、今この瞬間を精一杯楽しめばいい。



・・・確かに。記憶を失くす前の自分がどんな人間だったのか。
気にならないといえば、嘘になる。




平気で悪事を働くような人間で、多くの人を傷つけていたら?




もし記憶が戻った時、記憶が無かった間のことを忘れてしまっていたら・・・?




不安が付き纏う。先のことが、予想も想像もつかない。
わからないだけに、最初のうちは怖くて眠れない夜もあった。

・・・けれど、自分を信じて歩けばいい。そう、思えた。
もし間違えていたことに気付けたなら、気付いたときに正せばいいのだから。


みんなを忘れてしまったって、もう1度友達になればいい。
間違えていたことに気付ければ、それでいい。






『そうそう。それでいいんじゃないか?・・・ほら。
この歳になってやっと過ちを正せた、いい見本がここにいるだろ?』


『・・・誰のコト言ってやがんだ、テメェ・・・(怒)』






が、バノッサを指差して。そんなふうに茶化していたのを思い出す。


マグナとトリスがの顔を見て、なにやら相談し始めた。
トリスがテーブルに身を乗り出して、ネスティを上目遣いに見る。
トリスいわく、これが絶妙の角度なのだとか。




「ねぇねぇ、ネス。行ってみようよ。の記憶の手がかりが掴めるかもしれないよ?」


「いいだろ、ネス・・・?」




マグナとトリスにじっと見つめられ、ネスティは溜息を一つ吐くと




「・・・これは君達の見聞の旅だ。君達が行きたいと言うのなら、僕に拒否権はない。」





北に行きたいって言ったら怒ったクセに・・・?





この場にいた何人かが、内心そう思った。




に気を遣ってくれなくてもいいのですよ?マグナ、トリス。
は2人の護衛獣なのですからね。2人に従うのです。」




2人が自分のことを気にしてそう言ったのなら悪いと思ったが言う。
すると2人は、同じようにブンブンと頭を振り。




「あ、そういうつもりじゃないの!
あたしとマグナも聖女って言うのに興味があるから、見てみたいし。
それでの記憶の手がかりが掴めるかもしれないんなら、一石二鳥だねって。ねぇ?マグナ。」


「そうだよ。だからそんな風に気なんて遣わなくていいんだ!」




そう言って、一度ネスティの顔を見ると。こっそりの耳元で囁いた。




・・・それにここだけの話。実際のところ、見聞の旅って言っても
どこに行ったらいいのかわからないのが現状なんだ。




苦笑するマグナとトリスに、も苦笑して見せる。
3人がクスクス笑い合っている様子を、ネスティが訝しげに眺めていた。




「えー、こほん。」




フォルテが咳払いをし、3人は姿勢正してフォルテに向き直った。




「・・・つまり、交渉成立ってことだな?」


「はいなのです!フォルテ。」


「・・・じゃあひとまず。これからどうするんですか?フォルテさん、ケイナさん?」




マグナが尋ねると、フォルテは居心地悪そうに頬を掻く。
そんなフォルテに、ケイナが苦笑していた。




「あー・・・。その言葉遣い、どうにかなんねーか?」


「え?でも・・・」


「いいのよ。遠くないとは言え、これから一緒に旅をするんだもの。
いちいち敬語を使わなくてもいいわ。堅苦しいのは面倒じゃない?」




渋るトリスにケイナがそう言って微笑んで、トリスも嬉しそうに首を縦に振る。




「・・・じゃあ、よろしく。ケイナ、フォルテ。」


「そうそう。その方がこっちとしても気楽でいいぜ。」


「フォルテ、あんたは少し緩み過ぎよ。二人を見習いなさい。」


「・・・では、1度解散して準備を整えたあと。
街の正門で待ち合わせ・・・ということでよろしいですか?」




さっきあんな会話が繰り広げられたばかりだと言うのに、堅苦しい話し方をするネスティ。


はネスティらしいと思い、苦笑しながらも。
何か言いたそうな表情でネスティを見ているケイナとフォルテに、助け舟を出した。




「諦めるのですよ。フォルテ、ケイナ。
ネスティのこれはそう簡単に直るものではないのです。
それはもう、洗濯物の汗染みのようにしつっこく体中にこべり付いているのですよ。
だからこれは諦めたほうが身のためなのです。」





――――――――――――――― ・・・(疲)」





笑顔で言うに、ネスティは盛大な溜息を吐き項垂れたが
はそれにさっぱり気付いた様子もなく。




「ほぇ?なんですか?ネスティ。」






やっぱりアレって天然なんだ・・・!!






そんなどうでもいいことを、トリスとマグナの二人は思っていた。
呆然としている仲間達をよそに、あんまり乗り気ではなさそうにしていたにも拘らず
もくもくとケーキ食べていたバルレルは


その光景に、ケーキを食べる手を一時休め。テーブルに肘をついて、窓の外を眺める。




「・・・コイツのこの毒舌は、なんとかなんねぇのかよ・・・(呆)」




そんな風に呟いて、ネスティと同じように溜息を零した。

















フォルテとケイナの二人と一旦別れた後。
そう遠くない村だとは言え準備は必要だということで。マグナとトリス率いる一行は繁華街を歩いていた。




「ではネスティ。なにから準備するのですか?」


「・・・そうだな。やはり、最低限の備えとして、治療用のアイテムの補充は必須だろう。」


「そうだよな。このメンバーって、結構人数いる割りに
回復の召喚術使えるのって、今のとこトリスとバルレルだけだもんなぁ・・・」




マグナがそう呟く。それを聞いたの良心が、ちょこっとチクチクした。





ご、ごめんなさいです。
本当はリプシーぐらいなら使えるのですよ・・・(汗)






内心冷や汗をダラダラと流しながら。唸るマグナに、こっそりと懺悔をした。




「じゃあまずは、このまま商店街に向かおっか?」


「は、はいですよマグナ!!」


「・・・そうだ!ねぇ。軽くでいいから、にゼラムの街を案内して行かない?
・・・その、昨日は・・・あんなことになっちゃって、ほとんど案内出来てない訳でしょ?」




トリスが、あはは・・・とちょっとだけ気まずそうに笑って、そう提案してくる。
マグナもそれにあっ!という顔をして、コクコクと頷いた。




「いいよな、ネス・・・?」


―――――――――――― ・・・二人を待たせているんだ、あまり長居は出来ないぞ。
・・・それでも構わないのなら、君達の好きにするといいさ。」


「やった!!!俺達、今度はちゃんと案内するからな!」


「本当なのですか〜?二人とも。」


「もう!今度は、勝手にどこか行っちゃったりしないってば!
・・・えっと、見せてないのは・・・ココと、これから行く商店街とその先のハルシェ湖・・・
あと、再開発区ぐらいかなぁ??」


「トリス、トリス!あの噴水のある公園は案内してくれないのですか?」


「ああ、導きの庭園?そっか。あそこ、そういえば通り抜けただけだもんね。
うん!いいよ、広いからちょっとだけになっちゃうけど、案内してあげる!
こう見えてもあたし達、あそこには詳しいんだから!」


「そうなのですか!?楽しみなのですよ!!」


「そうそう!例えばどこか1番見つかり難いかとか、どこが1番お昼寝に最適か!とか・・・!」




「コホン。」




ネスティが大きく咳払いをして、トリスとマグナがビク!と背中を丸めた。






・・・なにやらかしたのですか、この2人は・・・(呆)






その様子を見て、がそんなことを思っていると・・・






「退いて退いてーーーッ!!でないとユエルがひいちゃうよ!!!」


「誰かーーッ!!ソイツを捕まえてくれーーーッ!!」






―――――――――――― ・・・ひょへ?」






耳に届いた大声に、が後ろを振り返る。

すると、どこかのお店の人らしい、白い帽子とエプロンを身につけたおじさんと
・・・そのおじさんに向かって。ヘヘーン、なんて言いながら舌を出す、獣の耳を生やした女の子が
物凄いスピードで人の掻き分けながら、砂煙を上げて走ってくるのが目に入った。






――――――――――― ・・・メイトルパの子ですかね・・・?






見た目はキツネだかネコだかと言った感じの耳で。エルカやレシィのような
メトラル族とも、モナティのようなレビット族とも、・・・多分違うと思う。
(ガウムは最早なんという種族かすら知らない。)


呑気にそう考えていたは、自分の身に迫る危機に気が付きもしなかったのだ。




!!危ない!!」




またそこで。ぼんやりとしていたを、マグナが呼んでしまったこともまずかった。




――――――――――――――― ・・・はへ?」




は、反射的に名前を呼んだマグナのほうを向いてしまい・・・




「馬鹿ッ!!何をぼーっとしているんだ、!!避けろ!!」




焦るネスティの声が聞こえた。


・・・・・・結果。おじさんにアカンベーをしながら走っていた、耳の生えた女の子が
目の前に立っているに気が付いたのは、本当にもうに接触する寸前で。
足音がすぐそばで聞こえるくらいになってから、
もやっと自分の置かれている状況に気が付いたらしい。




―――――――――――――――――― ・・・え゛ッ!?」


「どぅうええええッッ!?(汗)」






ドッカーン!!






とその女の子は、憐れ正面衝突をぶちかましたのだった。




「イタタタ・・・」


「・・・ヒ、ヒヨコさんがまわってるですよ〜・・・」


「だ、大丈夫ッ!?!」


「君はどこまでぼうっとしていれば気が済むんだ!?」


、ヒヨコはいないよ!しっかりしてくれ〜!!」




口々に好き勝手なことを叫んで、尻餅をついたのところに駆け寄ってくる。
未だグルグルと目を(頭ごと)まわしているに、ぶつかった女の子が
先に立ち上がり、申し訳なさそうに声をかけた。




「あ、あ・・・!だ、大丈夫だった!?ごめんね、ユエル・・・!!」


「ハハハ、なんてことないのれすよ。
あははは・・・・・・あぁ、ニワトリさんがやってきましたねぇ。」





ヤバッ!?(汗)





――――――――――――――― ・・・コイツ、イカレちまったんじゃねぇの?(呆)」




パタパタと手を振って。・・・けれど、どう見てもなんてことないようには見えない
見下ろし、バルレルが呆れた口調でそう呟いた。


女の子は心配そうにを見ていたが。
だいぶ距離を引き離していた筈のお店のおじさんの声が近づいてくると、
ごめんね、ともう1度だけ頭を下げて走り去っていく。


その後姿はあっという間に小さくなり、すっかり見えなくなった頃。
はマグナとネスティの手を借りて、やっと立ち上がることが出来た。




さん!大丈夫ですか・・・!?」


「・・・大丈夫・・・?お姉ちゃん。」


「もへぇー・・・。大丈夫なのですよ二人とも。
でも危なかったですね、もう少しでニワトリさんに突付かれるところでしたよ(汗)」






なんだそれは。






「・・・脳波ニ異常ハアリマセン。」




レオルドがそう言い、今回はかなりまずいとこまで言っちゃったのではないかと思っていた
マグナとトリスは、安堵の息を漏らした。




「・・・でも、なんだったのかな?あの子。召喚獣みたいだったけど・・・」


「うん。走るのが凄く早かったよね。」


「メイトルパの亜人だな・・・・・・あのタイプは爪や牙も鋭いものなんだ。
まぁ、噛み付かれなかっただけ良い方だったな。。」


「・・・うぅ・・・ネスティ、のこと馬鹿にしてるですね・・・?」




が涙目でネスティをジロリと見上げると、ネスティはにっこりと笑って・・・




――――――――――――― ・・・否定はしない。だが呆れてはいる。
まさか、トリスやマグナよりも間抜けな人間がこの世の中にいるとは思わなかったぞ。(爽)」






・・・う゛。いつもよりグサっとくるのは何故なのですか・・・(泣)






「まぁまぁ、。導きの庭園に着いたら、噴水のところのベンチで少し休んでから
ケイナとフォルテのところにいこうか?」


「そうそう。ネスのお小言なんて、鳥が空を飛ぶのと同じくらい
普通のことだからあんまり気にしないで。ね?」




ポンポンと背中を叩いて、励ましてくれる二人。けれど・・・






・・・でも、は二人と同じレベルにだけはなりたくなかったのですよッ!!(酷)






口にはしなかったが、そう思って内心涙したのだった。

















「はぁーー!!大きな噴水だったのです!」




庭園で少しの休憩を取り。ベンチに座って噴水を眺め、すっかりリフレッシュした
小さい体を目一杯伸ばして、大きく背伸びをする。




「・・・この再開発区で、一通り見てまわったことになるな。」


「でも、再開発区って。一体何を再開発してるですかねぇ・・・?」




首を傾げるを見て、マグナとトリスが顔を見合わせて、にぃっと笑った。




「良く聞いてくれたわね!コレよ、!!」




自信満々のトリスが指差したのは、何かのレール。
ネスティは二人の顔を見ただけで、何をしようとしているのかがわかったようで
微笑ましそうに・・・けれど苦笑しながら。黙って二人の行動を見守っていた。

あのレールがなんなのか。ここでなんの開発をしていたのか。
初めてここを訪れた時。
ネスティの質問にトリスとマグナが唯一答えられたのが、この召喚獣列車のことだった。

ネスティに多少なりとも褒められたその知識を、にもお披露目したいのだろう。




は、コレなんだかわかる!?」




マグナが、瞳を輝かせて尋ねた。けれどは、ポンとひとつ手を叩くと・・・




「あ!もしかして召喚獣列車ですか!?」




・・・あっさり答えてしまった。






ガガーン!!

(背景に稲光。)





「ど、どうしてわかったの!?!?」


「俺達、折角自慢できると思ったのに・・・!!」




ショックだったのか、ヨロヨロと数歩後退る二人。だがは、けろっとした顔で言う。




「だって、サイジェントにもあるのですよ。召喚獣列車。」


「「そうなの??」」




それに、声までハモらせて。それなら仕方無いなぁ・・・なんて簡単に納得する二人。
は本当に双子なんだな・・・と、呑気に思っていた。




「はい。サイジェントでは、実際に列車が走ってるですよ。でっかいマンモスみたいなのが。」




「「まんもす・・・??」」




同じ方向にくにっと首を傾ける。そのタイミングまでバッチリだ。




「そういえば、サイジェントには金の派閥が召喚士を派遣しているらしいな・・・」




顎に手をあてながら、ネスティが呟いた。見知った人間の話題に
今度はが嬉しそうに語りだす。




「はいです!通称マーン三兄弟なのです!」


「・・・そうか。あのマーン家の一族が行っているのか・・・」


「はい!楽しい人達なのですよ。お腹が痛いってしょっちゅう言ってるのが
長男のイムランで、ただのチンピラっぽいのが次男のキムラン。
それから超ナルシストなのがカムランなのでーす。」





「えッ!?」





そのとき。の背後から、突然誰かの驚く声が聞こえた。




「おい・・・オマエ、後ろ・・・」


「・・・・・・ひょへ?」




バルレルがの背後を指差し、が声のした方に振り向くと・・・






ゴツン!






「痛ッ!」


「はぐぅッ!?(汗)」






反射的に瞳を閉じて。また尻餅をつくことになったが、瞳を開けると。
・・・そこにいたのは、金色の髪をした、小さな女の子。

見ると、彼女も涙目になって、必死に赤くなっているおでこを擦っていた。





きょ、今日は厄日なのですかね!?(泣)





・・・どうやら、が振り向いた時に、丁度顔を上げたらしい彼女の頭が
背の低いの顎に、クリーンヒットしたようだ。ジンジンと顎の辺りが痛い。
勢い良くぶつかったせいか、なんだか歯まで痛い気がする。
・・・まぁ、その衝撃で舌を噛まなかったのは、不幸中の幸いだったかもしれないが。





み、見事なアッパーなのですよ・・・・・・(キラリ)


違うだろ。





――――――――――――― ・・・そのまんまだとぶつかるぞ・・・って言おうとしたんだけどよぉ。
オマエ、さすがにお約束すぎんじゃねぇ・・・?」


「お、遅いのですよッ!?バルレルッ!!もっと早く言って欲しいのですッ!!」




ぷしゅー・・・と煙を上げている、多分真っ赤になっているだろう顎を両手で押さえながら。
はバルレルに抗議した。

ケケケ・・・と笑うバルレルを見て





絶対、わざとゆっくり言いやがったのですよこのジャリ・・・!!





・・・と確信したはバルレルに食って掛かろうと口を開いたが、
それは少女の声に掻き消され、未遂に終わった。




「ちょっとそこのあなたッ!!」




女の子が、キッと眉を吊り上げてこちらを見ている。




「あ、ごめんなさいなのです!怪我はないですか?」


「え?ええ、大丈夫・・・ってそうじゃなくて!!・・・さっき、なんて言ったのよッ!?」




そう言われたは瞳を丸くして。それから顎に手を当てて、
一生懸命数秒前のことを回想してみる。




「『・・・・・・ひょへ?』と言ったのですが・・・ハッ!まさかこっちでは特殊な意味があるのでッ!?」




がそう問うと、少女は憤慨した様子で、声を大きくして叫んだ。




「ち・が・う・わよーーーッ!!その前よ!その前ッ!!」




自分より子供なのに、“あなた”だなんて自分でも使わない、
大人が使うような言葉を当然の如く使うこの少女を、はじっくり観察してみた。




まず、手に持っているのは・・・何故かホウキ。



・・・掃除でもしていたのですかね?




淡いピンクと紫を基調とした、ちょっと大き目の服とアンバランスに。
やたら短いスカート。それから、胸元に大きな赤いリボン。
特に目立った装飾も無い服だが、自分達が着ている物と比べて、
元々の素材が高級なのが見ただけでもわかった。




・・・あれは絶対おさがりなんかじゃないのですね・・・!


そりゃあな。




――――――――――― ・・・その前?、何か変なこと言ったですか?マグナ?」


「・・・さぁ・・・?」




マグナとが、う〜んと考え込んでいると。トリスが少女をじっと見て、呟いた。




「・・・あれ?ねぇ、マグナ。この子、この間庭園にもいなかった?」




トリスの一言に、少女が体を強張らせたのが見て取れた。




「え・・・?そうだったかな?」


「うん!やっぱり間違いない!・・・ほら、あたしが前見てなくてぶつかっちゃった・・・」


「・・・ああ!そういえばそうかも!!」


「・・・あの時も、ずっと下見て歩いてたよね?何か探し物でもしてるの?」


「ッッ!!残念だったわね!・・・親切な人のふりをしても、あたしは騙されないわよッ!!」




―――――――――――――――― ・・・へ?」




「お生憎様!そう簡単に、捕まってたまるもんですかッ!!」




そう言いながら、舌をべーっと出して。・・・少女はあっという間に走り去ってしまう。




「へ?はぇ?・・・ひょへぇええッ!?」




少女の言動の意味がわからず、妙な奇声を発する




「トリス、マグナ・・・知り合いだったのか?」




訝しげな顔をして、ネスティが尋ねた。それにマグナが答える。




「1度。導きの庭園で、トリスにぶつかって来たことがあるんだ。名前も何も知らないけど、
前に見たときもずっと下向いて歩いてて、そのままトリスとぶつかっちゃったんだ。」


「何か、探してるんじゃないのかなぁ・・・??」




少女の走って行った方向を眺めて、トリスがのんびりと呟く。

・・・その後ろでは、再度疼きだした痛みに半泣き状態のの顎に
ハサハがFエイドを貼っていた。




「・・・お姉ちゃん、大丈夫・・・?」


さん、すぐに痛くなくなりますからね。ほら、痛いの痛いの飛んでけー。」





立場が逆じゃないのか!?





――――――――――――――― ・・・街を出るまでの間に
どれだけ回復アイテムを消費するつもりなんだ、彼女は・・・(遠)






ネスティは、そんなことに頭を痛めていた。
























戯言。

・・・随分間があいてしまいましたが、第5話お届けです。
なにやら結構形になっていたのに放置されてたので
何か不備があったんだと思うんですが、見直してもわからないのでそのままのせちゃいました。(死)
なんか変なところあったら急遽手直しするかもしれませんです。すみません。

・・・そしてまたまたあまりに長くなったので前後編です。
前中後編にならないよう、祈っててください。(汗)
っていうかすっかり忘れてたのでヤバイと思って、ユエルとミニスの話追加したら

かなり前中後編になりそうです(汗)
あっはっは!(逃避)


・・・え〜コホン。気を取り直してケーキ屋さんのエピソードのこと。
実は、これがやりたくておこしたキャラだったりします。。(爆)
あはv記憶喪失なのは深い理由があるんだろうと思った人!

・・・ごめんなさいv

いや、でも深い理由を作るかもしれません。(コラ)

そしてレオルドがなんだか妙な方向に高性能に・・・(苦笑)
まぁ、今後も活躍するでしょう。

思った以上に進みません。
本当はこれ1回でジイサンと触覚達が出て、旅団がくるところまで行くはずだったのにッ!?
(↑ありえない。)

ではでは、頑張って続きを書きますです。ハイ。




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