「す、凄い歩き辛い道だね・・・」




あれから。どうにかこうにか、あれ以上回復アイテムを使わずに
ゼラムを出発出来た達は。フォルテに先導されて、レルムの村へ続く道を歩いていた。

一応道という形はとっているが、ゼラムの周辺と比べて
ボコボコして曲がりくねった道で、石などの障害物も多く。
旅に慣れていないトリスが、マグナに手を引かれてやっと歩きながら、そう言った。

その様子を見て、ケイナが苦笑する。




「村へ続く道なんて、大体こんなものよ。」




トリスの正面にちょこちょことまわりこんで。も、大きく首を振った。
Fエイドと、トリスの召喚術によって。すっかりその他諸々の怪我からは回復したらしい。






頑丈だな。






「そうなのですそうなのです。サイジェントの周りはもっと凄かったのです。
こんなの大したものじゃないのですよ。」


「えーー!?これよりもっと酷いの!?」


「はい!サイジェントの街の周りには、乾燥してて、険しい段差のある荒野とか
そうかと思うと草がいっぱいの高原なんかもあって。
更には沼地とか、雪が降ってるところまであるのですよ!!」


「・・・なるほど。サイジェントの周囲は、局地的にマナのバランスが崩れているのか・・・」




トリスとマグナが瞳を丸くしての話に聞き入り、いつの間にかネスティまでが
興味津々での話を聞いている。

当のは、ネスティまでが話に耳を傾けたのが嬉しかったのか
フフン!と、自慢げに胸を張った。




さん、雪ってどんなものですか・・・?」




レシィがを見上げる。それにはう〜んと首を傾げた。




「・・・レシィは、雪を見た事がないんですか?」


「はい、ないです。」


「ハサハは・・・あるよ?」




レシィの服の裾を引っ張って、必死に話しかけるハサハを
微笑ましそうに眺めて、は言葉を探す。




「そうですねぇ・・・雪っていうのは真っ白くて、それでいてとても冷たいのです。
空から降ってきてですねぇ、フカフカお布団のように降り積もるものもあれば
ちょっとベチョベチョだったり、ずっしりだったりもするのですよ。」


「へーーー・・・」


「あ。気温が寒いと、お空にある雨が雪になって降ってくるのですよ。」




「えッ!?そうなの!?」




驚いたように・・・いや実際驚いているのだろうが。声を上げたのはマグナ。
見ると、マグナの隣で同じように。トリスが驚いた表情でこちらを見ていた。




「・・・はいですよ?」


「へぇ?も結構物知りなんだな。」




感心したように言うフォルテを見上げ、は問いかける。




「はぇ?みんな知ってるものじゃないですか?」


「ええッ!?どうしようトリス!俺、知らなかったよ!!」


「あ、あたしも!!どうしようマグナ!あたし達、おちこぼれだからかなぁ?」


「どぅえええッ!?そ、そんなことないのですよ!トリス!マグナ!!」




はわわわ!・・・と急にあたふたし始めた3人は、けれど次の瞬間には
それぞれ困った顔で、一斉にネスティを見つめた。






ネス・・・ネス!どうしよう!?(汗)




ネスティ、どうしたらいいのですかッ!?(焦)







一体僕にどうしろと言うんだ・・・(疲)






そう言いたくなったネスティだったが、これではいけないと気を取り直し、口を開く。




「リィンバウムでは、あまり一般教養として広まってはいないな。
確かに気象についての本には書かれているだろうが、二人が知らなくても可笑しくはない。」




ネスティがそう言うと、二人は目に見えて安堵の息を漏らした。
それを見て、またもほっとした表情になる。

この瞬間。ネスティは面倒を見る人間が増えるんじゃないかという自分の予感が
やはり正しかったことを悟った。




「なんだ・・・そうだったのですか。」


の居た世界では、一般的なことだったの?」


「はいなのですよ。・・・ケイナは、雪見たことあるのですか?」


「ええ。朝起きて雪が降り積もってると、綺麗よね。」


「はい!思わず食べたくなるですよね!!」






ちょっと違う気がする。






瞳を輝かせてそう言ってから、でも途端。の眉間に皺が寄った。




「でもおいしくないのですよ・・・。
大気中の埃なんだからそりゃそうだろうって、呆れられたのです・・・」






はぁうぅ・・・(泣)






「お、おいしくないんですか・・・」




レシィが難しそうな顔をする。




「ったく、なんでも口に入れんじゃねぇよ。お前は・・・」




バルレルと同じ感想を、バノッサが漏らしたことを思い出して。
はうッ!?と言葉に詰まる。




「はぐッ!?バルレル・・・同じこと言わないでですよ・・・(泣)」




が昔の古傷を、胸の辺りを押さえながら耐えて歩いていた、そのとき!






ガサッ!!






すぐ傍の草むらから、何かが動く気配がした。はその音に、ビクッ!と体を強張らせる。

バルレルが槍を構え、レオルドがいつでも発砲出来るように。銃の標準を合わせた。




!」




マグナがさっきとは打って変わった真剣な表情での名前を呼んで。素早く自分の背中に庇う。




・・・その直後、それは姿を現した。






「みぎゃああああーーーーーーーーーッッ!!??」






の絶叫が木霊する。草むらから姿を現したのは・・・






ちょっと図体のデカイ、ただのマッチョなジイさん。


失敬な。






草むらから出てきたお爺さんも、武器を構えたネスティやフォルテ。
・・・挙句の果てにはにぎゅっと服を掴まれているマグナも。

どちらかといえばの叫び声に驚いていた。

レオルドは何十デジベルだの何百ヘルツだのと、の声を分析していたりしたが。

尋常ではない驚き方に声もなくしていたお爺さんが、にそっと声を掛ける。




「な、なんじゃ・・・?一体どうしたと・・・(汗)」




けれど、お爺さんの差し伸べた手に
は小動物のように毛を逆立ててフーーッ!?と威嚇をすると(するなよ)
同じくトリスの後ろで、自分の体の何倍もある大きさにビクビクと怯えていた
レシィのところまで一気に駆け抜ける!

・・・そしてレシィの後ろにピタリとくっついて、畏怖の瞳でお爺さんを見上げた。




「え、えッ!?・・・!?」




まさかまでレシィのように怯えるとは思っていなかったのか
背後に隠れられたトリスが、慌てた声を出す。

があまりに混乱しているので、かえって冷静になってしまったぐらいだ。
そんなトリスに構うことなく、レシィとが代わる代わる叫び声をあげる。




「た、食べないで下さいーーッ!!(泣)」


「ま、マッチョ・・・・・・マッチョは怖いのです・・・!!
突然マッチョが視界に入るのは怖いのですよ・・・・・・ッ!!??」




余程リィンバウムに来て初めて目を覚ましたときのことが、トラウマになっているらしい。

(↑短編、『遠く、異国の街にて』参照のコト。)






そんなんでエドスは怖くないのか?


も、もうあれは見慣れたのですよッ!!それに良い人なのですよ!!
エドス以外のマッチョは怖いのですッッ!!(汗)


とてつもない偏見です。






ガタガタと、お互いの体を抱きしめ合うレシィと
しかもは念仏を唱えるようにブツブツと呟いていて。完全に周りが見えていない。

手を差し伸べただけであんなに怖がられるのだから、お爺さんも身動き一つ出来ずに固まっている。

フォルテが困ったように、の頭に手を置いた。




・・・まぁ落ち着け。あの爺さんの何が怖いってんだよ?」


「フォ、フォルテは平気なのですかッ!?だ、だってムキムキ・・・」




苦手でもそこまではいかんだろ、フツー。




「何もお前を取って食おうってワケじゃねーんだから・・・なぁ、爺さん。」


「あ、あぁ・・・。」




お爺さんは出来うる限り優しい声を出して、に微笑みかけて見せる。
すると、もソロソロとトリスの背中越しに顔を覗かせた。




「・・・本当ですか?」


「「本当本当!」」


「・・・急に服がビリビリ破れて、ムキムキー!・・・ってしないですか?」


「「しないしない!」」


「それでもって胸筋ぴくぴくーー!・・・とか?」


「「やらないやらない!!」」




が不安そうに眉を垂れて質問し、それにお爺さんが全力で頷き
フォルテとケイナがノンブレスで返答するという奇妙な行動が何回か続いた後。

やっとは、隠れていたトリスの背中から出てきた。






このお爺さん優しそうですし・・・
服も着ていて上半身半裸じゃないから平気なのですね!!(親指グッ!)


基準がズレてます。






「本当なのですね?約束なのですよ・・・?」




そう念を押す事も忘れずに、小指だけを立てて手を差し出す。所謂指きりである。




「や、約束じゃ・・・」




お爺さんも幾分(・・・いや、かなり)疲れた表情で。
でもやっと怯えなくなったことに快く、と指切りをしてくれた。
やっぱり、自分より体も年齢もずっと小さい女の子を怖がらせるのは心苦しかったようだ。




ホッと胸を撫で下ろす、保護者一同。
(ネスティ、フォルテ、ケイナのことを差す。)




リィンバウムにも指きりがあるのか?




そんなことも考え付かず、はひたすら安堵していた。




「迷惑をお掛けしてすみません。この子は1度パニックを起こすと
誰にも手がつけられないところがありまして・・・」




ネスティが深々と頭を下げる。それを見たも、慌てて一緒に頭を下げた。
・・・その後ろには、つい反射的につられて頭を下げる、彼の弟妹弟子がいたとか。





あわわわ!またやってしまったのですよ!?


今頃気付くな。





代わりに謝ってくれるネスティと、初対面ながら失礼なことをしてしまったお爺さんに。
心から申し訳ないと懺悔しながら、もネスティに続いて頭を上げる。

・・・けれど顔を上げると、意外にもお爺さんは優しい笑顔を浮かべていて・・・






てっきり、不満そうなお爺さんの顔があると思ったですよ。


そりゃあな。





「いや・・・ワシが急に出てきたのも悪かったんじゃ。すまんな、驚かせてしまって。」


「はッ!?いえいえ!!が悪かったのです!ごめんなさいなのです!
だからネスティ達を捻り潰してはイヤなのですよ!!捻り潰すんならに・・・!!」






また台無しに・・・ッ!!(怒)






ネスティがはぁ・・・と溜息を吐いて。
バルレルなんかは諦めた表情でそっぽを向いていた。

マグナとトリスは1度見た光景を思い出してポカンと口を開け。

レシィも瞳に涙を溜めたまま、思わずハサハと共に静観。

レオルドはの態度により、未だ敵なのかそうではないのか、判断がつけられていない。

フォルテに至っては、笑い出したいのをケイナに睨まれて必死に堪えている状況だ。






「・・・ぶわっはっは!!」






しかし、次の瞬間笑い出したのは。・・・フォルテではなく、お爺さんのほうだった。
お爺さんが笑い出したので、フォルテも耐え切れずについに吹き出す。




「ひー!ヒーーッ!?腹いてぇ!!」


「・・・コラ!フォルテッッ!!」


「いいんじゃ、いいんじゃ。ハハハ・・・ワシにも丁度同じ歳ぐらいの孫がいてな。
あの子らがこの嬢ちゃんに会ったらどうするかと思うて、つい笑ってしまった。」


「ほぇ・・・お孫さんがいらっしゃるのですか。」




そう言ったの肩に、ポンポンとフォルテの手が乗せられた。




「あーははは!、お前お笑いの才能あるぜ!!ひー!!」




「フォルテ。あなた、いい加減になさいな。」



バシィッ!!




「ふげぶぉッ!?」





未だ笑いの止まらなかったフォルテは、ケイナの一撃であっという間に大人しくなった。
・・・というより、喋れなくなったというのが正しいが。

数メートル吹っ飛んだところで虫の息のフォルテを見て
お爺さんが冷や汗を流したのに、誰が気付けただろうか。




「あ、気にしないで欲しいのです。フォルテはああ見えても頑丈なのですよ?
あっという間にゴキ●リ並みの生命力で復活できるですから。」


「そ、そうか・・・(汗)」


――――――――――― ・・・ところで、あなたはレルムの村の村人の方でしょうか?」




やっと本題に入れたと。真剣な表情で、けれど内心安心するネスティ。




「「「
―――――――――――― ・・・あ。」」」




ネスティの質問に、目的がすっかり頭から抜け落ちていたらしい3人が声を漏らす。
・・・言わずもがな、マグナ、トリス、の3人である。

このとき。が全ての発端だったはずの『今夜のお説教。』に
ネスティは二人も追加することを決定した。


ネスティの一言に、お爺さんが表情を固くする。




「・・・・・・そうだが?」


「村はもうこの近くなんでしょうか?」


「・・・もう目と鼻の先じゃよ。なんじゃ、あんたらも聖女を見に来たクチか?」


「ええ、まぁ・・・」




なんとなく。あんなことをしたさっきよりも今の方が、良い感情をお爺さんが持っていない。
それを感じ取ったネスティは、言葉を濁らせた。




――――――――――――― ・・・そうか。まぁ、頑張ることじゃ。」


「???はい、ありがとうございます・・・」




返事はしたものの頑張るの意味に思い当たらず、ネスティは首を傾げたが
お爺さんはこれ以上答える気はないらしかった。


去っていこうとするお爺さんの背中に、が声を掛ける。




「お爺さん!お爺さんはレルムの村の人なのですよね?」


「ああ。」


「だったらまた会えるかもしれないのですね。また会えたら嬉しいのです!!!
・・・お爺さんも体に気を付けてくださいなのですーー!!」




最初はあんなに怖がっていたのに。

ニコニコと笑って腕をブンブンと力一杯振るに、自然笑みが零れる。
その様子が、孫に似ていたからかもしれない。

お爺さんは嬉しそうに返事をして手を振ると、
フォルテがヨロヨロと立ち上がったのを確認して(するな)今度こそ去って行った。


















(あんな嫁さんを、どちらかが貰ってくれたら良いんだが・・・)




正反対の性格の、双子の孫を思い浮かべて。
そんな風に思いながら、村までの僅かな距離をお爺さんは歩いた。






・・・ってかあんなの嫁にしたら
ハプニング続きじゃないですか!?







本当にそれがいいのかは別として。お爺さんは家に帰るまで、
最近にしては珍しく、始終笑顔だったらしい。

そしてその片方が、本当に婿候補に立候補してしまうのは
もう少し、先のことである。


















――――――――――――― ・・・あ。」




お爺さんの姿が見えなくなるまで手を振っていたが、ポツリと呟いた。




「どうかしたかい?。」


「・・・マグナ、お爺さんの名前聞くの忘れちゃったです。」




これじゃあ探せないのですよ・・・


また会えるかも、とか言って探す気満々だった模様。


なんだかんだ言って、はあのお爺さんのことがかなり気に入ったらしい。
シュン・・・と項垂れるに苦笑を漏らして。マグナは言った。




「大丈夫だよ。あれだけ目立つんだから、きっと村の人みんな知ってるって。」


「そうそう。すぐ見つかるよ!」


「・・・ハサハも・・・一緒に探してあげるね・・・?」




トリスとハサハもそう言って、は嬉しそうに頷いた。




「・・・それにしても。何に頑張れって言ってたんだ?あの爺さん。」


「・・・僕もそれが気になっているんだが・・・」




フォルテとネスティはう〜んと考え込む。けれど答えが出るはずもなく。




「ま!行ってみりゃわかるだろうよ。」


「・・・それもそうだな。」




呑気にそう言って、ネスティもそれに同意した。
お爺さんが去って行った方向に、何十分がぶりに。再び歩を進める。











そして、レルムの村が見えてきた頃。
彼らはお爺さんが何に頑張れと言い残して言ったのか、それを嫌と言うほど味わうのだった。

















〓 第5話 遥かなる旅路 後編 〓

















「な、なんだぁ!?」


「す、凄い人の列・・・」


「・・・ネス、本当に俺達。これの最後尾に並ぶの?」


「・・・・・・。」




フォルテとトリスが、その光景を思わず口を開ける。
恐る恐る、マグナがそう尋ねたが、尋ねられた当の本人ネスティは・・・




見渡す限り人、人。人ッ!!の行列に。それこそ、フリーズしていたのだった。




「まさか、これ全部聖女を見に来た人達なのッ!?」




ケイナが、悲鳴に近い声を上げた。




「・・・恐らく。」


―――――――――――― ・・・ゲ。」




ネスティが眩暈を起こしたようにこめかみを抑えて言い。
バルレルが、めちゃくちゃ嫌そうな顔になった。




ドン!




「きゃあ!?」




誰かに擦れ違い様にぶつかられ。小さな悲鳴を出して、
小さなトリスの体がよろついた。マグナが慌てて、横からそれを捉まえる。




「トリス、大丈夫か?」


「う、うん。ありがとう、マグナ。」




その勢いでどこかへ流されてしまいそうだったトリスは、ホッと胸を撫で下ろした。




「みんな、はぐれないように気を付けるんだ。
特にトリスとマグナは、背の低いレシィとバルレルとハサハが離されてしまわないよう、注意しろ。」


「うん!」




景気の良い返事が聞こえてきたので、ひとまずそちらは大丈夫だろうと思い。
ネスティは、もう一人の保護対象を思い出した。

クルッと後ろを振り向いて・・・




!君は僕の・・・」








『僕の傍から離れるな。』








そう言おうとして・・・いや、確かに思い直せば恥ずかしい。
恥ずかしいセリフには違いないのだが・・・・・・






――――――――――――― ・・・・・・??(汗)」






の姿は、もうそこにはなかった。
























そのころ。既にはぐれていたは、人込みの中を漂っていた。




「ほわわッ!?・・・ネスティ?・・・トリスー!マグナー!!」




自分より背の高い人達が周囲を行き来するものだから
プールでもないのに、は息をするのが精一杯で。呼吸困難に陥りそうだ。

(↑背が低いので、プールの一番深いところに行ってしまうと大変な目に遭う人。)

それでもみんなと一緒にいた時は、ネスティやマグナ。
それにレオルドとフォルテが壁みたいに人を遮っていてくれて息がしやすかったのだが
1人の今は、まるで人の波に溺れているよう。

さっきから叫んではいるのだが、誰の反応もない。
・・・ということは、もう随分。みんなから離されてしまったのだろうか?




「なんでみんな気付いてくれないですかねぇ・・・(泣)」




そうは思ったが、ここで愚痴っていても仕方がない。
寧ろ呼吸困難で息絶えてしまいそうなので、取り敢えずここから離れようと試みる。

人込みから少し離れた所に、小高い丘のようになっている地形を人の合間から見つけ
必死にもがきながら、なんとか抜け出すことに成功した。




「はへぇ・・・・・・し、死ぬかと思ったです・・・(疲)」





人波を泳いだのは初めてなのですよ・・・!





やっとありつけた酸素を目一杯吸い込むと、数回深呼吸をする。
それから、今いるところよりも少し小高くなっている場所にトコトコと登った。




「はぇーー・・・、ハサハもレシィもバルレルもレオルドも。
ケイナとフォルテもどこにいるですかねー、さっぱり見えないのですよ。」




はっきり言って、あの中で大きさで目立ちそうなのはフォルテとレオルドだ。
けれどその2人でさえ見えないという事は・・・余程人が密集していて
しかもかなりの人数がいるのだろう。




ここはディズ○ーランドですかね・・・(汗




ぎゅうぎゅう人がひしめき合って並んでいる様子は、さながら
ディ○ニーランドの、所謂絶叫系の順番を待つ長蛇の列そのものだ。
これでは、今自分がいる場所が少し高くなっているとはいえ、みんなを探すことは不可能だろう。
・・・かと言って、再びあの中に身を投じるのも無茶な話だ。




「う〜ん・・・」




と、いうことは。向こうに見つけてもらうしかない。
見つけてもらうのなら、一箇所から動かない方が得策なのだが・・・




「そんなのつまらないですし、色々探索してみたいのです。
その辺ブラブラしてればいいやなのです。」




そんな結論を出し。ひとまず、進めば進むほど高くなっているらしいこの道を
ズカズカ前進することに決めたのだった。




















ーーーーーッッ!!??」




ネスティが叫び声・・・いや、奇声に近いものを上げる。
けれど、それさえ周囲の喧騒に掻き消されてしまい。遠くへは届きそうにもない。

大声で叫んだせいで、ゼーゼーと呼吸をするネスティを、マグナが(たしな)める。




「ネ、ネス!落ち着いて・・・」


「そうだよ!だって子供じゃないんだし・・・」




一気に血圧上昇のネスティを、トリスもなんとか落ち着かせようと試みる。
けれどそんな2人の声にも耳を傾けず、ネスティは物凄い形相で振り向いた。




「何を呑気なことを言っているんだッ!?1人にしておくと1番危険なのが
彼女なんだぞ!?ある意味君達より心配だッ!!」






そ、そこまで心配なのッ!?ネス!!






そう言われた2人は、なんだか微妙な心境だ。




「・・・まぁまぁ、落ち着けよ。だって・・・そりゃあ、ガラスに衝突したりしたけどよ。
1人でどうにかやってるって。そこまで慌てる事もないって。」


「そうよ、ネスティ。落ち着きましょう?」




フォルテが呑気にそう言って、ケイナも困ったような顔をしながら、それに同意した。
・・・けれどネスティは、小刻みに体を震わせて・・・




「・・・ネ、ネス・・・??」


「ついに壊れちまったか?このメガネ。」




トリスが俯いているネスティの顔を覗き、バルレルがさも面白そうにそう言った。




「君達はこれがどれだけ危険な事態かわかっているのかッ!?
・・・考えても見ろ!が・・・」






がこの人込みで、あのパニックを起こしたら
どれだけの被害が出ると思ってるんだッ!?」



「「―――――――・・・え??(汗)」」







その言葉に、全員がポカンと口を開けてネスティを見つめる。
それを気にも留めず、ネスティは指折り何かを数え始めた。




「公共物を破壊したらその分の損害賠償、
誰かに怪我でもさせたら治療費も負担しなければならない。・・・迷惑料だって・・・!!」






あの、何かズレてません?






「もしこの人込みの中で、彼女が筋肉質の人間に会ってみろ!
君達はどうなると思うッ!?ましてやここには冒険者も多い。
そんな人間に会う可能性は高いだろう!?
・・・・・・がいきなりその人に切りかかったりしたらどうするんだッ!!??」




ネスティにそう言われ。そこ場に居た全員が、容易くその光景を想像できてしまったことが問題だ。






なら否定出来ない・・・ッッ!!(焦)






ネスティにちょっと遅れて、事の重大さに気付いたマグナとトリスは
サーーッと顔から血の気が引いていく。




「た、大変ッ!?早くを探さないと・・・!!」


「ネス!俺達を探してくるよ!!」


「チッ!アイツ、どこをうろついてるんだよ。全く、世話が焼けるぜ。」


「熱反応ガ周囲ニ密接シスギテイマス。れーだーデハ捉エラレマセン。」


「お姉ちゃん・・・泣いてるかも。ハサハが・・・探してあげなくちゃ・・・。」


「そうですね!早く見つけてあげないと、さん・・・怖くて震えてるかもしれません!!」






チビッコ達にここまで心配されているのはどうなのだろうか?






「・・・あぁ、わかった。頼んだぞマグナ。僕達は先に並んでいる。
この様子だとほとんど動かないだろうから、を見つけたら
最後尾を探して連れてきてくれ。君達まで迷子にならないようにな。」


「任せてくれよ!ネス、はい。これ持ってて。」




そう言ってマグナがネスティに手渡したのは、みつあみ。
―――――――――― ・・・そう、あのレオルドの頭から下がっている。アレである。




「それ、発信機になってるんだって。これなら、ネスの居場所を間違えたりしないだろ?」




マグナは自信満々といった様子でふんぞり返っている。
それを受け取ったネスティの手が、小刻みに震えた。




「・・・・・・。」


「・・・ネス?」




無言のネスティを、マグナが不思議そうに覗き込む。






「そんなものがあるんなら
に付けておけーーッ!!」







鬼の形相で、そう叫ぶネスティ。
ネスティが叫んだ勢いで、みんなの髪の毛がビューッ!!と、後ろになびいた。

ボサボサになった髪を慣れた手つきで直しながら、
トリスとマグナが一斉に抗議する。




「えぇッ!?いくらなんでもそれは酷いわよ、ネス!
が可愛くなくなっちゃうじゃないッ!!」


「そうだそうだッ!!」






サラリと暴言です。






いつにも増して、真剣な顔で意見を述べるマグナとトリス。
その迫力に負けて、ネスティもなんとなくそれに納得してしまった。




「そ、そうか・・・(汗)」




言って冷や汗を流しながら、二人から視線を逸らす。




「じゃあ、俺達行ってくるよ!ネス!」




護衛獣を引き連れて。マグナとトリスが歩き出す。
トリスがブンブンと手を振り、それに倣ってハサハとレシィ。
・・・それから、レシィになにやら言われてレオルドまでが手を振っていた。




「行ってきまーす!ケイナ、ネスをよろしくね!!」


「ええ、わかったわ。」


「なんでケイナに頼むんだよ・・・(悲)」




そう呟くフォルテを無視し、トリス達は人込みの中に消えて行った。




「良し。これでのことはいいだろう。」




厳しい表情のまま。けれどさっきよりずっと落ち着いた様子で、ネスティが言う。




「でもネスティ・・・そこまで心配することだったのかしら?」






あそこまでしなくても、だって子供じゃないんだから・・・






そう言いたげなケイナを一瞥して・・・




「僕は初めて彼女に会った時に、眼鏡が光を反射したからと物を投げ付けられたぞ。」


「・・・・・・(汗)」




きっぱりとそう言われてしまっては、ケイナも乾いた笑いを浮かべるしかなかった。




「さて、僕達は最後尾を探しましょう。」


「そうね、そうしましょうか。」




気を取り直して、ネスティの言葉にケイナが頷く。




「なに言ってんだよ二人とも。そんなの、探す必要ねーって。」




フォルテの声に、ネスティが眉を顰めた。




「・・・??どういうことですか?」


「ま、見てなって・・・」




ニヤ。と笑うフォルテの顔は、いたずらを思いついた子供のようで・・・

ケイナは、全身に走る嫌な予感を抑える事が出来ずに、思わず顔を引きつらせたのだった。

















「オイッ!!てめぇそこの奴!!
列に割り込んでんじゃねぇ!!!」







誰かの怒声が飛んで、人がザワザワと騒ぎ出す。
その後も数回怒鳴り声のようなものが聞こえてきて、はその度に
自分が怒られているような気分になって、ビクリと体を震わせた。






―――――――――― ・・・ケンカみたいなのですね。






そう思って。あっちにだけは近づくまいと、固く心に決めると
踵を返し、声のする場所から遠ざかって行く。






まさか、その渦中にいるのが一緒にここまで来た仲間だなんて、欠片も思わずに・・・






木の葉の間から差し込む陽の光が眩しい。
日差しの感じからして、多分今は丁度お昼ぐらいの時間なのだろう。




「はへーー・・・この村はゼラムと比べて緑がいっぱいなのですねぇ。」




そう独り言を呟いて、は近くに生えていた大きな木の根元に。ころん、と寝転んだ。
そよそよと風が吹き、芝生・・・というわけではないが、一面に生えている草が
ふわふわと柔らかい。まるで自然にある天然のお布団だ。






はあぁ〜〜、これが草の絨毯って奴ですかねぇ・・・






そんなふうに思って、昔体育のマット運動でやったように。
ゴロゴロと横に転がってみる。

軽い斜面になっていたので、面白いほどの体は転がっていく。






―――――――――――― ・・・まさかッ!?このまま落ちちゃうのでッ!?(汗)






そう思い当たり、内心ドキッ!とした頃。斜面が終わったのか、体がピタリと止まった。

ちょっとだけホッとする。今怪我をしたら、ずっと痛いままだろうから。
ちょっとだけ目が回ったので。瞳を閉じて、しばらくそのままの体勢でいた。
グルングルンとした気持ちの悪い感覚が完全に取れてから、ゆっくり瞳を開く。

瞳を開けると自分は仰向けになっていた。
その体勢のまま首だけを動かして、人々のざわめきが聞こえる方向を見る。
前方の視界はいつもと上下が逆だ。
なんとなく、面白い光景だなーなんて思いながら、しばらくそのままでいると・・・
視線の先に、突如草がにょっきりと生えてきた。






しかも青い。






それが風になびいて、他の草と一緒にユラユラと揺れている。






な、なんなのですかッ!?あれはッ!?(ドキドキ)






一瞬にして生えてきた。物珍しいというか・・・それを通り越して奇妙な草に
はいつの間にか釘付けになっていて・・・

寝返りを打ってうつ伏せになると、取り敢えず様子を窺う。(動物か、お前は)






ネスティなら、なんていう草か知ってるですかね?あとで聞いてみるのです。






一人うん、と頷いて。は慎重に、匍匐(ほふく)前進をしながら草に近づいてみる。
もしかしたら、危険な。にとっては未知の植物かもしれない・・・!!(オイオイ)


ジリジリと距離を縮めて・・・あと、あとちょっとで・・・






ギュ。




―――――――――――
・・・掴んだ!!






「イタッ!?」



――――――――――― ・・・みょえぇッッ!?」






青い草を手で掴んだ瞬間!そんな声が聞こえて・・・






まさかしゃべる草ッ!?






一瞬浮かんだ考えを、ブンブンと頭を振って吹き飛ばす。
いや、さっきのは絶対に人の声だった!


草を掴んだ手はそのままにして、ゆっくりと腰を上げてみると。
のすぐ先・・・つまり草の生えている辺りから。地面が急激に低くなっていて、
人間一人分くらいの段差があった。ちょっと先には、向こうを歩く冒険者の人の頭が見える。


行き着いた結論。・・・けれど、それを認めたくはなくて。はそろそろと、草の下を見る。




――――――――――― ・・・そこには、とても驚いた顔で頭を押さえている。
茶色い瞳と、瞳と同じ髪の色の・・・でも前髪だけは青い少年が。






最悪の結末。

(冷や汗ダクダク。)



はわわわわッ!?






ど、どうするですか・・・そ、そうなのです!!
ここのまま抜いてしまえば・・・・・・はッ!?いけませんいけません!!






どうしたらいいかわからなくて、辺りに視線を彷徨わせる。
・・・するとそこには、見慣れた顔が1つ・・・。


見たかった。探していた。・・・会いたかったけれど、今このタイミングでは1番見たくない顔。


何が起きたのか把握しきれてない、呆然としたその顔は・・・






「ネ、ネスティーーーッッ!?(汗)」






そう叫ぶと、未だに髪を掴まれたままの少年は、困ったような苦笑いを浮かべながら。




「・・・あの・・・お知り合いですか?」




ネスティに、そう尋ねた。
その問いに、ネスティは正気を取り戻したらしい。ハッとして、表情が戻る。

・・・そしてネスティの眉間にたくさんの皺が刻まれ、眉が吊リ上がった・・・!!






あ、あれはネスティのお説教の前触れッ!?






今までの経験と、トリスがこっそり教えてくれたことを思い出す。






『気をつけてね。あの顔になったら、3秒後には・・・』






ネスティが、大きく息を吸い込んだ。




ギク。



「君は馬鹿かーーーーッ!!」





の周囲一体にだけ、台風がやってくる。
強風が治まると同時に。は少年の髪を離して、本能的に駆け出していた。




「ご、ごめんなさいなのですよーーーーーーッッッ!!??わざとじゃないのですーーッッ!!(逃避)」


















大声で謝りながら、の姿が消えていく。
そのときになって、ネスティは反射的に叫んでしまったことを後悔した。
折角、迷子になっていたを見つけられたのに。

・・・あの様子では、怒鳴られたことで頭はいっぱいで。自分が迷子になっていたことなど
頭から抜け落ちてしまっているだろうから。




ーーーーッ!!戻ってくるんだーーーッ!!(汗)」




そう悟って名前を呼んでみたものの。時は既に遅し。
の姿は見えなくなっていて、声は届かない。


に髪の毛を掴まれていた少年・・・レルムの自警団団長のロッカが。
髪を引っ張られたのが痛かったのだろう、頭を擦りながら口を開いた。




「・・・もしかして・・・あれが迷子になってしまった、お連れのさん・・・ですか?」


「あ、あぁ。・・・すまない、彼女が失礼なことを・・・。
は少し・・・その、予測の付かない行動をとるところがあるんだ。
だから何か問題を起こすのではないかと心配していたんだが・・・。
僕としたことが迂闊だった。あそこで怒鳴ったら彼女が逃げてしまうのは目に見えていたのに・・・」






は野生の小動物か。






はぁー・・・と溜息を吐き、手で顔を覆うネスティ。




「そうでしたか。」


「本当にすまない。あれで彼女に悪気はないんだが・・・」


「いえ、いいんです。少し痛かったですけど、それだけですから。
怪我をしたわけでもありませんし。では、僕は仕事に戻ります。
彼女・・・さんのことは、他の団員にも伝えておきますから。見つけたら、お連れします。」


「・・・ありがとう、助かるよ。」




そうロッカにお礼を言って、彼が去るのを見送ると。
ネスティはケイナとフォルテの待っている最後尾へと
のことを含めて、今日の宿が決まったことを報告しに戻っていったのだった。



















戯言。

はわわわどうしましょう!?
前後編じゃ終わらなかった・・・これでここまでなんだから
前中後編でも終わらないだろ・・・(汗)

・・・というわけで。2話にわけて前後編にします。
・・・いや、なんか知らんのですがどうしても1話前後に抑えたい。(何故)
せめて前中後がよかったのですが、1234ってのはどうも。
が、がんばります。やっと触覚片方って・・・アンタ。なんて進みが遅いんだ!

でも次には絶対に!リューグもきちんと出します!旅団だって・・・!!
・・・影、くらいは・・・ね。(汗)

あ、ちなみにネスティ。フォルテやケイナに敬語だったり
そうじゃなかったりしてるのはわざとです。
仲良くなりそうな、でもまだ警戒中って感じです、ハイ。

・・・なので、まだまだ編。ごめんよ、





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