「はぁはぁ・・・こ、ここまで走ってくれば、軟弱なネスティは追い付いてこないのですよ・・・」






ハッ!?






はネスティ達を探していたのではないですかーーーッ!?
逃げてきてどうするのですーーーッ!!(汗)」





すっかりネスティの姿形が見えなくなった頃。
はやっと、自分がどうして1人だったのかを思い出したのだった。


















〓 第6話 人形劇(マリオネット)の行進 前編 〓


















「ネスティー・・・どこなのですかー?が悪かったのです。
出て来て欲しいのですーー・・・」






キュルルルル・・・






「お、お腹空いたのです・・・(泣)」




レルムにだって、食堂とか、そう言った類のものがないわけではない。
けれどお金はネスティとマグナとトリスが持っていて、自分は実質上一文無しだ。

そんなこんなでしょぼくれながら歩いていると、
いつの間にかあまり人気の無い場所までやってきていたよう。

どうやら民家の裏手のようで、聖女の奇跡に預かろうと並んでいる人達の喧騒が
壁1枚隔てた向こう側のように聞こえる。




「はへぇ・・・ココ、もうどこなんでしょかね・・・・・・アハハ(疲)」




疲労のあまり自暴自棄になっていると、すぐそばの民家から人の声が聞こえてきた。




「すみません、ご飯の前に少し休憩頂いてもいいですか?
ちょっと、疲れちゃって・・・外の空気を吸ってきたいんです。」


「いいけどアメルちゃん、遠くへは行かないで頂戴ね!すぐにご飯も出来るから!」


「はーい。」




そんな会話が聞こえてきて、は迂闊にもよだれを垂らしそうになった。
がちょっと逃避をしている間に、軽い足音が近づいてくる。そして・・・






バタン!



「みゃうぅッッ!?(汗)」







・・・目の前の扉が勢いよく開き、見事の顔を直撃した!




め、目の前に扉があったのですね・・・空腹のあまり気が付かなかったのですよ・・・
――――――――― ・・・あぁ、そういえば今日は厄日でしたね・・・・・・(ガク)




「・・・え・・・?(汗)」




妙な声に、扉を開けた張本人らしい少女が不思議そうな声を漏らす。
ゆっくりと扉を引き・・・




「きゃあ!だ、大丈夫ですか!?ご、ごめんなさいあたしったらうっかり・・・!!
誰かいるかもしれないって考えないで開けちゃって・・・!」




それには、少しばっかりジンジンする鼻とおでこを撫でながら、もう一方の手をパタパタと振って見せた。




「アハハハ・・・なんてことないのですよ。今までの痛みに比べたら、まだまだヌルイのです。」






でもさすがに今日はぶつけ過ぎたのですね・・・!!




その通りだな。






「あ、あの中に入ってください!今手当てしますから!!」


「いえいえ、は・・・・・・」






人を探してる途中ですから。






そう言って、ありがたい提案を丁重に断ろうとした時。






キュルルルル・・・






急に辺りに響いた音に、目の前の少女が瞳を丸くする。






なんでこんな時に鳴るですかのお腹・・・!!(汗)






はっきり言って気まずい。どうしようかとが内心オロオロしていると
は内心のつもりだったが、実際は表情に良くでていた。)
突然少女が表情を緩め・・・




――――――――――― ・・・プッ。」




プ!?プってアンタ、今笑ったですねッッ!?
初対面の人にわ、笑われたですよーーーーッ!!(ショック)





「うふふふ。あ、ごめんなさい。でも可笑しくって・・・」




呆然としているを前に、目尻に涙まで浮かべる始末。




「お腹が空いていたんですね。どうぞ、入ってください。さっきの手当てをするついでに
一緒にご飯でもいかがですか?・・・実はあたしもまだなんです。」




そう言ってにっこり笑う。この時、にはこの少女が・・・






て、天使!!天使がいるのですよ!
ひゃっほーいなのですー!!







・・・彼女が天使に見えていた。




「ほ、本当にいいのですかッ!?」


「はい、勿論です!」


「アメルちゃん、どうしたんだい?なにか驚いていたみたいだけど・・・」




少女の後ろから、がたいの良い中年のおばさんが。ひょっこり顔を出した。
おばさんはを見て、首を傾げる。




「・・・アメルちゃん、お友達かい??」


「あ、はい!今ここで会って、お友達になりました。あたしが扉の向こうに人がいたのに
気付かないで扉を開けちゃって、顔にぶつけちゃったんです。」






友達になるの早ッ!?






アメルと呼ばれた少女がそう説明すると、おばさんはの顔をじっと見た。




「おや、本当だ。顔が赤くなってるよ、お嬢ちゃん。」


「それで、まだ昼食を取っていないらしいので、一緒にどうですかってお誘いしてたんですけど・・・」




アメルが上目遣いでおばさんを見上げ、おばさんはそれにちょっと迷ったような顔をして
それからもう1度、を見た。


―――――――――― ・・・そこには。

瞳をウルウルさせて




『捨てないで・・・お願い、ご飯頂戴・・・』




と、アメルより低い位置からおばさんを見上げる、の顔があった。
それはもう、○イフルのCMのチワワのような瞳で・・・!!


それが功を奏したのか、おばさんは苦笑したあと。




「・・・いいよ、お嬢ちゃんもおいで。一緒にご飯にしようか。」




そう、言ってくれたのだった。



















「どぅえええッ!?じゃ、じゃあ・・・アメルがあの噂の聖女さんなのですかッ!?」




一緒にご飯を食べた後、手当てをしてあげるから・・・と
アメルに手招きされるままに寄って行ったは。
その治療法がアイテムでも、薬でも、召喚術でもないことにとても驚いた。

額に添えられたアメルの手がぼんやりと光って、スゥ・・・と痛みが引いていく。
召喚術に似ているけれど、召喚術じゃない。
驚いて、今のはなんなのかと尋ねたに返された答えがそれだった。




「はい、一応。・・・・・・さんは記憶喪失で、それを見てもらいにお友達とこの村まで来たんですね。」


「ええッ!?そ、そんなことまでわかってしまうのですかッ!?アメルは!?
す、凄いのですーーー!!尊敬してしまうのですよ!アメル!!」




が興奮気味にそう言うと、アメルは照れ臭そうに笑う。




「そ、それほどじゃないですよ。」




それに、はブンブンと大きく首を横に振った。
そしてアメルの手をぎゅっと掴んで、アメルに詰め寄った。




「そんなことないのです!!アメルは凄いのです!そんな力があるのに
気取らないでそうやって謙遜してるですし、一生懸命困っている人を助けているアメルは
とっても。とおーっても立派な人なのですよ!!凄いのです、アメル!!」


「・・・ありがとうございます、さん・・・」


「アメルがそんなことを言う必要なんて、ないのですよ?
アメルはですね、もっと自信を持ってふんぞり返ってもいいくらいなのです。」




いつも自信満々でふんぞり返っているバノッサを思い出して
はアメルの爪の垢を、煎じて少し飲ませてやりたい衝動に駆られた。






・・・そうしたら、あの子供なバノッサも。もう少し態度良くなるですかねー。




ついでにお前も飲んでおけ。






「・・・はい。さんの心はとても澄んでいましたから・・・だから余計嬉しくて。」


「ほへ??の心、ですか?」


「はい。あたしは、治療をした時に人の心が視えるんです。
それで、さんが村に来た理由もわかったんですよ。
視えると言っても、なんでもはっきりと解るわけじゃあなくって。
その人の性格がボンヤリと・・・こんな感じかなって解ったり。
その人の意識に強く表れているものとかが、少し解る程度なんですけど。」


「ほへえぇぇ・・・そういう力なのですか。じゃあ大変なのですね。」




――――――――― ・・・え?」




「だって、あんまり見たくないものとか、見なければ良かったって後悔しちゃうようなものが
人の心の中にはいっぱいないですか?
勿論そうじゃないのもあるとは思うですけど、それってアメル大変ですよね。
――――――――――― ・・・でも、頑張ってくださいなのですよ。アメル。」




ほえほえ〜っと呑気に笑ってそう言うに。アメルは思わずポカンと口を開けてしまったが、
次には綺麗な笑みを浮かべて、それに応えた。




「は、はい・・・!!」


「あ、でも何かあったらに相談するですよ。
アメルはもうのお友達ですし、1食の恩はとても大きいのです。」




胸を張って、任せろと言いたげなを見て、アメルは苦笑を漏らす。




「・・・はい。その時はお願いしますね。」


「まっかせるのでーーーす!!」


「あ、それでさんの記憶のことなんですけど・・・」


――――――――― ・・・ハッ!?わ、忘れてたのですよ!!すぐ忘れてしまうのですよねぇ・・・」


「ふふふ・・・そうみたいですね。自分の記憶を取り戻したいって言う意思は
あんまり感じられませんでしたから。」


「そうなのですよ。・・・今回も、どっちかっていうと社会見学と
あとただみんなの冒険に付いて来たってだけなのです。」






あ、でもアメルとお友達になれたですし。来た甲斐はありましたけどね。






「結果から言ってしまうと、さんが記憶喪失になる前のことは視えませんでした。」




頭を少し下げて、申し訳無さそうにするアメルとは対照的に
はこれっぽっちも気にする様子もなく、天井を仰ぎ見た。




「そうなのですか。・・・ケイナは視えるといいのですけど・・・」


さんのお友達の方ですか?」


「はいなのです。ケイナって言うんですけど、と同じで記憶喪失なのですよ。
その子を視て貰うのが、この村まで来た理由だったのですけど。・・・が先に視て貰っちゃいましたねぇ。」




てへへと苦笑いする。それについつられて、アメルも笑う。
それからお互いに顔を見合わせて、意味もないのにしばらくの間、クスクスと笑い合った。
別に、これといって何か可笑しいことがあったわけではない。けれど、2人は笑っていた。


最近、ずっと聖女の仕事をしていたせいで、
こうして誰かとのんびり話すことなどなかったアメルにとって
同じような年齢の女の子・・・と話すことは、久しぶりに気の休まる時間だったのだ。


それはにとっても同じで。
訳が解らないまま、住んでいた所からずっと遠い街に飛ばされて
次から次へと巻き起こるトラブルを対処するのに精一杯だったのだから。
のんびりと、取り留めのないことをしゃべる。


・・・以前は良くしていたけれど。そんなのは、久しぶりだった。




けれど・・・




「アメルちゃん。楽しそうなところ悪いんだけど、そろそろ戻ってくれるかい?」




そう声をかけてきたのは、さっきのおばさんだ。アメルが、声に弾かれるようにして顔を上げる。
その表情は、さっきまでの女の子アメルではなくて。奇跡を起こす、聖女のもの。




「あ、はい!すぐに行きます!」




アメルの身に纏う、その空気の微かな変化。
・・・それに気付いてなんとなく、は気分が沈んでしまう。





・・・アメルが無理をしているのが、わかってしまったから。





さっきまで自分と楽しそうに話していたただの女の子が、表情を変えた。
アメルは優しいから、人を助けることは好きなんだと思う。
けれど、今のアメルの表情からは、話していたときのような楽しさは感じられなくて・・・

でもそれも仕方のない事かもしれない。ここに、半ば強制的に縛り付けられるような形で
足枷こそはめられていないものの、1日のほとんどを束縛されているのだから。






それでも、アメルは村の人達のためにがんばっているのですね・・・






そう思う。はだんだん、目頭が熱くなっていくのを感じた。
何故かは解らない。






―――――――――――― ・・・どうして涙がでそうになるのか。






「すみません、さん。あまりゆっくりお話出来なくって。」




アメルにそう言われて、意識がどこかに飛びかけていたはハッ!と我に返った。




「・・・はわわわっ!?そ、そんなことないのですよ!
は、アメルとお話が出来て楽しかったのです!!」


「あたしも・・・楽しかったです、さん。」




まるで千手観音のように手をわたわたとさせるに。そう言ってふんわりと笑ったアメルの顔は
と楽しそうに話していた、聖女ではない、ただの少女だったから。
・・・だから、も満面の笑みを返した。


自分の存在が。レルムの聖女ではなくて、ただのアメルという少女に。彼女を戻してあげられる。
――――――――――― ・・・それが、とても嬉しかったから。




「それは良かったのです!」


「そうだった!さんは、お友達とはぐれてしまったんですよね?」


「・・・・・・あ゛。そ、そうだったのです・・・(汗)」




冷や汗を掻いているを見て。アメルが笑いながら、1枚の紙に何かを書き始めた。
は首を傾げて、それを覗き込む。




「・・・なにを書いてるのですか?アメル。」


さんは、あたし達の世界の文字は読めないんですよね?」


「はいですよ。ミミズみたいでさっぱりなのです。」


「・・・うふふ。でも、これなら大丈夫だと思いますよ?」


「ほえ?」




アメルに手渡された紙に書いてあったのは、地図。
グリグリと大きな丸が書いてあるから、ここが現在地なのだろう。
そこから矢印が出ていて、目的地らしい建物にも大きな丸がしてあった。
その横に、なにか文字が書かれている。




「この辺りの簡単な地図です。そこに書いてある文字の看板があるお家まで行けば
多分、お友達を見つけて貰えると思います。」


「そっ!それは本当なのですかアメルっ!?」


「はい。これなら、文字が読めなくても大丈夫そうですよね。」


「はいですよっ!!これならでもなんとか辿り着けそうなのです!!
はうぅ〜〜ッ!!本当に何から何までありがとうなのですよ〜アメル!!」


「いいんですよ・・・・・・お友達、ですから。」


「〜〜〜っ!!はいですっっ!!」




の様子に、アメルは満足そうに笑ってから。ゆっくりと立ち上がった。
慌てても、それに合わせて立ち上がる。




「・・・じゃあ、あたしそろそろ行かなくちゃ。」


「そうなのですね、もうおばさんが呼びに来てから、結構経ってるのですよ。
・・・アメル、本当にありがとうなのです。お仕事、大変そうですけど頑張ってくださいなのです。」


「はいっ!!さんも、頑張ってくださいね!」


「もちろんなのです!!」




がカッツポーズをして見せると、アメルは軽く手を振って、仕事場に出て行く。
その後姿が、パタンとドアが閉められて完全に見えなくなるまで見送ってから。はハッ!とした。






・・・一体は何を頑張れば良いのですか、アメル・・・(汗)






そうは思ったものの、頭を振って気合を入れなおす。




「何言ってるですかね!アメルも頑張ってるです!も負けていられないのですよ!
何事にも当たって砕けろッ!!なのです!!」



砕けるなよ。




パシ!と軽く自分の頬を叩いて、が外に出ようとすると
丁度入り口から、あのおばさんが中に入ってこようとするところだった。




「あ、ごちそうさまでしたです。」




そう言って、はペコリと頭を下げる。




「いいんだよ。・・・それより、お嬢ちゃんはしばらくこの村にいるのかい?」




その問いの真意が読めなくて、は不思議に思いながらもそれに答えた。




「・・・うーんと、そうですねぇ。今日来たばっかりですから、多分しばらくはいることになると思うですけど。」


「そうかい。・・・なら、また明日のお昼にでもおいで。」




思いもよらぬ提案に、は瞳を丸くして一瞬固まった後。
唾を飛ばしそうな勢いで(嫌な勢いだ)おばさんに聞き返した。さっきの言葉が、空耳ではないことを祈りながら。




「い、いいのですかっ!?また、明日ここに来てもっ!?」


「・・・あぁ、構わないよ。」




おばさんの一言に、は笑みを浮かべて、ほっとしたように息を吐いた。




「・・・良かったのですー。てっきり大事な聖女様だから、小娘は近づくんじゃねぇ!
・・・って言われるかと思ってたですよー。」




にこにこと悪意の無さそうな表情で言うに、おばさんは少し呆然としてから・・・




「・・・っはははは!面白いお嬢ちゃんだね!!」




怒り出すかとも思われたが、気を悪くした様子もなく豪快に笑い出した。
もし今、ここにネスティがいたら。




『すみませんッ!すみませんッッ!!(汗)』




・・・とヘッドバンキングよろしく!な勢いで頭を下げているところだろう。
けれど幸か不幸か、今ここにネスティはいない。
・・・一方笑われた本人は、始終何が可笑しいのか解っていないようだったが。


に不思議そうに見上げられ、おばさんは笑いを治めてから、アメルが出て行った扉をじっと見つめた。
その目は、確かにすぐそこにある扉を見ているハズなのに、どこか違う・・・
全然遠い場所をみているようにも思えた。




「・・・アメルちゃんがあんな風に笑ってるのを見たのは、久しぶりだったからねぇ。」




はその一言で、このおばさんもアメルが無理をしていることに気が付いているのだと悟った。






・・・そう、なのですよね。これぐらいの規模の村ならきっと、
みんな小さい頃から顔見知りの、家族みたいなものなのです。
そんな人達が、気付かないわけ・・・ないのですよね。






「・・・あたしも、他の何人かの大人達も。わかっちゃいるんだよ、あの子に負担を掛けているってことは。」


「・・・おばさん。」


「アメルちゃんは、小さい頃からお転婆だったからね。あんなふうにしているよりも、
家の仕事を手伝って、普通の村娘のように笑っていられる方が、あの子には幸せなんだろうね。
・・・けど、この村には観光名所になるような場所も、特産品もない。
特に作物が多く取れるってわけでもないしね。・・・村の収入になるようなものは、他に何もないんだよ。
だから解っちゃいるけど、それを有効に利用したいと思っちまうんだ。」




そこまで話すと、おばさんはに視線を向けた。
おばさんは一瞬驚いたような顔をして、それから優しげに微笑む。




「おや、なんて顔してるんだいお嬢ちゃん。」


「・・・あ。」




そこで初めて。は自分が眉間に皺を寄せていることに気がついた。
ぱっ!と手で眉間を押さえる。
・・・それから浅く。おばさんに聞こえるか聞こえないかぐらいにそっと、深呼吸をした。

自分の気持ちを落ち着ける為に。
妙な気分だ。今日初めて会ったハズなのに、ずっと前から彼女を知っているような、そんな感じ。
アメルが悲しんで、苦しんで、壊れてしまうのではないかと思うと
自分まで、悲しくて苦しくて堪らない。彼女のこととなると、途端感情の制御が難しくなる。






・・・これも聖女の力なのですかね?






そう思いながら。はおばさんに今度は笑顔を向けることが出来た。




「・・・おばさんみたいな人がいてくれるなら。・・・アメルはまだ、大丈夫なのですね。」


「・・・お嬢ちゃん。」


「今日はこれで帰るです!絶対絶対!!また明日、お昼頃に来るですから!!」


「そうしてくれるかい?・・・また明日おいで。」


「はーーーいなのですッ!!」




最後にはお互いに笑顔で。・・・はおばさんに大きく手を振って、その場所を走り去った。










―――――――――――― ・・・それが最期になるなんて、カケラも思わずに。



















「え、え〜っと・・・ここですかね?」




そう呟いて、は顔を上げた。食い入るように見ていたのは、先ほどアメルに描いてもらった簡易地図。
地図通りに歩いているつもりではあるものの、人の多さと持ち前の方向音痴は伊達じゃない。(いばるな。)


数歩下がって、屋根の辺りにかかっている看板に書かれている文字と
アメルが地図に書き足してくれた文字を比較する。




「うん。これに間違いないのですッッ!!」




そう意気込んで、一応数回ノックをしてから一気にドアを開けた。




「たのもーなのでーーす!!」




バン!と音をたてて扉を開けた向こうに、が見たものは・・・




「・・・・・・。」


「・・・・・・。」


「・・・・・・・・・・・・。」


「・・・・・・・・・オイ・・・」






「ぎゃーーーッッ!!??
赤い草がいるですよーーーッ!?(汗)」







そこにいたのは、少し前。が草と間違えて髪を引っ張ってしまった少年に
そっくりだけれど色違いの。・・・赤い髪をした少年。




「な・・・っ!」




の突然の叫びに驚きつつも、少年が何か言おうとしたが
生憎は完全にパニックを起こしていて、話を聞くどころではなかった。




「はわーーーッ!!ここは草の住処だったのですかーーーッ!?」



「・・・おい!」



「ご、ごめんなさいなのですー!!まさか仲間がいるとは思わなかったのですよッ!!
もう2度と引っこ抜こうとはしないですからッッ!!!
だからにまで草を生やしちゃ嫌なのですよーーーーーッッ!!!!!(汗)」







「うるせぇ!!少しは黙れッッ!!(怒)」






声が治まっても、しばらく鼓膜の辺りでエコーしているような。
それぐらいの大声で怒鳴られて、パニックを起こしていたも思わず口を噤んだ。




「てめぇ、どうせ聖女の力目当てで来た連中だろッ!?ただでさえ忙しいのに余計な手間増やすんじゃねぇよッ!!
だいたい、自警団詰め所って表に書いてあっただろうがッッ!!用がないなら、勝手に入ってくんな!!」




「読めないのです。(キッパリ)」




自信満々にそう言い切ったを見て、少年は一瞬目を丸くしたが
次の瞬間には、ワナワナと体を震わせて怒声を上げた。




「・・・ふざけてんじゃねぇ!!あんなの子供でも読めるだろ!!」


「ふ、ふざけてなんかいないのですよ!本当に読めなかったのです!!」


「・・・てめぇッ!!」




少年の目が、ギラリとした光を宿す。獰猛な野生の獣を思わせるそれを見て、
は目の前の少年が本気で苛立ち始めていることを悟った。






ど、どうしたらいいと言うのですかーーーーッ!?(汗)






が胸中でそう叫んだ、その時。




「リューグ。一体何を騒いで・・・・・・!!」




突然背後から聞こえてきた人の声に、は後ろを振り返った。
そして振り返り様に目が合った、声の主に驚愕する。




「・・・あ、貴女は・・・」






「は、はわーーーーーーーーーーッッ!?
青い草までやってきたですよーーー!!(汗)」







・・・そう、の背後にいたのは青い草と間違えて引っ張ってしまった、あの少年だった。






は、挟み撃ちとは卑怯なのですッ!!逃げられないじゃないですか!!
あーーーッ!!このままは種を植え付けられてしまうのですねッ!?





だから違うって。






「だから叫ぶなッ!!・・・なんだよ、兄貴の知り合いか?」




わたわたと一人焦るをよそに、手で耳を押さえながら赤い方がそうのたまった。
それを聞いたの動きが、ピタリと止まる。
ギシギシという音が聞こえてきそうな、ぎこちない動作で両者を見比べてから・・・




「へっ?あ、兄貴ですと!?赤いのと青いのは兄弟だったのですかッ!?」


「・・・お前、さっきから人のこと馬鹿にしてんだろッ・・・!?」




赤い髪をした少年は兄である青い髪をした少年の登場によって、少しは冷静さを取り戻したらしい。
諦めたようにぐったりと項垂れて、を恨めしそうに睨み付けた。




「・・・さん、ですよね?」




睨まれて、ちょっとたじろいでいたに。青い髪の少年がそう、尋ねた。




「ひょへぇッ!?な、なんでの名前知ってるですかッ!?
で、でも蛇の道は蛇というですし!!まさかッ!をモルモットにッ!?



まだ引き摺ってたのか。




一人で話を進めて、再び慌てだすを見て、少年は苦笑を漏らした。




「あははは。本当に、ネスティさんが言ってた通りの人ですね。」


――――――――― ・・・はえ?今、ネスティ・・・って言ったですか?」




探していた人物の名前に、にまともな思考回路が戻る。
どうしてこの少年がネスティのことを知っているのか。
いや、確かにさっき。青い髪の少年の髪を引っ張ってしまった時に彼は現場にいたのだから
黒髪で不健康そうな色白い肌をしている、眼鏡をかけたネスティという人物が
存在していることは知ってはいるだろうけれど。
あのネスティが、たまたま通りかかった人やちょっとすれ違った人に名乗るとは思えない。
ましてや、のことを話すなんて・・・




じっと、少年を見つめていると。少年はにっこり笑い、再度口を開いた。




「申し遅れました。この村の自警団の団長を務めている、ロッカと言います。
そっちは双子の弟のリューグです。」


「ふ、双子ッ!?」




キョロキョロと大袈裟な動作で、身構えながら2人を見比べる
ロッカは笑い、リューグは呆れた表情でを見た。




「ネスティさんには、お連れの方とリューグがちょっとしたトラブルを起こしたので
その時のお話を窺っていたんですよ。貴女のことはそのときに伺いました。」


「う゛!!・・・トラブル起こしたのって・・・絆創膏付けた人だったですか・・・?」


「はい。えっと確か・・・フォルテさんでしたか?」






フォルテの馬鹿――――ッッ!!(汗)



お前も人のこと言えた義理じゃねぇだろ byフォルテ






ギクシャクと固まってしまっているを一瞥して、リューグが口を開く。




「コイツ、さっきのヤツラの仲間か?」




声のトーンが低い。また怒っているんじゃないかと思って、はこっそりとリューグの表情を窺った。
・・・リューグは案の定不機嫌のようで、じっと床を睨んでいる。






ま、全く!フォルテはなにをしくさってくれるですかねッ!!(汗)






あの、きっと今も笑っているだろう。陽気な仲間の姿を思い浮かべ、
はあとで会ったらチョップの2つや3つかましてやろうと思っていた。




「そういうことになるけれど・・・リューグ。さんを怖がらせるんじゃない。
さっきから彼女、お前が睨んでいるからずっとビクビクしているじゃないか。」






・・・・・・もしかして青い方は親切さんですかッ!?



コラ。






どうやらこの双子。似てはいるが、髪の色も気性も正反対のようだ。
(髪の色は余計だ。)

ロッカにそう言われたリューグはの顔から、恐怖を見て取ると




―――――――――― チッ!」




そう舌打ちして、視線を逸らす。
その動作にビクっと体を震わせながらも、今までに何人かこういうタイプの人間を見てきた
内心、ここはそっとしておくのが1番だという結論に至った。

その代わりと言ってはなんだが、ロッカに向き直る。




「あ、あのですね!」


「はい、なんですか?さん。」


「さっきは、ごめんなさいでした!あの、髪・・・痛かったですか・・・?」




が不安げにそう問うと、ロッカはクスクスと笑い出した。




「・・・はい。正直、ちょっとだけ。でも大丈夫ですよ。
それに痛いよりも、呆気に取られた方が強かったですから・・・」



「・・・はぐぅ・・・(汗)」



「・・・??なんのことだよ、兄貴。」




恥ずかしさのあまり、思わず姿勢を正して俯く。事情を知らないリューグは、ロッカに視線を向けた。




「それは、僕と彼女だけの秘密かな?」


「は、はいですッ!!是非とも秘密にして頂きたいのですよッ!!」




・・・というわけだから、と苦笑してみせるロッカを見て
リューグは最初から大して興味も持っていなかったのか、あっさりと何があったのか聞くことを諦めたようだ。




「あ。それで、ネスティ達は何処にいるのですかッ!?
早くしないと、その、あの、は今晩ずっとお説教で眠れないワケでして・・・。
・・・会わせて貰えるのですよねッ!?」


「ええ、勿論。今ネスティさんが何処にいるのかは、僕には解りませんが
今晩泊まる場所を紹介したので、そちらに案内しますね。」


「本当なのですかッ!?ありがとうなのですよ!!」


「・・・でもすみません。僕は今、ここを離れるわけにはいかなくて・・・。
だから、リューグに案内させますね。」






「――――――・・・え゛っ?(汗)」






にっこり笑って、死の宣告に等しいものを告げるロッカが、の瞳には死神のように映った。




「チッ!わかったよ・・・で?こいつの保護者にどこ紹介したんだよ、兄貴。」




溜息を吐いて、面倒臭そうにイスから立ち上がるリューグ。
彼が動く度に、がビクビクしているのが、嫌でもリューグの視界の隅に入った。




「僕達の家だよ。」



「どぅええええッ!?」



「はぁッ!?何考えてんだよ、馬鹿兄貴!!第一、ジジイには言ったのかッ!?」


「ああ、もうおじいさんに話は通してあるよ。」


「それは本当に、何から何まで迷惑をかけて申し訳ないのですよ!恐縮なのです!ハイ!!」




リューグと一緒に声を荒げて驚いていたは、2人に向かってペコペコと頭を下げた。




「いえ、いいんですよ。」




リューグは嫌そうな顔を隠しもしないが、ロッカは相変わらず、満面の笑顔だ。






ちょっとはあの仏頂面のネスティにも見習わせてやりたいのですね!






そんな風に思っているの目の前を、赤いものが通過する。・・・リューグだ。
リューグは入り口の辺りまで移動すると、面倒臭そうに壁に手をついてに振り返った。




「・・・・・・おい、ガキ。さっさと行くぞ。」




そう言うリューグの視線は、勿論に向けられている。



“ガキ”



バノッサにもそう呼ばれているが、にとってその呼ばれ方は非常に不服なものだ。
さっきまで怖がっていたのも忘れて、が口を開く。




「むっ!!なにを言うですかッ!はガキではないのです!
確かに、ちょっと標準サイズよりは小さいですけど、もう17歳なのですよッ!!」






「「17ッッ!?(汗)」」






の発言に、ロッカとリューグの声が重なる。
リューグも珍しくポカンと口を開けているし、ロッカも相当驚いたらしく笑顔が消えている。
はそんなに驚くこともないのに・・・と不満を覚えつつ、
2人の驚きように気圧されて何も言い返せないでいた。




「そ、そうですよ?はもう17歳なのです!」


「・・・・・・本当、ですか?」


「はいなのですよ?」


「・・・これで俺達と、同い歳だっていうのか・・・?(汗)」


「はへ?お2人も、17歳なのですか?なぁーんだ、じゃあ呼び捨てでOKなのですねぇ。」


―――――――――― なッ!!」




1人で勝手に納得しているに、リューグが何か言いかけた。
だがあまりにも嬉しそうに笑っているを見て、だんだん怒る気も失せていく。
・・・そもそも、呼び捨て以外でなんて。生まれてこのかた、呼ばれたことはないのだから。
今更怒る必要も、本当はないハズで。




「同い歳の人に会ったのは初めてなのですよ!!
トリスもマグナも1つ上だし・・・なかなか同じ歳の人には会えなかったのです!!」




理解はし難いが、そんなことで喜んでいる






『17歳のヤツなんてごろごろいるだろ。』






そうは思うものの、こうも意味のないことで喜ばれると
流石のリューグも、完全に怒る気が失せるわけで・・・。

はぁ、と溜息を吐いて『そりゃ良かったな』とぶっきらぼうに言ってやると。
は『ハイっ!!』と実に景気の良い返事を返した。

そんな弟を、ロッカは微笑ましそうに。けれど弟には勘付かれないように見ていた。




「・・・はぁ。・・・ほら、さっさと行くぞ、。俺だって、暇じゃあねぇんだからな。」


「そうです!最初からそう呼べば良いのですよ、リューグ。」




嬉しそうに言って、はリューグの傍までトテトテと小走りで駆け寄る。






急に態度がデカくなったんじゃねぇか?






リューグはそう思ったが、きっとこっちがの本来の性分なのだろうと思い
さっきのように怯えられるよりはマシだ、と咎めはしなかった。




「じゃあリューグ。きちんとさんを送り届けるんだぞ?」


「・・・あぁ、解ってる。なんとなく、コイツが仲間からはぐれた理由も見当付いてきたしな。」




見送るロッカに、リューグはそれだけをそっけなく言うと、を先導してさっさと歩き出した。
は早足で、しかもリーチもより長いリューグに慌てて付いて行きながらも
ちょっと進んだところで、ハッとしたように後ろを振り返る。

そして大きな動作でロッカに向かってブンブンと手を振った。
何か忘れ物でもしたのかと首を傾げていたロッカは、苦笑して軽く手を振り返す。
が立ち止まっていることに気が付いたらしいリューグが、何かを叫んだ。
ロッカの居るところからでは、リューグが何と言っているのかまでは聞こえないが、
それを受けて、が大急ぎで、リューグのところまで走っていく。






さんみたいな人が友達になってくれたら、アメルも喜ぶだろうな。






・・・もう会っているとはこれっぽっちも思わずに。ロッカはそう、心の中で呟いた。






















歩き出して何度目か。リューグはまた立ち止まって、後ろを振り返った。
すると1メートルほど遅れて後を付いてきていたが、必死になってリューグのところまで追いついてくる。

が完全に追いついたのを確認して、リューグはまた歩き出した。
歩くにつれてだんだんと、人口密度が低くなってくる。

しばらく歩くと、やっとでもリューグから離れずに歩く事が出来るぐらいにまで人の数が減った。

呼吸も楽になったは上機嫌で、リューグのすぐ後ろを歩いている。

なかなか前に進めないを、いちいちリューグは追いつくまで待っていてくれて
態度はそっけないけれど、本当は優しいのだと、たったこれだけの間でも解ったから。




本当は優しいのに、誤解されやすい所まで。
ガゼルにそっくりだと、は思った。




「随分人の数が減ったですね。」


「そりゃあ、ここまで来ればな。もうここは、村の外れだ。」


「・・・まだ着かないのですか?」


「もうすぐ着く。・・・あそこだ。」




木と木の間に埋もれるようにして建っている家を見つけて、は思わず感嘆の声を上げた。




「はわーーー・・・・・・素敵なお家なのですね。」


「そうか?どこもこの辺はこんなもんだぜ?」




首が痛くなりそうなくらいに家を見上げるにそう言って、リューグは迷うことなく家の扉を開けた。




「ジジイ!いるか!?」




リューグが家の中に向かってそう叫ぶ。






さっきからジジイジジイって・・・リューグとロッカのお爺さんなのですかね?






そう思って、はリューグの背中に隠れながら。こっそりと家の中を覗き見た。
するとちょっとゆっくりめのテンポで、中から返事が返ってくる。




「ん?リューグか?」


「もへ?この声・・・」




リューグに返事をした声がどうも引っかかって、はカクンと首を傾げた。
やがて、ゆっくりとした動作で奥の部屋から出てきたのは・・・







「お、お爺さんっ!?」














戯言。


はい、中途半端なところで終了です。第6話、前編です。
やっとこさ双子とアメルに出会いましたね。

予想以上に伸び伸び・・・・・・(汗)
はい、大変申し訳ないです。本当はアグラ爺さんと再会した後もちょこっとあったのですが
ただでさえ長くなってしまってるのでちょっきん致しました。日常会話ですし。

いやぁ、書いているうちに任那のほうがわけわからなく・・・ゲホゲホ。

双子の扱いが酷くて申し訳ないです。しかし、これも1つの愛のカタチということで(笑)
・・・ひとまず続き、頑張ります。ハイ。次でどうにか・・・旅団を・・・うぅ(滝汗)








<<BACK   MENU   NEXT>>