がお爺さんと再会していた頃。 を探していたトリスとマグナ。それに2人の護衛獣達は、 人の多い賑やかな場所からは少し離れた木の下で、休憩と称したお昼寝をしていた。 「ふあぁ・・・気持ちいいね、マグナ・・・」 「・・・うん。気持ちいいな、トリス・・・」 座り込んですぐに、うっとりとした表情でそう言い始めた2人の周りを わたわたと上下に手を振って、レシィがウロウロしている。 「ご、ご主人様・・・いいんですか?さんを探さなくて。」 「・・・案外、もうこの村の中にはいなかったりしてな。」 ニヤリと笑って、バルレルが言う。 「えええッ!?そ、そんな・・・」 すると、コツン・・・と痛くもない、形だけのげんこつがバルレルの頭に降ってきた。 「・・・こら・・・バルレル?駄目でしょ?・・・レシィを不安にさせちゃあ・・・」 どうやらそれは、もう半分夢の世界に突入している召喚主によるものだったらしい。 「大丈夫だよ、レシィ。・・・だって、 俺達がここにいるって解ってるんだからそんなことしないよ。」 そういうマグナの瞳も固く閉じられていて、開く様子はない。 いつもなら、レシィに賛同してくれそうなハサハも もうすっかり眠る態勢で、今回ばかりは加勢してくれそうにもない。 みんなの顔を見回して、レシィははぁ・・・と溜息を吐いた。 ごめんなさい。僕だけじゃ、どうにも出来ませんでした・・・ 心の中で、そう誰かに謝罪して。 レシィも、ふかふかの草の上に腰をおろした・・・その時! ガサガサ・・・ 頭上からそんな音と共に、数枚の葉が舞い降りて来た。 その音のせいか、それとも葉が落ちて来たからか。 目を閉じていた筈のトリスとマグナも、不思議そうに目を開けた。 頭に乗ったそのうちの1枚を手にとって、レシィが頭上を見上げる。 「・・・葉っぱ・・・??」 そう呟いた途端、レオルドが機械兵士特有の声を出した。 「頭上ニ2ツノ熱反応アリ。」 その声に、つまらなそうにしていたバルレルも、眠りかけていたハサハも木の上を見上げる。 ・・・そしてトリスとマグナも、上体を起こした。 「え?なになに?」 「あ・・・わわ、わ・・・!」 トリスがそう言って頭上を見上げると、自分達が昼寝をしていた木の上に 何かの小さな影と、もう1つ人影が見えた。 「お、女の子!?」 「・・・なんなんだ?あのオンナ・・・」 「・・・なんで木の上なんかにいるんだろう・・・?」 トリスが驚いた声を上げ、バルレルとマグナも呆然と呟く。 どうやら、マグナ達に木の葉を降らせたのはこの少女が原因らしい。 「―――――――――――― ・・・ッッ!?」 そんなことを思っていると、木の上に登っていた少女がぐらりとバランスを崩した。 「お、落ちちゃいますぅ!!」 レシィがあわてた様子でそう叫び、ハッとしたマグナが、トリスを押し退ける。 マグナがトリスを押し退けたのと、女の子が耐え切れずに落ちてくるのはほぼ同時だった。 「きゃああーーーっっ!!」 「―――――――――――― っっ!!」 ドタン!! 〓 第6話 人形劇の行進 後編 〓 「・・・・・・それで?」 「子猫が木の上から降りられなくなっててさ、どうもその子を助けようとしてたみたいなんだけど・・・」 「その子猫、自力で降りられたみたいで・・・」 ある程度この先の展開がよめた話に、ネスティは眉間の皺の数をさらに増やす。 「・・・助けるつもりで子猫に近づいて、ひっかかれた挙句。 トリスまで木から落ち、マグナはまたその下敷きになった・・・と?」 「う゛・・・その通りです。あ、あははは・・・」 乾いた笑いをしてみせる弟、妹弟子を一瞥して、ネスティは溜息を吐いた。 それから気を取り直す為に、ほとんどずれていない眼鏡の位置を直す。 「・・・で、その怪我を最初に木から落ちてきた少女が治してくれた。 しかも、召喚術とは異なる力で。」 「うん、そうなんだ。それにさ、名乗ってもいないのに俺達の名前を知ってたんだよ。」 「・・・ねぇ、ネス?あの子って、その・・・もしかして・・・」 「・・・あぁ、その少女が噂の聖女である確率は高いな。聞いた話によると、 聖女も君達と然程かわらない年齢らしい。」 「・・・あの子が・・・聖、女・・・」 突然木の上から降ってきた少女を思い出して、トリスがそう呟いた。 「・・・それで、はどうだったんだ?」 「それが、全然見つからなくてさ。もうすぐ陽も傾くし、1度戻ろうと思って。」 マグナが大きな動作で、ブンブンと首を横に振る。それにトリスも賛同して見せた。 「その辺りにいた人にも聞いてはみたんだけど、誰も見てないって。」 「・・・そうか。まぁ、あれだけたくさんの人がいれば、記憶に残らないのも当然かもしれないな。」 自分が彼女を見かけたことは弟妹弟子には秘密で、真顔で頷くネスティ。 「・・・どうしよう、ネス?」 「陽が暮れれば、もう少し人も少なくなるだろう。自警団でも探してくれると言っていたし 一度今夜泊まる家に行って、それから出直すとしよう。」 「・・・泊まる家って・・・宿じゃないの?ネス。」 「元々、この村は観光客が多いわけでもなかったからな。もう宿はいっぱいなんだそうだ。 ・・・君達がを探しに出てから、色々あってな。 その時に、自警団の人に泊まれるところを紹介して貰っておいたんだ。」 トリスとマグナがふーんと頷き、一体何があったのとか聞こうとした丁度その時。 足音と共に、だんだんと近づいてくる声があった。 「おーい!!」 「あ、フォルテだ。」 振り返ると、手を振りながらこちらに歩いてくる、大柄な男フォルテとその横に並んで歩く、ケイナの姿。 お互いに顔がすぐ傍で見られる位置まで来てから、そこにいる面子を見回して。 先に口を開いたのはフォルテだった。 「お?は?見つからなかったのか?」 「うん、そうなの。だから今ネスと、もうちょっと人が引いてから出直そうって話してたのよ。」 「なるほど。確かにこれだけ探して見つからねぇんじゃ、その方が早いかもしれねぇな。」 「・・・それで、そっちはどうだったんだ?」 なんとなく、ケイナの様子からして良い返事が返ってこないだろうと予測してはいたが 一応、マグナはそう尋ねてみる。 すると、ケイナは手の中にあった1枚の紙切れを、ピラピラと振ってみせた。 「今日の面会時間はもう終わりです。この整理券を持って、また明日並んでください・・・・・・ですって。」 そう言って背中を丸めると、疲れたように息を吐き出した。 その様子に、マグナは苦笑いをしながら『おつかれー』と声をかける。 「では、自警団に紹介して貰った家へ行きましょう。の捜索はそれから行いますから。」 一端その場をまとめようとするネスティの一言に、全員が頷き、一行はネスティを先頭に移動を始めた。 「それにしてもさ、良く自警団の人に紹介なんかして貰えたよな!」 歩きながら、マグナが言う。 その発言にちょっとばかり、フォルテの顔が引きつったが、それに気付いたのはケイナだけ。 「そうだね。どこで自警団の人と知り合いになったの?」 「そ、それはぁ・・・だな。(汗)」 「・・・・・・この馬鹿が、列に割り込んで自警団の1人と一悶着起こしたのよ。」 「えぇッ!?じゃあ、昼間起きた騒ぎって、フォルテが原因だったのか!?」 そんなに有名になってたのか・・・と、冷や汗を流すフォルテ。 それを見て、バルレルがキシシ・・・と嫌な笑い声を漏らした。 「うわーー・・・。それで良く泊まる所なんて紹介して貰えたね。」 「たまたま、騒ぎを聞きつけて仲裁に来てくれた自警団の団長さんが、親切な人だったのよ。」 「・・・そうだったんですか。それは良かったですね。」 「・・・・・・・・・(こくこく)」 レシィがほっと胸を撫で下ろすその隣で、ハサハも頷く。 「そ、そうそう!その自警団のヤツラさ、お前等と同じ双子だったんだぜ!」 話を逸らしたのがみえみえの、やたらと高いテンションでフォルテが言った。 「え?双子・・・?珍しいな。」 「本当。あたし、自分たち以外に双子なんて見たことないよ。」 マグナとトリスが、お互いの顔を見合わせる。 それからフォルテがその双子について何やら話していたが、 ふと呟いたケイナの一言に、全員が思考をそちらへと移した。 「・・・それにしても大丈夫かしら、あの子。いい加減お腹も空いている頃じゃない?」 「・・・そうだな。倒れちまってたりしてないといいんだが・・・」 フォルテまでが真剣な表情で言ったからか、トリスは急に不安になってきた。 それまではなんとなかなる、そのうち会えると思っていたが・・・・・・ もし、もう1度と会えなかったら・・・? ふと見上げた空は、今まさに夕暮れから夜に移り変わる瞬間で オレンジと紫のグラデーションになっている。 普段なら綺麗だと感じるハズのその色が、今とてつもなく、トリスの中の不安を掻きたてた。 ぼんやりと白い輪郭だけだった月も、今ははっきりとその姿を現している。 ・・・丁度、“あのとき”も。こんな時刻で・・・ 『太陽の光より、月の光の方が強い魔力を帯びている。』 ・・・そう授業で習ったことを思い出していると、誰かの声がかけられた。 「・・・トリス?どうかしたか?」 「・・・あ。ううん、なんでもないよ、マグナ。ちょっとぼーっとしちゃっただけ。」 「そうか?」 「うん!・・・それよりネス、急ごうよ!が心配だもの!」 「・・・安心しろ。地図によると目的地はもう、すぐ目の前だ。」 「あ、あの家じゃないかしら?ネスティ。」 ネスティの横から地図を覗き込んでいたケイナが、先に見えてきた1件の家を指差す。 ネスティは持っている地図を見て、その家と地図の指し示す場所が 同じだろうと判断すると、変わらぬ表情で頷いた。 「そのようだな。」 「うわー・・・見てよマグナ。この家、全部木で出来てるよ・・・」 「本当だ・・・。」 ポカンと口を開けて目の前の家を見上げる2人に、フォルテが珍しそうな声を上げる。 「なんだ。お前等、木造の建築物見るのは初めてか?」 「・・・僕達は、ほとんどゼラムから出ることはなかったので・・・。僕はまだしも、トリスとマグナは初めてでしょう。」 「そっか。そういやゼラムじゃ、木造の家なんて見ないもんな。」 「・・・うん。派閥の建物も石で出来てたし・・・」 「そういえばレルムは、ほとんどが木の家だったね。」 「ご主人様は、木で出来た家に住んだことがないんですか?」 「うん、そうよ。・・・・・・ずっと、派閥で暮らしてたから・・・・。レシィはあるの?」 「はい!メイトルパでは、みんな木や草で出来た家に住んでましたから。」 「コホン。・・・盛り上がっているところすまないが、そろそろ入ってもいいか?」 口調だけは丁寧だが、有無を言わせないネスティの言葉に。トリスとレシィは笑って誤魔化すしかなかった。 「は、はい!どうぞ・・・あははは・・・」 トリスがそう答えると、ネスティは咳払いを一つして扉をノックする。 「すみません!自警団から紹介されてきた者ですが・・・」 そう、ネスティが叫んだ時。 家の中から、何かが突進してくるような足音が地響きのように聞こえてきた・・・。 全員がその音に、不思議そうに首を傾げた途端・・・ バッターーーン!! 扉が外れてしまうんじゃないかというような勢いで、家の扉が開けられた。 そして中から弾丸のように飛び出してきたのは・・・ 「フォルテーーーッッ!!」 「「「「「「(さん)ッッ!?」」」」」」 ついさっき話題になっていた、迷子の本人。 しかし、驚く仲間を気に止める事もなく、は目の前にいたバルレルを踏み台に “ぶぎゃ!”と声を漏らしたバルレルを無視して跳躍すると、 フォルテの首・・・正確に言えば彼の服の襟を掴んだ。 背の低いが、自分よりもずっと背の高いフォルテの首元に掴まれば、 結果。ブラリ、とぶら下がる形になる。 重力と言うものが働くから、当然フォルテは前のめりに成らざるを得なかった。 「フォルテ!!一体全体リューグになんてことしてくれやがったのですかッ!? お陰でまで散々睨まれたのですよッ!? この責任、どう取ってくれるですか!!」 フォルテが前のめりになったことで、地に足が着いたは そう叫びながらも、ブンブン!!と力任せにフォルテを前後に揺さぶる。 いくら女の子とはいえ、そこいらの村娘とは違い、 短剣だけで野生化したはぐれ召喚獣を追い払える実力の持ち主だ。 そんな彼女に問答無用で揺さぶられては、流石のフォルテもひとたまりもない。 いつまで経ってもそれを止める気配の無いを止めたのは、マグナとトリスだった。 「!良かった、無事だったんだなっ!!」 「っ・・・!随分探したのに見つからなかったから・・・あたし達、心配したんだよ!!」 フォルテを揺さぶっていたに、両脇からトリスとマグナがドン!と抱きつく。 はハッとしたのか、フォルテの服を掴んだまま。それでも手を止めた。 「・・・マグナ・・・トリス・・・」 「良かったです、さんが無事に帰ってきて・・・」 「・・・お姉ちゃん・・・・・・」 レシィとハサハも、召喚主に倣っての足元にピタリとくっつく。 「レシィにハサハも・・・。心配をかけたのです、ごめんなさいなのですよ。」 やはり、知らない村で長い間1人でいるのは心細かったのだろう。 少しばかり涙ぐみ、そう謝罪をする。 ・・・けれどそのときにさえ、はフォルテの服を離さなかった。 「オイ!テメェ!!このオレを踏みつけるなんて、いい度胸してんじゃねェかっ!!」 感動の再会(?)に水をさしたのは、に踏み台にされたバルレルの怒声。 けれど、それに対しは・・・・・・ 「バルレル、いたのですか?・・・ちっちゃかったから見えなかったのですよ。」 ふん!と鼻を鳴らして、そう告げる。 この時誰もが、未だにが流砂の谷での1件を根に持っていることを知ったのだった。 「・・・・・・ぐ、ぐるじぃ・・・」 ・・・たった1人。首が絞まって幽体離脱しかけている、フォルテを除いては・・・ 「・・・・・・驚いた。」 開口一番に、ネスティがそう呟いた。 「本当ですよ。も最初はびっくりしたです。 まさか、みんなが泊まる予定のお家がお爺さんのお家だとは思わなかったのですよ。」 あれから。お爺さんが出てくるまで、フォルテの服を掴んでいたことをすっかり忘れていたは ちょっと青くなりかけたフォルテを慌てて放し、お爺さんに続いて仲間達を家の中へと案内をした。 が人数分のお茶を淹れて、こんなに大人数が一気に集まるには少し窮屈な部屋で。 お互いに今までの経緯と、現在の状況報告を行っていた。 「でもお陰で、みんなが来るまで退屈しないで済んだのですよ。ずっと、お爺さんと話していたのです。」 ねー?とお爺さんに笑いかける。 もう出会い頭のことなんてさっぱり忘れてしまったらしく、すっかりフレンドリーだ。 そんなを見て、ネスティは溜息を吐く。 「今朝はが失礼なことをしてすみませんでした。 しかも、僕たちまでお世話になることになってしまって・・・」 ネスティが深々と頭を下げる。 「いや、いいんじゃよ。ワシも嬢ちゃんのお陰で、久々に楽しい時間を過ごせた。」 けれどそう言って、お爺さんが本当に嬉しそうに笑ったので。ネスティも少し安堵したようだ。 「・・・それにしても、自警団の人に先にここに連れて来て貰ってたんじゃあ 村中探しても、見つからなかったハズだよ。」 「あはは・・・ごめんなさいなのですよ、マグナ。探してくれて、ありがとうなのです。」 少しバツが悪そうに、が苦笑いする。 マグナとトリスも、それに笑い返した。それから、は視線をケイナに移す。 「それで、ケイナの方はどうだったのです?」 「また明日、整理券を持って並び直してですって。」 うんざりした様子で、ケイナが溜息を吐きながら言った。 その会話を聞いて、トリスが何かを思い出したようにポンと手を打ち、口を開く。 「・・・そうそう!、ケイナ。あたし達、さっきその聖女に会ったんだよ!」 「そうなんです!ご主人様達が木の下で休憩していたら、突然上から落ちてきて・・・」 「・・・・・・どーいう聖女だよ・・・」 レシィが身振り手振りで説明し、フォルテがそれに呆れ顔で呟いた。 サボリと言わずに、休憩・・・と説明するところが。レシィの主人思いなところである。 がどんなに驚いて、羨ましがるだろうかと。マグナとトリスはじっとを見つめた。けれど・・・ 「はえ?トリス達もアメルに会ったのですかー?」 驚きもせずほえほえとした表情のまま、そう問う。 「・・・・・・もってことは・・・!あなたも聖女に会ったの!?」 「はいですよ!」 1人で驚く羽目になったケイナにも、さらりと返事をする。 「えええぇぇぇええッ!?嘘っ!・・・絶対あたし達だけだと思ったのに!」 「自慢しようと思ってたのになぁ・・・」 と、マグナが肩を落とした。 「そういや、アメルさま〜・・・なんて呼ばれてやがったな、あのオンナ。」 忌々しそうに舌打ちをしながら、バルレルがそう吐き捨てる。 何故だかは解らないが、バルレルはあまり聖女をお気に召さなかったようである。 “聖女は忙しい筈なのに、なんでそんなに目撃情報があるんだ?” ・・・と、ネスティは思っていたが、敢えて口にはしなかった。 「会ったも何も、に自警団に行くように教えてくれたのはアメルなのですよ。 とアメルは、もうお友達なのです!!」 マグナとトリスに向かって、フフン!と胸を張って告げる。 マグナとトリスは負けた・・・と言わんばかりにテーブルに頭を付けて突っ伏している。 そんなマグナとトリスに、お爺さんが声をかけた。 「・・・あの子は元気にしておったか?」 「ええ、それはもう!木の上から落ちてきたぐらいだし・・・元気そうでしたよ。」 「そうか・・・それならば良いんじゃ。」 そう言うと、お爺さんは優しく微笑んだ。それはまるで、親が子を想うような・・・そんな笑みで。 意外にも敏感にそれに気がついたフォルテが、不思議そうに訊ねた。 「???じーさん、その聖女とどういう関係なんだ?」 お爺さんの代わりにその疑問に答えたのはだった。 「お爺さんは、アメルのお爺さんなのですよ!あ、それに、ロッカとリューグも 血は繋がってないですけど、アメルと一緒にお爺さんに育てられたのですって。」 「・・・・・・なぁ。ロッカとリューグって誰?・・・ここにはいないみたいだけど・・・??」 初めて聞く、どうやら男の者らしい名前に、マグナが睨みを利かせて辺りを詮索する。 マグナがどうしてやたらにそんなことを気にするのか。 トリスとは不思議そうにしていたが、フォルテが苦笑しながらマグナに言った。 「さっき俺が話しただろ?・・・例の双子の名前だよ。」 それにマグナは“あぁ・・・”とだけ言って頷く。けれど、まだ腑に落ちないらしく 不満そうにテーブルを睨みつけ、何事かをブツブツと呟いていた。 ふと窓の外に目をやったお爺さんは、 もう外がすっかり暗くなっていることに気が付くと、へと視線を向ける。 「・・・・・・そうじゃ嬢ちゃん、そろそろ夕食にしたらどうじゃ? 時間的にも、もう良い頃じゃろう。」 「あ、そうなのですね。はいなのです!!」 お爺さんの提案に、は満面の笑みで大きく頷くと、どこかへパタパタと小走りで走っていく。 その後姿を微笑ましそうに見つめてから、お爺さんも続いて立ち上がった。 「嬢ちゃんと2人で、お前さん達が来る前に夕食を作っておいたんじゃ。」 お爺さんの言葉に、不貞腐れていたマグナの目が点になる。 その動作はまるで、犬の耳がピン!と立ったときのようで・・・。 とお爺さんが一緒に作ったというのも気になる所ではあるがここで着目すべきは、 が夕食を作った!・・・というところである。 そんな結論に至ったマグナは、さっきまでの不機嫌も忘れて、テーブルから勢い良く身を乗り出した。 「えッ!?なに、なに作ったのッ!?」 「こら、マグナ!・・・はしたないぞ!」 マグナにはマグナで別の思惑があるのだが どうやらネスティは、マグナはただ単に食い意地が張っただけだと解釈したらしい。 内心、気付かれなかったことにちょっとばかり安心しながらも 食い意地が張っていると思われたところにむっとしてみる。 「ははは・・・別にかまわんよ。嬢ちゃんの故郷の食べ物で なんでも・・・“かれー”、とか言ったかのう。」 「「「「「かれー???」」」」」 その場にいたほとんどの人間が、首を傾げてお爺さんの口にした名前を繰り返した。 「・・・ネス、知ってる?」 「・・・いや、僕も聞いたことがないな。」 「あんたは聞いたことある?フォルテ。」 「いんや・・・俺もさっぱり聞いたことがねぇな。」 「なんでも、あの剣の都ワイスタァンで売っている、珍しい香辛料を使うんだそうじゃ。 ・・・アメルが謝礼として貰って来たは良いが、一体何に使ったらいいのか解らずに困っておったのじゃよ。」 カレ−という耳慣れない名前の食べ物についてみんなが討論している間に、 が去っていった方向から、奇妙な唸り声が聞こえてきた。その唸り声に、お爺さんが苦笑する。 「やはり嬢ちゃん1人でこれだけの人数分のカレーが入った鍋を運ぶには、ちょっと無理があったようじゃな。」 「俺、手伝いに行きます!」 「あ、マグナずるい!あたしも!!」 「コラ2人とも!人様の家で騒ぐんじゃない!」 口々にそう言って駆けていくマグナとトリス。 そして全く・・・と愚痴を零しつつも決して嫌そうではないネスティ。 更に、ネスティを尻目にレシィとハサハが2人の後を追う。 そんな微笑ましいやり取りを眺めてから、お爺さんは久々に賑やかになった家の中を見回した。 「・・・やれやれ。今夜は静かになりそうにもないわい。」 ・・・この日食べた夕食は久しぶりに、とてもおいしかった。 とお爺さんが作ったカレーは、なかなか評判だった。 フラットは、あの大所帯のわりに、料理が出来る人間が少ない。 がフラットに住み着くまで。フラットの食事は、全部リプレとアヤだけで作っていたのだ。 ガゼルやレイド達は仕事に出ていて、家事をしている暇はないし ・・・ナツミとは手伝わせると、余計に片付ける手間と時間がかかるらしい。 そんなフラットでリプレのお手伝いをしていたのだから、料理はそこそこに出来る自信があったのだ。 夕食をとりおえて、それぞれに割り当てられた部屋に向かう途中の廊下。 窓からは月明かりが差し込んで、然程明るくない足元を。 歩くのに不自由しないぐらいには、照らし出してくれている。 「おいしかったなぁ・・・」 「うん、おいしかったねぇ・・・」 そう、マグナとトリスが幸せそうな顔で呟いている。 さっきから、何度か繰り返されている光景だ。 ケイナとフォルテはついさっき部屋に入っていったところで、今はいない。 「・・・全く、2人ともさっきからそればかりだな。」 「・・・でもネスティさん、本当においしかったですよ。」 「・・・・・・(こくこく)」 「みたこともねェ食い物だったけどよ、悪くはなかったな。」 バルレルまでもが、まんざらでもなさそうに頷いた。 「サイジェントにいた頃は大所帯で、ご飯を作るお手伝いをしていたのですよ。 だからあれくらいは出来るのです。」 「そうなのか・・・。しかし、君が料理が出来るとは思わなかったぞ。」 「むっ!ネスティ、どういう意味なのですかそれは。」 「てっきりトリスと同じようなタイプだとばかり・・・・・・」 「あ!ネス、酷いっ!!」 トリスが頬を膨らませて、本当には叩かないけれど、手を振り上げる。 そんなことを話して笑い合いながら、部屋までのあとほんの少しの距離を歩く。 そこでふとは、ネスティに伝えておかなければならないことがあるのを思い出した。 そっと、前を歩くネスティの背中に声をかける。 「あ、忘れてたのですよ・・・・・・ネスティ。」 「なんだ?」 「明日のことなんですけど・・・。、お昼ご飯をアメルのところで食べる約束をしてるです。 あ、ちゃんと許可を貰ってるのです!忍び込もうなんてしていないのですよ?」 必死に自分を見上げるを見下ろして、ネスティはふっと息を吐いた。 「・・・まぁ、そういうことなら僕は構わないが・・・」 ネスティが頷いてみせると、ネスティのマントの向こう側から トリスがひょっこりと顔を出し、物欲しそうな表情でを見つめていた。 「いいなぁ、・・・。あたしもアメルともっと話したかったー。」 「じゃあ明日、トリスも一緒に行くですよ!」 「え?いいの・・・!?」 「はいです!きっと、おばさんも良いって言ってくれるのですよ!」 「ずるいぞトリス!、俺も行きたい!!」 すると今度はマグナまでもが、妹に負けてはいられないとばかりに、不満そうにそう言った。 良く見ると、マグナの後ろでハサハもじっとこちらを見つめている。 「・・・なら、みんなで行くのですよ!」 これだけ大人数で押しかけられるとは、流石にあのおばさんも思ってはいないだろう。 でも、みんなの分のご飯を用意していけば、きっと大丈夫なのです。 そうすれば、多少は渋られてもアメルと一緒にご飯を食べるくらいはさせてくれるだろう・・・と。 はそう思った。の提案に、1名嫌そうな顔をしたちびっこがいたが 他の面々が喜んでくれているので“いつものことですし・・・”と、はそれを無視することにした。 「やったあ!きっとさ、こんなに大勢で行ったら、アメル驚くよな!」 「そうだね!・・・あ、そうだ!明日何か差し入れとか持っていったほうが良いのかな?」 「それは良い案ですね、ご主人さま。 聖女のお仕事は忙しそうですから、きっと喜んでもらえますよ!」 「・・・・・・(こくこく)」 「――――――――――――― ・・・ケッ!」 「じゃあ、明日はなにか持っていこう!」 「・・・了解シマシタ、あるじ殿。」 楽しそうにワイワイと、明日の計画について話す弟妹弟子達を ネスティは微笑ましそうに見つめ、それから浮かれすぎないように・・・と、一応クギを刺す事も忘れない。 「――――――――― ・・・なんでもいいが。迷惑だけはかけるんじゃないぞ。」 「「「はーーーーい。」」」 トリスとマグナ。そしてが元気の良い返事を返したその時・・・・・・ ドゴンッッ!!! 何かが打ち込まれたような大きな音が、村の中心の広場の方からこの家まで響いてきた。 それは続けざまに何回か続き、しばらくすると音は聞こえなくなる。 「な、なに!?今の!?」 壁に手をついたトリスが慌てた様子で言い。マグナも怯えきってしがみつくハサハの頭を撫でながら 真剣な表情でネスティを見た。それに、ネスティも頷く。 「・・・ただごとではないようだな。ひとまず外へでて様子を見るぞ!」 「・・・ネスティ。」 そう叫んだネスティの耳へ、呆然としたの声が届く。 その声にネスティがの方を振り返ったが、は窓の外を見ていて目を離さない。 「・・・?」 ネスティが、の視線の先にあるものを見ようと数歩近づき、窓に視線を向けた。 「・・・村の方向の空が・・・真っ赤なのです・・・」 「村から火の手が・・・!?」 「・・・ネス、一体どうなってるんだ・・・!?」 「僕にも解らない。だが、あの燃え方からしてただの火事ではなさそうだ。・・・急ぐぞ!!」 赤いマントをなびかせて、ネスティが踵を返す。 その後を追って、今まで歩いてきた廊下を走り階段を駆け下りると そこには、既にフォルテとケイナがいた。窓際に立って、外の様子を観察している。 「何が起こっているんですかッ!?」 ネスティの厳しい声が響く。 は辺りをキョロキョロと見回すと、噛みつくようにして2人に訊ねた。 「ケイナ!フォルテ!・・・お爺さんはどこですかッ!?」 「・・・、落ち着いて。一通り探したのだけれど、アグラお爺さんは、もう家の中にはいなかったわ。」 「安心しろよ、。あのじーさんだって無茶はしないだろうさ。」 口調は相変わらず軽いものの、フォルテの瞳は真剣そのもので じっと隠れるようにして、窓から外の様子を窺っている。 ネスティはそんなフォルテの後ろに付く形で彼に近づくと、そっと囁いた。 「・・・現状は?」 「・・・・・・1つだけ、解ってることがある。」 「・・・・・・。」 フォルテの声が、一段と低くなった。 「―――――――――― ・・・この村は何者かに襲撃されてる・・・ってことだ。」 「しゅ、襲撃ッ!?なんでそんな・・・」 そんなことになっているのですか? ・・・そう続けようとしたの脳裏に、1つの心当たりが過ぎる。 一気に、体温が数度下がったような感覚が走った。導き出してしまった答えに、全身鳥肌が立つ。 「―――――――― ・・・まさか・・・」 「・・・?」 無意識に震えだした身体を抱きしめるを、マグナが心配そうに覗きこんだ。 ネスティやフォルテは、と同じ答えを持っていたのだろう・・・静かに、を見つめていた。 喉の奥から、何かが込み上げてくる。 そんなことさっきまでは全然感じなかったのに、喉がカラカラだ。 「――――――― ・・・アメル・・・??」 「・・・え?」 トリスが声を漏らした。 「だから・・・お爺さんはアメルを探しに・・・」 「その確率が1番高いな。」 フォルテが窓から視線を離さずにそう言った。 「た、助けに・・・ッ!!アメルを助けに行くのですッ!!!」 無意識に、腰に下げている自分の短剣に触れる。 それは、戦う前には必ず確認するようにと教えられた・・・いわば習慣のようなものだ。 でも、それは失敗に終わる。叫んで外に駆け出そうとしたの動きを、何かが止めたのだ。 それは、フォルテと一緒に外の様子を窺っていたネスティの手。 は自分を止めたのがネスティだと解ると、彼に非難の声を浴びせた。 「ネスティっ!?どうして止めるのですかッ!?は!アメルを助けに行くのですッ!!」 ヒステリーを起こしたように喚きたてると、ネスティはいつもと変わらぬ口調で。 ・・・でも、どうしても逆らえない。そんな威圧感を感じさせる声で呟いた。 その声は、に反して冷静に思えて。 けれどその手は汗ばみ、緊迫したこの状況で、彼が焦っていることを伝えている。 それだけで、を落ち着かせるのには十分だった。 全員がこの状況を打破しようと必死に考えているのに、1人先走りしていることに気が付いたから。 ・・・だから全身の力を抜いて、ネスティの言葉を待つ。 少しは落ち着けたと・・・ネスティの言葉を聞く、準備が出来たと伝える為に。 それが伝わったのか、一呼吸おいてからネスティが話し始めた。 「・・・落ち着くんだ、。このまま放って置く訳にもいかない。 外には様子を見に行く。・・・だが、君はここで待っているんだ。」 「!?どうしてですか、ネスティ!?」 思いがけない言葉に、はネスティに詰め寄る。 けれど、ネスティは決まり悪そうに顔を逸らすだけ。 まるで、その理由までは口にしたくないとでも言いたげな表情で・・・ 「・・・・・・君には無理だ。・・・戦えない君では、足手まといにしかならない。」 「――――――――― ・・・ッッ!!」 たったそれだけ。たったそれだけの説明だったけれど。ネスティの言った言葉の意味が、には解ってしまった。 戦えない。 それの意味するところ。が戦えないという事・・・ それは、この村を襲った相手が確実に対立した者を殺す気でいるということ。 明確な殺意を抱いているということ。 殺す気で向かってくる相手と渡り合うのに、殺すのが怖いという思いは邪魔になるだけだ。 ・・・余程実力に差があるというのなら、話は別だが・・・ 1度はの実力を見ている筈のネスティが、を戦列から外したがっている。 つまりは、それだけ油断できない相手だと判断したのだろう。 「・・・なんなんだ、あいつらは・・・」 やはりあの言葉の意味を理解したらしいマグナが、ネスティと同じように外を見て、そう呟く。 「・・・酷い連中よ。戦う術のない村人や、子供まで手にかけて・・・なんてヤツラなの・・・!」 辺りに倒れている人々の遺体を見て。弓を強く握り締め、ケイナが言った。 そのとき丁度レオルドの機体が、ピピッと音をたてた。 「至ル所カラ、複数ノ生体反応アリ。村ノ中心部ニ近ヅクホドソノ数ハ増加。 ・・・既ニ包囲サレテイマス。イカガイタシマスカ?あるじ殿。」 レオルドが、マグナに向き直り指示を求める。 それに促されるようにして、全員の視線がマグナに向けられた。 ・・・沈黙が、辺りを支配する。数秒後。外を見据えたまま、マグナが口を開いた。 「・・・行こう。アメルも心配だし、今ならまだ助けられる人がいるかもしれない。 出来るだけのことは、したいんだ。」 けれどみんな、マグナならそう言うだろうと予想していたようで。 その言葉で、少しだけ場の空気が穏やかになる。 「・・・そうくると思ってたぜ。」 「丁度ヒマしてたんだ、思いっきり暴れてやろうじゃねェか。」 フォルテもそう言ってニィっと笑みを浮かべ、バルレルもなかなか乗気のようだった。 マグナは入り口へと向かう前に、外に向けていた真剣な眼差しを緩めての方に振り返る。 その表情は、いつもの優しいマグナのものだ。 「・・・はここで待ってて。大丈夫、すぐにこんなこと終わらせるからさ。」 笑ってみせるマグナに、は返す言葉が見つからずに無言で頷く。 ・・・肝心なときに役に立てない自分が酷く腹立たしくて・・・情けなくて、堪らなかった。 でも今更そんなことを思っても。・・・彼らに付いて行っても、足手まといにしかなれないから・・・ 「・・・お願いなのです。・・・みんな、無事に帰ってきてください。」 今出来る、精一杯の言葉を口にした。 |
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戯言。 はい、すみません。(そればっかだな) やっとやって来ました黒の旅団。 この話でレルムの村、終わりにしようと思っていたのですが 気付けばこの量。またまた分けるハメになりました。 折角思わせぶりなタイトルにしたのに、ごめんなさいです。 任那、どうしても一定の量を超えると 長々と止まらなくなってしまうようで・・・(汗) えっとですね、ネスティが迷子になってたが、ロッカの触覚(笑)を引っ張ったことを蒸し返さないのは、 なんでそのときに捕まえなかったのか、弟妹弟子にブーブー言われない為です。 兄弟子の威厳を守るのも大変なんですよ。(苦笑) あ、あとゼラムに木造の家がないのかは知りません(爆) でも、サイジェントのスラムとかは木造だけどさ リィンバウムって基本的に石で出来てるじゃないですか、家。 ・・・地震少ないのかなぁ・・・?(笑) そして次で・・・!本当にレルム編(あったのか、そんなもの)最後です。 最後にします!っていうか、そんなに書くことも残ってないので終わるでしょう。 ・・・そりゃそうだよね、こんだけ分けたんだから・・・ ・・・と、計画性のない任那ですが、お付き合い頂ければ幸いです。 |