ガッシャン!!








決して上質とは言えない、白い陶器の皿がスルリと手から滑り落ち
盛大な音をたてて、床に砕け散った。




「あーあー!ってばなにやってんの!?」




ナツミは呆れたように呟くと、流しへ運ぼうとしていた食器を
テーブルの上に再び置きなおし、割れた食器の破片を集めにかかった。

けれど、ナツミが食器の破片を集め始めても、はピクリとも動く気配すらなく
ぼんやりとした瞳で、ずっと同じ方向を見つめ立ち尽くしている。
同じく食器を台所に置いて戻って来たカシスも、の様子に首を傾げ。
カシスとナツミの2人は、お互いの顔を見合わせ・・・・・・
ナツミがその場にしゃがみこんで、の顔を下から覗き込んだ。




――――――――― ・・・??」


「・・・・・・だ。」


「え?」


の・・・気配がする・・・」


「本当に!?が何処にいるか解ったのッ!?何処!?は無事ッ!?」


「ナ、ナツミ!ちょっと落ち着いてよ!」




畳み掛けるように叫んだナツミを、カシスが(なだ)める。
ぼうっとしていたが、そんな2人に向き直った。




―――――――――― ・・・もし、の推論が正しかったとすれば。」


「「・・・すれば??」」


「この気配がだった場合、ここに煩いのが
―――――― ・・・」




がそう口にした途端・・・








バッターーーン!!!








もの凄い勢いで、玄関の扉が蹴り開けられる音が室内に響き渡り
それからすぐに、玄関の方から慌てたハヤトの声が聞こえてきた。




「な、なんだよバノッサ! ドア蹴るなよ、壊れるだろ!!
しかも今何時だと思ってるんだ!?」








「「
――――――――――――― ・・・来た。」」








ナツミとカシスの呟きに、はこくりと頷いた。

















〓 第8話 蠢く影 〓

















「じゃあ、本当にが見つかったの!?!」




ぱあっと表情を明るくして尋ねるリプレに
はテーブルに無造作に置いた鞄に、荷物を放り込む手を休めることなく。極めて冷静な声で答えた。




「ああ、多分ね。が召喚術を使ったみたいなんだ。」


「・・・でも俺達は、そんなの解らなかったけど・・・??」




あれは必要、これは不必要・・・と
が品物を選り分けて行く様子を隣で眺めながら、ハヤトが不思議そうに言った。

仮にも誓約者なんてものを務めているのだから
を感じたのだと言うのなら、自分達だって感じてもいい筈だ・・・そう思う。
視線は鞄に注いだまま、がそれに答えた。




「・・・あぁそれは、バノッサが誓約した石をが使ったからだよ。
・・・・・・と、これはいらないよな・・・。」


「どういうことだ?」




の説明の意味が掴めず、もっと詳しい説明を求めたのはソルだ。
相変わらずガサガサと、忙しく手を動かしながらも、は続ける。




「んー・・・と。とバノッサは、まぁ仕事上。同じ魔力を持ってるワケで。」


「うん、それは知ってるよ。」




カシスが以前に聞いたことがあると頷き、更に先を促す。




「・・・っと、その魔力を・・・微かだったけどあっちの方角から感じたんだ。」




ほんの一瞬だけ、指で方向を指し示して。・・・または荷造りに没頭する。
テーブルの上には、の所持品である小物が、所狭しと並べられていた。




「・・・あっちには何があるんだ?キール。」




あっち。と指差されても。
リィンバウムの地理に詳しくないハヤトには、何があるのか予想も付かなかったので
この中で、そういうことに詳しそうな人物に見当をつけ、尋ねてみる。
それはナツミやアヤ。・・・それにトウヤも同じだったようで
ハヤトと同じような表情をして、じっとキールを見つめた。




「多分、ゼラムのある方角だと思うんだが・・・。」


「ええ、そうですね。あちらは聖王国の中心部です。」




キールは一瞬考え込むようにしてからそう告げ。
そのキールの意見を裏付けるかのように、クラレットが頷いた。

ガチャガチャと、が鞄の中を引っ掻き回す音が室内に響く。
時折聴こえてくるそれは、どう聞いても金属の擦れ合う音も混じっていて・・・。
・・・一体彼女は鞄に何を詰めているのだろうか・・・(汗)




「・・・でもバノッサは勿論、もここにいる。これがどういうことを意味するのか・・・?」




ふむ・・・と顎に手をあてて、トウヤが軽く考え込む動作をした。




「・・・が召喚術を使ったときに使用したサモナイト石。
それを誓約したバノッサの魔力が僅かにだけど、の魔力と一緒に放出され。
そしてそれを、同じ魔力を扱う2人が察知した・・・ってところかな?」


「さすが会長!その通りですッ!」




トウヤの回答に。このときだけは、荷物から視線を逸らして笑顔になる。
・・・さっきまでとは、実にえらく違う対応である。




「・・・ってことは、その魔力を感じた方向に・・・」


「・・・あぁ。あのガキがいるってことだ。」




つまらなそうに壁に寄りかかっていたバノッサが、ナツミの言葉を引き継いで答えた。




―――――――――――― ・・・それは確かなんだろうな?2人供。」




眉を顰めて問うソルに、バノッサはニヤリ、と笑って見せ・・・




「当たり前だろうが。俺様を誰だと思ってんだよ・・・?」








「「色白単細胞。」」








ソルと・・・それから何故かが即答する。
その切り返し、僅か
0,5秒。(無駄に細かッ!)




「なんでテメェまで混ざってんだよッ!!」




怒鳴るバノッサとは対照的に、とソルはあらかじめ打ち合わせていた作戦が
成功したことを喜ぶかのように、パチンと景気良く手を合わせていた。




「いやいや、フィーリングの勝利だよバノッサ。なぁ、ソル?」


「・・・まぁな。」
(何処か誇らしげ。)


「・・・・・・!!(怒)」


「・・・それで、今から出発する気なのかい?・・・」




そんなに、キールがそっと声を掛けた。
はボストンバッグの荷物整理が終わったようで
今度は出かける時にはいつもつけている、ヒップバッグの整理に移る。




「ああ、そのつもりだけど・・・?」




キールの質問に、そうあっさりと答えながら
戦闘時に所持するものがほとんどだから、こっちの方が気が抜けないな・・・
なんて呟いて、は手近にあったイスを、自分の方に引き寄せた。
慎重に選ぶべきだと思ったのか、イスに座ってさっきよりゆっくり、じっくりと。
品定めをするように、1つずつアイテムを選んでいく。




「でも、もう夜も遅いですよ?」






明日にしたらどうですか?






そう言いたげなクラレットに、それでもはブンブンと首を振って見せて。




「思い立ったが吉日って言うし。それに、やっぱ出来るだけ早く見つけてやりたいし、さ。」


「・・・っていうかさ、お前1人で行く気かよ?」




の向かい側の席に、ドンと腰を掛けて。ガゼルが問う。
は当然のようにそう思っていたらしく、軽く首を傾げてガゼルを見た。




「?・・・そうだけど?なんだ、なんか問題あるか??」




その顔には、『当たり前だろ?今更何言ってんだよ』と書かれている。
決して短くは無い付き合いで、それが解ってしまい。
・・・ガゼルは思わず額を押さえて溜息を吐いた。




「なんかって・・・・・・・・お前・・・・・(呆)」


「・・・そうだね、色々あるんじゃないか?」


「そうだぞ、。」




ガゼルを筆頭に、レイドとエドスまでもが。そう言い、少し困った顔になる。

達がリィンバウムにやって来たばかりの頃から、ずっと一緒に暮らしてきたこのメンバーは
のこの、無神経無頓着で破壊魔な性格に、1番の被害を受けてきた者達である。
(勿論、ほぼ毎日発砲されているハヤトはまた別格で。)


けれど全くもって自覚無しのは、困ることが何処にあるのか。さっぱり解らないようだ。


・・・いくら普段の態度が“アレ”だとか、恐ろしいくらいに“最強”だとか言っても
このリィンバウムという世界で、女の一人旅がどれくらいの危険を伴うものか。
――――――――― ・・・それくらい、解っていて欲しいもんである。




「いろい・・・・・・ろ???」




は少し考え込んで。
でもそれでもさっぱり思い付かなかったらしく、眉間に皺を寄せて唸るばかり。




「・・・あ!フラットの収入が減るとか!?」


「そうよ!確かに、がいなくなったらかなりの痛手だわッ!!」








死活問題よッ!








「・・・いやリプレ、そうじゃないだろ。(汗)」




・・・力説し始めたリプレに、ハヤトが待ったをかける。
トウヤはしばらく腕を組んで考え込んでから、うん、と1つ頷いた。




「・・・そうだね。いくらは腕が立つと言っても、やっぱり女の子なんだし。
流石に1人で行かせるのは良くないね。・・・よし、僕が一緒に行こう。」




トウヤのその言葉に、けれどは一瞬ピタリと動き止めた後。物凄い勢いでそれを辞退した。




「まさかっ!?会長にそんな手間を煩わせるなんて出来ませんよ!!
会長にはこの街とみんなを守っていて貰わないとっ!!!
いつ、何があるか解りませんからッ!!・・・ね?ねっ!?」




必死にそう懇願するに、トウヤが“でも・・・”と渋って見せると
今度はハヤトが、元気良く手を上げて同行者に立候補した。




「じゃあ、俺が行くよ。」




けれど、はトウヤの時と同じように、首を横に振るだけ。
ただ、さっきより返事がどうでも良さそう(酷)になっただけだ。




「ハヤトも別に来なくていいよ。1人で平気だって。
野生化したはぐれ召喚獣にも、そこいらへんにいる野盗にも、殺られたりなんかしないからさ。
それに、誓約者達がバラバラになってるのはあんまり良いことじゃなさそうだし・・・。
留守にしてる間、こっちに何かあったらどうするんだよ。」


――――――――――― ・・・でも、何かあったらって言うけど。
そっちの方がなんかあったらどうするのよ。」


「そうそう!それにサイジェントは、街の復興もほとんど終わってもう随分落ち着いて来たじゃん!
何かが起きる確率なんて、かなり低いと思うけど・・・?」




ナツミとカシスがそう言って、ずいっとに詰め寄る。
お天気娘2人の剣幕に、はうーんと唸りながら、困ったように頭を掻いた。




「でも、にはエストとフェスもいるし・・・。
みんな心配しすぎだと思うけどな。の実力は知ってるだろ?」




エストとフェスは、が1年前の事件の時に召喚した、魔臣ガルマザリアと天使エルエルの名前である。
召喚主であるを、とても誇りに思っていて。従順な従者であり、の良き友人だ。






そんなにって信用ない?






そんな内心の思いを顔に出す。
・・・・・・ところがこれがわざとだと言うのだから、実にの上手い・・・もとい。
卑怯なところだと言える。




「・・・それはそうですけど・・・」




頑なに1人で行こうとする姿勢を崩さない
けれど、アヤまでもがそれに渋って見せ、ハヤトが再度説得を試みる。




「あのさ、俺達はを1人で行かせるのは心配だって言ってるんだよ。」


「だから平気だって。大抵のヤツはの敵じゃない。
それにいざとなったらレヴァティーンだろうがヘキサアームズだろうがアシュタルだろうが喚んで殺るしさ。」






いや。それも別の意味で心配だよ。(冷汗)


っていうか、殺るんですか。







誰もが、ハヤトがまたに言いくるめられるのだと思ったが(酷)
意外なことに。次の一言で、ハヤトは起死回生を果たすこととなる。




「・・・だからそうじゃないだろ!殺るとか潰すとか。
が言うのは危険な目に遭うことが前提の話じゃないか!
そうじゃなくって、危険を回避する方法を考えてくれって言ってるんだよ!」








バリバリーンッ!!








ハヤトがそう口にした途端。
嵐がきたわけでも、タケシーが召喚されたわけでもないのに、室内に雷鳴が轟いたかのように思われた。








「「「ハ、ハヤトがまともなこと言ってるッ!?(汗)」」」


「それ、どういう意味だよっ!(怒)」





そのまんまの意味ですが。(キッパリ)








全く・・・と溜息を吐いてから。ハヤトは気を取り直して咳払いをした。
そして、さっきより数段落ち着いた声で問いかける。




――――――――― ・・・。一般的に言って、単独で行動してるのと
何人かで行動してるのなら。どっちが狙われやすいと思う?」




・・・一般的に、と敢えて付け足したのは、が彼女独自の基準で判断した場合に
大勢を相手にするほうが、面白そうだと言いかねないからだ。
(攻撃範囲が広範囲で、威力の高い術を好む為。)




するとは、ハヤトの言い分に『う゛・・・』と唸り声をあげて、ちょっとだけ怯んだ様子を見せた。




「そりゃあ・・・単独、だろうなぁ・・・・・・」




しっかり答えつつも、子供の悪戯がばれてしまった時のように。視線はだんだんとハヤトから逸らされる。
それは、彼女が内心“マズイ・・・”と思っていることの表れ。




それを確認したハヤトは、フン!と荒く息を吐いて続けた。




「・・・じゃあ。女と男だったら、どっちが狙われやすいと思う?」


――――――― ・・・女、じゃないの・・・?(汗)」




あくまで。それは一般論に過ぎない。
現に、は女とは言え、そんじょそこらの男を4,5人集めるよりも、よっぽど強いだろう。
けれども。
―――――― ・・・されど “一般論”、なのである。

それを満たしているだけで、実力に関係なく危険に遭う可能性は高くなる。

2度目の質問に答え終わったときには、の視線はあらぬ方向へと向けられていて
先程とは一転して、すっかりが不利な立場になっていた。


確かに、の言い分も間違ってはいない。
が強いということは、ここにいる誰もが承知していることだ。
・・・みんな、1年前の事件の中を生き延びて来た者達ばかりなのだから
それに見合うだけの実力は持ち合わせているはずで・・・




それでもやっぱり1人で行かせるのは心配なんだ。
だから、誰か1人でいいから連れて行って欲しいんだよ。




――――――――――― ・・・それに・・・」


「・・・ハヤト?」




普通に聞いていたら気が付かない。
・・・共に苦難を乗り越えた仲間だからこそ気付くことの出来た
少し翳を帯びたハヤトの声に、は眉を顰めた。




「もし、誰かがちょっとだけ力を貸してやればどうにかなるような、些細なことでも
1人だと、どうしても駄目なことだってあるだろ?
・・・・・・近くにいれば、俺はを助けてあげられるけど
が遠くにいたら、助けてやれないじゃないか。だから、さ・・・」




そういうハヤトの瞳は真剣で、哀愁を漂わせていた。
はリィンバウムに召喚されてから今まで。ここにいる人達の、色んな“傷”を見てきた。

・・・それはハヤトにしても例外ではなくて。
ハヤトがの傷を見てきたように、もハヤトの傷を見ている。






――――――――――― ・・・だから、だろうか?






不安そうに揺れる彼の瞳を見て、昔出来た彼の古傷が・・・
再び疼き出していることに気が付いてしまったのは。

・・・きっと、他の仲間達も気付いただろう。
確証もないのに、そんな気がした。

自分が1人で行くと言って聞かなかったことから訪れた、妙に気まずい雰囲気。
別に、戦地に赴くわけでもないんだから大袈裟だよ・・・と思いつつも。

人一倍仲間を大切にする彼等の気持ちが、にも・・・
・・・あれだけ一緒にいたんだ、解らないわけはなくて。

どうにかこの状況を打破したいと、が考えを巡らせていたとき・・・




―――――――― ・・・なら、俺様が付いていってやってもいいぜ。」




静まり返った部屋に響き渡ったその声に、全員が声の主へと目を向ける。
声の主は珍しく、ずっと傍観に徹していたバノッサで・・・。




「・・・なんだよ?」




みんなの、どことなく物言いたげな視線を受けて、不満そうに悪態を吐く。
立場の悪くなっていたは、これ幸いとばかりにバノッサに向き直った。




「・・・けどさ、お前オプテュスはどうすんだよ?」






――――――――― ・・・それが。
バノッサなりの気遣いなのだと気付くまでには、まだ気が回らないまま。






「カノンに任せときゃ十分だろ。」




確かにバノッサはオプテュスのリーダーではあるが
常日頃、彼が部下に命令を下して行動を制限したり、拘束しているわけではない。
・・・つまり。オプテュスの人間は、普段それぞれの思考に基づいて行動しているわけで。


・・・まぁそれでも。バノッサがアレをしろコレをしろと命令を下す時もあるのだが。


日常生活において、バノッサがいなくても、特に不都合はない。




「・・・それは・・・そうだけどさ。」








フラットが遠足だとしたら、オプテュスは
放し飼いだからな。


は、放し・・・ッ!?
(その場にいた一同、心の叫び)








―――――――― ・・・けどよ。俺様がいた方が、ガキの捜索は(はかど)るだろ?」


「・・・まぁ、その通りだけど・・・」




なかなか首を縦に振らない
バノッサはニヤリ、と何か含みのある笑みを浮かべて・・・




「・・・それに、言ったばっかりだっただろうが?」


「???」


「お前は気ぃ遣ったつもりでも、コイツラはそうじゃねぇんだ・・・・・ってな。」


――――――――――!!!」




数日前のことを思い出さざるを得ない事態に追い込まれた
一瞬瞳を丸くした後、不満そうに口をへの字に曲げながらも
自分より頭何個分か高い位置にあるバノッサの顔を、軽く睨み付けた。






余計なこと言うな、馬鹿。






・・・そんな思いを籠めて。

は不満そうな顔でバノッサを見上げ、バノッサはニヤニヤと笑いながらを見下ろす。

はしばらくバノッサと睨めっこ(違)を続けた後、ついに溜息を吐くと
頭を垂れて、その代わりに小さく両腕をあげた。・・・それは降参の意思表示。




「・・・わかった、わかったよ。んじゃあ、バノッサを連れてく。
が折れれば、それで万事解決だろ?」




仕方なさそうにそう呟く。




「そうそう。最初からそうやって、誰か連れてくって言えばいいの!」




ナツミが満足そうに胸を張り、トウヤもそれに倣って頷いた。






「そうだね。バノッサなら、
命に代えてもを守ってくれるだろうし・・・。」


「なッ・・・!?」




トウヤの言葉に、バノッサは驚き目を見開いて・・・思わず一歩後退し、たじろいだ。






・・・要約。


『お前の命に代えても、に傷をつけるなよ?(爽)』

↑爽やかなところが最大のポイントです






・・・・・・何がなんでもを守り抜け、とそう言っているのだ、トウヤは。


にっこりと微笑んで、イスに腰掛けるトウヤを目の前にして
バノッサは身動き1つしていない彼から発される無言の圧力に、息が詰まりそうになる。
まるでその様は、どこかの国の皇帝のようだ。

ちょっとばかり、同行を申し出たことを後悔したくもなったりしたが・・・。
他のヤツを連れて行くという選択肢もあったのに、あのが。折角自分を選んだのだ。



・・・これはもう、男ならいくしかないだろう。



だからバノッサは、トウヤの背後から滲み出る
どす黒いオーラに気圧されながらも、それに頷いて見せた。




「・・・お、おぅ・・・(怯)」


「よし!そうと決まったら、さっさとカノンに貸借証明書を出して出発するぞ!」


「誰が貸借だ!誰がッ!!」


が。バノッサを。カノンから借りる。」


「勝手に変な証明書作ってんじゃねぇよッ!それが同行してやるヤツに対する物言いかッ!?」




ギャーギャー喚くバノッサを、はいはい、と手慣れた様子であしらうと
は鞄を持って部屋の出入り口まで歩いていき、それから後ろを振り返った。




「じゃ、会長!みんな!探しに行ってきまーす。」


!ちゃんと携帯持った?」


「この通りポケットに入ってるから安心しなよ、ナツミ。なんかあったら、そっちの携帯にかけるからさ。」


「うん、そうしてよ。」


、1日に1回は連絡するんだよ?」


「はい。勿論わかってますよ、会長。」



勿論なのか。



さん、ハンカチとちり紙持ちましたか?」


「持ったよ、アヤ。」


!お土産期待してるからねっ!」


「あぁ・・・じゃあ子供達の分と一緒に買ってくる。カシスは甘けりゃなんでもいいんだろ?」


「・・・ゼラムは聖王国の首都だからね。十分気を付けるんだ、いいね?」


「ん。全く、キールは心配性だなぁ。」


「何言ってるんだ。俺は、とバノッサが街を半壊させないかどうかが心配だよ。
半壊で済むんなら、まだマシだけどな。」


「あっはっは!面白いこというね!
今は時間無いから帰ってきたらよぉーく覚えておくように、ソルくん!(爽)」


「まぁ、お前なら心配ねぇと思うけど。一応気をつけろよ。」


「任せとけって、ガゼル。」


「気を付けるんだよ。君が怪我をしたら、みんなも悲しむからね。」


「大丈夫だよ、レイド。」


「早くを見つけてやるんだぞ?きっと、心細いだろうからな。」


「うん・・・了解、エドス。」




みんなと一言ずつ言葉を交わして。
は最後に、自分を優しく見つめているリプレに向き直った。
・・・こういう時のリプレは、本当に母親のような顔をして、仲間を送り出す。
そんなリプレにも微笑み返して、それから尋ねた。




「・・・子供達は?」


「もう、眠っちゃったわ。」


「そっか。モナティ達も?」


「ええ。」


「・・・じゃあ、黙って出て行ったって怒られるかな?・・・リプレ、の代わりに謝っといてよ。」


「わかった。あの子達にはあたしから言っておくから、安心して行ってきて。」


「・・・うん、助かる。」


さん。」




自分を呼ぶ、声に振り返る。
こんなに人がいるのに、声だけで誰だかが解るというのも、結構不思議なものだ。




「・・・クラレット。」




いつものように笑みを湛えたクラレットが、そっとの手を取った。
そして、そのままの笑顔で告げる。




、いつもお仕事を一緒にしてるからと言っても
バノッサには十分気をつけてくださいね。私、ハヤトを応援してるんです。」


「「
―――――――――― ・・・ッ!?」」




クラレットの思わぬ爆弾発言に、ハヤトとバノッサが勢い良く振り返った。
過剰反応とまで言えるその行動を、けれどは気にする様子もなく


ぱちぱちと数回、不思議そうに瞳を瞬かせた。




―――――――― ・・・は?クラレット、何の話だよ?1日に発砲される回数?」(爆)




見当違いなことを口にするの視界からクラレットを遮るように
ハヤトが2人の間に割って入る。クラレットの笑い声が、背中越しにハヤトの耳に届いた。




「ま、まぁまぁ!!気にするなよ、!」


「・・・いや、そうは言われてもあの笑顔は気になるだろ。」


「う゛、確かに・・・・・・じゃなくて!!そ、それよりも、その・・・気を付けて、な。」




凄く何か隠してます。




・・・というぎこちない動作で答えるハヤト。
でも、何を隠しているのか、話してくれそうな様子は無い。
はふぅ、と諦めの溜息を吐いた。




「・・・まぁいいけどさ。ハヤト、が留守の間のことは任せたからな。きちんと会長を守るんだぞ?」






それって、立場が逆だと思うんだけど。






知略のみならず、それに見合う実力も兼ね備えているトウヤが
ハヤトを含めた、この孤児院の皆を守ることはあっても。

・・・その逆は、余程の事がない限り在り得ない。
そう思いつつ、けれどハヤトは、にしっかりと頷いて見せた。




「・・・うん、わかってる。」




ハヤトの返事に、は満足そうに笑顔で頷き返した。




「そっか、なら安心だな。」




その安堵した表情から、信頼されているんだな・・・、とハヤトは少しだけ嬉しくなる。
・・・でも同時に、彼女は結構酷なことをするものだな、とも思って。
だって、そんなふうに言われたら、ハヤトがそれに逆らえるわけがない。


例え、彼女が見ているわけじゃないと知っていても、自分は張り切ってしまうのだろう。


厄介な感情だ、と。内心、苦笑を漏らした。






・・・けれど、ハヤト自身も気が付いていない。
陽気で、お人好し。そして、彼が振るう剣のように、透明でまっすぐなその性格は
ハヤトが思っているよりもずっとずっと、仲間達を安心させていて。
トウヤとはまた違う種類の、大きな信頼を寄せられているということ。



ハヤトが大丈夫だと言えば、本当に大丈夫な気がしてしまう。



それは彼の。諦めることを知らない、子供のような純粋さ故かもしれない。
そしてその輝きに、諦めることを覚えてしまった人間のほうがより惹かれ易く・・・




そんな凄さを、ハヤトは持っている。
・・・誰も、それを敢えて口にはしないけれども。




「・・・あ、そうだ。、これ。」




ハヤトがコートのポケットをゴソゴソと探り出す。
・・・取り出したのは、キラキラと緑色に輝く石。それを手渡され、は不思議そうに首を傾げた。




「あ?・・・これ、ローレライのサモナイト石じゃないか?」




天井から提がるランプの明かりに、その石を翳す。
まるで誓約主の心のように透き通っているその石を、はくるくると角度を変えて眺めた。




「・・・そうだよ。はバノッサの補助がメインの戦略なのに
いっつも攻撃主体のサモナイト石ばっかりだろ?」


「・・・だってさ、だってたまにはドデカくぶち噛ましたいんだよ。
どっかーんとか、ばばばばば!とか。暇だし?補助ばっかしてるのもつまらないじゃないか。」


「・・・今だって、どうせ攻撃用の召喚術がほとんどなんだろ?」


「・・・・・・まぁ。」


「だから持たせるんだよ。攻撃的なクセに、異常状態に弱いのは何処の誰だった?」


「う、うるさいッ!は野山育ちのお前と違ってデリケートなんだよッ!」


「・・・俺だって野山なんかで育ってないって(汗)
ともかく!異常状態に弱いんだから、それなりに対処方法は持っておくこと!
弱点を補う対処法を確保しておく。いつもが言ってることじゃないか。」


―――――――― ・・・ハヤトのくせに、今日はまた随分と生意気だな・・・・・・ッ(怒)」




カチャ・・・と腰の銃に手を掛けているを、少しビクビクしながらまぁまぁと制して
彼女が銃を抜くよりも先に、次の言葉を発する。




「し、心配してるんだって、俺は!
俺が渡したサモナイト石なら、だって鞄の奥に突っ込んだままにはしないだろうし!」






ローレライなら攻撃も出来るじゃないか!!な?!(焦)






「・・・・・・・・・・・・わかったよ。ありがたく貰ってく。
・・・ったく、今日はどうしても勝てないようになってんのかね。」




は1度押し黙ってから。
仕方無さそうに、ヤレヤレ・・・と背を丸めて
ハヤトに渡されたローレライのサモナイト石を握り、腰のヒップバッグに押し込んだ。
そして口を尖らせながらも、チラリとハヤトを見上げる。




―――――――――― ・・・ありがとな。」


「・・・いいんだ。」




少しだけ頬を紅く染めたハヤトが、正面からを見つめ呟いていると
既に廊下に出ていたバノッサが、低い声でを急かした。




―――――――― ・・・おい、さっさと行くぞ。」


「あ。・・・あぁ悪い、結構時間喰ったか。」


――――――――――――― ・・・あぁ、随分な。」




に返事を返しながら、バノッサの視線はの頭の上を越えて
その向こうにいるハヤトへと向けられている。

ハヤトを、慣れた眼つきでギッ!と睨みつけて
一瞬怯んだハヤトも、けれど負けじとバノッサを睨み返した。

バチバチッ!・・・と。ぶつかり合った2人の視線に、火花が散ったように見えて
それを見たカシスとナツミが、“おぉ・・・!”なんて感嘆の声を漏らしていたりする。

けれどそれに気付きもせずに・・・というよりは、見ようともしていないのかもしれない。
は、トウヤを視界の中心に置いた景色だけ見て、微笑んだ。




―――――――― ・・・じゃあ、行ってきます。」


「あぁ。・・・行っておいで、。」




最後にそう告げて。彼女と紅いマントを靡かせたバノッサの後姿は
闇夜の街中に吸い込まれていった。










パタン、とドアが閉められて、部屋が静かになったころ。
にっこりと満面の笑みを浮かべたクラレットが、パチパチと手を叩く。




「お見事でしたね、ハヤト。」


「・・・く、クラレット。あんな感じでいいのかな?俺、上手く言えてた?」


「はい、もうばっちりでしたよ。その証拠に、を上手く丸め込めたじゃありませんか。」




今更わたわたと慌て始めるハヤトを、クラレットは子犬に躾けるように褒め称えた。



褒めて褒めて褒めまくる。



・・・どうやらこれがクラレットなりの、ハヤトの手懐け方・・・らしい。




「えッ!?もしかして、あれってクラレット姉さんの入れ知恵だったの!?」




驚くカシスの声に、ハヤトはう゛・・・と言葉を詰まらせ
クラレットは、相変わらずうふふ、と不動の笑みを湛えたまま微動だにしない。




「・・・だと思った〜。だって、ハヤトがあんなこと出来るの、絶対に可笑しいもん。」




ナツミが安心した声で呟いて、ハヤトが不満そうな声を上げる。




「なんだよ!その絶対に可笑しいってのは!
・・・た、確かに後半はクラレット言われたからだけど・・・心配だって思ってたのは本当なんだぞ!」




ハヤトがそう声を荒げて叫ぶと、それとは対照的に静かな声が返ってきた。




「・・・うん、心配だね・・・」




それは、暗い窓の外を眺めたまま動かないトウヤのもので。
全員の注目が集まっても。
それに気付いている筈なのに、トウヤはピクリとも動かずに外を見つめている。
不思議に思ったみんなの声を代弁して、アヤが躊躇いがちに、その背中に声をかけた。




―――――――― ・・・トウヤさん?」




けれどトウヤは、問いかけるアヤの声さえにも振り返らない。
その代わり、静かに口を開いた。




「・・・リィンバウムに召喚されてから、とは毎日顔を合わせていたからね。
・・・彼女を見ない日なんて無かった。でも、僕が明日の朝起きても。
この部屋に、僕の為にコーヒーを淹れてくれるの姿は無いんだな・・・・・・と思ったんだ。」








朝、低血圧な僕は、まだ重い瞼を擦って無理矢理体を起こす。
そして冷えた服の袖に腕を通して、どことなくまどろんだままリビングへ向かう。

1つドアを開けると、リプレが作る朝食の匂いとコーヒーの香りがして。
リビングに一歩踏み入ると、テーブルでコーヒーを淹れていた
僕の足音に気付いて顔を上げる。・・・・・・それから、言うんだ。




“おはようございます、会長。”




それが毎日のことで、当然のように思っていたけれど。
・・・その姿が、明日からは無い。
それが、無性に寂しいと思った。








「・・・さっきのハヤトじゃないけれど
近くにいれば助けてあげられることでも、離れていたら助けてあげられないから・・・。
はずっと僕の傍にいてくれたから
傍にいないと泣いていないか・・・とか、落ち込んでいないかな・・・とか。
・・・どうしても心配になってしまってね。」




ぼんやりと、どこか虚ろな瞳で。
つい、感情に任せて話してしまってから、トウヤは周囲の静まり返った空気にはっとした。




「あ、ごめん。・・・ははは。が傍にいなくなって
寂しがっているのは案外、彼女じゃなくて僕の方かもしれないな。」




苦笑するトウヤに、みんな顔を顰める。




―――――――――― ・・・でも、そうね。」


「リプレ?」


がどこかへ消えちゃって、が探しに出て行って・・・。
がいなくなっただけでも随分静かになっちゃって、子供たちも寂しがっていたのに。
・・・・・・までいなくなったら、本当に静かになっちゃうわ。
寂しくなるのは、ここにいない彼女達じゃなくて・・・・・・
置いていかれたわたし達の方かもしれないわね。」




―――――――――――――― ・・・そう、だな。」




呟いた誰かの声は、夜の静けさに溶けて消える。
室内に重い空気が流れ、それに押し潰されまいと抵抗するのが精一杯だ。

誰も身動きが取れない、動けない。

ほんの数秒の間、そんな無音状態が続いて・・・。でもその短い筈の数秒は、とてつもなく長い。
そんな中、たった1つだけ音をたてて動いたモノがあった。




ブルブルブル・・・




「・・・あ。トウヤ、携帯。」




携帯のバイブレーションの音だ。
この状況に耐え切れなくなっていたのか、痺れを切らしたようにナツミが呟く。

携帯電話の小さな液晶画面には、メール1件受信の文字。
送ってくる人物なんて、解りきっている。
だって、これで通信する手段を持っていてこの場にいないのは、ただ1人だけなんだから。




『会長、行って来ます。絶対にを連れて帰ってきますから、待ってて下さいね。』




トウヤは届いたメールを読むとすぐに、携帯を折りたたんでポケットにしまい込んだ。
知らず、口元に微笑が浮かび・・・。
顔を上げると、ナツミとカシスを筆頭に、好奇心を顔に出した面々。




「ねぇねぇ!、なんだって?」


「・・・やっぱり行くのは止めるって。」


「「「「「え゛ッ!?(汗)」」」」




トウヤの言葉を真に受けて、素直に驚いた数人の仲間。
それを見て、トウヤはクスクスと笑みを漏らした。




―――――――――― ・・・冗談だよ。」


「トウヤ〜〜〜〜・・・」




真に受けたうちの1人であるソルが、ガクンと肩を落とし、恨めしそうに唸り声を上げる。




「あはは、ごめんごめん。」


だったら有り得るかも!?・・・って思うだろ。もう少し、冗談らしい冗談にしてくれよな。」



有り得るのか。




はぁ、と息を吐くソルを見てから、トウヤはまた、窓の外へと視線を移す。
・・・窓にトウヤの顔が映り、暗闇にぼんやりと。そのシルエットが浮かび上がった。
その表情は、本人以外知ることは出来なかったけれど。




「でもまぁ、可愛い子には旅をさせろっていうしね。
・・・いつかは僕から離れて行ってしまうのだから、その予行練習と思えば仕方ないかな。」


「・・・トウヤ、本当の父親みたいに・・・(汗)」


「うん。瞳に入れても痛くない、からね。」




そう言って、頭を抱えるハヤトに綺麗に微笑んで見せるトウヤは。
――――――――――― ・・・もう、いつものトウヤだった。








この、を連れ戻す為の旅路が。
過去の因果やまだ見ぬ仲間達、そして世界の命運まで巻き込んだ
長い、永い旅の始まりになるなんて、これぽっちも思わずに。





ただ月だけが。全てを見下ろし
誰にも平等にその光を降り注いでいた、そんな夜・・・

























は1人、物音1つしない真っ白な空間の中を歩いていた。
歩いても歩いても同じ景色。・・・同じ、白。
それは初めてリィンバウムに来た時に存在した場所に似ていて、けれど違う場所のようで。

もしかしたら、自分は最初にいた位置から移動していなくて
ここは無限ループになっているのかも。・・・そんな考えが頭を過ぎる。



けれど、そんな周囲に突然変化が起こった。



辺りの白が、紅葉のように薄く色付き始めたのだ。
それは草木の緑であり地の茶色であり、空の青であった。




「・・・森、ですかね?」




ザワザワと葉の擦れ合う音が聴こえ、木々の隙間から木漏れ日が差し込む。
その景色の向こうに、一際瞳を惹く大木があった。
・・・特に目立つ形状をしているわけでもないその木に、何故かは強く惹き付けられる。
周りに生えている木と、なに1つ変わらなく見えるのに・・・何か、違う。

半ば引き寄せられるようにして、もう少し傍に近づこうと、歩を進めた。
すると、2つの人影がスッ・・・と。まるで蜃気楼のように現れる。

1つは、木の根元に寄りかかって。
もう1つは、少し高い位置にある太い枝に座って、足を宙にブラブラとさせていた。

けれどは、その輪郭がはっきりしてくるにつれ、それが()影ではないことに気が付く。



―――――――――― ・・・あれは()影じゃない。



がそうだと解ったのは、人間にある筈のないモノがあったから・・・
背中から生える、大きな翼のシルエット。
先端の少し尖った、ピンとしている翼は見慣れたものだ。
・・・そう、大きさこそ何倍も違うが、丁度バルレルの翼を大きくしたような・・・



―――――――――― ・・・サプレスの悪魔だ。



その正体に気付き、その場に踏み留まったの足元で
地面に落ちていた小さな木の枝が、パキッと音をたてて折れた。

現実的ではない、ヤケに色鮮やかな世界。
壁1つ隔てた向こう側の世界を、硝子越しに見ているような感覚なのに
・・・・・・自分の動作が、世界に音を響かせた。
すぐ近くで聞こえたその音に、は妙に驚いて。凍りついたように動けなくなる。

でも、それだけじゃない。
現実感がない理由。身動きが取れない理由。

この景色を見ているのは、のようでではないような・・・そんな違和感があった。
誰かの体を借りて、この景色を見ているのかもしれない。
視覚、聴覚、嗅覚・・・様々な感覚を同調させて・・・。

が立てた音に気が付いたのか、2つの影が、一斉にこちらを見た。
・・・良く見ると、木の枝に腰掛けているサプレスの悪魔は、翼が4枚もある。
・・・その4枚羽が、の姿を認めて口を開いた。




「お?来た来た。」




親しげに、そう声をかけてくる。
けれど差し込む木漏れ日が眩しくて、ここからではその顔を窺い知ることは出来なかった。
夢現の世界の自分は、この悪魔と知り合いなのだろうか?
そう思っていると、4枚羽は翼をパラシュート代わりに、スタッと地面に降り立った。




―――――――― ・・・え・・・!?」




・・・飛び降りて来た4枚羽を見て、の表情が驚愕に変わる。






だって・・・だって。




――――――――――― ・・・その顔は。




これは誰の記憶?の記憶じゃない。
こんなこと、絶対に在り得ないのに・・・ッ!?






叫びたいのに、声が出ない。段々と遠ざかっていく景色。
途切れたフィルム。コマ送りの情景が、チラチラと目の前を掠めてゆく。
今まで見ていたものが段々と小さくなり、色彩もモノトーンに変化する。
遠のく意識の中で、最後に見たものは
―――――――― ・・・





「・・・い、いやああぁぁぁぁぁッ!!!」





・・・純白の白い羽が、の視界を埋め尽くした。




























「・・・それでは、取り逃がした聖女の代わりに捕まえたのがこの少女なのですね?」




ニヤリと口の端を持ち上げ、忌々しく呟くのは・・・・・・本国の顧問召喚士。
ギリッと奥歯を噛み締め、イオスは口を開いた。




「・・・あぁ、そうだ。」


「なんでも、この少女が治癒の術を使うところを見て、標的の聖女と間違えたのだそうですね。」


「・・・・・・。」




ギッ!と相手を睨みつけるイオスとは対照的に、彼はさも楽しそうな笑みを浮かべる。




「ふふふ、結構ですよ?それでは間違えるのも当然でしょうし
聖女と酷似した力を駆使するとは実に興味深い。
貴方以外にゼルフィルドも目撃しているそうですし、実際に治療されたという生き証人もいる。
彼女が力を持つことを立証するには十分です。・・・予想外の拾い物でしたね。」


「・・・っ。」




イオスが拳を強く握り締める。
それを視界の端に留めた、銀色の髪を持つ召喚士は・・・本当に嬉しそうに。
邪悪な笑みを一瞬だけ漏らした。それから、言葉を続ける。




――――――――――― ・・・しかも。
この少女は、聖女を連れて逃げた一行の仲間だそうじゃありませんか?
聖女を捕らえる為の餌として、有効利用出来るというわけですか・・・
ふふふ、さすが特務隊長殿。頭がキレるようですね。」




顔だけは微笑んで。けれどイオスやその上司が、
人質などという卑劣な手段を好まないのを知っていてこう言うのだから、一層性質が悪い。
唇を噛み締め、何か言おうと口を開いたが・・・




――――――――――― ・・・でも。」




先程と表情は変わらないのに、突如冷たくなった言葉に。
イオスは知らず口を噤んだ。
目の前の相手は微笑すら浮かべているのに
ひんやりとした刃を、首筋に突きつけられているような、全身がざわめく感覚。




「・・・そういう利用価値がなければ
この少女を殺さずに連れてくる必要はないはずですからね・・・」


「・・・・・・。」




―――――――― ・・・やはり、気付かれている。
イオス達が人質と称することで、この少女を殺さずに駐屯地に連れてきたことを。

人質という名目に連れ帰れば、この顧問召喚士も正面から手を出すわけにはいくまい。
・・・そういう、手筈だった。

イオスの上司が言ったとおり。
そんなことに気が付かないでいるようなヤツではなかったが。




―――――――― ・・・ところで。少しの間、その少女を私に預けてはくれませんか?」


――――――――― ・・・なッ!?」




彼の突然の申し出に、イオスはとても驚いた。
・・・この男が、なんのメリットもなしに行動を起こすとは思えなかったからだ。




「なに、ほんの数時間・・・夜の間だけですよ。」


――――――――― ・・・解っているのか、レイム!
その娘は聖女を捕らえる為に必要不可欠な存在なんだ!・・・もし、手を出せば・・・!!」


「えぇ、解っていますよ?
・・・ただ、聖女と同じ力を持つという少女に、一召喚士として興味を抱いただけですから。
貴方が考えたようなことは何もしませんから、その点はご心配なく
―――――― ・・・」




そう言って、クスクスとイオスを嘲笑い、数回手を叩いた。




「キュラー、ガレアノ。・・・そこにいますね?この方を私のテントまでお連れしてください。」


「はっ!レイムさま。」




いつからそこに控えていたのか、不気味な雰囲気を纏った2人の部下が、
レイムの後ろからテントに入ってくる。




「・・・くれぐれも丁重に扱ってくださいね、彼女は大事な大事な捕虜・・・なんですから。」




けれど、そう部下に言い聞かせた時のレイムの顔が、少しだけ懐かしそうに緩められたことに。
・・・影になって彼の表情が窺えなかったイオスには、気が付ける筈もなかった。


























戯言。


はい、久しぶりに率いるサイジェント組の話でした。
トラブルメイカーの2人がいなくなるということで、ちょっとばっかりしんみりしてみたり。
何気にトウヤお父さんも、娘離れが出来ていないご様子です(笑)

ちなみにクラレットがハヤトに入れ知恵したのは
あくまでローレライのサモ石を渡す辺りからであって。
それ以前はハヤト自身の言葉なのですが、みんなには最初から最後までだと思われてます(爆)

不憫な子・・・!!(お前が言うか)

そして後半は、連れ去られたと、黒の旅団の内部事情をちょこっとです。

次回から、レッツエンジョイ黒の旅団編に突入しますよ!(どんなよ、ソレ。)





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