―――――――――― ・・・まさか、こんな形でお会い出来るとは思いませんでしたよ。」




ベッドに横たえたを見下ろして、レイムはそう呟いた。




「でもレイムさまぁ。ここまで連れてきて、どうするんですか?」




甲高い声で訊ねたのは、レイムの部下の1人、ビーニャだ。




「・・・フフフ。少しだけ、彼女に細工をしておこうと思いまして。」


――――――――― ・・・細工、と申しますと??」


「・・・彼女の記憶を少し・・・操作しておこうかと思いましてね。」


「カカカ!!さすがレイム様!それは面白いことになるでしょうなぁ!!」


「そうですね、ガレアノ。
―――――――― ・・・でも。彼女に傷をつけてはいけませんよ?」




注意を促すレイムの顔は笑ってはいたが、その瞳は針よりも鋭く、そして冷ややかだ。




「それは。」


「もっちろん!!」


―――――――――― ・・・しかと心得ております、レイム様・・・」




3人の返答に、レイムは満足そうに目を細めると・・・




「・・・よろしい。では、始めましょうか・・・?」




そう言って、の額に手を翳した。

















〓 第9話 別たれた記憶 〓

















月の明かりと、夜を棲家にするケモノの鳴き声だけが、微かに聞こえてくる夜。
線上に漏れる、細い明かりが、そのテントの主がまだ起きていることを告げていた。
それを確認して、イオスは入り口に出来る限り音を立てず立った。




「・・・ルヴァイド様・・・」


「・・・イオスか、入れ。」




イオスは返事が帰って来たのを確認すると
スルッと音をたてて、布を捲り。そっと体を滑り込ませた。




「・・・あの娘は?」


「一応、捕虜として認定されましたが今しばらく・・・・・・レイムが預かると・・・」




苦しそうに吐き出された言葉に、ルヴァイドは目を見開く。
あの顧問召喚士が、いくら任務とは言え何かに関心を寄せることはとても珍しい。
全てに関心を抱いているように見えて、何にも興味を持っていないような・・・
そんな、掴み所がなく、何を考えているか解らない。
・・・それが、ルヴァイドが思う。レイムという人間だ。




「・・・なに・・・?」


「なんでも、聖女と同じ力を持つ彼女に興味が湧いたとかで・・・」




俯きながらそう言うイオスに、ルヴァイドが声を掛けた。




―――――――――― ・・・後悔しているのか?」


「!?いえっ、そのようなことは決して・・・!!僕は・・・ルヴァイド様に、付き従うだけです・・・」




元々この作戦は、ルヴァイドを含めた黒の旅団員も乗り気ではなかったのだ。
この小さな部隊の人間は、誰もがルヴァイドを尊敬し、好んで彼の元に仕えている者ばかり。
それ故に、ルヴァイドの翳す騎士道精神に則り行動を共にしていた。

・・・なによりも卑劣な行動を嫌うルヴァイドにとって
今回の作戦は本当に不本意なものでしかなく・・・・・・。

――――――――――― ・・・けれど、国に仕える騎士として。
父の汚名を返上する為に、ルヴァイドはどんな任務でもこなしてみせなくてはならない。




―――――――――― ・・・すまないな、イオス・・・」


「・・・いえ。」


「・・・今夜は起きているのか?」


「はい。・・・数時間で彼女をこちらに解放すると、そう言っていましたから、それまでは。」


「そうか。だが、あまり根を詰めるな。」


―――――――― ・・・はっ!」




恭しく頭を下げて、イオスはルヴァイドのテントを後にした。

























「・・・いおす。」




そう自分の名前を呼んでテントを潜って来たのは、ゼルフィルドだ。
イオスは時間潰しに読んでいた本から顔を上げ、ゼルフィルドを視界に捉える。




「ゼルフィルドか・・・どうかしたか?」


―――――――――― ・・・れいむニ言ワレテナ。・・・例ノ少女ヲ連レテキタ。」


「・・・もうそんなに時間が経ったか・・・。手間を掛けさせたな、ゼルフィルド。助かったよ。」


「イヤ・・・入レ。」




ゼルフィルドがそう言って場所を空けると
その大きな機体の後ろから、あの時の少女がスッ・・・と姿を現した。
こんな時刻だから、もう眠いのだろうか・・・?
その瞳はぼんやりとしていて、敵地だと言うのに怯えも緊張も。
これと言った感情は見受けられない。
彼女は少しだけテントの中を見回すと、視線をイオスへと移した。




――――――――――― ・・・あなたは・・・?」




そう言って真っ直ぐにイオスを見つめる。




「・・・僕の名はイオス。この黒の旅団の特務部隊長を務めている。
それから、そっちの機械兵士は、ゼルフィルドと言う。君は
――――――― ・・・」






なんという名前だ?






そう問おうとしたイオスの声を、ゆっくりと。けれどしっかり遮って。
・・・まだ名前も知らない少女が口を開いた。




「・・・ここは、イオス・・・のテントなの?」


「・・・そうだが?」


「あたしが最初にいたテントより、落ち着くわね。」


――――――――― ・・・何か、されたのか・・・?」




イオスが訝しみながらそう訊ねると、彼女はカクン、とまるで人形のように首をかしげた。




「・・・さぁ?目を覚ました時にはもう、ゼルフィルドしか居なかったから解らないわ。
・・・でも、なんだか凄く落ち着かない感じがしたの。」


「・・・そうか。・・・ではまず、君の名前を聞きたいんだが?」




すると彼女はきょとんとして




「・・・覚えてないわ。」


―――――――――― ・・・え?」


「覚えてないって言ったのよ。」


「覚えてないって・・・他の、名前以外のことは!?」




イオスが思わず立ち上がり、机から身を乗り出してそう聞くと
彼女はどうしてイオスが驚くのか解らないと言った表情で、イオスを見た。




「・・・何1つ覚えてないわ。・・・イオスのところまでくれば、
あたしがどういう立場に置かれているか説明してくれるって聞いて来たの。」




淡々と告げて、ゼルフィルドの方をチラリと振り返る。
予想外のことに、イオスは頭を抱えた。




「いおす、今カラ報告ニ行クカ・・・?」


「いや、いい。ルヴァイド様もお疲れだろう。明日の朝、1番で報告に行く。」


「了解シタ。」


――――――――――― ・・・ご苦労だった、ゼルフィルド。
お前ももういいぞ?後は僕が責任を持ってどうにかしておく。」


「ソウカ、デハ見張リニ戻ル。・・・何カ必要ガアレバ、呼ベ。」


「ありがとう、ゼルフィルド。」




機械特有の音を立てながら、ゼルフィルドは外へと出て行く。
・・・その足音が聞こえなくなった頃。
ゼルフィルドが出て行った方向を見つめていた彼女に、イオスは声を掛けた。

・・・出来るだけ、簡潔に。
・・・けれど、出来るならこれ以上傷つけなくて済むように。慎重に言葉を選びながら・・・




「・・・少し長くなるが・・・良いか?」




・・・少女はイオスの真紅の瞳を見つめ、コクンと頷いた。






















――――――――――― ・・・ん・・・?」




鳥のさえずりが聞こえる。太陽の光が布越しに、薄暗いテントの中を明るくしてくれている。
―――――――― ・・・朝だ。




「・・・僕は・・・眠ってしまったのか・・・」




ゼルフィルドが彼女を連れてきた後。
彼女に長々と今置かれている立場と状況を説明し終わったときには
もう数時間後に、太陽が頭を覗かせ始める時間だった。

空いているテントがあるわけでもなく、かと言ってこんな深夜に工面出来るわけもない。
だから流石に眠そうにあくびをした彼女を、少しでもいいから眠っておけとベッドに潜らせ。
自分は彼女の見張りを兼ねて、予備の毛布を羽織ってイスに座った筈なのだが・・・

相当疲れが溜まっていたのだろう。いつのまにか眠ってしまったらしい。
情けないと思いながら、ゆっくりとベッドへ視線を移す・・・




――――――――――― ・・・なッ!?」




そこには、彼女の姿は無かった。いくら疲れていたとは言え、
ただ普通の少女が動く気配にも目を覚ますことが出来なかった自分が、酷く間抜けに思えた。
一気に意識が覚醒し、大慌てでテントから出る。すると・・・




「・・・あ。」




テントのすぐ傍を流れている川のほとりに、ちょこんと彼女が座り込んでいた。
思わずイオスが声に出すと、こちらに気が付いたらしく。彼女の視線がイオスを捉えた。




「おはよう。」




それだけ言って、また川の流れに視線を戻す。
イオスは深呼吸をして、まだバクバクと言っている心臓を多少落ち着かせてから。
ゆっくりと歩いて、彼女に近づいた。




―――――――――― ・・・逃げたのかと思った。」




そう安堵の息と共に吐き出すと、彼女はきょとんとイオスを見上げて、クスクスと笑った。




「だって、可愛い顔して眠ってたから。起こすのも悪いかと思って。」


――――――――――― ・・・ッッ!!かっ、かわ・・・ッ!?」




イオスがたじろぐと、それがまた面白かったのか。彼女はまた笑い出す。
自分だけが振り回されている。そう思ったイオスは、必死になって反論した。
・・・けれど、真っ赤になって反論したって誰も怖くなんかない。




「なっ、何が可笑しい!!」


「だ、だって・・・あー可笑しい!こんなことで真っ赤になってる〜!」




・・・仕舞いには、地面をバシバシと叩いて笑い始める始末。






何を言っても無駄らしい。






そう悟ったイオスは、彼女の隣に座り込み。彼女の笑いが治まるまで、大人しく待つことにした。




「あー・・・あーぁ、可笑しかった。」




しばらくすると、彼女は目尻に溜まった涙を指で拭き取りながら。でもどうにか、笑いを収めた。






そんなに笑わなくても・・・(悲)






内心不満を漏らしたが、また笑われても嫌なので、決して口には出さなかった。




「・・・随分綺麗な顔してるのに、珍しく遊び慣れてないのね。」


「遊びって・・・(汗)」


「だって、顔が綺麗な人ってだいたい。望む望まないに関わらず他人が関わってくるから
結構遊び慣れてる人とか、少なくとも異性に免疫ある人が多いのに
イオスったら可愛いって言っただけで真っ赤になってるんだもん。」




抱えた両膝に頭を乗せ、イオスの顔を見上げながらクスクスと笑っている少女を見て
イオスは項垂れ、大きな溜息を吐いた。




「・・・全く、こっちは逃げられたのかと思って焦っていたって言うのに・・・」


「・・・馬鹿ね。逃げるって言ったって、戻る場所も解らないのに、何処に逃げるって言うのよ?」




その言葉にイオスはハッとして顔を上げた。




「あっ!・・・す、すまない・・・」


「別に、気にしないで。あたしも、特に気にして言ったわけじゃないから。
――――――――― ・・・それよりも。ねぇ、あたしお腹空いちゃったんだけど。」


「・・・そうだな。じゃあルヴァイド様のところに行ってから、朝食にしよう。」


「ルヴァイドって、イオスの上司の人だよね?」


「あぁ、そうだが?」


―――――― ・・・怖い人?」


「まさか。多少、厳しそうな印象は受けるかもしれないが、そんなことはないさ。
そうじゃなかったら、わざわざ君を捕虜と銘打ってまで連れてこようとはなさらないよ。」


「・・・そっか・・・うん、そうだね。なら行く。」


「全く。君は勇敢なんだかそうでないんだか、解らないよ。」




昨日の夜。出会った時の彼女を思い出してそう言いながら。
イオスは先に立ち上がり、まだしゃがみこんでいる彼女に手を差し出した。




「あ、ありがとう。」




彼女はイオスの手に掴まって、昨日負傷した右足を庇いながら、ゆっくりと立ち上がる。




「・・・どういたしまして。」




彼女が右足を庇っているのを見たイオスは、手を繋いだまま歩き出した。




「・・・まだ、右足は痛むのか?」


「うーん、昨日の今日だからね。召喚術のお陰で、
見た目は完治してるんだけど、やっぱりちょっと痛いかな?」


―――――――――――――― ・・・すまない。」


「もうイオスってば、それ口癖?良くないよー。
そうやって辛気臭くしてると、幸せって逃げて行くんだから!」






だから笑ってよ?






―――――――――――― ・・・微笑んで言う彼女を見て
自然、イオスも笑顔になる。




「そうそう!それでいいんだよ!なんだ、出来るんじゃない。
てっきり笑顔が苦手な不器用さんかと思ってた。」


「・・・君は笑ってばかりだな。」


「えっ!?別に意識してやってるわけじゃないんだけどなー。
そんなに笑ってばっかり?あたしって。」


―――――――――― ・・・僕が見る限り、ほとんどいつも笑ってる。」






虚ろな瞳をしていたのは・・・本当に最初だけで。






「そう?」


「・・・あぁ。でも、いいんじゃないか?
無理に作った笑顔より、ずっと良いと思うよ・・・僕は。」




それから彼女は、イオスを頭から足の先までまじまじと見つめて
はぁ・・・と感嘆の溜息を吐いた。




「・・・イオスってさ、本ッ当に騎士っていうか・・・。
エスコートとかは慣れてるでしょ?あんなに女の子に免疫ないのに。」


「・・・そんなに免疫無いだとか遊び慣れてないだとか、連呼しないでくれ。
一応、公式な場に出る機会もあったからね。マナーは一通り。」


「ふーん?イオスってエリートなんだ?」


――――――――――― ・・・昔は、ね。」


「わっ!なんか意味深!!」




くだらない会話をして、笑いながら歩く。
それは他愛も無いことかも知れないれど。
ずっと軍隊に従属して生きてきたイオスには、本当に久しぶりなことで。






―――――――――――― ・・・温かい。






そう思った。
そんなことを話している間に、あっさりとルヴァイドのテントに着いてしまう。
なんでだか、いつもよりもずっとずっと。ここまでの道のりが短かった気がした。




「ん?ここなの?」


「・・・あぁ。」




見上げて問う彼女に、短く返事をして、イオスは仕事をするときの表情に切り替える。




「・・・ルヴァイド様、イオスです。」


―――――――――― ・・・入れ。」




テントの中から低い声が響き、少女はイオスの腕を掴んだまま。
“おぉ・・・”なんて、少しだけたじろいでいた。

その様子を眺めて苦笑して。
イオスは入り口を塞ぐ布を持ち上げ、まず少女に中に入るよう促した。

テントの中には、鎧を脱いで軽装になった上司の姿。
けれどいつ何が起こっても平気なように、帯剣だけは怠っていない。




―――――――――― ・・・ルヴァイド様。例の少女、連れて参りました。」


「・・・ご苦労だった、イオス。」




ルヴァイドの言葉に、イオスはハッ!と頭を垂れる。
いきなりそんな態度を取り始めたイオスに、少女は驚いて
ルヴァイドとイオスを、わたわたと交互に見つめていた。




「俺はルヴァイド。この黒の旅団の指揮を執っている。・・・足の具合はどうだ?」


「え、えっと!まだ・・・ちょっと痛い、です。」


――――――――――― ・・・そうか。」




ルヴァイドは眉を潜めてそう言うと、机の上に置いてあったサモナイト石を手に取る。
そうして呪文を唱えると、サモナイト石が光り。目の前に聖母プラーマが現れた。




「凄いっ!!騎士さんなのに、召喚術が使えるんだ!?」


「こら。ルヴァイド様にそんな口の聞き方をしては・・・」


――――――――――― ・・・イオス、構わん。」


「はっ!」




イオスを一声で黙らせると、ルヴァイドは瞳をキラキラと輝かせている少女に向き直った。




「・・・騎士である俺が召喚術を使える事が、そんなに物珍しいか?」


「うん!騎士なのにそんなに綺麗に術使う人見るのは初めて!」


――――――――――― ・・・綺麗・・・?」




イオスが不思議そうに問い返し、少女はルヴァイドから視線を離さずに言った。




「そうだよ!召喚術って、使う人によって荒っぽかったりとか・・・個性が出るんだから。」


「・・・そう、なのか・・・?」


「そうそう!でもイオスには解らないかなー?」


「・・・・・・それはどういう意味だ?」


「あははは!どういう意味でしょう?」




そのやり取りを、目を細めて微笑ましそうに眺めてから
ルヴァイドはサモナイト石を机の引き出しに閉まった。




「・・・だが。お前の方が召喚士としては、ずっと上ではないのか?」


――――――――― ・・・え?そうなの??」




反対に訊ねられて、そこでイオスはハッ!とする。




「忘れていました、ルヴァイド様。
彼女はここに連れてこられる以前の記憶を失っているんです。」


――――――――― ・・・なんだと?」




ルヴァイドにじっと見つめられた少女は、あはは・・・と乾いた笑みを浮かべる。




―――――――・・・だから、自分の名前も解らなくって。・・・あたしってドジだなぁ。」


――――――――― ・・・名前ぐらいなら、知っている。」






「「え??」」






「そ、それは本当ですかッ!?ルヴァイド様!」


「ああ。・・・お前の名前はだ。少々聞きなれない名前だが、
聖女の一行がお前をそう呼んでいるのを聞いたから、確かだろう。」


「・・・・・・」


――――――――― ・・・聞き覚えは?」


「・・・うん。なんか、そんな風に呼ばれたことがあるような気がする。」




真剣な眼差しで見つめてくるイオスに、にっこりと笑って返事をした。




「・・・そうか。少しでも役に立てたのなら、それで良い。」




ルヴァイドが、口元に微笑を浮かべて呟き
そんなルヴァイドに、は助走をつけて飛びつく!!




「!?」


ッ!?」




驚くルヴァイドとイオスを他所に、はルヴァイドの首にしがみつくと、満面の笑顔で言った。




「あたしの名前教えてくれて、ありがとうっ!!ルヴァイド様、大好きっ!!」




最初は驚いていたルヴァイドも、が感謝の意を示しているのだと知ると
ぽんぽん、との頭を撫でて返す。それに慌てたのは、イオスだ。
の腰に手を置いて、ぐいっと力任せにルヴァイドから引き剥がしに掛かる。




「こ、こら!!ルヴァイド様から離れるんだ!ッ!!(焦)」




そのままの状態のを引っ張れば。
・・・自然ルヴァイドの首が閉まることにも気付かず、イオスがを引っ張りだすと
は案外あっさりと、ルヴァイドの首に回した手を離した。
そして、イオスの腕に納まったの耳元でほっとした息を吐く彼に
キラリと悪戯な光を宿した瞳で、問いかける。




「・・・あーれー?もしかしてイオスってば、妬いてる?」


「ば、馬鹿ッ!!誰がそんなことするかッ!!」




途端、火が付いたように顔を真っ赤にさせるイオスを見て
はまた、お腹を抱えて笑い出した。




「あはは!イオス顔真っ赤!本当に可愛いんだから!!」




そう言われ、焦ったようにルヴァイドとを交互に見つめる。
そんなイオスを見て、ルヴァイドはふっと苦笑した。




「・・・随分と楽しそうだな、イオス。」


「ル、ルヴァイド様までッ!?」




助け船を出して貰う所か、逆にの味方につかれてしまった。
2対1では、元々悪い分がもっと悪くなる。
そう思ったイオスは、ぐっと押し黙り、葛藤を内心に押し隠して
笑い転げるに、コホン!と咳払いをして見せた。




「〜〜〜ッ!!そ、それでルヴァイド様!・・・の今後の処遇についてですがッ!!」




とイオスの微笑ましい様子に、表情を崩していたルヴァイドだったが
イオスの口から発された議題に、表情を厳しいものに戻した。




「そうだな。・・・、お前には今後しばらく、我らの部隊と共に行動して貰うこととなる。」


「はい、解りました。」




・・・こちらも。同じように、さっきまでの笑みをスッと閉まってみせて。
迷うことなく頷くに、イオスは多少面食らった。




「・・・それで・・・君は良いのか・・・?」




思わず、イオスが思った疑問を素直に口に出すと
は瞳を丸くして、こちらを見上げる。



「良いのかって聞かれても・・・イオス。あたし、記憶がないんだから。
帰る場所も解らないし、ここから出たら途方にくれちゃうもの。」


「・・・あ。」




また、先程と同じ間違いを繰り返してしまった。そして、これもまた先程と同じように。
すまない・・・と言おうとしたイオスの額を、はその細い指で突付く。

その意味するところを悟って、イオスが口を噤む。
するとは、うんうん、と満足そうに微笑んだ。

それから、どこか遠くを見るような眼差しをして・・・。
その表情は、彼女がずっとずっと自分より年上のような、そんな気さえイオスにさせて。




「・・・どっちが良いのか悪いのかとか、そういうことは・・・ちょっと解らないけど。
でもあたしは、イオスもルヴァイド様も・・・それに機械兵士のゼルフィルドも。
あたしに優しくしてくれた。悪い人だとは、思えないの。
それにルヴァイド様は、個人の判断で命を奪おうとする人じゃないって
あたし自身が、身に沁みて知ってるから。」


「・・・そうか。君がそれで良いなら、僕はそれで良い。」




イオスが微笑を浮かべたのを確認して、はゆっくりと頷くと、視線をルヴァイドに戻した。




「・・・我らは軍隊だ。それについてくるのだから己の身を守る手段を確保しておくに越したことはない。
四六時中、イオスを護衛につけておくわけにもいかないからな。・・・朝食後、多少の手合わせをするぞ。」


「はーい。」


「了解しました。」




2人、そう返事を返すと。はう〜んと大きく伸びをした。
そして、軽い足取りで・・・それでも、怪我をした右足は庇っていたけれど。
満面の笑みを湛えて、くるりと後ろを振り返る。




「あー!なんかスッキリした!ねぇ、早くご飯食べようよ!」




そう言ったの顔は、何かを吹っ切ったようにも思えた。



























カチャカチャ、と音をたてて。
手持ち無沙汰に、スプーンで手元の器に盛られているシチューを掻き混ぜる。
・・・少し行儀が悪いとも思ったが、これでは仕方ないといえば仕方ないのではないのだろうか?




「・・・ねぇ、イオス・・・」


「なんだ?」


「もしかして・・・いつも、こんななの??」




眉を潜めながら言ったの一言に、相変わらずの表情でルヴァイドが尋ね返す。




――――――――― ・・・こんな・・・とは?」


「だってルヴァイド様、このシチューのじゃがいも。
皮は所々残ってるわ、芽を取り忘れてるのもあるわ・・・酷い出来。」


「・・・男所帯だからな。」




そう、簡潔な答えが返ってきて。が、今度はイオスに顔を向けた。




「そうなの??」




怪訝そうな表情のに、イオスはこくんと頷いて見せる。




「あぁ、この部隊は特殊なものだからな。女性は医療班に数名しかいないし
料理をするのが専門の人間も、これと言っているわけじゃないんだ。」


「・・・そう、戦うしか能が無い人間の集まりなのね・・・」






記憶がなくなっても、毒舌は健在です。






「そう、言われると・・・反論のしようがないんだが・・・(汗)」


しみじみと言われてしまい、何も言い返せないイオス。
はしばらく考え込んでから、皮の剥き残しのあるジャガイモを特に気に留めることもなく
食事を続けるルヴァイドを見上げた。






・・・いくら軍隊とは言え、流石にこれは不憫なのではないだろうか・・・?(汗)






「ルヴァイド様、この部隊。全体で何人ぐらいいるんです??」


「40名程だ。」


「・・・40人・・・結構いるんですね・・・」


総指揮官をしているだけあって、すぐさま返答が返ってくる。
はそれにまた、考え込む仕草を見せると
それから何かを固く決意した表情で、うんと1つ頷く。




「うん、あたしやってみます。」


「何をだ??」




じっとの表情の変化を見つめていたイオスは、そうに問いかけた。
は勢い良くイオスに振り返ると、ビシ!と指を突きつけて、きっぱりと言い放つ。




「炊事に決まってるじゃない、イオス!」




自信満々に告げる彼女の表情は、至極真剣だ。




――――――――――― ・・・出来るのか??」




不安そう顔を顰めたイオスが聞き返すと、は途端、頼りない返事になる。




「う〜ん・・・多分?」


「多分って・・・(汗)」


「だって、出来るような気がするの。やってみてもいいですよね?ルヴァイド様!」




考え込んでいても、埒が明かないと思ったのか
が視線をルヴァイドに移して、尋ねた。




「・・・まぁ、俺は構わないが・・・」


「やった!じゃあ今日のお昼ご飯から、早速!・・・あとでお台所拝見してこようっと!」


「・・・。食べ終わったら、ルヴァイド様と手合わせをするんだからな。そのことを忘れるなよ。」




はしゃぐにイオスがクギを刺すと、は仕方が無さそうに瞳を伏せて
渋々と・・・・・・ずっと掻き混ぜるだけだったシチューに手を付け始めた。




「解ってるわよ、もう。」




そう、ぼやくことも忘れずに。












皮も芽も残ったままのジャガイモが入っていたシチューは
予想通りというか何と言うか・・・。悪い意味で想像通りの味だった。






ちゅ、昼食はもう少しまともな物を・・・!!(汗)






げんなりと項垂れて決意を新たにした
その後の手合わせを、ルヴァイドやイオスにとって意外過ぎる結果で終了させ。

気合を入れ直して、今。

・・・エプロン姿で包丁を片手に、黒の旅団の台所に立っていた。






――――――――― ・・・勿論。嫌がるイオスにも半ば強制的にエプロンをつけさせて。(酷)






「正直言って、君があそこまで出来るとは予想もしていなかったよ。」


「そう?」




なんてことなさそうに、軽い返事を返すは、手にした包丁で器用に玉ねぎを切っていく。
その動作からは、手馴れたものが窺い知れて・・・。
そんな彼女を、イオスは半分呆れたような・・・それでいて半分優しい表情で見つめていた。




「一体君は何をしていたんだ?」


「・・・さぁ?でも、考えるより先に勝手に体が動いたの。
体が覚えてる・・・っていうのかなぁ?」




目に沁みると呟いて、潤ませた瞳を手の甲で押さえる
彼女に、一瞬暖かい視線を向けてから
イオスはに手渡された、りんごの皮剥きに取り掛かる。

シャクシャク、と。同じ刃でも随分感覚が違うものだな、なんて思いながら、イオスは手を動かした。




「・・・剣や槍はともかく、飛び道具の扱いや体術の基礎まで。
記憶がなくなる前の君は、何をしていたんだか・・・恐れ入るよ。」




イオスがそう言うと、は手を止めて。
瞳につまらない、という色を浮かべてイオスを見上げた。




「そんな事言うけど!剣にしろ槍にしろ、ルヴァイド様にもイオスにも全然歯がたたなかったじゃない!」


「それはそうだろう。ルヴァイド様は総司令官だぞ?」


「うぅ〜・・・、そうだけど・・・」




口を尖らせて作業に戻る
ルヴァイドにもイオスにも、一太刀も浴びせられなかったことが、余程不満だったのだろう。


・・・けれど、それはあくまでから見た断片にしか過ぎなくて。


黒の旅団の中で、1位と2位の実力を持つ彼等。
だからがそれに太刀打ち出来ないのも、仕方ない・・・というよりは、そうでないと困る。

でも、イオスが口にしているのは、決してお世辞なんかではなくて。
・・・実際、一太刀浴びせるまでには至らなかったものの
がなかなかこちらの手を煩わせてくれたのも事実なのだ。


イオスもルヴァイドも、己の1番得意とする武器で彼女の相手をしていたのに対し
は様々な武器で戦っていた。それにも拘らず、あの戦闘能力の高さ。


どの武器をが得意とするのか。
それを知る為に、ルヴァイド達はあらゆる武器を用意した。
剣、槍、銃、弓、グローブにクロー、挙句には投具や斧まで。
剣にしたって、一般的なものから扱いやすい短剣
殺傷能力の高い大剣、そしてシルターンの刀・・・と、ここにある限り、全ての武器を。
そして、イオスと手合わせする時はまず槍から
ルヴァイドと手合わせする時は・・・

流石にいくらなんでも重くて持っていられなかったので、少しだけ大きめの、標準的な剣で。
けれど、ルヴァイドを相手に上手く立ち回って見せたのである。

大剣を持てなかったくらいだから、特に腕力があるというわけでもない。それでも。
この黒の旅団に所属する者を、下手をすれば上回るかもしれない腕前で。
彼女は一通りの武器を、実戦で使える程度のレベルには使いこなして見せたのだ。
・・・恐らく、記憶を失くす以前に培ってきた技術と経験で。

・・・特に。最初から身につけていただけに、やはり短剣の扱いには目を見張るものがあって。
・・・攻撃を当てられこそしなかったけれど、短剣を握ったを相手に


もし、これが実戦だったならば。


イオスは無闇に切り込むよりも、彼女の攻撃を防いだ方が得策だとさえ思った。






―――――――――― ・・・自分が持っていたのが、もし、槍じゃなかったら・・・?






・・・そう考えると、ぞっとする。
今、彼女が敵対していないことに感謝すら覚えた。
・・・まぁいつかは。例えそれを望まなくても、そうなってしまうだろうけれど・・・
しかし、それと同時に1つの疑問も浮かんでくる。






―――――― ・・・これほどの実力を持っていて、何故あのとき。
は武器を取らなかったのか。






内心、様々な疑念が渦巻くが、今の彼女に尋ねたところでそれが解る筈もなく・・・。
イオスはそれを悟られないように、平静を装う。




―――――― ・・・多分。隠してはいるけれど、1番不安なのは彼女自身だろうから。




「・・・ルヴァイド様も言っていたが、君は短剣が1番扱いなれてるみたいだからね。
実際、僕が君と会った時に身に付けていたのも短剣だったし。
いくら君が良い腕をしていても、ルヴァイド様を相手にしては武器だけで無しに部が悪いよ。」


「・・・ルヴァイド様、本当に凄いよね。
あれだけ大きい剣なのに、棒切れみたいに簡単に振り回すんだもん。」




ルヴァイドの勇姿を真似て、 はブンブンと包丁を振り回す。
イオスは冷や汗を掻いて、慌ててそれを止めた。

・・・威力の高い大剣を相手に、小回り・テクニック重視で勝負の短剣は相性が悪い。
攻撃を防ごうと思っても、あれだけ刃の大きさに差があってはなかなか防ぎきれないからだ。
・・・1度でも攻撃されてしまうと、押し返すだけの威力が足りない。

威力の高い大剣の唯一の弱点は、振り抜いた後に出来てしまう大きな隙だが
・・・しかしルヴァイドは、技術と力をもって
それすら生じさせずに、大剣を扱って見せるのだ。




「だが、君もなかなかのものじゃないか?召喚術を使えることは知っていたけど
まさか全ての属性を扱えるなんて思っていなかったし・・・。しかも、誓約まで出来るなんてね。」


「ああ、あれはあたしもびっくりした。でもイオス達が誓約って言ったやつ、
別に特別なことしたわけじゃないのよ?来てってお願いしただけなんだから。」




そう言いながらは、もう何個目かになるりんごを手に
綺麗に皮を剥き始めるイオスを、ぼんやりと見つめた。




「・・・案外、イオスって器用よね。」


「そうかな?」


「うん。まさかイオスが、こんなにきちんとりんごの皮剥けるとは思わなかった。」






だって、シチューのじゃがいもアレだったし。






――――――――――― ・・・単に刃物の扱いに慣れているだけだろ(呆)」




イオスが言うと、はそれにはっとしたらしい。




「・・・そっか、そうだよね。じゃあ、今朝のは特別酷かったのね・・・。
ってことは、みんな料理教えたら、それなりに上手くなるのかも。」




ポツリと呟いて1人納得しているを尻目に、イオスは着々と作業を進める。




「・・・それより、一体何を作っているんだ?」




たまご、ご飯、鶏肉、玉ねぎ、グリーンピース・・・それと塩、コショウなどの調味料。

材料を見ても、レシピが思い当たらず。
ふと口にしたイオスの疑問に、反対には不思議そうに問い返した。




「・・・オムライスだけど?」






見て解らないの?






そう言いたげなを見て、イオスは更に怪訝そうに問い返した。




「・・・おむらいす・・・??」


「あれ?もしかして、知らない?ケチャップご飯を卵でクルン。」


「・・・知らないが・・・。」




眉間に皺を寄せ始めたイオスに、は簡単に説明するが
イオスは知らないと首を横に振るばかり。
おかしいなぁ、とは益々首を傾げた。




「うぅ〜ん??一般的な家庭料理だと思うんだけどなぁ・・・」


――――――――― ・・・本当に、君は一体何をしていたんだ・・・?(汗)」




聞いた事もない料理名を、当然の如く口にする彼女。
イオスは余計に解らなくなってきた疑問を再度、口にした。
はぁ、と溜息を吐くイオスに、が不満そうに言う。




「だから知らないってば。」




―――――――――――・・・あれ?君・・・」




唐突に。呆然とした、自分達以外の人の声が聞こえてきて
は声のしたほうを振り返った。
そこには、を指差してポカンとしている見知らぬ人の姿が。




「???」


「・・・お前が今日の当番か?」



台所に立つを見て首を傾げるその男に、イオスが声を掛けた。
すると彼は驚愕に瞳を見開き、ゴシゴシと手で擦って
でも、目の前にある現実が変わらないことを知ると、数歩後退りした。




「と、特務隊長ッ!?なんでエプロンなんかして台所に・・・!!」






なんて可愛らしい姿にッ!?






「・・・頼むから。それ以上言うな・・・・・・(撃沈)」




男の言葉に精神的ダメージを受けたらしく
片手で額を押さえて、情け無さそうにイオスが呟いた。

といっても、イオスが身に付けているのはシンプルで余計な飾りのない、黒いエプロン。
けれど、食事当番は一般の兵士達に順番に回るもので。
特務隊長であるイオスが、エプロン姿で調理場に立つというのは、本当に珍しい光景だったのだ。

・・・これでも、面白がってフリフリのエプロンを着せようとするの提案を
イオスは、それはそれは丁重にお断りしたのだが。

項垂れるイオスを見て、その物珍しさに思わず息を呑む兵士に
はにっこりと微笑みかけた。




「初めまして!あたし、って言います。」




その声に我に返ったらしい兵士は、に視線を戻す。




「えっと・・・確か、昨日の襲撃の時に特務隊長が捕まえたっていう・・・」




戸惑った声でそう言うと、チラリとイオスに目を向けた。
説明を求めるその視線に、復活を果たしたイオスは
どうにかこうにか、いつもの調子を取り戻して告げる。




―――――――――― ・・・しばらくの間、捕虜としてこの隊に同行することになった。
だが彼女はここに連れてこられる前の記憶を無くしていてな。・・・色々と面倒を見てやってくれ。」


「は、はぁ・・・」




それでもまだ驚きを隠せずに、半分上の空の返事を返す。
その兵士とイオスのやり取りを見ていたが、ボソリと呟いた。




―――――――― ・・・イオス、なんか偉そう。」


「・・・一応この部隊においては、第二位の階位なんだが・・・?(溜息)」



ガクリと肩を落とすイオスは
部隊の中で凶槍と呼ばれ、恐れられている人物には到底見えない。






・・・もう、どうにでもしてくれ。(泣)






そんな、投げ遣りな雰囲気さえ醸し出している。
に出会ってから、ずっとペースを乱されっぱなしだ。




「えッ!嘘でしょ!?」






あんなにおちょくられやすいのに・・・ッ!?(焦)

オイコラ。







叫ぶに溜息を吐き・・・一般兵へと向き直る。




「・・・ともかく。多少変わったヤツだが、悪い奴じゃないんだ。よろしく頼むよ。」


「・・・はい・・・」




イオスのそんな姿を見て、なんとなく状況を悟った兵士は、彼に同情の視線を送った。
・・・イオスを落ち込ませている当の彼女は、全然気にした様子もなく
嬉々として何かをかき集めている。




「そうだ!今日の当番なんですよね?はい、じゃあこれ持ってください!」




はい、と笑顔と共に手渡されたのは・・・りんごと包丁。
え?と手の中のりんごとを交互に見比べるその兵士に、彼女は可愛らしく微笑んだ。




「これからじっくり、あたしが料理をレクチャーしてあげますから!」


「れ、レクチャー??」


「手ほどきってことです。はい!まずはりんごの皮むきからっ!!」




裏返った声を上げる兵士に、は気合一杯にそう告げた。






















「はい!どうぞルヴァイド様っ!」




・・・今、ルヴァイドの目の前には、ほこほこと湯気を立てている黄色い物体が置かれている。
そんな彼の横では、お盆を持ったがニコニコと笑っており
その更に後方では、イオスがそわそわと、心配そうにこちらを見ていた。




「・・・これは?」


「あたしの自信作、チキンオムライスです!」






黒の旅団にオムライスですか。






黒く厳つい鎧を着たルヴァイドに、可愛らしい飾り付けのオムライス。
見るものが見れば、面白い以外の何者でもない光景だっただろう。

・・・ご丁寧に、ケチャップで“ルヴァイド様v”と名前まで書いてあるのだから
(しかもハート付き。)
某エルゴの守護者さんならば、腹を抱えて大笑いしているところだ。

・・・幸いなのは、彼が日本語を読めず。ただの模様だと思っているところだろうか。

そのオムライスを、表情1つ変えることなく、じっと見下ろすルヴァイドに
は嬉しそうに微笑みかける。




「まぁ、ひとまず食べてみてください。
あ、あとイオスと当番の人が作った、りんごのコンポートもありますよ。」




そうか、と頷いて。ルヴァイドは銀色に輝くスプーンを手に取る。
あまり綺麗に整頓されていなかった食器類も
の手により綺麗に洗われて、テーブルに並べられた。
少し離れた位置から、旅団員が固唾を呑んで見守る中。
彼は躊躇することなく、オムライスを口に運ぶ!






ぱく。


ゴクリ。


(旅団のみなさんが唾を呑む音。)






途端、耐え切れなくなったイオスが、ルヴァイドに駆け寄った。




「ル、ルヴァイド様!無理はしないでくださいっっ!!(泣)」


「失礼ねーイオス!味も見てないうちからあたしの料理にケチつけるなんて。」


「・・・・・・。」




無言で口を動かすルヴァイドに、今度こそイオスはサーッと血の気が引いていく。




「ルヴァイド様ッッ!!(顔面蒼白)」


「・・・どうですか?ルヴァイド様。」




蒼褪めた顔で名前を呼ぶイオスと、対照的にわくわくとルヴァイドの感想を待つ
それを、旅団員達は複雑な心境で眺めていた。
・・・ルヴァイドが口を開いたら、次に“おむらいす”とやらに挑むのは、自分達に他ならない。




―――――――――――― ・・・美味い。」


「・・・え?」




けれど、はっきりと聞こえてきたルヴァイドの呟きに。
イオスを含めた黒の旅団員達は、ハッとして顔を上げた。

その一言に、はパアっと表情を明るくする。




「本当ですか、ルヴァイド様!?・・・だから言ったじゃない、イオス!
絶対大丈夫だって!!」




ルヴァイドがおいしいと言ったのが嬉しかったらしく
さっきよりも顔を緩ませて、鼻歌まで口ずさみ始める




。お前は料理が上手いのだな。
・・・しかし、全員分作るのは大変だったのではないか?」


「そうですか?あたしはそんなこともありませんでしたけど・・・」


「僕は手が痛くなるほどりんごの皮を剥いたが・・・?(汗)」






本当に今まで一体どんな生活をしてたんだッ!?


・・・あんな生活です。(どきっぱり)







フラットで鍛えられた腕は、伊達じゃない。
何と言っても元から人数が多い上に、人が訪ねてくる事もある。
しかも来客の中には、結構な大食漢もいたりするのだ。
(↑ジンガとか、ジンガとか、ジンガとか。・笑)



・・・といっても、それは今のが知るところではなかったが。



その頃、ルヴァイドが美味いと断言したことで少し安心した旅団員達が
オムライスに手を付け始め、その味に歓声を上げていた。




「美味いっ!・・・おいしいよ!これ!!」


・・・ちゃんだっけ?これ、おかわりあるかな?」


「あ、俺も俺も!!」




予想外の反響が返ってきて。未だエプロンを着たままだったは慌てて返事を返す。




「あ、はい。あともうちょっとならありますよ。
一応、少しだけ余分に作りましたから・・・卵だけ焼けばすぐに。」




にこにこと笑って、兵士からお皿を受け取るを見つめて。
・・・イオスも覚悟を決め、オムライスを一口。ぱくりと口に運んだ。
それから、呆気にとられた口調で呟く。




「・・・・・・おいしい。」


「もう!だから言ったのに、イオスったら!!」




いつからそこで聞いていたのか。
お皿を持ってすぐ隣まで来ていたは、頬を膨らませてイオスを見ていた。




「う゛。・・・僕が悪かったよ、。」




観念したイオスが、そう素直に謝罪を述べると。
・・・はこれ以上ないくらい、嬉しそうに微笑んだ。




「解ればよろしい!」




意表を突かれ、情けないことに赤面して固まってしまったイオスを他所に
はさっそうと台所へと姿を消す。
取り残されたイオスは、まだ頬に赤味が差していて・・・。






・・・そろそろ旅団員達も、を含む上司達の、妙な位置関係に勘付き始めた。






しばらくすると、台所から良い匂いがしてきて、温かいオムライスを持ったが食堂に戻ってくる。
それを兵士に手渡して、はルヴァイドに声をかけた。




「あ、そうだルヴァイド様。」


「・・・どうした?」


「怪我人の方がいるって聞いたんですけど・・・。」


「・・・ああ。今日は休むよう告げてある。」


「その人の分もご飯・・・作ったんです。何処に持って行ったらいいですか?」




食事制限はしなくても良いみたいだったから、と。そう告げる
ルヴァイドはふっと表情を緩める。




「・・・そうか。手間を掛けさせてすまないな。」


「いえ、いいんです。あたしが好きでやってるんですから。それで、どちらにいるんですか?」


「イオスに案内させよう。・・・だが、まず先にお前も昼食を済ますといい。」


「・・・はいっ!ルヴァイド様!!」




ルヴァイドに頭を撫でられて、上機嫌になった
パタパタと軽い足取りで、自分の分の昼食を取りに再び台所へと駆けて行った。


























「僕が持つよ。」




お茶の入ったポットとオムライスを乗せたお盆を
頼りない手付きで持ち上げるに、イオスはそう声をかけた。
イオスの姿を目に留めると、はふっと表情を緩め、微笑む。




「そう?じゃあ、お願いしようかな。はい、イオス。テントまで運んでくれますか?」


「喜んで。」




2人顔を見合わせて、クスクスと笑い合った。
イオスにテントへ案内されながら、周りの景色を眺めていたが口を開いた。




「・・・そういえば。その怪我した人って、やっぱり昨日の・・・??」


「・・・あぁ。あんな小さな村にも、腕の立つ人間がいたんだな。
僕が見つけたときには、もうボロボロで・・・はっきり言って、もう助からないと思ったよ。」


「へぇ、そうなの・・・。良かったね、その人助かって。」




あっさりとそう言うに。イオスはあぁ、と今更ながらに思い知らされる。




「・・・・・・そうか、君は覚えていないんだったな。」


「???何が?」


――――――――――――― ・・・君が助けたんだよ、彼を。」




イオスが告げると、は瞳を丸くして。それから大袈裟な動作で驚いて見せた。



「えっ!?そうなのッ!?(汗)」


「ああ。・・・だから僕は、君を聖女と間違えた。」




苦笑混じりに、イオスが言う。




「ふぅん、そうなんだ。・・・それじゃあ、楽しみね。」


「・・・なにが?」

「その人に会うのが。だって、あたしが助けたんでしょう?
自分が助けた人に会えるのって、なんだか凄いじゃない!・・・楽しみだなっ!」




出会ってから、笑顔ばかりの少女。
その彼女が、最初に出会った時にだけ見せた。今は見せない、あの鋭い瞳を思い出して・・・。






色んな顔が見てみたい。






・・・そう、思って。楽しそうにスキップをしている、彼女の後姿を見つめた。




もっともっと、彼女のことを知りたい。
笑顔以外の泣いてる表情も、あの凛々しい表情も。
・・・彼女の傍にいて、見てみたい。
手を血で染めるしかない自分のことも、それだけじゃないのだと知って欲しい。
それは、罪を犯しすぎたこの身に余る望みかもしれないけれど・・・・・・




先を歩く彼女が、長い髪を風に靡かせて、振り返る。




「イオスー!何してるの?早く早く!イオスが来ないとどのテントだか解らないでしょー?」




数歩先を行っていた彼女は、立ち止まり僕を待っていてくれる。
・・・それだけで幸せ。




「・・・テントは逃げないよ、。」














――――――――― ・・・願わくば、せめてこの出会いが。


・・・彼女の苦しみになりませんように。






















戯言。


イオス、陥落です!!(爆)

え〜、レッツエンジョイ黒の旅団編をお送りいたしました。(笑)
黒の旅団に連れ去られた後ののお話です。
なにやらレイムがこそこそと動き回っていますね。

今回、一人称が変換ではありません。
えっと、それはキャラが違うよってことを強調したかったからで
忘れたわけではないです、はい。

ひとまずは、更に記憶を失ったがイオス達を信用し
イオス達がに心を開くまで、みたいなのがメインです。
・・・っていうかキャラ変わりすぎやんねぇ・・・?(苦笑)

そしてオムライス!!果たしてリィンバウムにケチャップはあるのか!?
ご飯はあるみたいですけどね、どうなんでしょう??
・・・まぁそこは深く考えずに。(笑)
実際40個もオムライス作ったら死にませんか?
・・・あぁ、でも飲食店ってそんなのざらなんですかねぇ・・・。
あ、ちなみに。の足の怪我は、一応ルヴァイドのプラーマでよろしくなったので
後半彼女はスキップなんかしてるんですね。間違いじゃないですよ?

なんだかこれだけ長いものをダラダラと書いていると
最初の方の話と矛盾点がありそうで怖いです(苦笑)





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