「うん。じゃあ落ち着いたところで、きちんと紹介しようか。」




サイジェントへの連絡を終えたは、いつの間に出て行ったのか、バルレルと一緒に部屋に戻ってくると
ベッドの上で起き上がっているを右手に、ミモザ達を左手に位置するよう立ち、開口一番にそう告げた。




、彼女はミモザ。ミモザ・ロランジュ。
1年前知り合った蒼の派閥の召喚師で、実はそっちの3人の先輩だったんだと。
会長達が話したときに、名前ぐらいは聞いたことがあるだろ?」




勿論はその名前に聞き覚えがあった。
蒼の派閥のミモザとギブソン。それは、がまだフラットにいたころ
たまに皆が聞かせてくれた、“1年前の事件”に関わる話の中に、何度と無く登場したことのある名前だ。
だからは小学生のように大きな声で、自慢げに返事を返した。




「・・・はい、聞いたことあるです!ペンタボムのミモザ、なのですね!?
と組ませたら最凶だって、ハヤトが言ってたのですよ。が増えたみたいで、手に負えないって!!」


「あら、あの子そんなこと言ってたの?」


―――――――― ・・・へぇ?それはも初耳だな、
そうか、ハヤトのヤツそんなことを?・・・ふ〜ん・・・」




とミモザは互いの顔を見合わせて、薄っすら笑みを浮かべている。
穏やかな口調と裏腹にその背後から、隠しきれないほどの黒くて歪んだオーラが
ユラユラ湯気のように立ち昇っている・・・・・・かのように、の瞳に2人は映った。






もしかして、言っちゃいけないこと言っちゃったですか・・・?


とってもね。






今度に会ったとき。きっとハヤトは、またに銃を乱射されることだろう。
その様子が容易に想像できてしまい、は心の中で
1度はハヤトに謝罪をしたものの、“いつものことか”とすぐに思い直した。
が余計なことを言ったにしろ、言わなかったにしろ。
どちらにしてもハヤトは、に追い掛け回される運命にあるのだろうから。
あれはある意味、2人なりのコミュニケーションの方法なのだ。

は満面の笑みを浮かべたまま、大きめの上着の下にこっそりと忍ばせている、愛用の2丁銃に手を伸ばした。
そしてその存在を確かめるように、そっと銃身を撫でる。
笑顔で銃を撫でるというのは、妙に迫力のある光景で、慣れていない者には目の毒でしかない。
未だの横に陣取ったままだったマグナなんかは、そんなを見て戦々恐々としていた。

普段、あんな風に笑わないからこそ。
優しく微笑んで銃を撫でるは、酷く恐ろしく見えるのだろう。
ネスティがにっこり微笑んで、機属性のサモナイト石を大事そうに撫でているのと同じようなものだ。

は拳銃がきちんとそこに納まっていることを確認すると
満足そうに1つ頷いて、それから思い出したように、にギブソンを紹介した。




「・・・んで、こっちがギブソン。ギブソン・ジラールだ。
コイツは優男に見えるけど、1年前は物の見事に、に楯突いてくれちゃってねぇ・・・。
まぁ、昔の話だから別に気にしちゃいないんだけどさ。
召喚術。ことサプレスの術に関する能力は、このが保証するよ。」




知っている人間でなければ、わからないだろうの言葉の意味。
霊界サプレスの、仮初のエルゴを務めるが保証すると言うのだから
ギブソンは余程優秀な、サプレスに属する召喚師なのだろう。

そして、ギブソンの能力を客観的に評価しつつも
の言葉のそこかしこにどことなくトゲがあるように感じられるのは、多分の気のせいではない。
事実は、にんまりと人の悪そうな笑みをギブソンに向けているし
ギブソンもギブソンで、反論もせずに。そんなの様子を見て、仕方なさそうに苦笑するだけだった。




「知ってるです。・・・その、がゼラムに来たとき
オニマルの麻痺攻撃にも、ビクともしなかった人なのですよね?」




は旅団に身を寄せていた間の記憶も、今回はしっかり覚えていた。
ただ、それは明確に思い出せるのに、まるで自分の子供の頃のビデオでも鑑賞しているかのような
画面越しにその光景を垣間見ているような、奇妙な感覚をに引き起こさせる。

の記憶が正しければ、黒の旅団がゼラムを襲撃したあのとき。
がオニマルの痺雷撃で攻撃を仕掛けたのは、間違いなくギブソンだ。

黒の旅団がゼラムを襲撃した事件のことで、
はみんなに引け目を感じていたが、それがギブソンに関しては殊更だ。
1度は敵として相対したことに対する、トリス達への負い目は勿論あった。
だがギブソンに至っては思い切り召喚術を放ち、攻撃まで仕掛けてしまった経緯がある。
そのことについて非難されても、は何も言い返すことが出来なかった。
・・・どことなく居心地が悪くて、視線を逸らしたまま俯いていると、ギブソンがスゥッと息を吸う音が聞こえた。




「あぁ。それにしてもあのときの君の判断は、なかなか冷静だったよ。」




非難どころか、自分を賞賛するギブソンの言葉に、はハッとして顔を上げた。
意外にもギブソンは、優しく微笑んでを見つめていた。
ギブソンはの考えていることなんて、とっくに見抜いていて
それでいて、“気にしなくていいんだよ”と言ってくれているようだった。
そんなギブソンの表情が、難しい召喚術が成功したとき
“よくできました”と褒めてくれるクラレットに、少しだけ似ていたから
はなんとなく安心してしまって、肩から余計な力が抜けて、緊張が解れていくのを感じた。




「そういわれると、照れるのです。」




もじもじしながらそう言うと、はへへへと頬をかいて笑った。




「・・・ギブソンのことも、みんなから聞いてるです!!!
凄い召喚師だけど、ミモザの尻に敷かれてるって言ってたのです!」






また余計なことを・・・!!






お得意の、悪意がないゆえに更に性質の悪い毒舌が発揮され
今までにも既に何度か、こういうときに限ってロクなことを言わない彼女の毒舌を聞いている面子は
のこの発言に、“出た・・・!”と顔を引き攣らせた。
若干名、“それでこそ本物のだよ!”と嬉しそうにしている双子なんかが見られたが
兄弟子にギロリと睨まれて、大慌てで表情を取り繕う。


ネスティは今すぐにでも、にお説教を始めたそうな渋い顔をしていたが
彼が珍しく尊敬している、派閥の先輩でもある当の本人。
ギブソンが苦笑するだけでそれを済ませたので、彼もに何か言うことを諦めたようだ。


幾度となく皆の口から話される、蒼の派閥との関係については
は以前のいないところで、ソルとキールからこっそり教えて貰ったことがある。
ギブソンとミモザは、が唯一仲間と認める蒼の派閥の召喚師で
2人以外の蒼の派閥の召喚師は、がとてつもなく恐ろしい目に遭わせてしまうらしい。
なんでも1年前、蒼の派閥の召喚師達がトウヤをとても遠い所に連れて行こうとして
を物凄く怒らせてしまったのが、その原因なのだそうだ。


仮のエルゴなんかを務めるだけあって、はとても魔力が高い。
同じプチデビルを喚ぶにしても、その威力はのプチデビルと段違いだ。
それなのに、いつも一緒にいるエストやフェスを喚ぶだけではどうにも収まらなくて
高位召喚獣のレヴァティーンやヘキサアームズまで喚んでしまったから、大惨事になったらしい。


そのとき、強大な魔力を持つトウヤ達の存在を、派閥の偉い人に報告して
みんなが連れて行かれることになった原因を作ったのが、他でもないギブソンなのだと聞いた。
だからの言葉にトゲがあったのも、きっとそのせいなんだろう。






・・・ん?ちょっと待つのです。2人以外の蒼の派閥の召喚師には・・・??






そこまで考えて、ふと恐ろしい真実がの脳裏を過ぎった。
トリスとマグナ。それにネスティも、蒼の派閥の召喚師だった筈で・・・
が本気で怒ったら、ゼラムの街そのものまでもが吹き飛びかねない(怖ッ)
自分の心配事なんかより、そっちの方がよっぽど重要だった。




「あ、ああああああのですねッ、ッ!?」


「・・・あ?どうかしたか、。」




考えるよりも先に声を出したから、声がひっくり返ってしまった。
自分でも“随分間抜けな声を出したな”と思いながら、は先手必勝とばかり、持てる限りの大音量で
が口を挟む暇を与えないよう、矢継ぎ早に捲くし立てた。




「えっとえっと!!駄目、駄目なのです!!トリスはずっとに優しくして、一緒にいてくれたですし
それにマグナは、皆のことを考えてくれてるです!その、召喚された子のことも・・・!
だからハサハもレオルドもマグナが大好きですし、もマグナのこと大好きなのですよッ!?
それからネスティは、キールみたいに疑り深くって根暗ですし、お説教くさいですけど・・・ッ
うーんと、うーんと・・・そうだ!頭が良いし、本当は優しくて面倒見も良いのです!
と、ともかく3人とも、とっても良い人なのですよ!?だから、だから・・・・ッ!!
蒼の派閥の召喚師でも冥府に送っちゃ嫌なのです―――――――ッ!!!」




それだけのセリフを、息継ぎもせず一息に叫べば。
いくらが肺活量に自信があったとしても(あったのか)
さすがに酸素が足りなくなって、途端呼吸が苦しくなる。
マラソンでも走った後のように、ぜーぜー言って呼吸を整えていると
部屋にいた全員の視線が、一気に自分に集中するのを感じた。
は、がどのような手段に打って出るのかと考えて
いつでも、何をされても対応できるよう、体中の神経という神経に気を抜くなと命令した。




――――――――― ・・・ぶっ!」


「ぶっ!?」




の口から突然そんな音が漏れて、思わずは、丁寧にその音を復唱する。




「・・・あ、あははははは!!!ネスティ!君、随分な言われようだね!?
こりゃ傑作だ!、お前やっぱり最高だよ!!」


「・・・ほう、?君が僕をそんな風に見ていたとは知らなかったな。」


―――――――― ・・・は、はえ?」




すっかり身構えていたを待ち受けていたのは、彼女がこれぽっちも。
・・・こうなるとは、ほんの1ミリほども予測していなかっただろう展開だった。
の口から出てきたのは、怒鳴り声でも脅すような声でも。の予想していた言葉の、どれでもなかった。

それどころか、とネスティはお互いに顔を見合わせて笑っている。
はいかにも、もう堪え切れないと言わんばかりの笑い方だったけれど
ネスティの湛える静かな微笑みは、確実に彼が怒っている証拠。
見れば、こめかみの辺りに薄っすら青筋がたっていた。

これ以上何か言えば、夕食前に時間単位でお説教。
・・・もしくは久々にあの名セリフ、君は馬鹿か!!が飛び出すことは請け合い。
余計なことはもうなにも、たとえ一言でも漏らすまいと
は反射的にバッ!と自分の口を手で塞いで、ネスティから視線を逸らした。




「・・・馬鹿か。そいつらが蒼の派閥の召喚師だってことぐらい
お前が目ぇ覚ます前にとっくにバレてんだよ。」




すると、視線を逸らした先に都合よく立っていたバノッサが
面倒くさそうに盛大な溜息を吐きながら、それでも律儀にこの現象の説明をしてくれた。




「どぅえーーーーーーーーッッ!?
じゃあ、一体は・・・ど、どどどどどどうしたらマグナ達を助けられるですかッ!?」


「・・・様、どうかご安心ください。」




波紋のたたない水面を思わせるような、そんな静けさを持ったエストの声が響き渡る。
彼女の声は、決して大きいというわけではないのに
しっかりとした強い意思を内包していて、他の音に掻き消されることはない。

パニックを起こしかけていたは、おかげで少しだけ冷静さを取り戻して
それからゆっくりと、声のした方向を振り返った。
エストの声は耳に心地良い低音で、常に抑制が効いている。
スゥッと抵抗もなく染みてゆく声は、人を落ち着かせる効果があるのではないかと、は密かに思っていた。

が振り返ると、エストはフェスと一緒になって、
いつものようにから少しだけ離れた位置を陣取り、控えていた。
エストの言葉を引き継いで、フェスが1歩前に進み出る。
・・・エストは必要最低限のことしか口にしない。
それでも相手がのときは多少饒舌になるものの、彼女の言葉は簡潔すぎるから
きちんとした手順を追ってその補足をするのは決まってフェスの役目だった。




「大丈夫ですよ、さま。さまはこの方達を信じてみるとおっしゃいました。
ですから、決してそのようなことは致しません。
最もさまは、みなさまが素質のある素晴らしい召喚師であることぐらい
一目“視て”わかっていらっしゃったのですから、どちらかというと単なる意地・・・」


―――――――――― ・・・フェス?それ以上言わなくていいぞ?(爽)」




フェスがやんわり微笑みながら、更に詳しく説明ようとしたのを
いつの間にか大笑いを治めていたが、今度は恐ろしいほど綺麗に微笑んで一掃した。




「・・・コホン。ともかく、その点はご安心してくださって結構ですよ。」




フェスは何も見なかったかのように、中途半端に話をそこで終わらせた。




「よ、良かったのです〜・・・がトリス達をやっつけちゃったらどうしようかと思っていたところなのです。」




の発言に、ミモザが面白そうに瞳を細め、くすくすと笑う。




「ほらね、。あたしの言った通りだったでしょう?」




話を振られたは、お手上げだと言わんばかりに、器用に肩を竦めて見せ
それから思考するように顎に手をあてると、やっぱりミモザと同じようにくすくすと笑った。




「・・・・・・あぁ、そうだね。お前達の言った通りだったよ、ミモザ。
これじゃあ完全に、の分が悪い。」




は顔中にクエスチョンマークを貼り付けて、答えを求めるようにを見たが
それに答える気はサラサラないらしい。彼女は一瞬だけに瞳を合わると
ニヤリとして、それからすぐにギブソン達に向き直ってしまった。




「・・・でミモザ、ギブソン。こいつがフラット(ウチ)のドジ兼毒舌担当のだ。
知っての通り、達と同じ名もなき世界の出身だよ。」


「あぁ、なんとなくその意味がわかったよ。本当に、君が話してくれた通りの子だね。」




ギブソンが微笑みながらそう言ったとき
はこれまで、2人にまともな挨拶1つしていないことに気付いて、大慌てでちょこんと頭を下げた。




「・・・あ、えっと・・・よろしく、お願いしますです。ギブソン、ミモザ。」


「こちらこそ、よろしく。」


「ええ。よろしくね、ちゃん。・・・フフフ、これから楽しくなりそうだわぁ。」




ペコリと頭を下げたを、ミモザは微笑ましそうに見つめると
瞳に悪戯っ子のような光を宿して、格好の獲物を見つけたとばかり、後輩2人に振り返った。
眼鏡の奥で光る瞳は、玩具を見つけた子供のようにキラキラとイヤな輝きかたをしている。
どう贔屓目に見ても、自分達に利益になることを考えているとは到底思えない眼差しに
マグナとネスティはサーッと顔色を蒼褪めさせて、まるで鬼でも見たかのように、ビクリと体を震わせた。


どうして2人が戦々恐々としているのか、その理由まではわからなかったが
ハヤトの言うとおり、ミモザとは似たもの同士なのかもしれない。なんとなく、発しているオーラが似ている。


・・・そんなことを考えていると、の背中にポスンと軽い重みが圧しかかる。
辛うじて自由な首だけで背後を振り返ると、視界の端で紫色の髪が揺れていた。




「・・・トリス。」




名前を呼ぶと、背中越しに彼女が笑う気配が伝わってくる。
の背中に寄り掛かってきたのは、まるで猫のように擦り寄ってくるトリスだった。




「えへへ・・・やっぱり、だ。夢じゃない、本物。今度はあたしの名前、すぐ呼んでくれたね。」




トリスは余程嬉しいのか、そう言うと照れくさそうに笑い、手を伸ばせばすぐに届く位置から
これっぽっちも動こうとしない、マグナ以上ににピッタリとくっついて、離れようとはしなかった。

湿原で消費し過ぎた魔力は、この程度の睡眠ではほとんど回復していなくて
はまだ体が鉛のように重かったが
それでも懐かしくて心地よいこの暖かさを、振りほどく気にはなれなかった。


・・・ただ同時に、ちょっとした罪悪感を覚える。


しばらくそのままの体勢で、トリスの小さな体温を背中に感じていると
トリスはに寄りかかったまま、不意にポツリと呟いた。




―――――――――― ・・・ねぇ、。大丈夫?」


「へ?」




トリスの唐突な切り出しに、は瞳を丸くする。
それ以上は何も言いそうにないトリスの言葉を、マグナが引き継いだ。




「デグレアのヤツラに酷いことされたり、しなかったか?
・・・まぁ、イオスがいるから大丈夫だとは思うけど・・・でも黒騎士のヤツは最後にあんなこと言ってたし
それに
――――― ・・・、なんか苦しそうだから。」




突然のことに、は驚いて声も出なかった。
・・・本当に、なんて他人の痛みに敏感なのだろう、この人達は。

それは、少し優しすぎるくらいに。

以前、初めて彼等に会ったときにも、はそれを感じたが、今改めてそのことを思い出した。
どうしたら、ここまで優しくなれるのだろう?




「イオスって・・・あの金髪で、豪い美人の槍使いだろ?
どうして大丈夫だと思ったんだ?マグナ。」




トリスと同じように、と並んでベッドに腰を掛けているマグナに
面白そうだと言わんばかりの笑いを貼り付けて、が訊ねる。
マグナは一瞬の発言にきょとんとしてみせてから、少しだけ瞳を曇らせて、手を軽く握り締めた。




「・・・だってアイツ、のことが大切だって全身で言ってたよ。
少し悔しいけど・・・俺、それは認める。
少なくとも今の時点では、を置いて逃げるしかなかった俺よりも
イオスの方が、ずっとを護ってやれてた気がするから。」


「・・・ふぅん?なるほどね。まぁ、そりゃ確かにそうかもな。実際凄かったぞ、アイツ。
美人な顔に似合わず荒い気性してるのなんのって。
物凄い剣幕で噛み付こうとしてきたよ。実際、もうちょっとで本当に噛まれる所だったしね。」


「君にかい?それは怖いもの知らずというかなんというか・・・・・・命知らずというか。」


「・・・・・・。」




はあの場に居合わせなかったギブソンに相手を変えて話を続けていたが
そんな会話も、の耳には全く入っていなかった。ただただ、自分の考えだけに没頭する。

トリスは、マグナは・・・・・・皆は。以前と変わらず、こんなにも暖かいのに。
それなのに、自分の中には新しく芽生えてしまった感情がある。変わってしまった想いがある。
はそれを、きちんと自覚していた。
それはやっぱり、見方によっては裏切りと取られてしまうことなのかも知れない。
だから、皆が自分に向けてくれる変わらない暖かさが。今のには、却って申し分けなく思えた。






だって、は・・・






・・・旅団のみんなのことを思い出すと、心が押し潰されそうなくらい苦しくなる。
言ってしまおうか、告げてしまおうか・・・・・・そう、思ってしまったら。
上手く形にならない言葉達が、また一気に口をついて溢れ出てきた。




「・・・・・・っ、は!!!」




いきなり大声を出したに、部屋にいた全員が口をつぐんでを見た。
部屋に降りた沈黙は重く圧し掛かり、はその重圧に負けそうになったけれど
手を強く掴むことで、必死にそれを堪えた。・・・ここで思い留まっては、いけない。




「トリスも、マグナも、ネスティも!レシィもハサハもレオルドもバルレルも!
みんな・・・はみんなが大好きなのです!大切なのです・・・。」




・・・その言葉に、偽りは無い。




「・・・でもは、皆に話さなきゃいけないことが出来たです。
大好きだから、大切だからッ!・・・絶対に、話しておかなきゃいけないことなのです。
色々、全部。全部、知ってることを話さなきゃ・・・は、は・・・」




伝えようとして、でもそれ以上言葉が続かなかった。
なんと言っていいかわからない。正確にいえば、一体どこから話せばいいのかが。

ただでさえ酷いことをしたというのに、今自分の思ってることを伝えたら
更に彼女達を、深く傷つけてしまうことになりはしないだろうか・・?

けれど言わないでいるのは、嘘を吐いているようでもっと嫌だった。
・・・でも、どうやって伝えたらいい?どうしたら、自分の想いが上手く伝わってくれる?






――――――――― ・・・敵である彼等のことも、同じように大切なんだ・・なんて。






マグナ達のことが、嫌いになったわけじゃない。・・・寧ろ、前よりもっともっと好きになって。
けれど他にも、彼等と同じように大切だと思えるものが出来てしまった、ただそれだけ。


問題なのは、が助けたいと願う者達が
の護りたいと想う者達を傷つけようとしている、その事実で・・・


が俯いたまま、けれどそれ以上なにも言えないでいると
誰かの大きな手が、の頭に乗せられた。
顔を上げてそれが誰かを確かめる前に、でもその声で。には、それが誰の手だかわかった。




「・・・大丈夫だよ、。俺達、の話を聞くよ?話してくれるなら、ちゃんと聞くから。
だから・・・ゆっくりでいい。焦らなくていいから・・・平気だと思ったら、少しずつ話してくれよ。」




が何を言わんとしているのか。
口にしなくとも、マグナには全部見透かされているんじゃないか。
そんな気がして・・・そうしたら、怖くなって思わず肩が震えた。
それは遮るものもなしに、背中に寄りかかっているトリスに伝わってゆく。
トリスの手が、小刻みに震えるの肩に、そっと添えられた。




「怖がらなくていいんだよ、。あたしもマグナも・・・きっとネスだって、怒ったりしないよ。
なにか、あたし達に話したいことができたんだよね?
あたしね、多分・・・なんとなくだけど、が何を言いたいのか、わかるような気がするの。
でも大丈夫、あたしは・・・いつだってのこと、信じてるから。」




トリスはそう言って立ち上がると、もう1度をきゅっと抱き締めてくれた。
半ば無意識に、答えを求めるように見つめた視線の先で
微笑を湛えたが迷うことなく頷いて、いま一歩を踏み出せないの背中を押してくれる。

ポンポン、と腰の拳銃を軽く叩いて見せて・・・それは、何かあったら任せておけ、そんな合図。
彼女さえいてくれれば、向かうところ敵なしなんじゃないかと思ったら、少しだけ勇気が湧いてきた。

きっとは、の恐れているような事態にはならないと解っているのだろう。
無論、だってそれは解っている。トリスもマグナも、そんな人じゃない。
・・・でもそう思うからこそ、突き放されたらもう2度と立ち直れないんじゃないかと、怖くなるのだ。




「・・・・・・」




・・・覚悟を決めて、が口を開いた。
――――――――――― ・・・その、矢先の出来事だった。






「うるっせぇ!!!この馬鹿兄貴!!!」






誰かの怒鳴り声が、廊下に・・・いや、屋敷中に響き渡ったのは。
ビリビリと空気を震わせるその声に、レシィはビクっとして全身の毛を逆立たせ
ハサハも耳をピン!と立てて、マグナのズボンをきゅっと掴んだ。




「この声は・・・」


「・・・分析、声紋照合完了。りゅーぐ殿ノ声ニ間違イアリマセン。」




レオルドの声が、シンと静まり返った室内にヤケに響いた。










〓 第20話 怒りの向かう先 前編 〓










トリス達と再会を喜んだのも束の間。
耳に飛び込んできたリューグの怒鳴り声に、達は慌てて声のした方へやってきた。

後で思えば、なんて無神経なことをしたんだろうって思う。
でもこの時のは、馬鹿みたいに期待してた。

・・・もしかして、もしかしたら。
みんながみんな、を受け入れてくれるんじゃないかって。





「あそこまでやられて、黙ってろって言うのかよッ!!!」


――――――――― ・・・無駄に争わないで済むなら、そうするべきだ。」


「てめぇってヤツは・・・ッッ!!!」


「2人とも、やめてッ!!」




部屋に入ったら、アメルが今にも泣き出しそうな声で叫んでいた。
そこにはやっぱり、さっきのリューグの大声で駆けつけたらしいケイナやフォルテ達もいたけれど
大喧嘩をしている2人を、どうやって諌めたものかと、扱いに困っているようだった。

アメルの綺麗なブラウンの瞳には、今は涙が一杯に溜まって曇っている。
かろうじて涙を流していない、ただそれだけで。瞬きを1つでもすれば、涙が零れ落ちるだろうほど。
がレルムの村で最後に見たアメルは、辛そうではあったけれど、それでも笑っていたのに・・・
もしかしてアメルは、あの日からずっとそんな顔ばかりしているのだろうか・・・?




「ずっとずっと、逃げ続けるって言うのか!?村をめちゃくちゃにしたアイツラに背を向けて!?
・・・兄貴は、それで悔しくないのかよッ!!!」


「悔しいさッ!!けどじゃあ、他にどうするっていうんだッ!?
第一、自警団で一番強かったお前でさえ、黒騎士には全く刃が立たなかったじゃないかっ!
それともお前は、僕達だけであいつらに勝てるとでも思ってるのか!?」




―――――――――――― ・・・ねぇ、お願いだから。




2人とも、アメルの声に気付いてあげてよ。
アメルが止めてって全身で叫んでる。
なのにどうして2人には、こんなに悲しそうなアメルの声が届かないのかな・・・?




「ちょっと、2人とも落ち着いてよ!
2人が言い争ってたら、アメルが可哀想でしょう!?」


「これが落ち着いていられるかッ!!
この馬鹿兄貴、アメルを連れて逃げるだなんて言い出しやがった!!」


「取りあえずロッカもリューグも、もうちょっと冷静になろう?な?」


―――――――――― ・・・っ!!」




トリスとマグナが止めに入ったけど、それでも2人の言い争いは終わりそうに無い。
そのとき、目元を拭おうとしたアメルが、トリスとマグナから離れた所に立っているに気付いた。
ハッとして、アメルが何かを告げようと口を開くよりも先に
リューグのギラギラと燃え滾った瞳がを見つけて、親の敵でも見るような眼差しで睨みつけてくる。
途端リューグは、標的をロッカからトリスとマグナに代えて、今まで以上に大きな声で怒鳴り散らした。




「そもそも、お前らもお前らだ!!どうしてこんな奴を連れて帰って来たんだッ!?
俺はまだ、コイツを信用しちゃいねぇんだよッ!
敵のスパイかもしれないヤツと、一緒になんていられるかッ!!」


―――――――――― ・・・!!」




・・・自分が“ココ”にいるということが、どういう結果を招くかなんて考えずに
声のする方へのこのこやってきて、その結果がこれだ。




視界が霞み、世界がグラリと揺らいだような感覚がした。




―――――――――― ・・・おい。」




怒りで完全に我を忘れているリューグと、そんな彼に切れかけているロッカが言い争っている中で。
その声は妙にはっきりと、温度の上昇しきった室内に、驚くほど冷たく響き渡った。


―――――――――――― ・・・それはいつからそうしていたのか
壁際に凭れかかり、冷ややかな瞳で事の成り行きを見守っていた、の声だった。


















は今や、部屋にいる全員の注目が、喧嘩をしている2人ではなく
自分へ一身に集まっていることを感じていた。
だが1度口にしてしまった言葉と、1度燃え出してしまった感情の炎を消すことは出来ない。
大量の水があればともかく、彼はきっちり組み上げられた薪の上に火を放ったのだ。

―――――――― ・・・それぐらい、にとっては火が点き易い部分に彼は触れてしまった。
カッとなると、どうも我を見失う。自分の欠点を、はきちんと自覚していた。






護るってことを、コイツはどれだけ甘く見れば気が済む?
傷つけることしかやりかたを知らない人間が、どうやって誰かを護れるっていうんだ?
も、護るべき対象の聖女ですら傷つけて。それでいて護るだなんて、笑わせてくれるじゃないか。
そんなことで言い争っていられるほど、誰かを護るってことは容易くないんだよ。






「・・・護りたい人を不安のどん底に突き落として、
不安で仕方ない奴傷つけて。・・・お前、それで満足なのか?」


――――――――――― ・・・なんだと?」




リューグと呼ばれていた赤い髪の少年が、の一言に異常なほどの反応を見せて振り返る。
自分を見下したような彼女の態度が余程気に喰わなかったのか
リューグは鋭い眼差しで、をギロリと睨みつけた。

その向こうで青い髪の少年も、不満そうにを睨みつけていたが
ただ睨みつけてくるばかりで、他に何か行動を起こそうとする意思は見受けられなかったので
は再び、意識を目の前の赤髪の少年へと戻した。
リューグは瞳にギラギラと怒りを漲らせ、にズカズカと近づくと
そのまま彼女の胸倉を掴んで、ドン!と壁に押し付けた。

肺が圧迫されて、ほんの一瞬だけ、息が詰まる。
あまり身長差がないようなので、胸倉を掴みあげられた苦しさはないようだ。
次の瞬間には、肺を押さえつけていた力も少し緩み、呼吸も楽になる。
はそのまま力を抜いて、強く押し付けられた壁に、逆にゆっくり寄り掛かってやった。
・・・息苦しい感覚も慣れたものだから、特に焦る必要はない。

リューグが完全に、怒りの標的を自分に移したことを感じ取って
けれどは怯んだ様子も見せず、あくまで壁にもたれたままの体勢で言葉を続けた。
勿論そんな自分の態度が、目の前の少年の神経を逆なですることなんて重々承知で。




「・・・それで護るだって?聞いて呆れるね。
血を流さないようにすることだけが、お前の言う護るってことなのか?
こんなに泣かせておいて・・・?フン、随分と自己中心的な見解だな!」






ガッ!!






が挑発的に叫ぶと、途端左頬の辺りに衝撃が走った。
誰かの悲鳴が聞こえ、さっきまで同じようにこちらを睨みつけていた青髪の少年が
驚きに瞳を丸くしているのを、揺れる視界の端に見たような気がする。

・・・リューグが自分の顔を殴ったのだ、は冷静にそう判断した。
斧なんてものを得物にしているだけあって力はあるのか、は先ほどよりも強く、背中を壁に叩きつけられた。
いや、吹き飛ばされたと言っても過言ではないだろう。
すぐ側にあるリューグの顔は、黒騎士に向けるのと同じ、怒りの形相に歪んでいた。




「・・・てめぇッ!!」


さまっ!!」




一連の出来事を見ていたフェスが、己の主の名を叫ぶ。
彼は今にも2人の間に割って入り、リューグに切りかかりそうな剣幕で駆け出そうとし
悪魔にしては温厚といえるエストも、無言で愛用の槍を握り締めた。
・・・だがそんな2人を先程がしたように、今度はバノッサが手で制する。




「バノッサさま!どうして止めるのですか!?」




自分を止めるバノッサに、フェスは不満を隠さず非難めいた声をあげたが
バノッサは2人の顔を見ようともせず、とリューグから視線を外さないままで呟いた。




「・・・いざとなったら俺が止める。
お前らの気持ちもわかるがな、割り込むにはまだ早ェだろ。」




バノッサが低い声で独り言のように言うと、エストとフェスはぐっと押し黙り、後ろに1歩下がった。
口ではそう言いながらも、彼の紅い瞳はギラギラとした剣呑な光を宿して
に掴みかかるリューグを睨みつけていたから。




「気に喰わない奴は片っ端から、ぶん殴って黙らせる!お前に出来るのは、その程度が関の山だろッ!?
けどな、それだったらお前達の村をめちゃくちゃにした旧王国の連中と大差ないだろうがッ!!!
お前の今やってることは力尽く、まさにそれなんだよッ!」


「・・・この野郎・・・!!!今なんて言いやがったッ!!!!」




話す度、じんわりと口の中に嫌な味が広がる。
は唇を切ったことに気付くと、手の甲で乱暴に口元を拭い、皮肉に笑った。




「・・・聞こえなかったのか?じゃあもう1度言ってやるッ、耳かっぽじって良く聞いてろッ!!
調子に乗るなよ、このガキがッ!!その自慢の力技ですら負けて、お前に何が出来るっ!?
お前の実力じゃ、あの黒騎士に一太刀だって浴びせられやしない!!!
その程度の人間が1人で誰かを護りきれるなんて、本当にそう思ってんのかッ!?
思ってるんだったら、馬鹿も大概いいとこだなッ!!!」


「んだと!?もう一遍言って見ろぉッ!!」


「・・・あぁ、何度だって言ってやるさッ!!!
本当の意味での護るってのは、そんな簡単なことじゃないって言ってんだよッ!!
護るっていうのがどういう事か、お前本当にわかってるかッ!?
お前は傷つけるばっかりだろうが!!のことにしたってそうだ!!
お前は牙を剥くことしか知らないッ、周囲に牙を剥くことが聖女を護ることに繋がるとでも!?
・・・そういう意味じゃ、まだお前の兄貴のほうが物事をわきまえてるな!!
お前みたいのはな、護るなんて言わないんだよっ!
そんなのはただの自己満足だろうがッ!!違うかッ!?」


「うるせぇ!!!アイツが捕まったりなんかするから、アメルが泣くんじゃねぇかッッ!!
なんでアメルが泣かなきゃならねぇんだよッ!
アイツのせいで、アメルがどれだけ苦しい思いしたと思ってる!?」


「お前、本物の馬鹿か!?苦しいのは自分だけだとでも?悲劇のヒロイン気取りも結構なことだなッ!!
がこれぽっちも苦しんでないとでも思ってるのか!?
それにあの子を泣かせてるのはじゃない、お前達だよ!!!!!
はっきり言ってやんないと、そんなこともわからないって!?・・・ハッ、お笑い種もいいところだなッ!!!」


「この・・・ッッ!!」




怒りが限界に達したリューグに、負けず劣らずの剣幕でが捲くし立てる
リューグは忌々しそうに拳を握り締めると、ギチリと音をたてて奥歯を噛み締めた。
あまりに強く握り締めたためか、拳がだんだんと白く変色してゆく。
リューグの手を目に止めて、がニヤリと口角を吊り上げた。




「・・・どうした?殴れよ!!どうせお前には、それぐらいしか出来ないんだろッ!?
だったら、お得意の力尽くで、黙らせて見ろよッ!?
絶対に黙ってなんてやらないけどなッッ!!何度だって同じことを言い続けてやる・・・!!」




リューグは怒りに顔を赤くし、ほんの数秒だけ戸惑った表情を見せて
けれど最後には拳を振り上げ、再度にふりかぶった・・・!






「駄目ーーーッッ!!!!」






ところが、そんなリューグとの間に、何かが滑り込むように割り込んできて
リューグがもう1度を殴って、壁に叩きつけるのを阻んだ。




―――――――――― ッ、ッ!?馬鹿、出てくるな!」




とリューグの間に割って入った茶色い塊は、だった。
腕を精一杯に広げて、イオスにしたときと同じように、を背に庇う形で立っている。
彼女が事の発端であるとはいえ、流石のリューグも
自分よりずっと背も低く、小柄なを殴るのはどうかと思ったらしい、どうにかその場に踏みとどまった。
は荒い呼吸のまま、自分を退かそうとするに、ゆっくりと振り返る。




「いいのです・・・っ!のことはいいですから・・・だからッ・・やめて、お願いです・・・」




必死になって、いいのだとに懇願する。
けれどもそんなの表情を見たは、納得するどころか思いっきり顔を顰めた。




「いいって・・・全然良くなんかないだろッ!?だってお前、泣いてるじゃないか!!」


「!?」




に言われて、それまでまともにの顔を見ていなかったリューグは
やっとその頬に、透明な水滴が流れ落ちていることに気が付いた。
それはぽろぽろと静かに、でも留まることなく溢れては頬を伝い零れていく。
ふと見れば、アメルも気を抜けば嗚咽の漏れそうになる口元を手で押さえ
いつもはぱっちりとしているブラウンの瞳を、涙で湿らせて泣いていた。
そんな彼女を横からケイナが支えていて、彼女は何か言いたそうにリューグを見ている。

アメルの頬を伝い堕ちる涙を見た途端。
リューグは不意に、背中に冷たいものを感じた。
熱を持っていた思考が、急速に冷静さを取り戻してゆく。

・・・コイツの言っていたことは、強ち的外れでもなかった。
そんな思いが、脳裏を横切る。





――――――――― ・・・アメルが、泣いている。・・俺の、せいで。




「・・・っ・・・いいのです、・・・・・・だって、が・・・」




ついには顔を覆って泣き始めてしまったを、はぎょっとした表情で見つめて
肩まである髪をわしゃわしゃと引っ掻き回すと
ほとほと困り果てた様子で、もう片方の手を慰めるようにの頭に乗せた。




「あ〜〜〜ッッ!!・・・悪い、もお前を泣かせてる原因の1つだな。
悪かったよ、もう大丈夫だから・・・な?」




瞳から剣呑さを消し、がいつも通りの声の調子で、小さな子供に言い聞かせるようにそう言うと
ズズッと鼻を啜り、無言のままこくりと頷いた。
が頷いたことを確認すると、はほっと小さく息を吐いて
をマグナに押し付けると、ミモザの脇をさっさと通り過ぎて、出口へと向かう。




「あら、何処行くの?」




目の前を通り過ぎてゆくを目で追いながら、相変わらず呑気な声で、ミモザがを呼び止めた。




「ちょっと、頭冷やしてくる。トリス、マグナ。悪いけど、のこと頼むわ。」


「う、うん!」




はちらりとだけ後ろを振り返ってそう言うと
トリスの返事を聞くか聞かないかという内に、玄関のほうへと姿を消してしまった。
マグナとトリスの2人は、泣いているを両側から支えるようにして、の左右に別れると
リューグから彼女を護るように、がっちりの両脇を固めた。




・・・行こ?ね?」




そう優しく囁いて、トリスがの背中を押す。




「・・・大丈夫だよ、。俺もトリスも、傍にいるから。」




2人に促され、は怪我をしたときよりも覚束ない足取りで、ゆっくりゆっくり歩き始めた。
トリスはこれと言ってリューグを責めはしなかったが
去り際にマグナは、リューグとトリスがのことで口論になったときにも見せたことのある
まるで別人のように冷たいあの一瞥をリューグに向けた。
その眼差しは以前にも増して冷たく、そして鋭利になっているような気がして、リューグは少しだけ背筋が寒くなる。




――――――――――― ・・・オイ。」


「あ?」




リューグがじっとマグナの背中を見つめていると、誰かに後ろから声をかけられた。
それは先程リューグが言い争った人物と行動を共にしていた、派手な紅いマントをした男・・・バノッサ。
最初リューグは、彼が何かしら文句を付けに来たのかと思い、何をされてもすぐに反応できるよう身を硬くしたが
バノッサはこれと言って、なにかを仕掛けてくる様子はなかった。
ただ、妙に落ち着き払った低い声で。ぶっきらぼうに一言だけ、リューグに言った。




「・・・俺はな。アイツの言う事も一理あると思うぜ。
――――――――― ・・・テメェがこれからどうしようと、知ったことじゃねぇがな。」




力だけじゃ何も得られない、何も護れない。
・・・それをバノッサが知ったのは、決して遠くない過去だ。
力を振り翳すだけでは、居場所は得られず。
力を振り翳すだけでは、大切な人ひとり護れなかった・・・。

強い眼差しで自分を見返してくる、どこか昔の自分に重なる部分のあるリューグを
かなりの身長差で見下ろし・・・彼が小さく見えるのは、多分身長の差だけじゃなかった。
バノッサはそこで一端言葉を区切ると、一転して低く唸る獣のような目付きになって、彼に忠告した。




「・・・だがな、これだけは言って置いてやる。今度アイツに何かしたら、俺がお前を殺す。」




彼は声を荒げたわけでもない。口調は相変わらず穏やかだ。
それなのにリューグは、まるで自分の周りだけ重力が増したかのような錯覚を起こし
自分でも気付かないうちに、ごくりと唾を呑んだ。
それは、黒騎士と対立したときと、同じような圧迫感だ。
視線だけで射殺されてしまいそうな・・・喉がカラカラになる、あの感覚。

頭で納得するよりも、半ば本能でそれを悟ったリューグは
バノッサの視線を真正面から受けて、反射的にまた身構えた。




――――――――――― ・・・俺が言いたいのはそれだけだ。」




だがバノッサは、リューグのそんな様子を気にするでもなく
マントをバサリとはためかせると、あっさりと身を翻して歩き出した。




「・・・バノッサ様。」


「お前らはここにいろ。ガキを看とけ。」




エスト達に指示を与えて、彼は入り口にいるミモザに一言二言告げると、そのまま廊下に消えてゆく。
バノッサの後姿を見送っていたリューグの耳に、今度は散々聞きなれた怒声が聞こえてきた。




「リューグ!!見損なったぞ!」




いつもの調子で説教を始めようとするロッカに、リューグは面倒臭そうに悪態を返した。




「うるせぇよ、馬鹿兄貴は黙ってろ。」




いつものことだ、聞き流そう・・・そう思い、ふいっと顔を逸らしたリューグは
けれど次に返ってきた兄の言葉に、自分の耳を疑った。




「・・・いくらお前でも、女性の顔を殴るなんて思わなかった!!」


「・・・は?」






――――――――― ・・・今、ロッカはなんと言った?






リューグの頭は、途端そんな疑問に埋め尽くされた。





――――――――――― ・・・女?誰が?殴った・・・??





瞳を丸くし、ポカンと間抜けに口を開けたまま。
呆然とした表情で自分をじっと凝視してくる弟に、ロッカは違和感を感じて不思議そうに首を傾げた。
いつもなら、ここでまたリューグが何か言い返してくるところだ。
黙りこくるか、不貞腐れてどこかへ行ってしまうのならまだしも
この反応はいくらなんでもおかしい・・・らしくなさ過ぎる。

もうかれこれ、17年間ほどリューグの兄をしているのだ。
最近は何を考えているのか、互いに良く解らなくなってきたとは言え、さすがにそれくらいは解る。




「リュー・・・」




ロッカが名前を呼ぶのを、遮るようにして
・・・訝っているロッカに向け、リューグはゆっくりと。
頭を占めていた疑問から、導き出した答えを口にした。




―――――――――― ・・・アイツ、女だったのか・・・?(汗)」



「「「「「「 ・・・ はぁッ!?」」」」」」






部屋に残っていた全員の声が、見事に重なった。
今まさに部屋を出ようとしていたも、それを支えているトリスとマグナも
果ては泣いていたはずのアメルまで、思わず泣くのを忘れて、
涙の跡の渇ききっていない瞳でリューグを見ている。
奇妙な静寂が漂う中、憤慨しきって声を張り上げたのは、を慕っている彼女の召喚獣、フェスだった。




「無礼者!!確かにさまは女性にしては粗雑で、言動も荒いことは認めましょう!
ですが、だからと言って男と見間違えるなど・・・ッ!!!」


「・・・フェストルス、少しは落ち着け。」




もしかしたら、自分はとんでもない過ちを犯したかもしれない。
今更になって顔から血の気が引き始めたリューグに、ミモザが面白そうに笑って追い討ちをかけた。




「・・・あら、もしかして男の子だと思ってた?
まぁ仕方ないわよね、あの子は“あぁ”だから。・・・・けど、は正真正銘女の子よ。」


「!!」




ミモザが告げると、リューグは死刑勧告でもされたかのように、ビクっと肩を震わせた。
皆から向けられる突き刺さるような視線は・・・多分、気のせいじゃない。




「まさか、リューグ・・・」


が女の子だって、本当に気付いてなかったのか・・・?」


「・・・は・・・がさつで、男勝り・・・だし・・・。
いつもあんな格好で、はぐれ召喚獣より怖いですけど・・・きちんと、女の子、です・・・」




トリスとマグナが半分呆れて、半分感心したような声で呟くと
ひっくひっくとしゃくりあげていたまでもが、またもや余計なことを付け加えて、途切れ途切れにそう言った。




「・・・リューグ。」


「・・・・・・・・・・・・行ってくる。」




―――――――――― ・・・結局。

名前を呼ぶだけで何も言わない、アメルの訴えるようなこの視線が決め手となって
リューグは渋々、数分前に屋敷から出て行ったを追うため、自分も玄関を目指して歩き出すこととなった。











エルゴとしての魔力を探知する能力と、元からのコンパスの差で
バノッサにとってを探し出すことは、それほど難しいことではなかった。
だがそれでも、苛々していつもより早歩きになっている彼女にどうにかバノッサが追いついたのは
ハルシェ湖の辺りまでやって来てしまってからだった。




「おい、待てよ。」




バノッサがいくら呼びかけても、が足を止める気配はない。
小走りで近づけば、すぐに触れられる距離だ。
この距離で、バノッサの声がに聞こえないわけがない。

・・・しかも、彼女の方がエルゴとしては優れているのだから
彼女はとっくに、バノッサが追いかけてきていることも、追いついたことも
その能力でもって魔力を感じ取り、気付いていることだろう。

それなのに振り向きもしないということは、やはり意図的に無視しているに違いない。
・・・バノッサは大股で2、3歩進み、その僅かな距離をあっさりと埋めた。




「・・・・・・。」


―――――――――― ・・・返事ぐらいしろ。」




少し苛立ち混じりの声でそう言って、の右手首を軽く掴むと
彼女はあっさりと足を止め、バノッサの要求通り返事ぐらい(・・・)を返した。




「・・・・・・なんだよ?」




明らな不機嫌を顔に出している彼女に、バノッサは大きな溜息を吐く。
なんだか今日は、こんな役回りばかりだ。




「・・・なにマジギレしてんだ、らしくもねぇ。」


「だって・・・・・・」


「だってじゃねぇだろ。お前もガキじゃねぇんだ・・・ほら。」




はバノッサが何を催促しているのかわからないらしく
訝しげに眉を寄せ、未だ自分の腕を放さないバノッサをジロリと見上げた。
その少し拗ねたような顔は、本当に子供のようで・・・
バノッサはも、自分から比べればまだ子供に分類しても可笑しくない年齢であることを思い出した。
ただ普段の態度が態度なだけに、つい忘れがちになる。




「・・・?」


「顔、見せて見ろ。思いっきり殴られてただろうが。」


「・・・大したこと、ない。」




そう言って、はふいっとバノッサから顔を背ける。
それだけでバノッサは、彼女が“大したことない”怪我ではないことがわかった。
顔を背けたのは間違いなく、まだバノッサに見せていない、殴られた左頬を隠すためだろう。


それだけのケガをしていても、当然だとバノッサは思った。
旗から見ても、リューグが力加減をしてを殴ったようには見えなかったし
その証拠に、いくら女だとは言え戦い慣れている筈の彼女が、なす術もなく壁に叩きつけられていた。


後ろが壁でなかったら、もっと大きく吹き飛ばされていたに違いない。
そんな状況でよくもまぁ、自分は我慢して大人しくしていたものだと、バノッサは自分自身を賞賛する。
昔の自分であったなら、とっくのとうにリューグに殴りかかっているところだ。
・・・1年前の事件以降、と行動を共にするようになってから。
バノッサは確実に、以前よりずっと冷静に振舞えるようになっていた。




「いいから見せろ。」




バノッサは必死になってそれを拒否するの顎を掴み、力任せにぐいっと上を向かせる。
ここまできてもは軽い抵抗を見せたが、大した抵抗ではない。
殴られたと思わしき箇所が打身のように青紫色に変色していて、バノッサは少しだけ顔を顰めた。




「・・・お前も一応女だろうが、顔は死守しとけ。他は?舌は噛んだか?
・・・まさか、歯折ったりはしてねぇだろうな?」




そんなことがあったら、アイツを八つ裂きにしてやる。
そんな危うい響きを含んだ声色で、バノッサが呟いた。
少し苛立ちの混じった彼の口調に気付いたのか、は1つ大きな溜息を吐くと、観念したように返事を返した。




「・・・してない。唇切って、少し血が滲んだ程度だ。」




素直に治療を受けるまで、バノッサが決して手を放してはくれないだろうと悟ったらしい。
は諦めたように腕から力を抜いて、できるだけ手短に済ませようと、それだけを告げた。




「アイツは・・・チッ、屋敷に置いてきたんだったか。」




バノッサの言うアイツとは、間違いなくフェスのことだろう。
もう既にいつものことだが、戦闘時において攻撃を重視する
回復能力のある召喚獣を、彼
――――― フェスしか連れていない。
それなのに戦闘時には、回復手段とするよりもユニットとして戦闘に参加させることが断然多いので
フェスを回復要員として使えた試しは、あまりなかった。


おかげでここ最近、の怪我を治すのはすっかりバノッサの役目になっていて
バノッサは自分に似合わないと知りつつも、リプシーやらプラーマやらルニアやら
いつも回復能力のある召喚獣をメインに連れ歩いている。


バノッサは、屋敷を出るときにフェスを引っ張ってこなかったことを少しだけ後悔した。
・・・だが、の怪我の具合が解らないからこそ、ああしてフェスを待機させてきたのだ。
もし彼がのこの状態を見たら、完全に頭に血を昇らせて逆上し
一直線に屋敷に取って返して、リューグに切りかかり兼ねない。
(どっちにしろ彼が、頭に血の昇らせて怒っているなどバノッサが知る由も無いが。)


フェスは天使のくせに、案外キレやすい。悪魔のエストより、ずっとカッカしやすい性格なのだ。
リューグに切り掛るフェスの構図は、バノッサにも簡単に想像することが出来た。
バノッサは小さく舌打ちをすると、の顎を掴んでいないほうの手で
紫色のサモナイト石を取り出し、ぶつぶつと早口で詠唱を始める。




「リプシー。」




バノッサが喚ぶと、サモナイト石がぼんやりと光りを放ち
やがて、バノッサが召喚したにしては酷く不釣合いな、可愛いらしい生き物が姿を現した。

リプシーは、ちょこちょこと嬉しそうにバノッサに擦り寄り
(バノッサは複雑そうな表情をして、リプシーの歓喜の行動を受けた)
それから頬を青く変色させているに気付くと
彼女を治せばいいのかと、可愛らしい動作でバノッサに指示を仰ぐ。
・・・バノッサがリプシーを召喚する理由のほとんどは
が怪我をしたときなのだから、リプシーも勝手を知ったものだった。




「あぁ、そいつを治してやってくれ。」




バノッサが言うと、リプシーは了解したと言わんばかりに
丸い瞳をきりりとさせ意気込むと、の顔の辺りまでふよふよと飛んでいく。




「・・・やぁ、リプシー。ごめんな、手間かけさせて。」




が力なく苦笑すると、リプシーはしっぽをパタパタとさせて
爪も何もなさそうな手での左頬にそっと触れる。
そうしてどうやっているのかわからないが、怪我の治療を始めた。
リプシーの手が触れた箇所から、ぼんやりと光が溢れ出る。

さっきとはまるで別人のように、とても穏やかな表情で治療を受けているを見て
相変わらず召喚獣には優しい奴だと、バノッサはちょっとだけむっとなった。
だが、リプシーなんかに嫉妬するのも馬鹿馬鹿しい、とすぐにそれを思い直す。

やがてリプシーが、治療を終えたと自慢げにバノッサに報告にやってくると
バノッサはもう1度、の顎を掴んで上を向かせ、変色していた辺りをしげしげと観察した。
今度はも、相変わらずむっすりとはしていたが、抵抗する様子は見せない。
頬の腫れと変色が引いていることを確認すると、バノッサは満足そうに1つ頷いて、リプシーに礼を言って送還した。




「まだ痛むか?」


「・・・痛みはほとんど消えた。ちょっと・・・触ると痛い、かな?
ともかく、手間掛けさせて悪かったよ。」




少しは冷静さを取り戻したのか、いつもの調子でそう言うと、はトコトコと足場の端まで歩いていき
目の前に広がる広大な湖の、時折ゆらゆらと揺れる水面を、ぼうっと眺めはじめた。
バノッサは何も言わず、けれど当然のようにその隣に並ぶ。
湖から吹いてきた風が、ビュウっと2人の間を吹きぬけた。




「1年前のこと・・・思い出したんだ。」




あまり強くないその風に、それでも消え入りそうな声の大きさでが呟く。
バノッサはそれに、驚いた風でもなく。ただただ静かに、の言葉を聞いていた。
が冷静さを欠いて熱くなるのは、大体が1年前の事件に関係あることばかりだ。
――――――― ・・・決して、それを予想していなかったわけじゃない。




「あのとき、思ったから。護るってのは、容易くない。
怪我をさせないってだけじゃ、護るってことにはならないって。」






―――――――― ・・・お前やカノンのことだって、エルゴ達やアヤがいなけりゃ
護るどころか、助けることすらできなかったんだ・・・






「・・・それでついカッとなって、あの有様だよ。
もまだまだ子供だな。・・・まぁ、実際子供なんだけどね、の世界じゃまだ。」




は深呼吸ともとれる長くて深い溜息を吐き出しながら、苦虫を噛み潰したような顔をして首を横に振った。
その表情からは、それだけを言葉にするにも、彼女が結構な努力をしているだろうことが窺い知れる。




「・・・少しは、落ち着いたか?」


「・・・まぁ、それなりに。」




は短く答えて、それからまた。静かに揺れ動く水面を見つめることに没頭し始めた。




―――――――――― ・・・それにしても、お前にしちゃ殊勝じゃねぇか。」


「・・・なにが?」




しばらく間を置いて、同じように水面を見つめながらバノッサが呟く。
も水面から瞳を離さないまま、聞き返した。




「絶対に今回も、1人で押し黙って考え込むんだろうと思ってたぜ。
今日は珍しくボロばっかり出してたからな。
そんな素直にお前が口開くとは、これぽっちも思ってなかった。」


だって、まさかバノッサが追いかけてくるとは思わなかったんだ。
・・・・・・けどな、お前が言ったんじゃないか。だからは話したんだぞ?」


―――――――― ・・・あ?」




の返答に、バノッサは思わず無意識のうち隣に立つへと視線を移した。






もしかして・・・もしかしたら
―――――― ・・・






自分の自惚れでなければ、彼女はこう言っているのだろうか?
見えないところで落ち込んでいられるほうが、ずっと気分が悪い。
そう言ったことを覚えていて、自分に話したと・・・。


バノッサは穴が開きそうなほどの横顔を凝視していたが
は見つめられていることに気付いているだろうに、ピクリとも動かず
じっと、あまり変化の無い水面を見つめ続けていた。




――――――― ・・・ハヤトにも、散々怒鳴られたし。」




その一言だけで、憶測を確信に変えるには十分だった。
ガラにもなく口元がにやけそうになって、バノッサはそれを隠すように、視線をから水面に戻す。




「・・・そうかよ。」


トン。




そうバノッサが、照れながらもぶっきらぼうに言い放った、その瞬間だった。
何か暖かいものが、バノッサに寄り掛かってきたのは。続いて、腰の辺りにも同じ暖かさが絡み付いてくる。

絡み付いてきたものが何かを理解した途端。
バノッサは、口から心臓が飛び出してしまうんじゃないかというくらい驚いた。
自分の腰に絡み付いていたもの・・・それはの腕だった。

が腰に手を回し、バノッサの肩に寄り掛かっている。
全身の血がもの凄い勢いで、一気に体中を巡り始めた気がした。
指の先まで、この熱が伝染したような気がして・・・

ところが、バノッサがオーバーヒート寸前だった思考回路をどうにかこうにか正常値にまで戻し
彼女を抱き締め返すべきかと考え始めた頃、突如事態は一変した。



ゴソゴソ、カシャン。



そんな音が聞こえてきて、すっかり浮かれていたバノッサはいきなりどん底に突き落とされた。
まさにぬか喜び、紐無しバンジー状態(え?)。
レヴァティーンを召喚しようとして失敗し、金ダライを召喚した挙句、
それが頭上に落下して、もろに喰らったかのような衝撃が、バノッサを直撃した。




「・・・オイ。」




バノッサは頬が引き攣るのをどうにか堪えて、閉じた唇の隙間から唸るように言った。
彼女が一体何をしているのか、わかってしまった。
は決して、バノッサに抱きついてきたのではなくて・・・




「・・・っと、危ない危ない。落とすとこだった。」




数秒後、がバノッサから体を離したとき。
彼女の右手と左手には、それぞれ1本ずつ剣が握られていた。




「・・・というわけで。気晴らしを兼ねて、久しぶりにと手合わせしないか?バノッサ。」




そう言って手渡されたのは、つい今しがたまで腰にさげていた愛用の剣の片方。
つまりは、これをバノッサから奪うために、抱きつくような体勢になっていたわけで・・・




「あ、勿論手加減つきでね。普通の剣じゃ、どう考えてものほうが分が悪・・・って。
どうしたんだよ、バノッサ?急にしゃがみ込んで・・・腹でも痛くなったのか?」






期待させるなよ・・・ッ!!(切実)






その時のバノッサには、悲鳴に限りなく近い内心の叫びを、声に出さないよう堪えるだけで精一杯だった。















戯言。


な、長らくお待たせいたしました・・・ッ!!(汗)
前回から随分時間が開いてしまいましたが、20話前編お届けします。
読んでくださる方がいらっしゃるといいんですけど・・・。

さん、トリス達と上手くいってほっと一安心だと思ったら思わぬ、というか予想通りに(笑)
リューグにイチャモンを付けられてしまいましたね。
苦しい立場だと思います、は。でも是非とも頑張って頂きたいところです。

しかし、今回の目玉はなんと言ってもとリューグのガチンコ勝負です!!
この場面は、実は結構前から考えていました。
湿原でも、の性別がそれで断定されないよう、一人称をださないように気をつけていたりします。
さん、リューグに男だと思われてたよ!っていうなんとも間抜けなオチ。
彼は結構鋭いほうだと思うのですが、こいつは敵だ!みたいな先入観があると
公平に物事を見れないんじゃないかなと思います。ええ。

そして本日の功労賞はバノッサさんです。書いててなんだか可愛そうになってきました(笑)
・・・でも今のところ一番おいしいとこ持っていってそうなので、ま、いいか。(オイ)





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